陽気な音楽とともに現れた陰気な人は右腕が消しゴムだった。
「博士、これは実験成功なんでしょうか?」
陰気な人は白衣を着た老人に、さも不満ありげに尋ねた。
「もちろんじゃよ。実験は成功じゃ。その証拠にほら、こんなに陽気な音楽が流れておる」
博士と呼ばれた老人は、両手を広げてミュージカルのように大げさに答えた。
陰気な人は自分の右手を見る、やはり消しゴムだった。
「これ、消しゴムですよね?」
「うむ」
「僕、腕からビームみたいのを出せるようにしてくれって頼んだはずなんですけど。もしくは鉄砲……」
陰気な人は、消しゴムになった右手の小指の部分を左手で少しむしりながら、静かに抗議した。博士は後ろを向く。
「なあ吉田君。君は子供の頃、消しゴムをちぎって前にいる人にぶつけたりしなかったかね?」
注文と全く違う改造を施したことを反省している様子もなく、博士はそう聞いてきた。陰気な吉田君は、むしった小指を博士の頭にぶつけながら答える。
「まあ、やりましたけど……」
「それでいいじゃないか」
博士は吉田君の方に向き直り、右肩をポンッと叩いた。その顔はとても満足気だった。
吉田君は博士を消した。
三ヵ月後、右腕が肘のあたりまでなくなった吉田君は、ゴミ処理場にいた。あの日、自分の右腕が文字以外にも消せることに気付き、ゴミを消すことにしたのだ。右腕を犠牲にゴミを消す彼の姿にたくさんの人が感銘を受け、今では人気者になった。
今の吉田君に昔の陰気さはない。消しゴムとなった右腕が彼の陰気さすら消し去ったのかもしれない。
それは誰にもわからない、答えは消しカスの中に。
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部活の早書きで30分で仕上げたものです。非常にやっつけでしかも短いです。