第二章『先代とハプネスの力』
コンコン。
ドアを二回ノックして、声をかける。
「失礼します。八陣・風間神海です。」
やはりこの巨大な組織を統べているだけはあり、その部屋はやけに神々しい。入り口にあるどでかいライオンの像も、社長室の前にあるだけでやけに豪華に感じる。
「入りたまえ。」
渋い声が響き、それに従いドアをあける。
「・・・・・・ようこそ、風間君。ハプネスにようこそ。・・・・・・ふむ、まだ若いな。」
歳をとって、そのくせどこかひょうひょうとしている老人。その社長は椅子に腰掛けたまま足を組んで風間に挨拶をした。天下のハプネスの社長のくせに髪の毛も白髪のままで髪の毛も薄い。まるでどこにでもいるおっさんといった印象を受ける。だが、その脇には屈強な男性が二人控えている。
「・・・・・・。」
この15年ハプネスで暮らしていて、ハプネスにようこそ、という不思議な発言。だが、確かに階級ごとに何もかもが違うハプネスでは、八陣ぐらいのレベルがなくてはハプネスというシステムが分からないのかも知れない。
「夜分遅くに何用ですか?私はもう眠くて眠くて。」
左右のボディーガードがキッっと睨んだが、先代はそれに気にせず寛大に笑った。
「おお、そうかそうか。それはすまなかった。いや、仕事の関係で昼夜分からない生活ばかりでな。」
「用件だけ言ってくれますか?美女が私を待っているもので。」
「ほほう、ならば今夜はさぞ楽しかろう。・・・・・・さーて、では、用件の前に少し確認があっての。」
「はい。」
(・・・・・・正直、食えない爺さんだな。私が挑発してるにも関わらず、この余裕。左右の人間が有能なのか、又は人生に成功した者の余裕なのか。)
風間の考えなど知るはずもなく、先代は言葉を続ける。
「今、君の後ろにいる男と戦ってほしいのだがの。」
「・・・・・・っ!」
「日本五輪剣術代表の柏木だ。」
真横に素早く動き、柏木を視界に写す。
まるで存在していないように風間の背後に立っていた。右手には木刀が握られており、しかし男からは殺気一つさえ感じられない。
「・・・・・・へえ、流石ハプネス。五輪の選手を招くとはね。」
「ほほほ。そう驚かんでもよい。・・・・・・で、どうかの?わしはまだ君の実力を見てないものでな。その欠片程でもいいんじゃが、15才で八陣に上がり、さらにたったの一ヶ月で八陣最強と言われた君の力を見ないのじゃ。」
「いいですよ。ただし、一つ提案があるのですが。」
「・・・ほほ。わかっておる。」
先代の顔つきエロオヤジへと変わっていく。
「この男を倒したあかつきには、キャバクラを作ろうと・・・・・・。」
「一生社長に着いて行きます。」
「弱っ!」
社長の隣にいる屈強な男が会話に入る。
「黙れ!15才の私は思春期真っ只中なのだ!」
先程の和泉の気持ちが少し分かった気もした。
「・・・・・・。」
ぬっ、と190㎝はあろう、巨大な柏木が目の前に立つ。その威圧感は、そんじょそこらの殺し屋より遥かに強い。
(・・・・・・ほう、これは元ハプネスといったところか。)
すっ、と風間は上体を低く構えてナイフを構えた。
そして、柏木も右手に持つ木刀を無言で構える。
「・・・・・・って、おい。君はその木の棒でこの私と戦うつもりなのか?」
「・・・・・・。」
「と、いうと柏木に真剣を使わせてもいい、と解釈しともよいのか?」
風間の問いに先代が答えた。
「いえ、更に私はナイフを鞘に収めて戦いましょう」
「おい。」
ここで初めて柏木が声をあげた。
「オレが背後についても気付かない奴が、このオレに真剣を持てだと?あまつさえナイフを使わないとは、八陣だがなんだが知らないが身の程を弁えるんだな。」
確かに風間は強がっているように見えるかも知れないが、実は最初からこの男の存在に気付いていた。ただ、ここで予想以上の働きを見せれば、給料が上がるかもしれないという風間の陳腐(ちんぷ)な考えであった。
「まあまあ、いいじゃないか柏木。風間君がそう言っているんだ。人の好意には甘えるものだぞ。」
「・・・・・・ふんっ。」
「・・・・・・貴様っ!」
社長の横にいるガードマンが素早く銃を構える。それを木刀一振りで弾き、ガードマンの喉下に木刀を当てる。
「社長の衛生役がこんなのだとは、ハプネスは大丈夫なんですか?」
(・・・・・・確かに、この二人じゃ話にならない。・・・・・・だが、本当の護衛役は柏木。君に標準が合わされているのを知っているのかい?)
風間は不意に、天井を見上げると、気配が動くのを確認した。
「ほほ、でもまあこやつらはこやつらなりに色々使えるのでな。それで、真剣を使う話は・・・・・・。」
「なしだ。こんな餓鬼、木刀でももったいな・・・・・・、」
とん。
柏木の首に、ナイフの柄の部分を当てる。
「ほら、ナイフならば君はもう死んでいるぞ?」
「・・・・・・。」
「先代。こんな大口野郎よりも、私は上にいる上部の護衛の方が十分強いと思うのだが、どうでしょう?」
「・・・・・・柏木、真剣じゃ。」
「・・・・・・はい。」
先代は柏木に日本刀を渡し、その場から少し距離を取る。
「それでは先代。もしこの条件で私が・・・・・・、」
会話の途中、柏木は刀を縦に振るう。完全なる不意打ちなのだが、それを風間はいとも簡単にナイフの鞘で受け流し、柏木の喉に手を伸ばす。が、その喉を掴む前に下から刃が迫り、風間の頭部を切り裂こうとするが・・・・・・その刀は上がらなかった。
「っがっ!」
喉を掴まれ、苦しそうにもがく柏木。刀を見ると、風間が刀の支点を鞘でがっちりと抑えていた。
「ぁ・・・・・ぁ・・・・・。」
やがて刀を放し、首を掴む手を放そうとする。すると風間も抑えていた鞘を放し、柏木の胸元に軽く指で押す。
ガクン。
突然柏木は意識を失い、白目を剥きながら脱力した。
「・・・・・・困った奴だ。もうちょっと社長におねだりしようと思ったんだがな。」
「お、おおっ!素晴らしい!これがわが社の八陣最強の男か。ほほほ。こりゃあハプネスも将来安泰じゃの。」
先代は満足のいったように笑い続けたが、横のガードマン二人は15才という天才の力に圧巻されるだけであった。
「さて、それでは私は用事があるので。」
「おお、そうか。夜分遅くにすまなかったの。」
(・・・・・・。)
風間は背後を振り返り、その重いドアに手をかけた。
(・・・・・・社長の脇にいる二人も天井裏の存在に気付かなかった。・・・・・・なるほど、あいつが八陣の上、本当の上部か。)
昇格はありがたいが、護衛を嫌う風間にとっては八陣のクラスでちょうどいいとか思ったりした。
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