5・・・4・・・3・・2・・・1・・・・
一つの年が終わり、新たな年の始まり。
「あけましておめでとう。
秋葉、翡翠、琥珀さん。」
ワインの入ったグラスを片手に、毎年お決まりの挨拶。
「あけましておめでとうございます。兄さん」
「あけましておめでとうございます。志貴さま」
「あは~♪あけましておめでとうございます、志貴さん」
快く返してくれる、俺の大切な人たち。
すると、ズボンのすそを引っ張るものがいる。
「にゃ~」
「あ、ごめん、レンもな。
あけましておめでとう。」
「にゃ~♪」
と、うれしそうな声で鳴くレンを抱き上げ、ひざに乗せる。
うっ・・・・。
その瞬間、一瞬寒気がしたが、すぐに収まった。
「それじゃあ、年越しそばを仕上げてきちゃいますね~」
「お願いします。」
パタパタと出て行く琥珀さんに、一礼して後ろをついていく翡翠。
「年越しか~、なんと言うか実感が無いもんだなぁ。」
「そうですね。
ここではこういう行事はありませんでしたし。
兄さんが帰ってこなければ、ただ寝て過ごした事でしょう。」
「そうなのか?有間の家じゃ、都古ちゃんを起こしとくのが大変でなぁ。
寝たのを起こせば殴るは蹴るは、なぜか俺だとわかると腕を首に回してきて首を絞めるんだ。
それで、起こさず朝を迎えたら大泣きするときもあって、
おじさんとおばさんで大騒ぎだったぞ?」
それは、ただ抱きしめているだけなんじゃ・・・・。
わかっててやってますね・・・フフフ・・今度あったとき覚えてなさい都古・・・・。
「ど、どうした?秋葉。」
妙におどおどした兄さんの声が聞こえた。
あら、いつのまにか、紅が出てたのですね。
「なんでもありません。
お父様は騒がれるのがあまり好きではありませんでしたから。」
「そうか、それは残念だったな。
でもこれからは、可能な限り行事はするからな。
こんな楽しい事をしないでどうする。」
「はい、兄さんもいることですし、これからは参加しなくては。」
笑っている秋葉は本当に綺麗だと思う。
もう絶対に失いたくない、護りたいという思いが増す。
その・・・妹ではなく・・その・・愛するものとして。
「どうしたのですか?兄さん。
顔が真っ赤ですよ?お酒が回りましたか?」
「ん?いや、まぁ、ちょっとだけな。
でもまだ寝ないぞ!琥珀さんの年越しそばを食べるまではな。」
「おそばくらい、いつでも作ってくれるでしょう?」
「わかってないぞ、秋葉。
今だから食べたいんだ、今だから。」
「はぁ~、そういうものですか」
「そういうもんなんだよ。」
大げさにうなずく兄さん。
私にはよくわからないけど、兄さんがそういうのならそうなんだろう。
「は~い、おそば出来ましたよ~♪」
「おお、来た来た。
さぁさぁ、翡翠も琥珀さんも座って座って」
そういう兄さんはまるで子供の様。
「「「「いただきます」」」」
そろって、そばを食べ始める。
ついでに、新しく持ってこられた日本酒を一気にかっくらう。
「ふ~、食って、飲んだ。」
「ほんとに飲みましたね~。
一升瓶ほとんどからですよ~?」
「志貴さま、飲みすぎです。」
「兄さん顔が真っ赤ですよ?大丈夫ですか?」
そういう私も、少し飲みすぎて、少々顔が赤くなっているのがわかる。
「あはは、だ~いじょうぶ、大丈夫。
少し多めに飲んだだけさ、こんなに幸せなんだから。
あ~、でも、眠気がきついから一眠りしてから、みんなで初詣だな。
おやすみ~♪」
といって、そのまま寝てしまいそうになる兄さん。
「兄さん!座ったまま寝たら身体に悪いですよ?
翡翠、琥珀、兄さんを部屋に」
「はい」
「は~い、志貴さん行きますよ~♪」
「ん~?そうだ!」
琥珀が兄さんの腕を肩に回し、立たせようとすると、
半分以上寝ていた兄さんが目を覚まし、私のほうに歩いてきた。
「秋葉」
「はい?」
「一緒に寝るぞ」
「は?」
一瞬意味がわからなかった。
その間に、私は兄さんに抱きかかえられていた。
「え?に、兄さん?」
「・・・・・・」
え?一緒に寝る?
え・それは・・その・・つまり・・・。
ついに最強の鈍感で朴念仁だった兄さんが私を選んでくれた・・・・・。
私は兄さんのなすがままにされて、兄さんの部屋まで抱っこされていった。
最後に見た翡翠と琥珀は呆然と私たちを見ていた。
階段を上がり、ドアが開けられ、ベットにおろされる。
「兄さん・・・・・」
「秋葉・・・・・」
だんだんと兄さんの顔が近づいてくる。
そして、唇が重なる・・・・と思ったが。
ちゅっ
「え?」
何時までも唇に感触はなく、おでこに来た。
「兄さん?」
「く~・・」
寝てる・・・酔っ払っていただけだったのですね・・・・・。
・・・・・乙女の純情を~!!・・・・・・・・
身体の奥底から怒の感情が湧き出てくる・・・・。
「秋葉・・・・」
そのとき私を呼ぶ声が聞こえる。
起きたのかしら?
「なんです?兄さん?」
「・・・好きだぞ・・・必ず護ってやる・・・く~」
「なっ!に、兄さん?起きて、私をからかっているのですか?」
その後、兄さんが起きる様子は無かった。
「もう、兄さんたら。」
寝言ですか・・・・でも、うれしいですよ、兄さん。
私は兄さんの顔に自分の顔を近づけ・・・・。
ちゅっ
兄さんのおでこにキスをした。
「私も好きですよ。
私も兄さんを護ります。」
そして私はそのまま兄さんの横にねっころがった。
兄さんのぬくもりに包まれながら、私は夢の中に落ちていった・・・・・。
「んん・・・ん・・・いたっ!!・・・あぁ~、つつぅ・・・・」
俺は目が覚めると、激しい頭痛に襲われた。
飲みすぎたなぁ。
まぁ、楽しかったし、仕方ないだろう。
そこで、俺が寝ているところがベットだと気がつかない。
まだ眠くて目は開けていないが、感触でわかる。
また、翡翠や琥珀さんに迷惑かけちゃったかなぁ・・・・あとで謝っておこう。
秋葉も怒ってるかなぁ。
秋葉の怒っているところを想像する・・・・・。
うぅぅ・・・・怖い怖い、今何時だろうか?早く行って、謝ってこよう。
と、いつもめがねを置いてあるほうに手を伸ばすと・・・・
ん?
何かやわらかいものに触れる。
・ ・・・・なんだ?
まだメガネを掛けていないが、そのやわらかいものの正体を見るべく目を開ける。
「線が・・・ない?」
目を開けると、いつも見える死の線が見えない。
魔眼が消えたか・・・と思ったが、ただ、すでに眼鏡を掛けたままだった。
まだ酔ってるのかな?
ひとまず落ち着こう。
スー・・・ハー・・・スー・・・ハー・・・・よし!
そして、手を伸ばそうとしたほうを見ると・・・・
「秋葉?」
そのやわらかいものの招待は、俺の妹の秋葉だった。
「何で秋葉が?俺の・・・部屋だよな?」
頭がズキズキするのをこらえ、上半身を起こし辺りを見回す。
特に何も無い部屋。
殺風景でとても高校生の部屋には見えない。
うん、俺の部屋だ。
「じゃあ、なんで秋葉が俺のベットに?ん~?」
寝る前の記憶を探すが、まっ・・・・たく、覚えてない。
琥珀さんや翡翠に聞くか?・・・・・いや、やめておこう。
琥珀さんはからかってきそうだし、翡翠は教えてくれそうだけど・・・なんかやだ。
「しょうがない、起こられるの覚悟で本人に・・・・」
と起こそうと思ったが・・・・
「スー・・・・・スー・・・・・」
止めておこう。
こんなに気持ちよさそう寝顔をしているのに起こせるわけが無い。
ファサ・・。
とりあえず折りたたまれていた掛け布団を自分と秋葉にかける。
「兄さん・・・・・」
「ん?何だ秋葉?起きたのか?」
と顔を寄せるが・・・。
「スー・・・スー・・・・・」
聞こえてくるのは規則正しい寝息だけ。
「寝言か・・・。」
まだ寝ているとわかると、寄せた顔を戻す。
「どうするかな・・・・」
窓を見ると、カーテンはかかっているが外は明るいのがわかる。
今日は初詣に行くはずだったのにな・・・・。
何で、翡翠は起こしてくれなかったんだろう?
まぁ、いまさら行っても遅いか・・・明日にするかな・・・。
「寝るか・・・・」
そう決めて布団に深く入る。
「・・・・・・・う~ん・・・」
眠ろうとは思うのだが、一度冷静になり頭がすっかり起きてしまったようだ。
ふと、秋葉の綺麗なストレートの黒髪が目に入る。
サラ・・・・サラ・・・・。
それを手でもてあそぶ。
相変わらず触ってて気持ちがいいな秋葉の髪は・・・・。
それから10分くらい遊ぶ。
手に乗せて流してみたり、結んでみたり、みつあみにしてみたり・・が、
「んんっ、琥珀?あなた何してるの人の髪で・・・・・」
「あっ、起きたか?」
「えっ!?」
と、起きたらしい秋葉の目が見開かれる。
「おはよう、秋葉。」
「えっ?えっ?兄さん?何で私のベットに・・・・」
「違うぞ秋葉。
ここは俺に部屋で、秋葉が俺のベットに寝てるんだ。」
「えっ?」
まだ状況がわからないらしい。
「その・・・だな。
俺は昨日の記憶が飛んでいてな、なんでここで俺と秋葉が寝ているのかわからないんだが。
秋葉はおぼえているか?」
「え?えっと、昨日は兄さんが年越しそばを食べて・・・結構な量のお酒も飲まれましたね。
それで・・・・」
「ん?どうした秋葉?顔が真っ赤だぞ?
それで・・・、の後はどうしたんだ。」
「その・・兄さんが・・・・私と一緒に寝る、とおっしゃって・・・私を抱き上げて・・・・
部屋まで・・・・・それで・・・私をベットに下ろすと、そのまま眠られました。」
「なっ!!!???」
つまり、俺が原因か?
秋葉を無理やり連れてきて、一緒に寝かせたと。
「すまなかった!!!その・・・飲みすぎたみたいで覚えてないが・・・・・」
「怒っているわけではありませんから別にいいです。
どうせなら、襲ってくれるぐらいでもよかったのですけど・・・・・」
「ん?後半が聞き取れなかったんだが?」
「い、いえ!なんでもないです。
それより、今は何時ですか?初詣に行くのでは?」
「ああ、それは今日は中止だ。
こんな日が昇ってから行ってもなぁ。
まぁ、今日はこのままごろごろしてたいなぁ」
そうして、翡翠たちが来るまでごろごろしていたおれたちだった。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
乗って書いたもの。
都合が合わなくても知らん。