No.156323

飛天の御使い~第参拾幕~

eni_meelさん

囚われの思春たちを助けるために向かう2人の女性。
一体何者だろうか?
周瑜たちの目の前に現れたのは孫権の姉・孫策だった。
北郷対孫呉の戦が今まさに始まろうとしていた。

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2010-07-09 00:07:18 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:3708   閲覧ユーザー数:3251

 

はじめに

 

この作品の主人公はチート性能です。

 

キャラ崩壊、セリフ崩壊、世界観崩壊な部分があることも

 

あるとは思いますが、ご了承ください。

 

 

揚州・建業

 

北郷軍との決戦に出たためか、城の守衛を勤める兵の数は普段以上に少なくなっていた。そんな中、2つの影が地下牢を目指し走っている。

 

「ここまで兵を投入して、今他の勢力に攻められたらイチコロだぞ、これは・・・・。」

 

そんな現状を嘆くかのように呟く青い髪の女性。

 

「母さん、愚痴ってないで・・・・、ほらあそこが地下牢の入り口です。」

 

そんな女性の言葉に苦笑いを浮かべながら少女は建物を指差す。2人はその建物に向かっていく。

 

「・・・っ!何者だ、貴様・・・ら・・・。」

 

守衛の兵が構える前に少女は剣の柄で鳩尾を痛打して気絶させる。気絶した兵の懐から牢の鍵を取り出すと、開錠して扉を開ける。開かれた扉の先には目的の人物ともう一人の人影を確認する。そのもう一人を見た少女は驚いて声を上げた。

 

「甘寧様、お助けに参りました・・・・・って、明命!」

 

開かれた扉から飛び込んできた少女の姿を見て、明命も驚いた風な声を上げる。

 

「薫!どうしてあなたがここに・・・・・。」

「私たちはお前たちを助けに来たのよ。」

 

その少女の後ろから現れた女性の姿に、今度は思春が驚く。

 

「あなたは・・・・張昭殿。どうしてあなたがここにいるのですか?」

「おやおや甘寧ったら、引退した途端真名で呼んでくれなくなるなんて・・・お姉さん、悲しいわ。」

 

およよよ、と泣いたフリをする張昭に思春は苦笑いを浮かべる。

 

「いや張昭ど、恵殿。恵殿のお歳でお姉さんというのはちょっと無理が・あるの・・・で・・・は・・・。」

 

思春は言葉を発そうといたが、物凄い勢いで睨みつけてくる張昭の殺気がかった視線に口篭る。

 

「もう~母さん、そんな事してる場合じゃないでしょ!甘寧様、時間がありません。早くここから・・・・。」

 

少女の言葉に4人は地下牢を後にする。

 

「張承、孫権様は?」

 

思春はずっと気になっていたことを張承に尋ねる。

 

「孫呉の軍40万を率いて北郷との決戦に出向きました。」

「40万?それじゃあ荊州や建業の守りはどうするのだ?」

「それは私も懸念している。が、権はそのような事は考えておらんのだろう。今の権は、策の遺した『天下統一』への覇道を歩むことだけに執着していて周りが見えておらん。それに明命の話の通り『蜀』の介入がそれを増長しているのだろうし・・・・・。だが、北郷はそれを見越した上で私に使命を託したんだ。だったら私は奴の期待に答えるだけさ。」

 

張昭はそう呟く。

 

「恵殿、北郷はあなたに何を託したのです?」

 

思春は疑問に思っていたことを張昭に尋ねる。

 

「こういう事態が起きないための対処をな。まぁ、対処する前に起こってしまったんだが・・・・。とりあえず権たちを追うぞ!あの馬鹿を引っ叩いてやらんと気が済まん。」

 

4人は孫権たちの後を追って徐州へ向かう。

 

 

徐州・国境

 

「ふふふ、久しぶりね、冥琳。」

 

馬上より発せられた言葉は冥琳の耳には確かに届いている。しかし、冥琳は目の前の光景にただただ何も言えずに立ち尽くしている。そんな冥琳を横目に青龍偃月刀を構えた愛紗の怒声が響く。

 

「貴様、何者だ?」

 

そんな愛紗の言葉ににこやかな表情を浮かべていた馬上の女は、表情を変える。睨みつけるわけでもないその瞳からは何の感情も伺えない。

 

「下がれ、下郎。」

 

女の言葉は感情も篭っていない小さく冷たい声。その言葉に愛紗の表情はみるみる怒りに染まっていく。

 

「なんだと!・・・・貴様が誰かなどこの際どうでもいい。我が北郷に攻めてきたこと後悔させてやる。全軍、戦闘準備だ!孫呉の軍勢を蹴散らすぞ!」

 

そんな戦いに逸る愛紗を必死で止める一刃。

 

「待つんだ、愛紗!・・・・・周瑜さん、この方は?」

 

愛紗を諌めつつ、一刃は周瑜に尋ねる。

 

「・・・・・孫伯符、孫権様の姉君だ。」

 

周瑜はそう静かに答えた。その答えに一刃は首を傾げる。

 

「でも、孫権さんのお姉さんは大分前に・・・・。」

「あぁ、暗殺された。・・・・・・暗殺されたはずだ。」

 

そういうと周瑜は孫策に視線を移した。

 

「あなたは何者なの?」

「ひっど~い。冥琳ったら、私のこと忘れちゃったの?」

「忘れるわけがないだろう!忘れるわけが・・・・・・。」

 

声を荒げる周瑜の瞳からは一筋の涙が零れ落ちる。

 

 

 

――――――――――――――――――「・・・・・冥琳、ごめんね・・・・。」

 

(雪蓮!どうしてそんな事を言うの?)

 

――――――――――――――――――「貴方を残して、逝く事を・・・許して・・・・・。」

 

(雪蓮!約束したじゃない!2人で天下統一を成し遂げて、笑顔で暮らせる世界を造ろうって。)

 

――――――――――――――――――「冥琳、・・・蓮華と小蓮を・・・・・頼むわね。」

 

(・・・・あぁ、まかせておけ。私が貴方の分まで守ってみせるから・・・・・。)

 

――――――――――――――――――「ふふふ、・・・あなたに逢えて・・・・よかったわ、冥琳。」

 

(・・・・っ、・・・・私もだ、・・・・・雪蓮・・・・・。)

 

――――――――――――――――――「・・・・・・あなたに看取られながら逝けるなんて幸せね。」

 

(・・・・・・・・・・雪蓮・・・・・・・・・。)

 

――――――――――――――――――「さようなら、冥琳。・・・・先に・・・逝ってるからね。」

 

(・・・・・・・・・・あぁ、私もいずれ逝くから。それまで、待ってなさい。サヨナラ、雪蓮・・・・。)

 

サ・・・・ヨ・・・・ナ・・・・ラ・・・・・私の・・・・・・半身・・・・。

サ・・・・ヨ・・・・ナ・・・・ラ・・・・・私の・・・・・・愛した人・・・・・。

 

 

 

「そう、あなたは死んだ。私の腕に抱かれて。あなたは誰なの?何故ここにいるの?」

 

周瑜は瞳から流れる涙を拭って孫策に問う。

 

「何故いるかって?それはあの子、蓮華の目指すものを実現するためによ。あの子の望むもの、それは『天下統一』への覇道を歩むこと。それを叶えるためにここにいる。この大陸を孫呉が支配するために。孫呉の偉大さをこの世界の人間に見せ付けるために。そのための覇道。それを達成させるために。だから冥琳、昔みたいに一緒に馬を並べて戦いましょう。私の『武』と貴方の『智』を合わせれば、こんな北郷軍如き恐れるに足らないわ。」

 

孫策のその言葉に周瑜の心は揺らぐ。目の前にいるのは「断金」と揶揄されるほど篤い親交を結んだ友であり、失われたと思っていた自分の半身だ。俯いて考える周瑜の羽交い絞める勢いで止めるのは陸遜だ。

 

「冥琳様、しっかりしてください。目の前の方は雪蓮様ではないんですよ。死者が生き返るなんてことありえませんよ。よく考えてく・・・だ・・・さ」

 

陸遜のその言葉に顔を上げた周瑜が目にしたものは、言葉を発しようとした陸遜を斬り伏せる孫策の姿だった。

 

「私の邪魔しないでくれる?あんたみたいな軍師風情が私の冥琳に余計なこと吹き込まないでよね。」

 

崩れ落ちる陸遜の身体を抱きとめる周瑜。一刃もその場に駆けつける。

 

「貴様!」

 

愛紗は得物とともに孫策に向かっていく。放たれた愛紗の剛撃を後方へ跳躍することでかわすと馬に跨る。

 

「冥琳、まずはこの北郷軍を片付けてからゆっくりお話しましょうか。」

 

そんな孫策の言葉に周瑜は首を振って立ち上がる。

 

「いや、貴様と話すことなど何もない。いくら雪蓮を真似たところで貴様は雪蓮ではない。雪蓮と誓ったあの約束は貴様が口にしたようなことではないのだから。だから私は貴様から蓮華様を救ってみせる。それこそが友と交わした『約束』だからな。」

 

周瑜はそういって孫策を睨みつける。そんな周瑜の姿に笑みを浮かべていたかと思うと、その表情は冷たい仮面を被ったかのような静かな殺気を放ち

 

「暫く見ないうちに随分と平和ボケしたもんね。そんなあなたは見たくないわ。だから、私の手で殺してあげる。この絶望的な状況を打開することが出来るかしらね・・・・・。楽しみにしてるわ。」

 

そういうと孫策は自陣へと戻っていった。周瑜はその後姿をずっと見ていた。

 

「周瑜さん、とりあえず陸遜さんを手当てしないと。傷が深い・・・・。このままじゃ・・・。」

 

一刃の言葉に意識を戻し陸遜の所へと戻ってくる。そこへ鈴々と舞華の軍勢が到着する。

 

「一刃、愛紗ちゃん、大丈夫。」

「舞華、一人重傷者がいるんだ。手当てを頼めないか?」

 

一刃が舞華に陸遜の手当てを頼むと、舞華はすぐに陸遜を馬に乗せて砦前に仮設した陣の天幕へと連れて行った。一刃は伝令兵に

 

「師匠に増援の要請を頼む。このままじゃ数が違いすぎる・・・・。」

「御意!」

 

そういって兵は馬を走らせ鄴方面へ駆けて行った。

 

「周瑜さん、これからどうしますか?」

 

一刃の問いかけに周瑜は孫呉の軍勢に目を向けたまま。

 

「どうしようにも数が違いすぎるな。まともに戦ったのでは負けるのは目に見えてる。だが、この軍勢は孫権様の軍だ。ならば孫策を倒して説得すればなんとかなるかもしれん。」

「そんな事言ってもこんなに数が違うんじゃ、孫権のところに行く事も出来ないのだ。」

 

周瑜の言葉に鈴々が反論する。

 

「それじゃあ俺が孫策の相手をするよ。愛紗、鈴々は周瑜さんたちと他の兵を相手にしておいてくれるか?その間に孫策を倒して突破口を開く。」

 

一刃の言葉に2人は頷いた。周瑜はそんな一刃に

 

「一刃殿、孫策を頼む。」

 

周瑜は頭を下げた。そんな周瑜の姿を見て一刃は小さく頷いて孫呉の軍勢へと単身向かっていく。その後ろから愛紗たちが続く。

 

 

孫呉・本陣

 

「孫権様、周瑜様と陸遜様が北郷軍へ寝返りました。」

 

兵のその報告に孫権は驚いて立ち上がる。

 

「何!冥琳と穏が私を裏切ったというのか!」

 

声を荒げる孫権に声を掛けたのは孫策だった。

 

「どうやらそうみたいね。あれは私の知っている冥琳ではなかったわ。だから、せめて私の手で殺してくるわ。それが『断金』と呼ばれた友に対する私のせめてもの情け。」

 

そういうと孫策は兵を連れて戦線へ出向いていく。

 

「姉さま、ご武運を・・・・・・。」

「ふふふ、よく見ておきなさい。小覇王と呼ばれた私の姿を・・・・・。」

 

孫権の言葉に少し強張った顔をした孫策がそう呟く。そんな二人のやり取りを不敵な笑みで見つめているのは甘寧と松原の2人。

 

「孫権様、我等も孫策様に続きますぞ。」

「・・・・あぁ、分かっている。」

 

小さくそう呟いた孫権を余所に甘寧たちは兵へと指示を飛ばす。

 

(冥琳、穏、どうして・・・・・・。)

 

 

「あなたやるわね。」

 

鋭い剣撃を繰り出しながら話しかけてくる孫策。その剣撃をいなしながら攻撃を仕掛けていく一刃。

 

「でも他はどうかしらね・・・・・。」

 

そう呟いた孫策に、一刃は自軍の方へ目を向ける。愛紗や鈴々が奮闘しているとはいえ状況は劣勢に立たされている。このままでは確実に押し切られてしまう。

 

「戦いの最中に余所見なんてするもんじゃないわよ。」

 

その言葉に気付いて視線を戻した一刃だが、孫策の一撃は一刃の直前まで迫っていた。

 

(くっ、しまった!)

 

だが、直前で孫策の一撃は止まってしまう。孫策と一刃との間に割り込んだのは一人の女性だった。

 

「策、久しぶりだな・・・・・、まさか死んだ人間にまた再び会うとは思ってもみなかったが・・・・。」

 

女性の言葉に孫策の表情が変わる。

 

「っ、張昭!何であんたがここにいるのよ。」

 

孫策はそう張昭に問う。

 

「決まっているだろう、権を止めるためだ。まさかお前が権を誑かせているとは思いもしなかったぞ。」

「誑かすなんて人聞きの悪いこと言わないで。私は蓮華の望みに手を貸しているだけよ。」

「貴様らの都合でていよく利用してる奴がほざきよる。何よりも権のことを考えていたお前がそんな事をするわけがなかろうが。他の目は欺けても私の目はごまかせんぞ。偽者め、覚悟せい!」

 

張昭は剣を振り払うと孫策に向かっていく。

 

「張昭、そんな遅い剣撃で私を倒せるとでも思ってるの?だとしたらとんだはったりね。」

 

孫策の素早い剣撃で張昭は徐々に押され始める。

 

「こらぁ~、孺子!何しとるか!さっさと手伝わんか!」

 

張昭の怒声に一刃はビクッと驚きながらも張昭の援護に回る。一刃たちは徐々に孫策を追い詰めていく。

 

 

「なんだ、あいつは!」

 

本陣で戦況を見ていた甘寧と松原は突如現れた女性に驚いていた。孫権も孫策のところへ目をやるとその女性を見て驚いていた。

 

「あれは、張昭?引退した奴が何故こんなところへ・・・・・。」

「孫権様、孫策様のところは押されてますが、他においては我が軍が優勢。ならば今の内に奴らを叩きましょう。」

 

そう提言する甘寧だが、孫権は首を振らない。

 

「ダメだ!今は姉さまのところに増援を送らなければ・・・・。」

「孫権様、そのような事ではいけませんぞ。」

 

孫権を宥めようとする松原だったが、孫権は首を振らない。

 

「姉さまを助けるのが先だ。増援を・・・・。」

「・・・ふぅ、やれやれ。孫権様、貴方に呉の舵取りは任せられませんな。」

 

そういうと松原は刀を手にする。隣の甘寧も鈴音を構える。

 

「どういうつもりだ興覇?」

 

孫権は目の前にいる2人を睨みつけながら問う。

 

「貴方には任せられない、ということです。この国のことは私たちに任せてもらいましょう。立派な国にしてみせますよ、『蜀』の属国としてね。」

 

甘寧のその言葉に孫権の顔色が青くなる。

 

「なっ、・・・貴様。」

「ご覚悟!」

 

振り上げられた鈴音がキィンと鳴りながら孫権へ振り下ろされる。だが、

 

ガキィィン

 

甘寧の鈴音が届く前に孫権の前に身体を滑り込ませたのは思春だった。その光景に孫権は驚く。

 

「・・・興覇が2人?どういうことだ・・・・・。」

 

呆然とする孫権のもとに近づいてきたのは明命だった。

 

「蓮華様、あの思春殿は偽者です。蓮華様は騙されていたのです。」

「私が・・・騙されてた・・・・。」

「そうです。すべては『蜀』の連中が仕組んだ罠。この戦いに意味などないのです。」

 

明命は短くそう告げる。その事実に孫権は呆然とする。

 

「じゃあ、あの姉さまも・・・・・偽者だというの?」

 

孫権のその言葉に明命たちは視線を移す。そこにいる孫策に驚いた。

 

「そんな・・・・雪蓮様?」

「何故、雪蓮様が・・・・・・。」

 

明命も思春も孫策の存在に唖然とする。しかし、これすらも蜀の手によるものなんだと瞬時に切り替える。だが、孫権だけは孫策の存在を偽者だとは思っていなかった。

 

「姉さまが偽者のはずはないわ。あれは間違いなく雪蓮姉さまよ。」

「蓮華様、孫策様はもう亡くなられているのです。あれが何者かは分かりませんが、孫策さまではありません。」

「違う、・・・違うわ。あれは絶対に雪蓮姉さまなの!」

 

孫権の言葉に思春たちは何も言えなくなってしまった。そんな中、偽者の甘寧が思春に襲い掛かる。偽者の一撃を軽く受け流すと、睨みつけ

 

「よくも蓮華様を騙してくれたな。この鈴音で黄泉路へと案内してやろうぞ!」

 

そう言い放つと偽者を圧倒していく。

 

 

「愛紗、これじゃ戦線がもたないのだ。」

 

鈴々は押され始めている戦況に焦りを感じていた。それは愛紗や周瑜も同じだった。そんな中、部隊から一騎の騎馬が孫権のいる本陣へ駆け出していった。愛紗たちはそれを止めようとしたが、乱戦模様の状況ゆえに止められないでいた。

 

(くそっ、このままじゃ本当に押しつぶされてしまう。)

 

心の中でそう呟いた愛紗の元に聞こえてきたものは・・・・。

 

ジャーーーーン  ジャーーーーーン

 

戦場に響き渡る音。そこへ目をやるとそこには『十文字』の牙門旗が。その隣には『曹』の牙門旗もあった。その姿に愛紗たちは安堵の息を漏らした。

 

「全軍抜刀!我らの仲間を救出するぞ!」

 

一刀の号令で駆け出していく兵たち。押され始めていた戦況は徐々に持ち直していく。一刀は愛紗たちのもとへと駆けつけた。

 

「愛紗、鈴々、大丈夫か。」

「はい。」「うん。」

 

そう答える2人。そんな一刀の元へ周瑜がやってくる。

 

「北郷殿、これは一体・・・・。伝令を出してまだ日がないというのに・・・・・。」

「あぁ、コイツのお陰かな」

 

そういうと一匹の鳩を見せる。周瑜はその鳩を見て気がついた。

 

「これは、明命の。」

「こいつが孫呉の危機を教えてくれたんだ。だからこうして間に合うことが出来たってわけさ。」

「そうか・・・・・・。」

 

周瑜は静かに頭を下げる。

 

「とりあえず今は孫権を止めるのが先だ。周瑜、ついて来てくれ。」

 

一刀の要請に周瑜はコクリと頷くと敵本陣へと駆け出した。

 

 

カラン

 

「きゃぁっ。」

 

得物を弾き飛ばされて地面に倒れたのは孫策。その目の前には得物を構えた張昭と一刃の2人。そんな2人を前に、孫策は抵抗するのをやめた。

 

「・・・・・・私の負けよ。・・・・・・・殺しなさい。」

 

孫策のそんな言葉に張昭はひどく驚いた。そんな張昭の表情を見てうっすらと笑みを浮かべた孫策が

 

「偽者とはいえ、私は武人よ。だから早く殺しなさい。」

 

そういった。そんな孫策のもとに孫権が駆け寄ってきた。

 

「姉さま、ダメです。もう私を置いて行かないでください。」

 

そういって孫策に抱きつく。だが、そんな孫権を冷たく引き離すと

 

「蓮華、私はあなたの『姉』ではないわ。あなたの『姉』はもう死んでいる。それは貴方にもわかっているでしょう?私は貴方の『姉』の姿をした偽者なのよ。」

「違います!姉さまは姉さまです。私の目の前にいるじゃないですか。」

「でも私は蓮華、貴方を陥れるために『蜀』から遣わされた死神なのよ。だから、貴方の傍にいることは出来ないのよ。分かって頂戴。」

 

今までの雰囲気と違い孫権に対している孫策は慈愛に満ちた表情をしていた。そんな光景を一人遠くから見ていたのは、いつの間にか甘寧から離れて一人になっていた松原だった。

 

「やれやれ、役に立たない道化ですねぇ・・・孫権は。そんな役立たずには『死』あるのみ。」

 

松原は近くに落ちていた槍を拾い上げると、懐から出した術符に念を込め槍を構えると孫権に向かって投げた。術符の力で真っ直ぐに孫権のもとへと向かっていく。それに気がついた思春が慌てて声を上げる。

 

「蓮華様!危ない!」

 

思春の声は孫権たちのところまで響く。孫権も一刃も張昭も明命もその槍の接近に気づくのに遅れた。その槍は猛烈な速度で孫権へ。

 

ドン!

 

 

その瞬間、孫権の身に衝撃が走ったかと思ったら何者かに突き飛ばされていた。

 

ザシュッ

 

「なっ!」

 

松原は目の前の光景に驚愕する。

 

「な、何故・・・・・。」

 

松原の視線の先には孫権を突き飛ばして槍をその身に受けた孫策の姿があった。その光景に張昭も一刃も明命も思春も言葉を失う。突き飛ばされた孫権は体勢を立て直して起き上がる。その視線の先の光景に絶叫に近い悲鳴を上げた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ、・・・姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 

その声は孫権の元へ向かっていた一刀や周瑜の耳にも届く。周瑜はその孫権の視線の先にある光景を目にして言葉を失い崩れ落ちる。

 

「・・・・・雪蓮?」

 

そんな友の声を聞いた孫策はその状態で周瑜の方へ向き直ると笑みを浮かべそのまま後ろへ倒れこんだ。周瑜たちは慌ててその場へと駆け寄る。

 

「雪蓮・・・・・・。」

「ふふふ、冥琳。そんな顔しないで。貴方の言うとおり私は偽者。だからそんな顔しちゃダメよ。」

 

周瑜に向かって微笑む孫策の表情は在りし日のそのままの笑顔だった。

 

「・・・・どうして・・・・・・」

「・・・道化である私にはみんなと過ごした記憶を持ち合わせていた。そもそも傀儡とは生あるものを模したもの。でも私はすでに死んでいた。そんな私を奴らは『反魂の術』で蘇らせたの。傀儡と違うのは反魂の術で蘇らせた者は生前の記憶を有するということ。だから私には貴方たちと過ごした記憶が備わっていた。そんな私を奴らは思い通りに操るために一つの枷をつけたの。それは、命令に背いた時、私の存在を『無』に帰すという枷を・・・。だから貴方たちにあんな態度を取ってしまったの。・・・・ゴメンね、冥琳。でも私はなんとかして蓮華を『天下統一』への覇道という枷から解放してあげたかった。蓮華には蓮華らしい王になってもらいたかった。天下統一の重圧に苦しむ蓮華をこれ以上見ていられなかった。」

 

「・・・・・姉さま・・・・・。」

「蓮華、私が天下統一を目指していたのはみんなが笑顔になるような世界を造りたかったからよ。でもその世界は一人の力では成し遂げることは出来ないわ。だからみんなで力を合わせていきなさい。みんなが手と手を取り合えるような優しい世界を造って・・・・。出来るならこんな悲しいことが起きることのない優しい世界を・・・・・。」

 

孫策は弱々しく孫権の手を握りしめる。そんな孫策の手を孫権は強く握り返す。

 

「はい。・・・・姉さまに胸を張って見せられるような世界を造ってみせます。」

 

目に涙を浮かべながら孫権はそう宣言する。そんな孫権の姿に微笑む孫策。

 

「冥琳、張昭、みんな、蓮華のこと頼むわね。」

「あぁ、分かっている。」「策、任せておけ」「「雪蓮様・・・・・。」」

 

そんな孫策の身体が少しずつ透けていく。

 

「そろそろ、時間がないみたい・・・・。蓮華、貴方のことずっと見守っておくからね・・・・。」

 

孫策のその言葉に孫権は泣き崩れる。

 

「蓮華、泣かないで。最後の最後で大切な妹を守ることが出来て私は幸せよ。それに、みんなに見送られて逝けるんだもの・・・・。それだけで十分。・・・サヨウナラ、私の大切な『家族』・・・・。」

 

その言葉を最後に孫策の身体は霧のように消えていった。泣き続ける蓮華のもとへ周瑜が近付く。それに続いて一騎の騎馬が近付いてくる。その騎馬に乗っていたのは小蓮だ。

 

「お姉ちゃん、もう止めよう。こんな意味のない戦いは・・・・。」

「蓮華様、今すぐ兵に戦闘停止命令を出してください。こんな悲しい戦いを終わらせるために・・・・。」

 

2人に促され、孫権は戦の終結を宣言した。こうして北郷と孫呉の戦は終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

その後、一刀たちの予想通り、荊州南部は蜀の軍勢によって制圧された。

 

 

 

 

益州・成都

 

「近藤さん、ただいま戻りました。」

「ん?松原か。首尾は?」

 

「申し訳ありません。北郷に不覚を取りました。」

「そうか・・・・、まあよい。『例』の準備が整った。我等はこれより『彼の地』へ向かう。」

 

「おぉ、それではいよいよですね。」

「全てはそこで『決着』をつける。松原、お前も身体を休めその時へ備えろ。」

「分かりました。」

 

そういうと松原はその場を後にした。

 

「ふふ、あとは劉璋相手にせいぜい時間をかけてくれよ、北郷・・・・。」

 

 

某所

 

「あとは劉璋との戦を残すのみか・・・・・。」

 

「そうですね。劉璋には特別な『駒』を与えております。」

 

「その『駒』が『銅鏡』に『力』を蓄えるために役立つというわけか。」

 

「はい。劉璋にはせいぜい頑張ってもらうことにしましょう。」

 

 

 

 

そんな2人の足元には力なく横たわる左慈の姿があった。

 

 

 

 

あとがき

 

飛天の御使いもとうとう参拾幕までいきました。

 

これも読者の皆さんのお陰です。ありがとうございます。

 

そして、お気に入り登録者数が500名を超えました。

 

本当にありがとうございます。

 

これからも楽しんでいただける作品を作れるように頑張りたいと思いますので

 

よろしくお願いします。

 

また、読んだ感想やコメントなんかもいただけると

 

筆者のやる気に繋がりますのであわせてお願いします。


 
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