No.156095

真恋姫無双~天帝の夢想~(番外 彦星と織姫の願い)

minazukiさん

7日に間に合いませんでした!
というわけ番外編です。

今年もまた微妙な天気で見えているのかどうかわかりません。

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2010-07-08 01:33:06 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:13933   閲覧ユーザー数:11661

(番外 彦星と織姫の願い)

 

 寝静まった深夜。

 一刀が目を覚まして厠に行ってその帰り道に夜空を見上げた。

 そこには幾千の星々が美しく輝いていた。

 

「綺麗だな」

「そうですね」

 

 横から声が聞こえてきたため驚いて振り向くと眠たそうな表情をして百花が立っていた

 他には誰もおらず静けさが漂っていた。

 

「静かですね」

「そりゃあこんな夜遅くに起きているのは衛兵ぐらいだよ」

「じゃあ、こうしていても大丈夫ですね」

「うん?」

 

 百花は素早く一刀の腕にしがみついていき、身体を預けていく。

 

「一刀が一緒に眠ってくれませんから寂しいです」

 

 初めて結ばれた翌日から一刀は部屋を別にした。

 それは別に嫌がっているとかではなく、ただ単に一刀の理性の問題だったが百花からすれば今更別の部屋にならなくてもいいのにという想いが強かった。

 

「七日に一度は一緒に寝ているだろう?」

 

 あまりにも不憫に思った一刀は七日に一度だけ百花の部屋で寝るようにしたが、その時は寄り添って眠るぐらいで後は特別なことはなかった。

 それでも百花は嬉しかった。

 

「早く良い国になって一刀の花嫁になりたいです」

「気が早いなあ」

「一刀以外に嫁ぐつもりはありませんから」

「百花……」

 

 彼女の一途な想いは一刀にとっても大切なものだった。

 いつまでも一緒に生きたいと思っていた。

 それでもやはり心の奥底では元の世界を無意識に思い出そうとしていた。

 それを打ち消すかのように一刀は話題を変えた。

 

「百花は彦星と織姫のお話を知っている?」

「彦星と織姫?」

「うん。ちょうど、あの辺りかな」

 

 一刀は空いている腕を伸ばして夜空を指差す。

 そこにはまるで大河のように星々が輝いていた。

 

「あの星の川を渡って彦星と織姫は年に一度だけ会えるんだ」

「年に一度ですか」

「うん。どんなに会いたくても一年に一度しか会えない二人はどんな思いなんだろうなあ」

「私ならきっと辛くて泣いてしまいます」

 

 一人でいる寂しさは嫌というほど体感してきた百花。

 そんな彼女が心の拠り所を見つけたとき、それを再び失うことを酷く恐れている。

 

「俺もきっと寂しくて泣くかもしれない」

「同じですね」

「うん、同じだ。でも」

 

 そう言いながら一刀は身体を少し動かして百花を後ろから優しく抱きしめた。

 百花もそれに抗うことをせず一刀に身体の自由を預けていく。

 

「どんなに離れていようとも俺は君の元に戻ってくる。そして今のように抱きしめる」

「一刀……」

「そのためになら何でもするさ。卑怯者や薄情者って言われてもね」

 

 抱きしめている一刀の手に百花の手が重なっていく。

 

「一刀が見つけやすいように私はここにいます。だから絶対に戻ってきてください。そして私を抱きしめてください」

 百花は彼の温もりを全身で感じ喜びを知ってしまい、それを手放さないように手段を選ぶつもりは無かった。

 百花と一刀はお互いに必要不可欠な存在になっていた。

 

「百花」

「はい」

「今年は間に合わなかったけど、来年はみんなで七夕をお祝いしないか?」

「七夕のお祝いですか?」

 

 一刀は天の国での七夕を話した。

 一番興味を示したのが短冊に願い事を書くことだった。

 

「誰もが願いを書くのですか」

「うん。まぁ叶うかどうかはわからないけど、自分の思っていることを神様にお願いするのは悪くないと思うよ」

 

 この世に神など存在しないわけではなかった、そんなものを信じても何の役にも立たないことぐらい百花はわかっていた。

 だが、一刀のいう神であれば信じてもいいかもしれないと思った。

 

「一刀は何か叶えたい願いがありますか?」

 

 不意に百花はそんなことを聞いてきた。

 

「叶えたい願いか。そうだな」

 

 たくさんありすぎて一刀は困った。

 この国を平和で豊かな国にすることや、百花が誰からも慕われる皇帝となってほしいこと、そして彼女自身が幸せになってほしいことなど、考えれば考えるほど出てきた。

 

「たくさんありすぎて困ってるよ」

「そうですか」

「百花はどんな願いある?」

「私ですか?」

 

 百花は自分の叶えたい願いを考えた。

 この国のことはもちろんのこと、一刀や月達がいてくれること、父親や姉や祖先に恥じない立派な皇帝になることなど、こちらも数多くあったが今はそんなことよりも大切なことがあった。

 

「一刀が私をたくさん愛してくれることですね」

 

 言いながら頬を赤く染めていく百花。

 一刀と一つになったあの夜、身体の内側から何か不思議なものを全身で感じた。 

 そしてそれが新しい自分を見つけるきっかけへと繋がっていった。

 

「年に一度なんて我慢できませんから。きっと川を泳いででも貴方に会いたいです」

「それは光栄だね」

「だから今日はこのまま一緒にいてくれませんか?」

「随分と大胆になったね」

 

 今日が七日に一度の日ではないことぐらい二人はわかっていた。

 それでも不思議と離れたくないと思った。

 

「でも、百花が最後まで泳ぎきれるか不安だな」

「なら一刀が泳いできてくれますか?」

「善処します」

 

 そう言って二人は笑いを噛みしめる。

 やがて笑いが収まっていくと百花は身体を動かして一刀を正面から見上げた。

 

「私の彦星様はずっとここにいてくれますよね?」

「織姫がそう望むなら天に逆らってでもいるよ」

「……大好きです」

 

 百花はゆっくりと顔を近づけていきお互いの唇を重ねあった。

 夜空に浮かぶ星々だけがそんな二人を静かに見守っていた。

 

「んっ……一刀」

「今日は特別だからな」

「はい」

 

 百花は一刀の胸に顔を埋めていく。

 そして二人は寄り添って歩き百花の部屋消えていった。

 そして百花と一刀は短冊の大きさに切った紙にこう書いた。

「いつまでも百花といられますように」

「一刀と共に幸せになれますように」

 その二つの願いが叶ったかどうかは彼女達だけが知っている秘密だった。

(あとがき)

 

 というわけで本編の前に七夕を忘れていて慌てて書いて間に合いませんでした!

 前作でも七夕を書きましたが今回は主軸の二人だけです。

 月達の短冊も見てみたいなあと思ったりしています。(笑)

 

 さて次回は本編に戻ります。

 萌将伝発売も近づいてきました。

 色々と楽しみです。

 

 それでは次回もよろしくお願いします。


 
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