No.155628

雪蓮愛歌 第一話

三蓮さん

オリジナルの要素あり

2010-07-06 02:00:33 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4503   閲覧ユーザー数:3456

 

「おう兄ちゃんたち、めずらしい物をもって『ブン!!!』げふぅ!!」

 

この理不尽な『外史』が始まってから3分。

 

なぜか「顔なじみ」のような気がする3人組の盗賊を雪蓮が蹴り飛ばすのをみて俺は思った。

 

ここはいつも通りか、と。

 

 

 

 

雪蓮愛歌 第一話

 

 

 

 

「まったく…この手の輩って、前口上だけはすばらしいのよねー。

 

 王の代わりに舌戦をやってくれないかしらね」

 

「おい、雪蓮…」

 

「大丈夫よ。のびているだけ」

 

私が王なら首を飛ばしていたけどねー、とサラッと怖いことをのたまう。

 

「だ、だって今の私は『北郷』の姓だもん♪」

 

顔を赤らめて照れくさそうに雪蓮は言った。

 

話は一昨日に遡る。

 

 

「へー。雪蓮には4つの外史の記憶があるのか」

 

「そうよん♪」

 

互いに再会を果たした一刀と雪蓮は、外史の狭間で貂蝉・卑弥呼と今後のことについて話していた。

 

「そうか…え?『4つ』?最後の一個はどこの記憶なんだ?」

 

「今から一刀が行くつもりのところよ」

 

「は?だって呉の王様をやっているはずだろう?」

 

「あのねん、ご主人様」

 

助け船を出すために、貂蝉が割り込んで会話に入った。

 

「孫策ちゃん、暗殺されてしまったのよ。その世界で…」

 

「え!?」

 

貂蝉の話をまとめるとこういうことだった。

 

雪蓮は「4つ目の外史」で、謎の弓兵に毒矢で射殺されたそうだ。

 

ただ奇妙なのは、例えば『呉』のような事態ならば「華琳の部下が報償目当てに孫策を暗殺した」ということが、貂蝉や卑弥呼には分かるらしい。

 

つまり、雪蓮を4つめの外史で殺した人間は「謎」というベールで覆われた五胡である可能性が高い…らしい(推測ばかりだな)。

 

 

「外史の自壊作用が働いて、証拠もまとめてうやむやになってしまった、ということか?」

 

「わしらにもさっぱりだ」

 

卑弥呼が腕を組んで俯く。

 

 

「そのかわり、今回は孫策ちゃんがついて行けるわ♪」

 

 

3つの外史で本来死ぬはずのなかったにもかかわらず、「唯一」殺されてしまった雪蓮は、その魂(?)を外史の狭間に迷い込ませてしまったそうだ。

 

狭間から『呉』の外史を見ていた雪蓮を魂が消える前に卑弥呼が救い出して、秘術をもって一刀のような外史を渡り歩ける人間に戻した…のだが、その際、はずみで狭間から干渉できる他の3つの外史の記憶もその復活した肉体に吸収してしまったらしい。

 

ここから先はさらに狐につままれたような話になるが、仮に狭間の雪蓮を「オリジナル」と呼ぶと、もし4つめの外史で雪蓮が生きていたならば、オリジナルが外史に入りこめば既に「雪蓮」は存在するのではじかれる。

 

しかしすでに雪蓮は死んでいるので、オリジナルが入り込んでも雪蓮が2人いることにならない。また、既に外史で死んだ人間が生きていても、オリジナルはその外史で死んでいないので死人が生き返ったわけではない。よってはじかれない、という理論らしい。

 

 

「なんだか頭がこんがらがってきた…これ絶対どこかで矛盾が起きているだろう?」

 

「すまぬ。わしも全てが分かっているわけではなくてな」

 

「いいじゃないー、細かいことを気にしても楽しくないもの」

 

ケタケタと笑う雪蓮。手には日本酒とおちょこをもって、すでに上機嫌だった。

 

「しかも、色々と今の私、凄いわよー」

 

「いきなり酔っぱらうなよ…」

 

「あら、今酔わずにいつ酔うのよー?」

 

酒が入って無敵の雪蓮様である。

 

「ちなみに北郷、先に言っておくがな」

 

「なんだよ…」

 

「この孫策、人間の範疇から片足はみ出ているくらいには、強いぞ」

 

「…」

 

もとからフリーダム状態だった気がするが…卑弥呼が言うからにはなにか凄い能力でも身につけたのだろうか。

 

 

「あっ、そうだ」

 

突然まじめな顔に戻り、雪蓮はお猪口を貂蝉に預けた。

 

「一刀」

 

「どうした、雪蓮」

 

 

「はしゃぎすぎて肝心なことを忘れていたわ。

 

 礼を言わせてほしいの、北郷一刀。

 

 『魏』と『蜀』の外史でも、江東の地を孫の名とともに繁栄させてもらった。

 

 『呉』でも私との約束をきちんと果たしてもらった。

 

 そして今、「大陸」で破滅が訪れるかもしれぬときに、貴方は立ち上がろうとしている。

 

 今まで私は、国のために全てを利用してきた。

 

 でも今度は貴方の剣として、他でもない貴方の力になりたいの…」

 

 

真剣な表情で、雪蓮は一刀の返答を待った。

 

「それはちがうよ、雪蓮」

 

「え?」

 

 

「雪蓮は何度も、俺を助けてくれたじゃないか。

 

 俺自身、雪蓮がいたから成長できた。

 

 より前に進んでいくために、雪蓮は俺に道を示してくれた。

 

 今回も、剣とかじゃなくて、仲間として力を貸してくれないか?」

 

 

一刀が手を伸ばす。

 

 

「ほら、握手」

 

 

雪蓮が手をつかむ。

 

 

「もう…馬鹿…」

 

 

少し顔が赤いのは、酒のせいだけではないかもしれない。

 

 

シリアスな場面は、いつまでも続かない。

 

 

「ところで一刀。私、今度の外史で「天の御使い」なわけじゃない?」

 

「うん、そうだね」

 

「あのねー、今度の世界ではもう蓮華が王様で、私は呉のためだけに動くわけじゃないのよ」

 

「まぁ…そうだね」

 

「だから『孫』を名乗るのは、後ろめたいのよねー」

 

「そう、なのか?」

 

「けじめとして、ね。だから…」

 

 

 

『北郷』って、名乗ってもいい?

 

 

 

「…え?」

 

「だから、『北郷伯符』って名乗ってもいいかって聞いてるのー」

 

「いや、あの、それって…」

 

一刀は顔の温度が上昇するのを感じた。

 

「べ、別に勘違いしないでよね!夫婦になりたいとか、そういう意味じゃ、そういういみじゃなくて…」

 

「う、うん、わかっているよ」

 

「そ、その、一刀にも都合が…」

 

そして、二人して会話が支離滅裂になっていくまでそう時間はかからなかった。

 

 

「あらん♪初々しい二人組ねぇ♪」

 

「実に初々しいのう」

 

そんな二人を、漢女が酒のさかなにしていた。

 

 

「北郷」の姓の話をごまかすかのように、その後雪蓮のハイテンションは終始続いた。

 

『下戸が一緒に酒を飲んでは行けない武将ランキング第一位(暫定・二位との審査待ち)』を『蜀』のときに獲得しているだけはある。

 

「一刀♪一刀♪」と名前を何度も呼びながら、そのたびに賭で勝った酒を雪蓮はついでいった。

 

結果、北郷一刀、撃沈。

 

外史の狭間、ようは何もない無骨な空間なので寝具に寝かせることもできない。

 

そこで雪蓮は一刀に膝枕をして酒を飲み続けていた。

 

「あら~、ご主人様寝ちゃったのねん♪」

 

貂蝉と卑弥呼はさすがに潰れることはないのだろう。

 

「よかったのか孫策?お主、再開したばかりなのだから…」

 

「いいのよ。だいたい、どこにあなたたちは行くのよ。

 

 それに、「そういうこと」はあっち行ってからやるわ。

 

 …一刀、帰ってきたばかりなんでしょう、ここに」

 

 

愛しい人の顔をなでる雪蓮の手は、愛しみの感情をとても表していた。

 

 

「私のカンが外れたことって、ないからさ、確信があったわ。

 

 私ね、すっごーく、うれしかったんだ。

 

 一刀が4つ目の外史に行くって行ってくれたとき。

 

 でも、それでもね…」

 

「孫策ちゃん…」

 

「このカンだけは、外れて欲しかった。

 

 もう3度、大陸を平和にしてさ。

 

 歴史のどこに、そんなことしたやつがいるのよ?

 

 もういいじゃない、かずとががんばらなくても。

 

 がんばったのに、私を死なせてしまったことを後悔していてさ。

 

 ああ、私はこの人になんていう楔をうちこんでしまったのだろう、ってね」

 

雪蓮は杯を傾けて口にすると、唇からゆっくりとそれを放した。

 

 

「私はこれから、一刀の剣であり続けるわ」

 

 

4人はしばらく睡眠をとった、出発の時まで。

 

 

一刀が目覚めると、雪蓮の立派な2つのそれで窒息しかけていたり、

 

あたりに空のビンがあふれて足の踏み場がなかったり、

 

元王様と漢女2人のポロリがあったり、

 

…精神的に気合いも入ったところで出発の時がきた。

 

「今回、記憶だけじゃなくて、最初から装備もいろいろできるんだな」

 

最新のポリエステルの制服を着た一刀はしみじみといった。

 

「今回の外史はそこらへんは融通きくから、助かるでしょう~♪」

 

貂蝉が雪蓮のためのパンプスをもってきた。

 

「あれ?雪蓮、ヒールを履かないのか?」

 

「ヒール?ああ、靴のことね」

 

そういいながら、雪蓮が靴を履き替える。

 

「今までは王として、我が身を大きく見せる必要があったから履いていただけよ。

 

 どんなものを履いていても、動くのには変わらないけれどね。

 

 ただ…必要なくなっただけよ」

 

今じゃせいぜい五胡の妖術使いか、と笑いながら言う。

 

「そういや雪蓮…その靴で今まで戦ってきたのか」

 

そう考えていくと(無論、雪蓮だけではないが)、「武将すげ~」とぼけっと考える一刀だった。

 

 

仕度を終えて、ようやく旅立つ時になった。

 

「そういえば行き先はどうなるんだ」

 

「…なんとかわしらである程度絞り込んだ」

 

「あらすごいじゃない♪どこ?」

 

「うふん♪『魏』か『呉』か『蜀』よ♪」

 

「…」

 

「すまぬ北郷、孫策」

 

「いや、なんとなくそんな気がしていたから」

 

もはやお約束なのだろう。

 

 

「それじゃあいってくるよ、貂蝉、卑弥呼」

 

「できたらお酒をどうにかしてね~♪」

 

憂いなんて何一つない。

 

今、若き英雄たちはようやく、己の半身の下に帰ったのだから。

 

「気をつけるのよん~♪」

 

「気をつけてな」

 

手を取り合って、支え合って、今一度戦いましょう。

 

いざ、破滅の大陸へと。

 

(ワープしている間の雪蓮と一刀の会話)

 

一刀「さて、どこにたどり着くのが一番いいだろうか」

 

雪蓮「多分『蜀』でしょうね」

 

一刀「え?『呉』じゃないの?」

 

雪蓮「かずとー、死んだ人間に再会すると、どうなると思う♪」

 

一刀「あ」

 

雪蓮「無論、裏から手を貸して、今ならとっとと袁術をどうにかできるわ。

 

   でも、『呉』の信頼を得るには時間がかかるでしょうね。

 

   蓮華はそういう王のはずだから」

 

一刀「そうか、『蜀』ならその点、ノーリアクションで仲間に引き込める。

 

   しかも『蜀』としての体制をかなり早く構築できる…」

 

雪蓮「逆に『魏』だとまずいのよ。

 

   華琳は絶対に己がため、自分の国のためだけに、こちらを使うでしょうからね」

 

一刀「雪蓮、華琳だってちゃんと」

 

雪蓮「冗談よ。ちゃんと「いい王」であることは知っているわ。

 

  ちょっとした焼きもちよ、『魏』の外史のね」

 

一刀「うっ…」

 

雪蓮「でも一番やっかいで、初動までに時間がかかるのは本当。

 

   だから、もし『魏』ならばどうにかしないとねー」

 

一刀「…雪蓮は、どこに俺たちが行くと思う」

 

雪蓮「私のカンによれば…いや、私のカンによらなくても、一刀は何となく分からないかしら?

 

   貴重なお酒に限って、落として壺を割ったり、祭に飲まれたりするのよねー」


 
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