はいぃ、みなさん御機嫌よう!
バイト上がりは身体に響くが、今日も元気に呉のお話を書くことにいたしましょう。
正直ネタが切れ気味です。
バイトは本屋なんですが、もう五年目になりますけど、相も変わらず時給が安い。
790円だよぉ~!!
とはいえ、最低賃金の基準を満たしているので文句も言えず、今日も明日も入って数ヶ月の子達と一緒に、同じ金額で働いてます。
そろそろヒロインの数も絞られてきましたね。
次はあの人だよ、ついに長女の登場です!!
第五話 優
「母様、母様、起きてください。早くしないと朝議に遅刻してしまいますよ」
優の一日はこうして始まる。母様が父様だったり、またはその両方だったりとするけれども、優はこの家族の中で最も早起きである。
彼らの生活を紹介しよう。
まず朝議がある。そこで今日の予定を確認し、付け足される事項を皆が確認した後、そのまま朝御飯となる。
朝御飯では一刀の隣に誰が座るかで毎度もめていたので、今では当番制のように一刀はその家族のそばに座らされている。
その後子供達は学校へ、大人達は政務へ向かう。
昼御飯はそれぞれで食事をするが、その頃には子供達は学校から戻ってきている。
午後は夕御飯までそれぞれ親子一緒に過ごし、鍛錬や政務、勉学に励む。休みのものは買い物へ行ったりしているようだ。
夕御飯は持ち回りで作るが、一刀はいつも親子の団欒を名目に炊事場へと借り出される。
夕食後、陽も暮れここからは自由な時間である。政務に追い回されるものもいれば、子供に追い回されるものもおり、または一刀を追い回すものがいるといった次第である。
そして子供が寝静まると今度は大人たちの時間である。というか、一刀の時間である。夜眠るのはいつも一刀が最後となる。朝議のたびに、真っ白になっている父親を子供達は不思議そうに、または赤くなったりしながら見るのであった。
寝ぼけ眼の穏にいつもどおり政務用の服を渡すと、優は昨日準備した学校へ行くときの道具を再度見直していた。
書庫から借りてきた孫子が今の愛読書である優。学校といっても、既に読み書き算術とも完璧といえる優にとってはあまり有益な時間の使い方ではなかったので、以前一刀に教えてもらっていた内職なるもので、孫子の注釈を始めていたりした。
最初は注意されるかもしれないと思っていた優だったが、自分が呉の柱石である陸遜の娘であることを自覚してからと言うもの、割と好き放題にしているのであった。それも神童としてうわさされる優の能力があってこそなのだが。
「それじゃぁ~、優ちゃん。朝議に行きましょうか~」
「はい、母様」
着替え終わった穏と一緒に部屋を出て、いつもどおり陸家親子は出廷した。
優こと北郷一刀が第一子、陸延が神童と呼ばれることになったきっかけは学問を修め始めてから、すぐのことだった。
ある日、母親である陸遜こと穏に一つの論文のようなものを持ってきたのである。
その題目は『呉国における政治体系の異常性』というなんともシュールなものだった。
しかし、それは呉国にいるものであればこそ、逆に気付かない異常性を指摘したものだったのである。
その論文の中では呉国がいかに一刀の天の御遣いとしての地位をあやふやなものとしているかを、王との関係性の下にさらした。
重臣である将がみな一刀との間に肉体関係を持ち、あまつさえ子孫を残しているということ自体が特異な点であり、それゆえに重臣の子孫が皆、王位継承権を得ることができるのでは、ということについて論じ、更にはその親族による政治体系の実現についてまでを記したものだったのである。
実際の所孫呉の家督を継ぐものは代々孫家のものである。しかし、もし孫家に不幸があればその後を継ぐものは姻戚関係のある、すなわち一刀の血を継ぐものが家督を相続することになる。すなわち、陸家から年齢順に周家、呂家、黄家、甘家、太史家の六家からである。そこで優が考えたものが、孫家をまず宗家とした王制を敷く。その中で磐石な政治を行っていくため、天の血を引く親族らによって宗家を支える政治体系を優は考えたたのである。
この恐るべき内容を持ってきた自分の娘に対して怖がるところを、一刀はむしろその才を愛したのだがこの論文は穏の手によって公表されずに秘匿された。理由は国内での混乱を防ぐためである。
一刀の『呉国に天の血を入れる』という役割が、戦乱の世を終えて今まさに逆に混乱の種にもなることを穏は悟ったからであった。
市井では一刀が天の御遣いであることは知れ渡っている。また、その一刀と孫家が結ばれたことも知れ渡っている。というよりも、呉国をあげて祭りを一週間もしたのである。知らないほうがまずおかしい。しかし、他のお家の娘までが一刀の子であることは市井には伝わっていない。このためにようやく落ち着いてきた混乱を再び招くことを穏は恐れたのだ。
稀代の名軍師である穏を恐れさせる才能は、一刀の提案により建造された学校によってさらに華々しく開花していく。
同じく学問に優れる呂琮という姉妹にも恵まれ、その二人は既に朝議に参加できるほどになっていた。
陸家親子が朝議への道を歩いていると、廊下の反対側からよく見慣れた二人が歩いてくるのを見かけた。
「あら、亞莎ちゃん、燐音ちゃんおはよう~ございます~」
「おはようございます、亞莎様、燐音」
のんびりとした挨拶に、しっかりとしたものが続く。
「あ、お早うございます、穏様、優ちゃん」
「お早うございます、穏様」
母と同じ意匠だが水色の鮮やかな服に袖を通している燐音という少女は、優の名前をあえて呼ばなかった。
「こら、燐音。お姉さんにもちゃんと挨拶をしなさい」
「……おはようございます。優姉さん」
亞莎が娘の呂琮こと燐音を諭した。
「いいんですよ亞莎様、燐音はいつもこうですから」
その言葉に渋面を作る燐音に対して、嬉しそうに優は満面の笑みを浮かべた。
(……どうして、こんなに素っ気無い素振りをしてるのに、姉さんは笑うのかしら)
燐音は優に勉強で勝てないことでコンプレックスを抱いていた。そのためいつも、笑っている彼女に対して姉妹仲が悪いわけではないが、燐音はついついつっかかってしまうのである。
いつものことなので、母親同士は、しょうがないなぁといった顔で、二人の様子を見守っている。
「それじゃあ、行きましょうか」
「そうですね、まだ時間にはゆとりがありますけど」
「え、そうなんですか? 優ちゃんが遅刻するって起こしてくれたから、てっきりもう朝議が始まるくらいなんじゃないかと思っていましたよ~」
「そんなことありませんよ、……確かに、穏様は少しのんびりしていますし、これくらいの時間に来たほうがいいのかもしれませんね」
亞莎の悪気のない言葉に、穏は頬を膨らませた。
「それはどういう意味ですか~? 私はそんなに朝議に遅刻する人間でしたか~、亞莎ちゃん」
「あ、あ、ち、違いますよ、そういう意味で言ったのではなくてですね……」
口元を隠しておろおろとうろたえる亞莎の言葉に横槍が入る。
「そうですね、確かに母様は少し寝坊が多いですよ。今日起きられたのは、昨日一刀父様がおらず、すんなり眠れたからでしょう」
「優~、身も蓋もないことも言わないでくださいよ~」
少しばかり頬を赤く染める穏。亞莎も口元を隠して目を細めている。
「母上達は何を恥ずかしがってるんですか? 父上のことは毎度毎度のことでしょうに」
子供達は二人ともませていた。
朝議も済むと、優と燐音は学校へと向かう。今日は二人だけでなく、いつも何かと学校をサボりがちな姉妹達もやってくるだろう。何せ今日の授業で教鞭をとるのは自分達の父である一刀だからだ。教科は天の国について。天の国の文化や思想、歴史など一刀の知りうる範囲内で教えているのである。
今日の授業の内容は天の世界についてだった。マクロな視点ではなくミクロな視点で世界について語ることになっていた。
「優、今日は負けないからね」
「燐音ちゃん、負けないって……別に勝ち負けは学問に関係ないよ?」
「私の父上への愛は誰よりも強いのよ」
燐音は結構重度のファザコンである。何せ「父親以外の男はみんな下僕」というのが燐音の銘である。
「それじゃあ、負けるわけにはいきませんね、父様の撫で撫では何ものにも代えられませんから」
「その余裕後で後悔するといいわ」
「後悔は後でするもので先にはできないですよ、燐音ちゃん」
「うるさいわね、口が滑っただけよ!」
「おう、朝から元気だな、優、燐音」
学校への道中、優と燐音に声をかけたのは聞き間違うこなき暖かい声だった。
「父様」
「父上」
「おはよう、ふたりとも」
「「おはようございます」」
先ほどまでの雰囲気はどこへやら、二人とも猫をかぶったように自分達の父親へと甘え始めた。
「父様、今日の授業は主に何についてやるんですか?」
「父上、私も気になっていました」
「ああ、今日は天の国の政治についてやろうと思う」
「政治、ですか」
その言葉を聞いて二人とも、深く考え込む。この二人にとって天の知識を吸収するということは、ただ学問をするということだけをささない。
母親達は呉の頭脳とも言える役割を持つ人間だ。それ故に自分達もそれに倣おうとするのは、ごく自然の流れだった。
その二人の関心事はやはり政治。優は主に内政について。燐音は軍略についてが主だった。
もちろん全てにおいて完璧にはなりたいと常々思っているわけだが、どこかしらに綻びは生まれてしまう。
それを補ってくれるのが、二人にとって優でありまた燐音なのである。
また二人の立場上、天の国の知識を応用するためには、まず呉の民という自らの立場を一旦放棄し再考しなおすことが他の家臣の文官よりも容易だった。
生まれた頃から、ある種二つの国で育っているのである。その絶対的優位性はこれから呉が向かおうとしている富国への道へ欠かせないものだったのだ。
「天の国の政治、いつか父様から聞きましたが、民主主義とか、社会主義とかいう思想云々の話ですか?」
「優と燐音には、それでもいいんだけどな。他の子がついてこれないだろ」
一刀は苦笑して二人の頭をくしゃくしゃとなでた。
二人は大きい一刀の手に安心感を覚えながらうれしそうに頬を緩めた。
一刀はなでながら続ける。
「今日は、もっと簡単な話だ。だけど、とっても重要なこと」
「簡単だけど重要??」
「どういういみですか?」
不思議そうな顔を浮かべる二人に一刀は、にやりと笑って
「それは授業でのお楽しみ」
と耳元でささやいた。
このとき二人が思ったことは同じだった。
(これでは母様も落ちてしまいますね)
(これに母上が耐えられるはずもありません)
三人は一緒に学校へと向かった。
授業はお昼までの時間を使い、三回にわたって講義する形式を一刀は採用している。
一刀は要するに三回同じことをしゃべることになるのだが、始めた当初、教壇に立つことがこんなに難しいとは思っていなかった。
(先生、今まで馬鹿にしていてすみませんでした!!)
若い頃一刀はよくそう思っていたものである。
しかし今ではもうなれたもので、自分のペースと子供のペースを上手く合わせながら、講義を進めている。
「っと、ここで今日の講義は終わり。なにか質問はあるかい?」
ざっと、50人くらいいる教室を一刀は見回す。最終講義なんてものは大体こんなもので、ほとんど皆この時間は手の空いた武官や文官に今日の復習や課題を手伝ってもらっている。
誰も特に手を挙げないなか、優が一人、一刀に目配せしている。
(後で聞きたいことがあるみたいだな)
これは二人の共通の合図みたいなもので、このまま一頭が部屋に帰ると、優が部屋で勉強しながら待っているという構図が出来上がっていた。
一度、講義室で済まそうとしたことがあるのだが、優の質問は他の生徒のものに比べると深く、考える時間を要するものが多いので段々と、後で教えることが多くなったのだ。
(まぁ、ホントはもう教えることなんてないと思うんだけどね)
一刀の天の世界の知識は学生自分、しかも受験生用の知識で少し偏りが多い。
(だから今日は、政治といってもみんなに関係のある政治の話にしたつもりだったんだけど、優には何か気になることでもあったのかな)
一刀は頭をかきながら、今日の授業を終わると、
(あんまり厳しい突込みじゃないと助かるんだけど)
と一人心につぶやくのだった。
部屋に帰ると、案の定優が待っていた。
いつもは両脇に留めている翡翠の髪を下ろして、一刀用の政務の机の上に最近大量生産されるようになった紙をおき、その上になにやら文字やら図を書きまくっていた。
「あ、父様。お帰りなさい。ずいぶん遅かったですね」
「ああ、ちょっと最後会議がごたついたのと、祭にお酒に付き合えと無理やり連れてかれそうになったのを逃げてきたからな」
「ふふふ、祭様は相変わらずですね」
「そうだな、あのまま元気でいてくれればと思うよ」
祭はまだまだ若いと自分で言っているが、先々代からの宿将である。やはりその動きに衰えがないとは言えない。
もちろん一刀は、そんな祭のことをいつまでも美しいと思っている。それが一刀の一刀であるが故だ。
「で、どうしたんだ? 確かに今日は学校というものを政治のテーマとして話したから、優や燐音には少し面白くなかったかな?」
「いいえ、お話はとても面白かったです。男子校や女子校がある話。地方や都市で学校に対する考え方の違い。いじめやグループ行動といったものもまた、興味を持ちましたよ」
「そうか、それならよかった。じゃあ何について聞きたいことがあるんだ?」
「えっとですね、ちょっとこれを見てもらえますか?」
そういって優は、一刀を自分のそばに招きよせた。
優の書いたそれは図というよりも文章であった。図に見えたのは遠くから線が引いてあったからで、今ではこれは便箋のようなものに見えた。
(なになに……)
拝啓 北郷一刀様へ
ごめんなさい。まず謝りたいとおもいます。
このような無粋な手段でしか想いを告白できない私をどうか許してください。
そしてできることなら最後までこの手紙を読んでください。
一刀様は私のことをどうおもっているのか、私自身よくわかっているつもりです。
大切にされている、とても愛らしくて愛らしくて、ムキューっとしたくなるほど愛されているのも知っているつもりです。
でも、それでもやっぱり足りないんです。
実際この身体で貴方のぬくもりを感じられないと、私どうにかなってしまいそうです。
最近は、身ごもったばかりの小蓮様ばかりかまっていらっしゃって、私のことはもう忘れてしまったのでしょうか?
そして毎日貴方のことを想うと胸が張り裂けそうになります。
今日貴方のことをお待ちしております。
貴方の妻、陸遜より愛をこめて
(はい!?)
「母様意外に大胆ですよねぇ」
「って、人様の手紙勝手に空けちゃ駄目だろ優」
「いえ、既にあいた状態でここにおいてありましたけど」
「あぁ!!、もう、なんでこうなるかな。よりによって実の娘のまえでこんなもの」
一刀は天を仰ぎ地団太を踏む。顔を覆って中指と薬指の間から右目だけで優の姿を捉えた。
「で、父様はどうするおつもりですか?」
「もちろんいくよ! ここまでされていかないわけないだろ!」
「……よかった」
「ん? なんか言ったか」
「いいえ、何も」
一刀は気づくべきだった。自らの第一子はもう十分に大人をやりこめる人間だということに。
「あれぇ、あなたどうしたんですか急に?」
「急にって、手紙をくれたのは穏だろ? これ?」
一刀が優と一緒に部屋に戻ると、穏はすでに寝る準備をしていた。
そんな彼女に一刀は先ほど優が見つけた手紙をわたす。
「ええ!! 私こんな手紙書いてないですよ?」
一旦その内容に目を通した穏は、驚きを隠せず思わず叫んでしまっていた。
「なっ、じゃあ誰が、って……優」
その答えに、一刀は少し悩んだ後すぐに答えを見つけた。
「あははは、ごめんなさい。父様母様。嘘ついちゃって」
「まぁ、まるっきり嘘でもないですけどねぇ~」
穏は苦笑しながら、優の頭をなでた。
(結構顔には出ないと思っていたんですけどねぇ~、優ちゃんの目は誤魔化せませんでしたか)
「でも優ちゃん。ちゃんとこういうことは母の私の了解をとってからにしてくださいね」
「はーい」
にっこりと笑うと優は、ごめんなさいと頭を下げた。そのしぐさはどこか年相応の少女のようで、いつもの優のしっかりとした雰囲気からは、かけ離れたものだった。
「えっと、で穏、俺来るとまずかったかな」
「もうなに言ってるんですかあなたは。そんなわけないでしょ」
穏は意地悪ですね、と右腕に抱きついた。
「そうです、父様。私と母様は父様が大好きなんですから」
優はそう言って左手に抱きついてきた。
(段々と成長してるな優も)
一刀は手紙のことが単純に自分のためだけのものでないことを理解していた。
母親である穏を助けるためのものでもあったに違いない
「よし、じゃあ今日は三人で寝よっか」
「はいはい」
「はーい」
姉であるがゆえにいつも出せない素顔を一刀の前では出せる。
優は母以上に自分が父の存在に依存してきているのを、このときはまだ理解していなかった。
……、一刀が子供の前で自重できないのはいつもの話。
……、最近その手のことに敏感になってきた優が次の日寝不足になるのは最近の話。
あとがき
ぐぅ、難産でした。なんか内輪の人しか楽しめないような、微妙な内容になっているかもしれませんが、許してください。
話の途中であの人の登場が決定されました。
正直そんなことは言っても、予想されることですし割とみんなかいてますしね。
今日は日本戦です。
勝つといいなぁ。でも明日朝早いんですよ
それではさらばです。
ごきげんよう!
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投稿遅れてすみません。日本戦見てたり、眠くて夜にパソコンが付けられなかったりと、結局駄目駄目な感じになってしまいました。
一応作ることができたのはよかったのですが、ちゃんと更新日時は守っていきますね。
ホント申し訳ないです。
第六話へhttp://www.tinami.com/view/155327
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