No.153939

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第39話

第39話です。

昼休みにこっそりと

2010-06-28 12:47:11 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:5812   閲覧ユーザー数:5358

はじめに

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

原作重視、歴史改変反対の方

御注意下さい

 

貴女を守りたいと思ったのは自分

 

貴方を守りたいと思ったのは自分

 

貴女を救いたいと思ったのも自分

 

貴方を救いたいと思ったのも自分

 

彼女のそばにいることを決意したのも自分

 

彼のそばにいることを決意したのも自分

 

だというのに

 

彼女の隣にいればいるほど

 

彼の隣りにいればいるほど

 

自分が如何に無力かということだけが

 

日々思い知らされ

 

何も出来ない無常の日々だけが

 

何も変わらない無常の日々だけが

 

ただただ過ぎていく

 

パキリ

木の枝を踏みしめた音が耳に入った途端、彼はしまっと顔を顰める

足元に目をやれば、今し方踏みつけた枯れ木の枝が折れて一部足の裏からめており

ザザザ

再び視線を上げれば

 

「…逃げられたか」

 

やはりつい今し方に狙いを定めていた鹿が林の奥へと姿を消していくところだった

 

 

「珍しい事もあるじゃないか、お前さんが打ち損じるなんてな」

 

比呂と月が住む家の二軒隣り

桂花の父親~荀緄(じゅんこん)と実に七年振りに杯を交わした比呂は七年という歳月ははたしてこんなにも

人の容姿を変えてしまうものだろうかと酒の味に顔をしかめながら目の前で笑う初老の男を見つめていた。

記憶にある彼女の父親は三度の飯よりも酒好きでいつも愉快そうに笑っていたはず

その面影は也を潜め、静かに酒を啄む彼がいた

 

「桂花がいた頃は毎晩怒られていたのにねえ」

 

くすくすと笑う彼女の母親もまた変貌ぶりには驚いているようだ

 

「飲みすぎと叱られていた頃はわからんもんだ」

 

桂花がいた頃は口うるさく言われていたことに反発するように飲んでいたが

いざ、その娘がいなくなってみると不思議に酒の量も減っていったのだという

 

「単純に年をとっただけかも知れませんよ」

 

そういって杯に酒を注ぐ比呂に荀緄は苦笑しながら

 

「そりゃ誰だって年をとるもんさ、お前さんを見りゃわかる」

 

そういって比呂の杯にも酒を注いでいく

 

「まさかお前さんが袁家で将軍様になっちまうとはな…しかも辞めて帰ってきたと思ったら」

 

ちらりと視線を送る先には甲斐甲斐しく料理を器に盛る月の姿

 

「こんな別嬪な嫁さんを連れてきたと来たもんだ」

「へうっ!?」

 

突然の話題振りに月は上手に箸でつかんでいた料理をポロポロと溢し

 

「ああっ!?ご、御免なさい」

 

慌てて拾おうとしたそれを荀緄がひょいと摘みフッと息を吹くとパクリと自分の口の中に放り込んだ

 

「駄目ですよぅ、お腹を壊してしまいます」

 

上目づかいに見上げてくる彼女にはははと白い歯を見せ

 

「なかなか良い処のお嬢さんじゃないか、しかし心配無用!辺境の男はこれぐらいでは腹は壊さん」

 

なあ?と此方に顔を向ける荀緄に比呂は両手を顔の前で振りながら

 

「そんな普段から落ちてるものを拾い食いしているような言い方は簡便して下さいよ」

 

肩を震わせながら笑う比呂に思わずしかめっ面になる荀緄

 

その様子に周りに灯が灯ったように笑いが起きていった

 

「それではそろそろお暇させてもらいます」

「お休みなさい」

 

そういって荀緄の家を出ていく二人の背中を見送りながら

 

「うーん、桂花はフラれてしまったか」

 

顎鬚をくるくると指先で弄りながらポツンと漏らす荀緄

 

「あら、貴方にも解っていたんですか?」

 

桂花の母親がクスリと口元を手で覆う

 

「…みてりゃ解るだろうよ、あの子が袁家に仕官したのも含めてな」

「ふふ、まるで本当の兄妹のように慕ってましたからね」

「しかも連れてきた嫁さんがあんな出来た子ときたら…勝ち目は無いか」

「元々、あまり男の子を好きじゃありませんでしたからねぇ」

「ちゃんと貰い手はあるんだろうか」

「大丈夫じゃありませんか?ああ見えてそれなりにもてるようですし」

 

時を同じくして魏の覇王の閨でクシャミがあがったのは別の話

 

「明日も森に入るんですか?」

 

寝巻に着替えた比呂の髪を梳きながら月が驚いたように訪ねてくる

 

「ああ、塩漬けの貯蔵が残り少ないだろう?鹿を仕留めてこようかと思ってな」

 

今日は収穫が無かったからなと付け足す比呂の顔を覗き込むように見上げ

 

「でも、日が暮れるのも早くなってきましたし」

 

心配そうな表情を浮かべる彼女の頬に手をあて

 

「心配ない、あの森には物心つく頃から出入りしている」

 

目を瞑っても帰ってこれるよと笑う比呂

 

「今が一番肥えているんだ、毛皮も高く売れる…劉協にも新しい服を買ってやりたいしな」

 

小さな寝台に視線を送る比呂の様子に月の表情が曇る

そんな彼女の様子に比呂はくっくと喉を鳴らし

 

「大丈夫、月の分ちゃんとも買ってやる」

 

そういって彼女の髪を一房掬い口づけを落とす

 

抱きしめられるままに比呂の腕の中で月は瞳を閉じた

 

胸の内にあるのは底知れぬ不安

半年も経ってしまった

 

何も出来ぬままに

 

半年も経ってしまった

 

あの日のまま

 

半年も経ってしまった

 

だというのに

 

”まだ彼は帰ってこない”

 

”私はまだ彼を連れ戻せずにいる”

 

 

自身の腕の中

 

涙を流す彼女に

 

彼は気付かずにいた

 

 

あとがき

 

ここまでお読みいただきありがとうございます

 

ねこじゃらしです

 

誰か冷房付けてくれ

 

なぜ誰も何も言わずPCに向かっていられるんだ

 

それでは次の講釈で


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
32
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択