No.151177

恋姫のなにか 16 後編

くらげさん

風呂敷広げすぎるもんじゃないですね。
今後は一話完結目指します。今まで何も完結しちゃいませんががが

2010-06-17 01:51:38 投稿 / 全18ページ    総閲覧数:14678   閲覧ユーザー数:8273

そんなこんなでいよいよ後編。

くらげの次回作にご期待くださいっ!!

「あーたーらしっいーあーさがっきたっ!」「きーぼーおのっあっさーだっ!」

「馬鹿コンビ五月蝿い」

 

コイツ等は他人の家にお邪魔しているという遠慮はないのだろうか。無いか、馬鹿だし。

寝起きが宜しくはない詠だが、その半分以上九割ぐらいは同室の愛紗の所為だった。

 

「ラジオ体操したいなら庭に出てやってこい」

「あ、おはようございます先輩」

「おはようございます」「おはようございます」

「姉に言えば喜んでラジカセとスタンプカード出してくれるぞ」

 

昨日帰ってから晩御飯を戴き、愛紗と蓮華は大きめの部屋に同室、詠は暫くの滞在と言う事で一人部屋に案内された。

荷物を出してほっと一息吐いた所で、「あれ、今日ぐっすり寝れるんじゃね?朝まで起きなくていいんじゃね?」と夢と希望に満ち溢れた

 

睡眠を取れる事にワクテカだった詠だが、明日の予定を立てようと部屋をノックした秋蘭が来た辺りから雲行きが怪しくなってきた。

 

(いやまぁそれはいいのよ、こっちだって厄介になってるわけだし)

「ところで秋蘭先輩!今日の予定は?」「具体的に、一刀はどうするんですか?」

「さてなぁ。晩御飯にバーベキューをするぐらいしか聞いてないが」

「来た!買い物イベント来た!」「コレで勝つる!!」

(なんで愛紗は目敏くアルバムを発見出来たんだろう。なんで秋蘭先輩は自室への不法侵入について咎めないんだろう)

 

部屋に呼ばれた詠が秋蘭と共に自室へ入ると―――何故か客室で寛いでいるはずの愛紗がアルバムを血走った眼で凝視していた。

蓮華はどうした?と秋蘭が気にする事無く尋ねれば、お姉さんの部屋にお邪魔してます。との事。

その後春蘭が蓮華と共に自前のアルバムを持って部屋に乱入し―――耐水加工してあるから大丈夫。と風呂場にまで持ち込んでの一刀の過去暴露大会。

「すんません、寝たいんですけど」などと言えるタイプの詠ではなく、ヾ(*´∀`*)ノ キャッキャッと楽しそうに思い出を語る春蘭に愛想良く返事を返し、遠い眼でニヘラニヘラ笑う秋蘭を何度も現実に呼び戻してみたり、写真をくすねようとする愛紗を殴ってみたり、鼻血垂らしながら一刀の写真を脳裏に焼き付ける蓮華の鼻に紙縒りを突っ込んでみたりと、八面六臂の大活躍をほぼ一晩中続けていた。

(ダリィなんてレベルじゃねぇぞ・・・)

「あー、すまんな詠。ちとはしゃぎすぎたようだ」

「なんだ詠、まだ昨日の疲れが取れてないのか?」

「先輩、コイツ殴っていいですか?」

「ま、まぁまぁ。夕方まで時間はあるし、詠は休ませて貰ったらどうかしら?」

「いや・・・それはどうかな・・・」

 

蓮華が提案するまでもなく、マジで寝かせてくれと秋蘭にお願いするつもりだった詠だが、秋蘭の返事は渋い物だった。

 

「あ、あれ・・・なんか不味いんですか?」

「いや、休むのは一向に構わんのだが・・・姉がな」

 

秋蘭がそう言った瞬間、三人が三人とも「あぁ・・・」という微妙な顔になり、瞬時に眼を逸らした。

悪意なき悪というのが、どれほどまでに此方の心身を削っていくのかを昨日の数時間だけで三人(主に詠)は理解していた。

 

「わ、悪い人じゃないですけどね?」

「そ、そう、よね。とても気さくだし、上品だし・・・・・・ね」

「・・・・・・不幸だ」

「兎に角、寝床は責任持って私が確保しよう。このままだと詠が死んでしまうかもしれん」

 

眼に見えて顔色の悪い、というか眼の下の隈が凄い('A`)ヴァーな詠を見て、今更ながらに悪い事したなぁと反省する愛紗と蓮華。

と、その時お向かいの扉が開いて一刀がひょこっと顔を出した。

 

「あれ、皆お出かけ?あとおはよう」

「おはようございます、先輩。良い朝ですね」

「おはよう。一刀はどうするの?」

 

ん。と掲げられたビニール袋からうっすら見える包み紙の生地から、お土産と判断した蓮華と愛紗はああなるほど。と渡されるであろう秋蘭に視線を向けた。

 

「秋蘭出かけるなら春蘭に渡した方がいいかな?」

「む・・・・・・まぁそうなんだが、私が受け取っておこう」

「なんで?」

「隣にも持っていくつもりなんだろう? 姉に捕まると夜まで離してくれんぞ」

 

言っている事は正しいのだが、言外に込められた90%の嫉妬に一刀が気付く訳もない。

「んー、でも皆の足止めするのも悪いし、どうせ思春のトコ行って遊ぶだけだし、いいよ」

「ふむ・・・・・・」

 

ジーと見つめてくるクールビューティーに?と首を傾げて応える一刀だったが、このままお見合いされてちゃ敵わんと詠が口火を切った。

 

「あのー・・・私としては受けって戴けると非常に有り難いんですが。あといい加減寝かせて下さい」

「うわ、詠ちゃんすげぇ隈だけど大丈夫なの?」

「あはははは。これが平気に見えるなら過労死なんて言葉は消えてなくなりまさぁ」

 

何故に江戸っ子になってしまったのか定かではないが、視線定まらず頭もフラフラ動いている詠を見る限りとても大丈夫には見えない。

 

「こんな状態の詠ちゃん連れて歩くとか不味いだろ」

「いや、私も寝かせてやりたいんだが、姉がな・・・」

「あー・・・」

 

ぶっちぎりトップで春蘭に構われている一刀もまた、春蘭の存在を思い出して納得した。

と、その時良い事思いついたと言わんばかりに笑顔になり、秋蘭と愛紗の煩悩をおもっくそ刺激した。

 

「んじゃ、詠ちゃんは俺が預かるよ。悪いけどお土産秋蘭に渡すから冷蔵庫によろしく」

「ま、まて。それは構わんが、いやそれというのはお土産を預かる事であってだな?!」

「そ、そうよ一刀。いくら友達って言ったって、男と女なんだし!」

「そうです!むしろ私をあずか「いいか一刀、落ち着いて考えろ。素数を数えるんだ!」

 

歯に絹着せない愛紗の足を踏み付けて黙らせると、秋蘭は一刀の肩に手を当てて顔を覗きこむ。

 

(何この秋蘭怖い)「まぁ落ち着け。霞ねーさんに言ってウチで預かってもいいし、思春連れ出すからアイツの部屋に寝かせといてもいいし」

「で、でもね一刀。そんな事言ったって詠も遠慮すると思うの」

 

もう一度思い出してみよう、詠は今にもぶっ倒れそうだったのだ。そこにこの押し問答である。

 

「・・・・・・ヴァー」

「ちょ?!詠ちゃん?!」

(メルヘンゲッツは私の役目だったのに・・・)「おい、詠!」

(不謹慎だけど、詠羨ましい・・・)「大丈夫?!」

(先輩かっこいいなぁ)「・・・これは、ダメかもしれませんね」

 

幸いにも地面に顔をぶつけるような勢いでこそなかったものの、太陽が思い切り日差しを降り注ぐ中にも関わらずスースーと寝息を立て始めてしまった詠。

とりあえず一刀は自宅にいる筈の霞と恋に状況を伝えようとして―――また家のドアが開いた。

「ねー、冷たいコーヒー飲みたいんだけど」

「淹れてこいや、オメーの自宅だろーが」

「歩くのダルい。あと寒いからもちょっと密着してよ」

「会話の前後を繋げる努力したってバチはあたらねーと思うんだぜ?」

 

霞はこれから仕事。恋もやる事がないなら凪を迎えに行ってこいと霞に尻を蹴っ飛ばされて渋々の外出。これで一刀の所には預けられなくなった。一刀は自分が居るから構わないと言ったのだが、(一刀目線で考えて)何故か三人からの強い反対を受けて却下された。

秋蘭の所は元より却下。当初は一刀が春蘭の面倒見ると言っていたが、あの春蘭が一刀を前にしてテンションが上がらない訳が無い。

秋蘭達の外出を取りやめようかとの案も出たが、それは一刀が却下した。自分が残れば丸く収まるのに何で三人が予定諦めなきゃなんないの。と言われては、下心から一刀の案を却下した三人は黙るしかない。

というわけで、思春のお母さんにお土産と共にお願いをしてみた所、すんなりOKが出たので詠は客室でねんがんの睡眠を手に入れたぞ!!

 

「そういや、あの子平気なの?」

「おばさんが様子見てくれてるし平気だろ。俺等がなんやかんや世話焼くよりよっぽど安心だよ」

「ま、それもそうか」

「そうそう、詠ちゃんと話してみろよ、絶対気が合うからさ」

「アンタアタシに死ねって言ってんの?」

「大丈夫だって。詠ちゃん同人誌書いてるし、アニメも詳しいし。愛紗って子はゲームやってるし、蓮華って子も」

「うるさい黙れ」

 

ちと急ぎすぎたか。と一刀は頭を掻いて要求通り黙るが、まさか思春が別の意味で拗ねてるなど夢にも思うまい。

 

(アタシと一緒に居るのに他の女の名前ポンポンポンポン出すとかマジ脳味噌腐ってんじゃないのコイツ)

「あー・・・ごめん、でもさ、良い機会だと思うんだよ」

「・・・・・・」

「これでも心配してんだけど」

(知ってるわよ・・・)

「・・・怒った?」

「・・・・・・コーヒー」

「はいはい」

「牛乳淹れてよ・・・」

 

現在思春は胡坐を掻いた一刀の足の上にお尻を乗っけてDVD鑑賞中。俗に言うのかは知らないが、カップルの図ではあると思うんだ。

そのため、一刀は反動を付けてよ!と思春を抱き抱えて何とか立ち上がるのだが、当然べったり所ではない密着をする事になる。

 

「おお、立てるモンだな」

「羽のような軽さでしょ?」

「へいへい。羽毛の心地ですよっと」

 

すっと一刀の腕が離された瞬間、思わず声を上げそうになった思春だったが何とか堪える事が出来た。

立ったままなのも何だか切ないので、ベットに腰を降ろして体育座りで膝を抱える。

 

「? どったのアホな顔して」

「い、いや・・・」

 

不覚にも膝を抱える仕草にときめいてしまった一刀だったが、それに気付く思春でもなし。

不器用カップルは、こうして生まれていくのかもしれない。

「おっばさ~ん、アイスコーヒー二人前ー」

 

勝手など知り尽くしている甘家の台所ではあるが、流石に歳食った今となっては無断で冷蔵庫を開ける様なマネはしない。

リビングで娘との熾烈なじゃんけん戦争の末に勝ち取ったお土産をむっしゃむっしゃと食べながら昼下がりのTVを見ている御婦人に声を掛けると、勝手に飲んでーとの返事が帰ってきた。

 

「あ、そういや詠ちゃんの様子どうです?」

 

襲うなら娘の後にしてねーと客室の方向を指差すのを見て、俺等が面倒見た方が良いのかもしれんと思いながらコップにコーヒーを注いだ一刀。

起きてたら何か飲みたいよなぁと詠の分もアイスコーヒーを淹れて、お盆に載せてんじゃーと声を一応掛けると、出来ちゃってもいいからねーとの返事を返された。

この親にして、あの娘有り。

 

「しつれーしまーす・・・」

 

成るべく声を押し殺して、和室になっている客間の扉を開けると、計った様に詠が寝ぼけ眼で一刀を捉えた。

 

「あ、ごめん。起こしちゃったかな?」

「・・・・・・・・・」

「えっと、コーヒー飲む?」

「・・・・・・」

 

返事が無い代わりについっと手を差し出してきたのでほい。とブラックのコーヒーを渡してみた。

ごっごっと凄い勢いで飲み干していく詠を見て、おぉすげぇと変に関心した一刀。ついっと空のグラスを差し出されたので、はいはいと受け取ってお盆に置いてみる。

 

「えっと、お代わりいる?」

「いらない・・・まだ寝るから起こさないで・・・」

「はいはい。眼が覚めたら二階においで。んじゃ」

 

頭回ってないんだろうなぁ。と珍しく当たった予想をしながら扉を閉じて、空になったグラスを水に漬けるべく来た道を戻り出した一刀だったがぱぁん!と良い音がして先程締めた扉が開いた。

 

「あれ、寝るんじゃないの?」

「すいませんでした忘れてください寝惚けてたとはいえ大変失礼な口をきいて申し訳ないです」

「いやいいって。それより、寝なくて平気なの?」

「あー・・・コーヒーダメなんですよ私、カフェオレでも眠れなくなっちゃうんで」

「あ、ごめん。いらん事したわ」

「いえいえ、それより・・・此処は・・・?」

「あぁ、思春の家。家族の人には了承とってあるから、横になってた方が良いんじゃない?」

 

まだ疲れ残ってそうだよ?と顔を見られて言われ、詠は穴があったら入りたいと顔を伏せた。

 

「大変ご迷惑を・・・」

「迷惑じゃねーって。あ、秋蘭達が謝っといてってさ。なんのこっちゃ分からんけど伝えた」

「あ、はい。承りました。えっと、それで先輩達は・・・」

「まぁ落ち着いて。立ったままってのもアレだし、思春の部屋行こうか」

「え・・・でも昨日の様子を見る限りご迷惑じゃ・・・・・・」

「平気平気。詠ちゃん寝てる間もなんやかんや気にしてたし」

 

面識ほぼゼロの人の家で知人についといでーと言われては詠も従わざるを得ない。

ホントに良いのかなぁと思いながら、重たい身体を引き摺って一刀の背を追う詠だった。

「戻ったぞー、ドアあけろー」

「あ、私開けます」

「遅いっての!コーヒー淹れるのにどれ・・・・・・」

「ど、どうも。お邪魔してます」

 

瞬間で硬直したあと、後退りで部屋の奥に後退していく思春を見てやっぱお邪魔なんじゃないのかなぁと思った詠だったが、一刀に気にした様子は無い。

 

「詠ちゃん起きてたから連れてきたわ。流石に知らない家に一人ぼっちは可哀想だし」

「えっと、はじめまして。詠と言います」

「・・・・・・・・・し、しゅん。です」

 

お盆に載ったコーヒーをシュパッと奪うとチビチビ飲みながら、上目遣いで何とか自分の名前を搾り出す思春。

コレやべーってマジでーと一刀を見る詠だったが、その一刀は「おお、名前言った」としきりに感心していてフォローしてくれそうもない。

 

「一刀さん、何か喋って下さい・・・」

「あ、ごめんそりゃそうだ」

「・・・・・・・・・」

「んー。あ、さっきも言ったけど詠ちゃんって同人誌書いてて、結構有名らしい」

「いきなり人のプライベート暴露しないでください」

「・・・・・・」

「ん? あぁ、詠ちゃんが書いた本って何てタイトルだっけ?」

「へ? えっと・・・・・・」

 

詠は悩む。タイトル自体は何てこと無いタイトルだが、どんな内容なのか聞かれたら片身が狭すぎる。

イヤンでアハンな内容です。と伏龍の様に無い胸張って言える程、詠は経験地が足りて無かった。

「ぺ、ペンネームじゃダメですか、ね?」

「それでもいいけど?お前大体わかんだろ?」

 

コクリ。と頷きコーヒーをチビチビやる思春を見て、ふぅと息を吐く詠だったが、この判断を瞬時に後悔する事になる。

 

「えっと、墨黒裂心って名前なんですけど・・・・」

「・・・ある」

「へ?」

 

俯きながら指を差された方を見ると、何処の業務用?と聞きたく成るほどキッチキチに詰められた同人誌の壁。

 

「へ?ちょ、ちょっと待ってください・・・・・・あれ、全部同人誌ですか?」

「・・・・・・」

「いや、責めてるわけじゃねーから。普通に感心してるだけだから」

 

眼だけで詠の顔色を伺って、控えめに首を縦に動かしたのを見て詠はコイツパネェと戦慄する。

 

「あ、あの、汚さないんで、見せて貰っていいですか・・・?」

「・・・・・・・・・」

「あの・・・一刀さん?」

「へ? ああ、良いってさ。そこにあるの確か観賞用だし」

(この上まだあると申すか)「じゃ、じゃあ失礼して・・・」

 

自分の背丈より遥かに高いラックを前にして、はーという溜息しか出ない詠。居る所には居るんだ、こんな化け物。

 

「って、うわ!これ鳳雛の処女作じゃないですか?!」

「有名なの?」

「そんなレベルじゃないですよ?!これオクに出したら軽く二桁はしますよ!しかも完璧な保存だし!」

「よし、売ろうぜ」ごすっ!

「殴られて当然ですからその発言。でもこれこんな所に放置で良いんですか?」

 

一刀の横っ面をぶん殴った思春だったが、詠に話を振られると途端に固まってしまう。

アワアワと手を動かし、一刀が飲んでいたコーヒーを飲むが混ぜ物無しなブラックの苦さに顔を歪めるとコホコホと咽だした。

 

「はいはい苦かったね」

「ぎゅーにゅー・・・・・・」

「ごめんごめん」

「あ、あの・・・」

「っ?!・・・・・・」

 

口元は少し動いているのだが、視線も動いているのだが。それだけで判断出来ない詠はまたしても一刀に通訳を頼む。

「え?マジ?全部売ろうぜ?」

「・・・・・・」

「分かった、ごめん睨むな。 鳳雛って人のは保存用あるんだってさ」

「・・・・・・・・・へ?」

「他にも価値があるのは全部別に取ってあるから、好きに見て良いって」

 

個人の資産という事は重々詠も承知していたが、それでも抑えられぬのが好奇心。

 

「黒い付箋貼ってるのが珍しいヤツみたい」

「じゃ、じゃあ失礼して・・・」

 

ゴクリ。と喉を鳴らして目線の高さにある、鳳雛の処女作と同じ色の黒い付箋が貼られた同人誌に手をやる詠。

 

「・・・・・・ありえない。なんで?なんで水鏡の最後の同人誌がしかもサイン付きであるんですか?!」

 

思わず大声を出してしまった詠に、ビクついて一刀の影に隠れる様に身を寄せる思春。

その姿を見てしまった。と軽率な自分を責めた詠だったが、間に入る形になった一刀が上手く機能していた。

 

「・・・」

「貰い物、だと」

「思春さん何者なんですか・・・」

 

まさか、いやでもと先日の秋蘭の言葉が脳裏をよぎる。

 

「何かお前良く喋るね?」ぎゅっ!

「ごめん、茶化さない。だから抓るな。 えっと、赤い付箋がこれから売れるの間違いないって作家さんらしいよ」

 

その言葉に、今度は赤い付箋の付いた本を何冊か手に取る詠。

自分も良く知る名前やら、全く知らない名前やら、その中に混じって一冊。

 

「・・・・・・・・・これ」

「・・・その時のは、面白かった」

 

知り合いの同業者に頼まれて自分も書いた寄せ集めの同人誌。

どうせ賑やかしだし、好きに書いてやれーと営利度外視でただ好きな事を書けた最後の作品。

 

「が・・・がんばって・・・ください」

 

見てくれている人は、此処にいた。

相変わらず一刀が間に入るのは仕方が無いが、思春もテンパって逃げ出す事は無い。

会話が弾んだとは言い難いが、それでも双方にとって良い時間じゃないのかなぁと一刀は飛び交う業界用語から色んな意味で一歩引いた位置で会話を聞いていたのだが―――

 

「お、良い時間。そろそろ買い物行くから。お前も疲れたろ?」

「あ、ごめんなさい長々と」

「・・・・・・」

 

最後まで自分と会話してくれないのが気掛かりな詠だったが、人見知りだと言う事を事前に聞いていたし、良い人なのは間違いないし、それを強要するのはお門違いであるという事は重々承知している。

 

「んじゃ、また直ぐにな」

「ん・・・」

(やべぇ超可愛い)

 

ホッペを擽るように親指で撫でる一刀に、微笑んでか細い声で答える思春。

スケッチ良いですか?とお願いしたかった詠だが、自分が声を出すとこの眼前の奇跡は泡と消えてしまうのはよく理解していた。

 

一刀と共に甘家を後にし、外に出た所で詠は一刀にお礼は言われた。

 

「今日はありがとね。アイツホントに人と話すのダメでさ。皆も根負けしちゃうんだけど、詠ちゃんが辛抱強く粘ってくれて良かった」

「いえ。私も楽しんでましたから」

「そっか。でも、ホントありがと」

 

くしゃっと髪を撫でられて、詠はくすぐったく思いながらも甘んじてそれを受け入れた。

恥ずかしい事は恥ずかしいのだが、年下扱いされるのは嫌いではないのだ。

 

「さて、と。俺は買い物に行くけど詠ちゃんはどうする?あんま無理はさせたくないんだけど、お礼に町を案内したいってのもある」

「ホント一刀さん正直ですね」

「嘘吐いてもすぐにバレるからね、俺の場合」

「どーん!!」

 

結構良い雰囲気をぶち壊すのは、やはりこの人だった。

 

「カーズーちゃーん?!」

「あれ、桃香姉さん帰ってたの?」

「あ、ども」

「カズちゃんが浮気するー!!」

 

ふぇ~ん!!と一刀の胸に飛び込んでポカポカと胸を叩く桃香に一応挨拶する詠だったが、おもっくそ無視された。

「なんで?!お姉ちゃんの何が気に入らないの?!育ちすぎた胸の所為なの?!」

「言ってねーから。あとはずいからやめれ」

「お姉ちゃんのおっぱいの半分は愛情で出来てるんだよ?丹精込めたんだよ?」

「聞いてないね、ぶっとばすよ?」

「何でお姉ちゃんだけ除け者にするの~?!」

「よし、殴ろう」

 

ごちん。と霞が拳骨落としてるのを見様見真似でやってみた一刀。音の大きさから察するに大して痛くはない筈だが、大げさに桃香は頭を抑えて涙まで溜めてみせた。

 

「カズちゃんがお姉ちゃんぶった~!」

「うっわコイツめんどくせぇ、もういいや。詠ちゃんどうする?」

「わ「お姉ちゃん無視するのいけないんだー!!」

 

割り込み上等!と詠の発言をぶった切って一刀に迫る桃香。

恋さんも相当だったけど、この人もかなりのブラコンだなぁと達観した様子で見守る詠。

会話内容から察するにどうもお姉さんらしいが、喧嘩を売った愛紗はどうする心算なんだろうかと考えてどうでもいいかと投げ出した。

 

「稟お姉ちゃんもご立腹だよ!」

「あれ、稟お姉ちゃんも帰ってるの?」

「お姉ちゃん無視するのいけないんだー!!!」

「どないせぇっちゅーの」

 

どうしたもんかねぇ。と縋りつく桃香の頭をポンポンと叩く一刀に、一刀さんの懐が妙に広いのはこういう事かーと納得した詠。

 

「とりあえず買い物行きたいからさ、離れてくんない? あと、連絡しなくて悪かったよ、びっくりさせたくてさ」

「ぶー!でもカズちゃんだから許しちゃう~♪」

「はいはいありがとね。んで詠ちゃん待たせてごめんね」

「いえいえ。えと、昨日振りです。お姉さん」

「へ?知り合い?」

「ええ、昨日駅で偶然お会いしまして」

「私赤の他人にお義姉さん呼ばわりされたくないんだけどー」

「だったら自己紹介ぐらいしろっての」

「それもそっか♪ 二度目まして~、カズちゃんのお姉ちゃんで、桃香で~す♪」

「詠です。二度目まして」

 

ほほぅ。と存外ノリの良い詠の返しにニンマリする桃香だったが、今はそれどころではないのだ。

 

「あれれ?詠ちゃんって昨日秋蘭達と一緒にいなかったっけ?」

「あ、恥ずかしながら寝不足が祟ってしまいまして。先程まで思春さんの所で休ませて貰ってたんです」

「ほーお、あの思春ちゃんの所でねぇ?」

「ウチで寝かそうかとも思ったんだけどさ、流石に不味いかなぁって」

「あはは、恋ちゃんと一緒に一暴れするトコだったね」

 

未だ幸運にも恋のバイオレンスと桃香のデンジャラスを体験した事のない詠は癇癪を起こして一刀に宥められる二人を想像してほっこりしてしまった。そんな可愛い者で済めば皆苦労しないんですよ常考。

 

「今日の夜バーベキューすっから。今から詠ちゃんの案内がてら買出し行って来る」

「えー!お姉ちゃんも付いてくー!」

「桃香姉さんと行くと色々めんどくさいからヤダ」

 

来るっ!そこっ!のタイミングで詠は見事桃香の視線から眼を逸らした。

何故ほぼ初対面の人のフォローまでやらなければならないのか、詠は神様に小一時間問い詰めたい気分。

 

「稟お姉ちゃん一人だとめっちゃ不安だし、桃香姉さん頼むね?」

「ぶー!!でもカズちゃんのお願いなら仕方ないかなー」

 

ジロリ。と去る前にドギツいメンチを詠に切った後、渋々家の中に引っ込む桃香を見送ってから詠と一刀は連れ立って商店街まで歩いた。

「お肉と野菜と・・・他に私達は何買うの?」

「紙皿なんかはあるし。あ、御菓子買おうぜ!!」

「だーめ!バーベキューに必要ないでしょ?」

 

それなりに見る場所が多数ある商店街に秋蘭達もいたらしく、一刀達はすぐに目立つ三人を発見した。

向こうも目敏く一刀達を発見し、何時もの癖で手を繋いでいた二人の間に割り込む様に接近してきた。

買出しに来たと一刀が言ったので、なら二手に分かれて買い物しようかと秋蘭が言い出し―――地元組の秋蘭チームと一刀チームに分かれての行動。秋蘭、無茶しやがって・・・

 

「えー。ちょっとぐらいだめ?」

「だーめ!・・・どうしてもっていうなら、また来ればいいじゃない。わ、私も付き合う、から」

 

愛紗と蓮華の火花の散らし合いは大変に見物だったが、悪運のグーでしかなかった愛紗の握り拳を蓮華の平手が見事粉砕し、蓮華は見事一刀の所へ。

詠は達観しきった面持ちで秋蘭と愛紗の手を引いて飲み物とお惣菜コーナーへ垂れ幕を頼りに向かっていった。

 

「ちぇっ。 つか、今更だけど女の子三人に飲み物買わせるのは不味かったかなぁ」

「愛紗が居るし、平気よ。あの娘力持ちだから」

「愛紗がぁ?想像つかんなぁ」

(知らないって幸せよね)「それに、私達は二人なんだから飲み物買ったらそれだけで荷物持てなくなっちゃうわ」

「あー、ごめんな、折角遊びに来たのに手伝いさせてさ」

「ううん。楽しいし、お世話になるだけなのは心苦しいし」

 

何時ぞやは姉に、家族に邪魔されたが今は違う。確かに秋蘭達は同じ建物にまだいるが、実質的に二人でお買い物なのだ。

愛紗の自慢話を歯噛みしながら聞いていた蓮華としては、夢にまでみたシチュエーション。カートを押してゆっくり進む一刀に、品物を手に取りながらどっちがいいか一刀に聞く自分。

先程嗜めたのも会わせて、正しくカップルの行為ジャマイカ!!と蓮華のテンションは鰻登りである。

「それにしても、随分な人数ね?」

「俺等姉弟が七人で、蓮華達四人に春蘭だろ?んで思春も入れて・・・13人か、すげぇな」

「その人数一度に収容出来る秋蘭先輩の家の庭が規格外よね・・・」

「あそこの庭で昔良く遊んだよ。下手なジャングルよりよっぽど怖いわ」

「一刀の昔ってどんなだったの?昨日写真は見せて貰ったんだけど・・・」

「マジかよ・・・まぁ普通だったと思う。思春とばっか遊んでたかなー」

「お、男の子とは遊ばなかったの?」

 

んー。と考えてから、何でも無い事の様に一刀は続ける。

 

「俺と霞ねーさんは孤児院から今の家に引き取られたから、昔は苛められてたなぁ」

「え・・・」

「うきっちゃんって覚えてる?」

「え、ええ。あの、眼鏡の、面白い人でしょ?」

「そーそー。うきっちゃんが先頭に立ってさー、橋の下ーって罵りながら殴ってくるわけさー」

「・・・・・・」

「まぁ俺も反撃したけど、数違うからやられっぱなし。まぁ飽きたのか直ぐに収まったけどさ」

「ご、ごめんなさい」

「思春にも被害いったから俺うきっちゃんボコボコにしたね」

「・・・・・・大切な、人なんだ」

「妹みたいなもんかな、それに初めて出来た友達だし。まぁそっからちょっとして星と仲良くなって、秋蘭達とも遊ぶ様になって、それからは五人でずっとつるんでたね」

「そっか・・・そうなんだ・・・」

「まぁでもアイツもようやく他の人間にも心開けるかもしんないし、俺も肩の荷が降りたわ」

 

詠ちゃんがさーと先程の出来事を嬉しそうに話す一刀を見て、蓮華は折れそうになった心を再度奮い立たせる。

 

(ライバルが多いなんて、分かりきってたじゃない)

「あ、なつかしー!コレまだあったのかよ!」

「ほら、籠に御菓子入れない!」

「蓮華は厳しいなぁ・・・」

(私は、あの人の何を見てきたの・・・決して諦めない心ネバーギブアップ!!偶にギブするけど、それはご愛嬌・・・)

「厳しくないの!ほら、早く買って帰りましょ?お腹空いちゃったし」

「はいはい。姉ちゃん達皆腹空かしてるだろうしなぁ」

(○野課長・・・いえ、有○CEO!!!私は、負けないっ!!)

 

誰か蓮華にお手本間違えてるって突っ込んであげて。ホントマジで。

カオス。その一言が夏侯家の庭を埋め尽くしていた。

 

「しゅ~らんの~!ちょっち良いトコみってみったいっ!!!」

「この一杯に私の全てをかけるっ!!!」

「そ~れそ~れそ~れそ~れ~♪」

 

愛紗に肩を回した桃香がギャッハッハッとご無体な十二度目の一気コール。良い子の皆は決して真似しないでください。

肩に手を回された愛紗は桃香を一刀から紹介された時、それまでの剥れ顔から一転、ガクガクブルブルと何時自分が犠牲になるのか気が気でならない。

 

「ん~?愛紗ちゃん楽しんでないんじゃな~い?」

「い、いえ?!十二分に楽しませて貰っております?!」

「ん~そうなの~?」むにむに

「あっ・・・あ、あの、胸を揉むのは・・・出来れば止めて戴きたく「えー、どっかの誰かさんに言わせると私って痴女らしいし~?」

 

駅での会話をおもっくそ根に持っていた桃香は、それはもう良い笑顔で愛紗に絡みついていた。

 

「そ、それについては大変申し訳なく思っております・・・」

「ま~べっつに気にしてないけどぉ~? あっれー秋蘭、もうグラス空だよ~?はい、注いであげて~」

 

バン!と背中を叩かれ一升瓶を手渡され、愛紗は縺れそうな足で秋蘭に駆け寄る。

 

「せ、先輩!ご無事ですか?!」

「問題無い。良いか愛紗、霞さんが気付くまでの辛抱だ。それまであの魔王の猛攻を何としてでも食い止めてくれ」

「せ、先輩・・・でもそれでは先輩が!!」

「ふっ、問題ない・・・必ず・・・生きて戻るさ」

「しゅ~らんの~!!」

 

来た。と愛紗は急いで心持少なめにコップに一升瓶の中身を注ぎ、秋蘭はツマミで口の中に塩分を取り入れてから一気飲みを始める。

 

「愛紗ちゃ~ん、私なんだか右手が寂しいの~」

「人生とは無常だ・・・」

 

 

二人の希望、霞は米神をビクつかせながら正座させた春蘭と恋の二名に雷を落とし、ときおり放たれる反論に拳骨を返していた。

 

「おどれらは何考えとるんじゃボケ!!!」

「・・・・・・」

「恋、口トンがらがせんと言いたい事あんねやったら言わんかい!!!」

「言ったら打つくせに・・・」

「何かゆーたか?!?!」

 

霞がMAXで切れているのは、思春の膝枕で寝こけている一刀にあった。

 

「あれほど一刀には絶対のましなやー言うたな?!」

「・・・・・・」

「だって・・・」

「じゃかあしわ!!」

 

ガチコン!!と拳骨を落とされひう。と涙目になりながら春蘭が頭を擦る。

 

「馬鹿が悪い・・・」

「れ、恋ちゃんには言われたくないです!!」

「連帯責任じゃ!!」

 

ガチコン!!×2と喧嘩両成敗と言わんばかりに拳骨をまた落とす霞。

石頭な恋は大したダメージを受けている気配はなく、チラチラと一刀を見ては不満そうな顔。

 

「ぎゃっはっはっ!!秋蘭ビールこぼした~!!きったな~い!!」

「じゃかあしわ!!桃香!!静かにさわがんかい!!」

「ちっ!! はーい。ほら愛紗ちゃ~ん、鼻で枝豆飛ばしてみてよ~」

 

おいおい良いのか。と春蘭は思わず腰を浮かしかけたのだが、まだ話おわっとらんで。と絶対零度の視線で動きを縫い止められる。

 

「大体お前等は次から次へと問題ばっかりおこしくさってからに・・・」

 

そこらに経っていた一升瓶をゴッキュゴッキュと飲みだした霞はもう止まらない。

 

「あ、あの霞ちゃん?一気飲みは身体に悪いですから、キチンとコップに注いだ方が・・・」

「あぁん?!」

「な、なんでもないです・・・」

「ほーらしゅ~ら~ん?焼酎のウイスキー割りだよー♪ はいしゅ~らんのっ!!」

 

コイツ鬼だ。

縁側に腰掛けるのは、一刀を膝枕している思春と蓮華、そして一人壁に向かってブツブツ恨み言を溢しながら料理を貪る稟。

 

「・・・あ、あの、思春、さん?おかわり、どうかしら?取ってくるけど・・・」

ビクッ!!「・・・・・・いい、です」

「そ、そう・・・・・・あの、稟さん、でしたよね? 飲み物、持ってきましょうか?」

「・・・肉を。ひたすら肉だけを詰めてください」

 

稟が差し出したのは紙皿ではなく重箱だった。これに肉満タンに詰めろってかおい。と蓮華は突っ込みたくなったが、稟の愚痴に反応すると詠の二の舞になるのは眼に見えているのでソソクサと腰を上げる。

 

(き、気まずい・・・・・・うっわ愛紗・・・・・・ナム)

 

乙女の純真を弄ばれ続ける親友に短く手を合わせると、焼き上がりが乗せられた保温プレートからありったけを重箱に詰める。

ついでに自分の分と、御節介かなぁと思いつつ思春の分を紙皿に取ると桃香の笑い声をBGMに来た道を戻る。

 

「あ、あの、迷惑・・・だったかしら・・・?」

「・・・・・・・・・どう、も」

 

決して眼を会わそうとせず、紙皿をシュタッと受け取ると口に運んでは何かにビクつく思春。

 

「あ、あの・・・」

「ポジティブ、ポジティブに行くべきです私。一刀はまだ暫く滞在する訳ですし、私は一刀のお姉ちゃんなんですからそりゃあデートなんて誘い放題な訳です。

ええ、決して思春が羨ましくなんてありません。それに考えてみなさい、もし一刀を膝枕しようと立ち上がって特大バーベキューコンロをひっくり返して見なさい、一刀の呆れるような・・・」

 

そこまで言って、我慢できずに稟はチラッと寝ている一刀を見てしまった。

 

「うー!うー!わたしのなのにー!!」

 

恨みがましい、とは言い難い、寧ろ可愛らしい稟の声色に思春はビクッ!!と反応して居心地悪そうに身をちぢこませる。

 

「ま、まぁまぁ稟お義姉さん」

「貴方に姉呼ばわりされる筋合いはないと思いますが?」

(うっわ一瞬で素に戻った)「ご、ごめんなさい・・・で、でも、大声出すと一刀が起きちゃうかもしれませんし・・・」

「むしろ、起こした方が事態の収拾が着きそうではありますが」

 

ほ!と床に手を付いて180度回転した稟は、呆れたように騒ぎの中心である自分の姉妹達を見る。

 

「あれ~?なんかお姉ちゃん弟に愛紗ちゃんの本性「わかりました!!やりますから!!」

「聞いてんのかこのアホコンビが!!」

「・・・・・・恋も膝枕」

 

やれやれ。と焼酎をグビッと飲んで、残量が少ないのに気付いた稟。

 

「蓮華さん、でしたか」

「は、はい!」

「桃香が握ってるアレ、かっぱらってきてください」

 

アレは良いものです。と稟は眼鏡を直しながら目付きを鋭くし、蓮華は今から愛紗の仲間入りをするのかと顔を青くし、思春は可哀想に・・・と思いながら野菜をムグムグしながら、時折一刀の髪を撫でていた。

その喧騒の中心。霞と桃香の間の位置、コンロのある場所で。

 

「くさい・・・くさいっていわれた・・・」

「あー・・・そりゃ女だって人間なんですし、何日も汗流してなかったらそりゃあ多少は・・・」

「かずとに・・・くさい・・・」

 

恋に呼ばれ、合宿を急遽打ち切りにして急いで下山した凪。

何時の間にか消えていた恋に構う事無く、一目散に走って走って走り続けて、何とか買い物から帰った一刀と出会う事に成功したのだが。

 

『えーと・・・言い辛いんだけど、ちょっと臭うから、お風呂入って来た方が良いんじゃないかな・・・?』

 

多量に汗を掻く時期にしかも山篭り。全力ダッシュで帰ってきたオマケつきと言う事で、臭気が少々キツめな胴着になっていた凪。

いくら凪自身の汗はフローラルでも、熊や猪の返り血にむさい門下生の汗と体臭はそうはいかない。

一刀も悪い事言ったかなぁと思いはしたのだ。しかし、姉の印象が悪くなるのは弟としては納得いかない。と悪者になるのを覚悟で進言したのだが、姉はそうは思わなかったようで。

 

「それに一刀さんも悪い事言ったよなぁって落ち込んでましたし、別に凪さんの事嫌ってるわけじゃ・・・あ、コレ焼けました」

「むぐむぐ・・・・・・くさい・・・」

 

落ち込んでいる凪は当然ポツンとしてしまい、一刀は早々に潰れてしまった。

貧乏籤を引くのは何時もの事だし、落ち込んでいる人間を放っておくのも寝覚めが悪いと詠が凪の慰めを買って出たのだが、モンの凄い落ち込み方に早まったかなぁと思いはしたのだが・・・

 

「わーすごーい!1mは飛んだんじゃなーい?私なら死んでもやらないけどー。

で、何故か此処に鼻に枝豆詰めてる愛紗ちゃんの写メがあるんだけど~♪」

 

(うん、向こうじゃなくてよかった)「はーい、次の肉焼けましたよー」

 

何故かバーベキュー大臣に任命されていた詠は一人、肉を焼いてはひっくり返し、野菜を焼いてはひっくり返し。

声を掛ければ皆が高速で良い所を奪って行く始末。

 

「・・・・・・不幸だ」

「うわーん!もう生きていけないー!」

「はいしゅ~らんのっ!!」

 

五分に一回感極まって泣き出す凪をよしよしと撫でて落ち着かせながら、生野菜をもそもそと齧る詠だった。

言い訳。

 

何だか超大作になってしまいました。予定に無い詠と思春の絡みを放り込んだのと、蓮華の出番無くなってるとのご指摘を受け蓮華と一刀の絡みをねじ込んだのが原因です。

風呂敷広げすぎるのは、腕のある作家さんにのみ許された特権ですね。今後は少人数でやっていこう。

 

一刀に昔の話をさせるとシリアスになりますね、メンドイのであんま書きたくないです。

あと、何気に前・中・後編は初でした。最初からその予定で書き出せたらもうちょっとテンポ良く出来た気がします。

あと、詠のペンネームに関してですがバイブル・蒼○航路より取りました。

 

此処に書くべき事なのかは分かりませんが、悠なるかな様より今まで登場した人物一覧と、「各人の心の声が知りたい」とのメッセージを戴きましたので、以前にお願いされていた気がする一刀の背景なんかと一緒にお気に入りユーザー限定でそのうち投稿したいと思います。

完全に箇条書きになると思われますので、わざわざお気に入り限定にして良いのかなぁとも思うのですが、かなり暗いバックボーンになりますので。

 

次回は溜まりに溜まった鬱憤を晴らすべく、華琳逃げて!!タグをつけたいと思います。具体的には水着選び@セレブ組。あれ、合コンどうなったの?

 

それでは、近い内に投稿出来る様に頑張ります。此処まで読んで下った皆様、ありがとうございます。

いつもお礼返信まで読んでくださってる皆様、もうちょっとだけ続くんじゃ。

 

追伸、今更ながらに恋姫のなにか 5の誤字の指摘を戴けましたので、これの投稿に会わせてそちらを修正しております。ご指摘ありがとうございます。

風の旅人様  斗詩は秋蘭の友人にしようと決めましたので、秋蘭ヤンデレ全開編で活躍するかと思います。

       前言撤回に定評のある私の言葉なので、信憑性はゼロに近いですががが

 

zero様   魔王桃香がログインしました!!愛紗逃げて!!

      私のキャラが可愛いと褒めて頂けて嬉しいです。投稿してよかった。

 

叢 剣様   熟女トリオの活躍を心待ちにしてる俺ザンギエフ。

 

asf様    お前に・・・レインボー・・・

 

Kito様   ルート突入してからが本番ですよ、姉的な意味で。

      書ききれたーと開放感で一杯です。楽しんでいただけたら幸いです。

 

jackry様  (・∀・)ニヤニヤ 恋ねーさんは無敵なんですよjk

 

景様   しーっ!!言っちゃらめぇ!!

 

tyoromoko様  自室で二人きりの状況限定で「酔っちゃった・・・なんか暑い・・・」と服を脱ぎ出します。

 

風籟様  なんで?!萌えるトコだよ?!

 

Ocean様  意外に反響の多かった駄々っ子稟ちゃんでした。なんでだろー

 

tomi様  前者は兎も角、あと二つの何処に萌えるのか自分で書いておいてさっぱりです。

     稟は兎も角、思春は原作と正反対を念頭に置いて書いたキャラでした。以上、裏話。

 

よーぜふ様  駄々っ子いえー!とは乗りきれないこの微妙な心中。なんで受けたのかさっぱりですわー

       秋蘭のヤンデレファンがいて嬉しい限りです。

 

イリヤ・エスナ様  だから米欄で会話するなとあれほど・・・あれほど・・・!!

          コーヒーの弁償を請求スルニダ!!

 

happy envrem様  ソノ発想ハ無カッタワー

         そこまでピンポイントなのに、無印のヒロインは恋じゃ・・・おや、こんな(ry

 

Will-Co21様   なんだか三作通してイマイチな活躍の思春でした。ホント申し訳ないです。

 

悠なるかな様   べ、別に褒められたのが嬉しくて要求を呑む訳じゃないんだからねっ!ホント、ついでよついで!勘違いしないで!!

         態々登場人物の一覧ありがとうございました。とても助かりますと張本人がお礼を言います。

 

比良坂様   無双になっているのか定かではないですが、愛紗に絡ませてみました。秋蘭逃げて!!

       おまけの桃香にコメントしてくだって非常に嬉しかったです。

 

ちきゅさん様  <( ゚з゚)> ~♪

 

カズト様   Exactly(そのとおりでございます)

 

リョウ流様  引かぬ媚びぬ省みぬが恋の生き方です。何この拳王

 

t-chan様   桃香ヤバイ。土下座する暇も無く死ぬ。

 

武中様   ここにも見つけた秋蘭ファン。登場する度にギャグキャラになっていってる気がします。

 

ロンギヌス様  魔法の言葉を唱えると、愛と希望が飛び出すの

 

葉巻様    ぶっちゃけ稟にスポットを当てるとフォローが大変なんすよ。以上、愚痴でした。

 

mighty様   わーいまた墓穴ほっちゃったー(棒

 

kurei様   詠「いいぜ・・・お前が馬鹿達に幻想を持ってるなら・・・まず(ry」

 

2828様   二人は何だか良いコンビ。風ちゃん入ると一晩中飲み屋で語り明かしますよきっと。

 

poyy様   キャラ崩壊はカオスに持っていかざるをえないと最近気付きました。

 

弌式様   楽しんでいただけたなら幸いです。いやホント。

 

 

一人、又一人とコメント戴ける事が楽しみです。頑張ってよかった。これからも頑張れる。

応援、ありがとうございました。


 
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