「牢破りまでして、何が狙いだ」
一刀が目の前の男に問いかける。
「決まってるだろうが。貴様だ。貴様の首を落とすことだ!!」
男が一刀を憎らしげににらみつける。
「・・・逆恨みか。情けないやつだ」
「何とでもほざけ!!さあ、覚悟してもらおうか!?」
「・・・おいおい、まさかとは思うが、そこにいる五千程度の戦力で、俺たちを討とうってのか?」
「くくく。そのまさかよ。貴様らなど、これだけの兵がいれば十分」
「・・・なめてくれる。たかが詐欺師の分際で」
怒りをあらわにする白蓮。
「・・・どっかに伏兵でもいるのか?それとも、援軍のあてでも?」
「そんなものぁ、いねえよ。・・・鬼が一匹いるだけだ」
「・・・鬼?」
「そうだ。天下無双の鬼神がなあ!!」
男がそう言ったときだった。
うわあああああああああああああ!!!
ぎゃあああああああああああああ!!!
はるか後方から、無数の悲鳴が轟いた。
「な、なんだ!?」
「始まったぜ!地獄の殺戮劇が!!」
一刀と桃香、白蓮が男と対峙するのは幽州軍五万の最前。
そのはるか後ろ、後曲に待機していた、易京所属の元劉虞軍の兵たちが、次々と屍の山へとその姿を変えていた。
そこに立つは一人の少女。
その真紅の髪を揺らしながら、まるで雑草でも刈るかのように、次々と兵士たちをなぎ払っていく。
「止まれ!!」
ぴた。
突然の声に少女が動きを止める。
少女の前に、三人の人物が立ちはだかる。
愛紗、鈴々、華雄である。
「・・・たった一人で、二万近い死傷者を出すか。何者だ、貴様」
「こいつ、めちゃくちゃ強いのだ」
「ああ。この私が、敵を前にして震えが止まらんとはな」
「・・・おまえたち、恋の邪魔する?・・・なら、殺す」
戟を構える少女。
「そう簡単にやれると思うな!関雲長、参る!!」
少女に向けて、全力で偃月刀を振るう愛紗。が、
ガキッ!!
「な!?」
「・・・おまえ、弱い」
愛紗の渾身の一撃を軽々と受け止め、逆に吹き飛ばす。
「なら、こんどは鈴々が相手なのだ!!たりゃーーーーー!!」
鈴々が丈八蛇矛を次々に繰り出す。
しかし、少女はそれすらも軽くいなす。
「・・・お前も弱い」
どがっ!!
「うにゃ!!」
戟の柄で鈴々を弾き飛ばす少女。
「関羽!張飛!ならば今度は私だ!!我が戦斧を受けよ!!」
「ふん」
華雄の轟撃を片手で受け止める少女。
「・・・馬鹿な」
「・・・お前も、恋の敵じゃない」
ぶんっ!!と、手に掴んだ斧ごと、華雄を振り払う。
「華雄!!くっ、これほどのやつが、この世に二人もいるとは!!」
「(ぴくっ)・・・二人?違う。恋は一人だけ」
「・・・貴様のことではない!我が主にして義兄、劉北辰様のことだ!!」
愛紗が少女に言う。
「・・・そいつ、強い?」
「そーだ!!お兄ちゃんなら、お前なんか敵じゃないのだ!!」
「・・・なら、そいつを倒す。そうすれば、おかあさん、助かる」
立ち上がった三人には見向きもせず、その場から歩き出そうとする少女。
「待て!!貴様を義兄上のもとには行かさん!!」
「そーなのだ!!お前の相手は鈴々達なのだ!!」
少女を囲む三人。
「・・・なら、お前たちを殺してからにする」
「やれる物ならばな!!関羽!張飛!」
「応(なのだ)!!」
「・・・来い」
「愛紗たちが?!」
「は!お三方で相手をしておられますが、足止めが精一杯かと!!」
「うそ?!愛紗ちゃん達が三人がかりで?!」
「なんてやつだ」
後曲からもたらされた報告に、驚愕する一刀たち。
「ふん。三人がかりとはいえあの娘を止めるか。やはりたいした者だな、関羽と張飛は」
薄ら笑いを浮かべて言う男。
「・・・おい、ななし野郎。いったいあの子は何者だ」
「聞いた事ぐらいあるだろう?飛将軍、呂奉先の名は」
「・・・まさか、あの子が、呂布?」
「そう、愛しい愛しい、俺の娘さ」
「「「はあ?娘ぇ?」」」
ななしの発言に驚く一刀たち。
「正確にゃあ、ここの太守をやってる丁原の養子だがな。その丁原を一月ほど前に俺の嫁にしたのさ。・・・いい薬があったんでな」
「まさか・・・、貴様、陽建どのを?!」
「死んじゃあいねえよ。まあ、ちぃとばかり量を間違えちまって、人形みたいになっちまったがな」
「この・・・外道が!!」
剣に手をかける白蓮。
「あいつは親思いのいい娘だぜぇ?母親を元に戻して欲しけりゃ、俺の言うことを聞けと言ったら、素直に聞いてくれたぜぇ」
げらげらと下品に笑うななし。
「・・・許せない」
スラリと、腰の靖王伝家を抜き放つ桃香。
「二人とも、待て」
一刀が二人を制する。
「一刀!何で止める!?」
「おにいちゃん!!」
二人には答えず、ななしに歩み寄る一刀。
「・・・おい、本当に丁原さんを元に戻せるのか?」
「くくく・・・。さあ、どうおも・・・う・・・」
ななしが一刀の方に振り向いた瞬間、その表情が突如凍りつく。
「??何だ」
その表情の変化に、首をかしげる白蓮と桃香。
「おにいちゃん・・・?」
「もう一度聞くぞ。丁原さんは元に戻せるのか」
一歩。一刀がななしに寄る。
「ひっ!く、来るな!!」
さらに一歩、無言で踏み出す一刀。
へたり、と。その場に腰を抜かすななし。
見れば、その背後にいる兵たちも、全員が腰を抜かして座り込んでいた。
一刀がななしの前に立つ。
「・・・どうなんだ。丁原さんは治るのか?」
「む、むむむ、むりだ。そんな事、出来っこねえ!!」
「なら、丁原さんはどうなる」
「ひ、一月近く薬漬けだったんだ。も、もう永くねえ」
「そうか。・・・だそうだぞ、どうする」
「「え?」」
桃香と白蓮が視線を背後に転じる。
そこには、
「りょ、呂布!!」
愛紗達を振り切ってきた紅髪の少女、呂布が立っていた。
「・・・おかあさん、助からない?」
「い、いや、だから、な」
「・・・おかあさん、死ぬの?」
ざ、と。踏み出す呂布。
「ゆ、許してくれ!!な!?そ、そうだ!母親ぐらい、俺がすぐに新しいのを見繕ってやる!!だから!!」
「・・・恋のおかあさんは、おかあさんだけ」
ななしに向かい、歩き出す呂布。
「おかあさん、返せ」
「ひっ、ひっ、ひいいいいいい!!!!」
地べたを這いずり、逃げ出そうとするななし。
だが、体は全く動かない。
「・・・おかあさん、返せ」
一閃。
方天画戟で、足を切断される、ななし。
「ぎやあああああああ!!!!」
のた打ち回るななし。
次に、腕。「ひぎいいいい!!!!!」
さらに、胴。「かはあああああ!!!!」
そして、最後に、頭。
すべてが終わったあと、それはもはや、原形をとどめてはいなかった。
がらん、と。
呂布の手から戟が離れる。
「・・・うああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!」
呂布の叫びが、あたりにこだまする。
長かった夜は明け、日が昇り始めた。
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刀香譚七話です。
突如現れたななし。
その真意、そして、結末は。
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