No.150816

異世界の天の御遣い物語16

暴風雨さん

最近はじめじめして嫌な感じで梅雨を過ごしております。
このじめじめを恋姫ワールドでフッ飛ばしましょう。

2010-06-15 14:55:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1986   閲覧ユーザー数:1737

〝穏やかな日々〟

 

 

 

 

 

 

 

城へと戻ってきた俺たちはまず白蓮、華雄に正式にお礼を言うために王の間に集まる。

 

正式と言っても白蓮と桃香の仲なのでそんな堅苦しくなく終わり、白蓮がなぜここに来たのかを簡単に説明する。

 

白蓮は袁紹の攻撃により領土を奪われ、落ち延びてきたそうだ。その時助けてくれたのが華雄らしく、保護を求めてここに来たのだが

 

俺たちが戦闘していることを知り、あの場に来てくれた。

 

「桃香、恥を忍んで頼む。私を仲間に加えてくれないか?」

 

「もちろんだよ!白蓮ちゃんは私の友達で、私たちを助けてくれたんだから」

 

とこんな感じで白蓮は俺たちの仲間になった。そして華雄は、

 

「私は北郷様の使命のためまた旅を続けさせてもらう」

 

華雄は俺の頼みごとのためにまたどこかへと旅に出て行った。白蓮を助けるまでにいろいろ周り、山賊とかをやっつけ町を助けていたらしい。

 

華雄に頼んで本当によかったと思う。のだが、愛紗や桃香に深く問いただされたときはまじで怖かった。笑顔のまま「北郷様って?」みたいな・・・。

 

「・・・華雄、元気そうでよかった」

 

恋も華雄が旅に出る前に話しており、少し安心していた。

 

そして最後に新しく仲間になった美羽と七乃はというと・・・。

 

 

 

 

「・・・ふふ~ん♪」

 

「・・・・・・・・・」

 

「よかったですね、美羽様」

 

現在、街の警邏中。美羽は俺の肩の上。いわゆる肩車と言う奴。七乃は美羽が行くならと付いて来ていた。

 

まぁ、肩車はいいよ。それはいい。だけど・・・。

 

「どうされたんですか?」

 

「いや・・・」

 

隣の七乃が問題なのだ。何が問題って・・・そりゃあんた。俺の腕がすっぽりと胸に収まっていることがだよ!

 

「七乃、ちょっと離れて歩かない?ほら、これだと俺も七乃も歩きづらいでしょ?」

 

「七乃は全然大丈夫なので気にしないでくださーい」

 

俺が気になるんだって・・・!って言っても、こうニコニコ顔で一緒に歩いているとこっちも気分がいいわけで、強く言えない俺がいる・・・。

 

「主様、わらわは今度あっちを見てみたいのじゃ」

 

「あの~、今警邏中なんですけど・・・?」

 

「わらわの勘ではあっちに何かある気がするのじゃ、だめかの?」

 

「・・・・・・」

 

そんな悲しそうな声で言わんでください・・・!連合のときの印象が吹っ飛んでいくじゃないか・・・!

 

「わかったよ、まぁそっちはまだ見てないからな。行ってみるか」

 

「やったのじゃ!主様、ありがとうなのじゃ」

 

と頭をギュと抱いてくる美羽。肩車しながら警邏のところなんかを愛紗に見られでもしたら、やばいだろうなぁ。

 

と、そんなこと考えていたらフラグ立ってしまうから考えないでおこう。

 

そのおかげもあってか特に問題なく警邏の時間は過ぎていく。途中、昼飯のために寄ったラーメン屋に星らしき人物がいたような気もするが

 

星は調練中なので居ないはずだと、意識の外に出しておいた。はは、いないいない。

 

「さてと、大体見て回ったかな」

 

「そうですねー、帰りますか?」

 

「ああ、政務があるからな。美羽は・・・寝ちまってるか」

 

「・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

「ああ~、かわいいですねー、美羽さまー」

 

街の中でそんなクネクネしないでくれ。通り過ぎていく街の人たちがこっちを見てるじゃないか。

 

 

 

城に戻り、美羽を部屋に戻した後、政務を淡々と片付け、夜。

 

「ふぅ・・・肩こっちまった」

 

いい感じでポキポキと鳴る首周り。

 

「はぁ、ずずぅ」

 

さっき月が入れてくれたお茶を飲みながら、机の前で一休みしていると、

 

―――ドドドドドォォォォ!!

 

「ん?な、なんだ?」

 

凄い音を出しながら何かが近づいてくる・・・・!

 

「ご主人様!」

 

「おわ!?あ、愛紗?」

 

扉をバン!と開き愛紗が入ってくる。

 

「政務お疲れ様です。風呂の用意が出来ておりますのでお入りください」

 

「あ、ああ。みんなはもう入ったのか?まだだったら俺は最後でもいいぞ」

 

「いえ、ご主人様はお疲れのご様子。一番に風呂に入り疲れを取ったほうがよろしいかと」

 

確かに疲れているが・・・。なんで、一番を強く押してくるんだ?

 

「まぁ、愛紗がそこまで言うなら、一番風呂に入らせてもらうかな」

 

「はい、それでは私はこれで」

 

「ああ、ありがとう」

 

それから、風呂へと移動し、入浴する。

 

 

「いや~、気持ちいいや」

 

こっちの世界では風呂はいつでも入れるわけじゃないため、風呂の日はうれしかったりする。

 

しばらくのんびりしていると、

 

「・・・・・・ん?」

 

脱衣所の方からかすかに音が聞こえてくる。

 

「まさか賊か?」

 

湯気のせいでよく見えないが音がするところから人影が見える。

 

「(一人か・・・。だったら刀なくてもなんとか・・・)」

 

風呂の中で立ち上がり、いつでも来てもいいように構えていると、

 

「ご主人様・・・」

 

「ぶっ!?あ、愛紗!?」

 

湯気の中から現れたのはなんと愛紗だった。俺は急いで湯の中に入り、下半身を隠す。

 

「な、なんで愛紗がここに?」

 

「はい、その、お背中でも流そうと思って・・・」

 

愛紗はいつの間にか湯の中に入っており、背中を向けていた俺の後ろに背中合わせに座ってきた。

 

「愛紗?」

 

「すいません、ご主人様。しばらくこのままで居させてください」

 

「・・・・・・」

 

俺と愛紗はそのまま無言のままで湯に浸かっていた。無言と言っても全然気まずくなく、穏やかな空気が流れていた。

 

 

 

 

 

「はぁ・・・。気持ち良いぞ~」

 

「ご、ご主人様。変な声を出さないでください・・・!」

 

湯の中で背中合わせに浸かっていた俺たちは、さっき湯から出て、今愛紗に背中を洗ってもらっている。

 

「しかし、どうしたんだ?急に背中を洗ってくれるなんて」

 

「先の戦いでもそうなのですが、戦場でご主人様に負担をかけすぎているんじゃないかと思いまして・・・」

 

「それで労を労う為にこうしてくれてるの?」

 

「・・・はい。私がもっと強ければご主人様に負担をかけずに済むのですが」

 

「負担なんかいくらでもかけてくれ。いつも色んなことで愛紗には助けてもらってんだから、負担くらいかけてくれなきゃ釣り合わないよ」

 

「ですが・・・ご主人様は我らの御旗。危険な戦いの前線にあまり出ては・・・」

 

「御旗か・・・。そう言ってくれるのはうれしいけど、みんなががんばって戦ってくれてるのに後ろで見てるなんてさ、俺はいやだよ」

 

「・・・ご主人様」

 

「っと、変な空気になっちまったな。この話はおしまいー。もう一回一緒に湯に浸かろうぜ」

 

「え?あ・・・はい」

 

背中を流し、湯に戻り、しばらくして、

 

「あ、そういえば・・・」

 

「ん?なんだ、愛紗?」

 

風呂で頭が緩みきっているとき、

 

「星がですね・・・」

 

ここから先は簡単に想像できるので想像してください。

 

 

 

 

 

 

次の日、それぞれが戦いの傷を癒していた俺たちのもとに、ある情報が入ってくる。

 

各地の諸侯の動きを知るために放っていた細作の一人が

 

「袁紹軍が曹操軍に敗れました」

 

というものだった。俺たちが美羽・・・じゃなく絡新と戦っている間のことだったそうだ。

 

 

 

 

「ふーん、麗羽がのぅ・・・」

 

あれ?なんかリアクション薄くない?もっと、こう・・・って、連合のときも小さいことで言い合いしていたしそんなに仲は良くないのかな?

 

ちなみに孫策さんのところに放っていた細作からの情報では美羽の城だった寿春城は落とされており、孫策さんは呉を復興させたとか。

 

「それより今日は肩車じゃなくていいのか?」

 

「うむ、今日は手を繋いで歩きたい気分なのじゃ」

 

昨日に引き続き警邏中。最初は俺と愛紗と鈴々だったのだけれど、途中で三手に別れ、見回っていたときに美羽と出会った。

 

「そういえば七乃はどうしたんだ?いつも一緒なのに?」

 

「七乃は今日、朱里や雛里の手伝いで忙しくていないのじゃ」

 

「あー・・・」

 

そっか、軍儀のときに、「ここに居るのなら仕事を手伝ってください」と言っていたな・・・。多分今頃みっちり仕事を叩き込まれてるな。

 

朱里と雛里はいつもはほわわんとしていても、仕事の事になるとキリッとなるから。

 

「どうしたのじゃ、主様?」

 

「いや、なんでもない。さ、いこうか」

 

そうして街の中をくまなく見回っていると、

 

 

 

「麗羽さま~、文ちゃん~、待ってよ~」

 

「斗詩、はやくはやく!早くしないと限定肉まん売り切れちゃうって!」

 

「本当にその肉まんはおいしいのですか?猪々子さん」

 

 

 

以前、どこかで聞いたような声が聞こえてきた・・・・っていうか、

 

「なんであの三人がここに居るんだよ・・・・」

 

「麗羽・・・?」

 

美羽にも聞こえたのか、名前を確かめるように口にしていた。

 

あの会話からして、俺たちのすぐ近くにある肉まんが売ってある店が目的地らしい。ということは、こっちに近づいてくるわけで。

 

すなわち――――俺たちは出会うわけで。

 

 

「お、あったあった。ここですよ、麗羽様。・・・・・・・・ん?」

 

「猪々子さん、どうしましたの?・・・・・・・・美羽さん?」

 

「文ちゃんも麗羽さまも速いですよ~・・・・・・・って、え?」

 

店に眼が行っていた三人は一人ずつやってきて、こっちをみる。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

俺は無言のまま三人を見ている。美羽は驚いていた。そして・・・・。

 

「ご主人様、こちらの警邏は終わりました。・・・・・・・?」

 

「どうしたのだ、愛紗?そんな固まったりして・・・・・・・・あ」

 

俺の後ろから二人が来て、袁紹たちを見ている。

 

 

なに、この状況・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝袁紹〟

 

 

 

 

 

えー、なんと言ったらいいのでしょうか・・・。

 

まぁ簡単に説明すると、街の中で袁紹たちに出会った。

 

袁紹たちが仲間うちで揉めだした。その間に愛紗、鈴々で包囲=確保。

 

そのまま城へと連行。みんなを集めて軍儀を開始。

 

というわけで、ただいま軍儀の真っ最中。

 

 

「と、長々と説明したが、みんなの意見を聞きたい。・・・袁紹たちをどうする?」

 

立って説明を終えた俺は椅子に座り、みんなの顔を見る。

 

「そうですね、このまま野放しにするわけにもいきませんし、保護するか。あるいは曹操さんに突き出すか、ですね」

 

「華琳か・・・。いきなり話変わるんだけど、袁紹たちの話で、いつの間にか滅亡していたってどういうことだろう?」

 

袁紹たちの身の事も考えなければいけないが、俺は華琳と袁紹との戦いの内容のほうが気になっている。

 

普通に考えていつの間にかってのはおかしすぎる・・・。白蓮を倒したところまでは覚えているみたいだったけど、って

 

「白蓮は袁紹たちの事・・・えっと」

 

「北郷、そんな顔をしないでくれ。私が負けたのは私が弱かったからだ。こんな時代だ、弱ければ負けるだけ。命があるだけいいものだ」

 

「・・・悪い」

 

同情という気持ちが少しあったかもしれない。けど、白蓮はそんな気持ちは不要だと言うように言ってくる

 

「気にするな。・・・袁紹たちのことは北郷たちに任せる。保護しようと文句はない」

 

・・・まじで、いい人だよ。自分の領土を奪われてこんなこと言える人って、すごいと心から思う。

 

「それと、さっきのいつの間にかってのは、私が思うに・・・」

 

「思うに・・・?」

 

「この前戦ったあいつの仕業じゃないかと思うんだが・・・」

 

確かにそれは俺も思ったが、俺たちと戦っていてそんなことが可能なのだろうか?

 

「しかし、二つの戦いを同時に操れるなどできるのでしょうか?私達が見た限り、こっちとの戦闘で一杯一杯にも見えたのですが」

 

「あるいは、あやつと似たような能力を持っている奴がいるかもしれんな」

 

星の言うとおりかもな。そっちの方がしっくりくるかな・・・。

 

うーんとそれぞれが悩む中、桃香が

 

「とにかくその話も大事だけど、袁紹さんたちは、その、保護ってことでいいのかな?」

 

チラッと白蓮を見る桃香。白蓮はその視線に気づき、頷いていた。

 

「私と雛里ちゃんは別にいいですよ。私達の陣営も大きくなってきましたから、兵を率いられる人が居るのはいいことです」

 

「でも、あの袁紹だぞ。大丈夫なのかな?」

 

と俺は二人に質問する。

 

「大丈夫ですよ。・・・鍛えますから。これで、連合のときのお返しができるというものです」

 

朱里と雛里がふふふって笑ってるー!?

 

「ええっと、星はどう?」

 

「私も別にかまいません。保護したほうがなにやらおもしろいと、私の勘が言っておりますから」

 

「そ、そう。後は、袁紹たちを見張っている、愛紗と鈴々と恋とねねか。月と詠にも言っておくか」

 

それに美羽と七乃にも。

 

「それじゃあ、俺が聞いてくるから。軍儀はこれで終わりね。後でみんなに伝えるから」

 

みんながそれぞれに返事をし、俺は軍儀室を後にする。戦いのことも気になるが、今はしょうがない。

 

華琳たち元気でやっているといいけどな・・・・。

 

 

 

 

「・・・ってな感じで袁紹たちを保護する感じで話は纏まりつつあるんだけど、愛紗たちの意見は?」

 

見張りを兵士に代わってもらい、少し離れたところで皆に聞く。

 

「私は賛成です。・・・ええ!賛成ですとも!」

 

なんかやけになってない、愛紗・・・。反対と言ってもどうせ無理だと思っているんだろうか。

 

「鈴々はどっちでもいいのだ。そういうことはお兄ちゃんと桃香お姉ちゃんにおまかせなのだ」

 

「ねねはなんとなく反対なのです。あいつ等、なにか悪さしそうで嫌なのです」

 

ねねは少し離れている袁紹たち、特に袁紹を見て言ってくる。

 

「恋はいい」

 

「恋殿っ!?」

 

「悪さしても恋が止めるから、大丈夫」

 

それはこのうえなく安心できる一言だった。

 

「うう・・・ならねねも賛成するのです。って何ニヤニヤしているのですか、お前はっ!?」

 

「ええ!?そんな顔してないって!」

 

ただ微笑ましいなと思っていただけなのに・・・。

 

まぁ四人の意見は聞けたし、後は。

 

「それじゃ、引き続きあの三人の見張りたのむな」

 

俺はその場を離れようと歩き出す。その後ろから

 

「縄を解くのです!こんなことをしていいと思っているのですかー!」

 

「姫!暴れないでください!苦しいです!」

 

「斗詩、もし死ぬことになっても、愛してるぜ」

 

と聞こえてきた。はは、愉快な三人だー。

 

 

 

 

 

「あんたってほんと、お人好しよね」

 

「うっ・・・」

 

「詠ちゃん、ご主人様にそんなこと言っちゃだめだよ。ご主人様はやさしいだけだよ」

 

さっきまでの話をしたら、詠の第一声がこれだった。詠からしてみれば、袁紹は反董卓の始まりの張本人だから仕方がないといえば仕方がない。

 

「詠は反対なのか?」

 

「当然でしょ・・・って言いたいところだけど、私は今は軍師じゃないから、あんた達の好きにしなさいよ」

 

「詠・・・。・・・月は?」

 

「私は賛成です。袁紹さん帰るところが無くて困っているはずだから」

 

うう・・・白蓮といいこの娘といいなんでこんなにいい娘がいるんでしょうか。

 

「掃除の邪魔して悪かったな。・・・二人ともいつもありがと」

 

俺は二人の頭をやさしく撫でる。

 

「ちょ・・・なにやってんのよ!?」

 

「へう・・・」

 

「気にするな。お礼みたいなものだから。それじゃ」

 

「こっちが気にするのよ・・・って、まだ話は終わってないわよー!」

 

あのまま居るとなんか話がながくなりそうなので早々に退散する。

 

 

後は・・・。

 

 

 

 

 

「麗羽がここに・・・?」

 

「ああ、二人にも意見を言ってもらいたくてさ、反対ならまたみんなと相談していい解決法を探すから。やっぱりみんなに納得してもらったほうがいいし」

 

「七乃・・・」

 

「美羽さまの意見をどうぞ。私は美羽さまの意見に従います」

 

「主様、麗羽たちがここの陣営に入ったからと言って、わらわたちを追い出すことはない・・・のじゃろ?」

 

「・・・・・・は?」

 

あまりにも意外な質問だったため、変な声を出してしまった。

 

「え、えっと、なんでそんなことを・・・?」

 

「せっかくわらわのことを心配してくれる人を、七乃以外に見つけたというのに・・・」

 

「美羽?」

 

美羽はうつむいたまま、俺の腰にすがり付いてきた。

 

「主様と離れたくないのじゃ・・・」

 

・・・美羽は今まで七乃以外の心許せる人物がいなかった。そうだ、いつもはあんな態度だけれども、それはさびしさの裏返しだったんじゃないのだろうか?

 

美羽はまだこんなにも小さいのだ。・・・ちゃんと美羽を見てなかったなぁ、俺。最初は袁術って袁紹とどっこいかもなんて思っていた俺がむかつく。

 

人を簡単に決め付けるもんじゃない。これからはちゃんと美羽を見ていこう。

 

「大丈夫、美羽と七乃はもう俺たちの仲間だ。だから追い出したりなんかしないよ」

 

「ほんとか・・・?」

 

「ああ」

 

「ならば麗羽のことはいいのじゃ」

 

少し涙を溜めた眼で俺を見てくる。そこには俺を信じているという意思が伝わってくるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「三人の処分が決まったぞ・・・って何やってんの?」

 

俺は美羽たちと別れ、袁紹たちの所に来ると変な状況になっていた。

 

「ちょっとなんで犬がここに居るんですのー!?」

 

「ぎゃー!この犬、あたいを噛んでくる!・・・斗詩、お別れが近いようだ」

 

「文ちゃん、しっかりしてよ!ただのあま噛みだから平気だよ~」

 

セキトと張々が三人の周りをグルグルと回りなにやらやっていた。

 

「・・・ご主人様」

 

「あ、恋。なんでセキトと張々が?」

 

「遊び相手が欲しかった・・・」

 

「・・・・なるほど」

 

まぁこの状況のまま伝えても良いけど、やっぱり大事な話なんだし、

 

「悪い、恋。二匹とも連れてってくれないか?」

 

「・・・(コク)わかった」

 

恋は言うとおりに二匹を連れていった。

 

「あ、あなた・・・!?。・・・・誰でしたっけ?」

 

袁紹が俺のことを覚えてないのは予想してたけど、こう露骨に言われるとなんか腹立つなぁ。

 

「姫!ここの太守で北郷一刀さんですよ!?」

 

「太守ってわけじゃないけど・・・。桃香たちの主をやっている北郷一刀だ」

 

自分で主って言うのも、恥ずかしいな・・・。

 

「とにかくえらいってことだろ?その偉い人がここに来たってことは・・・・斗詩、愛していたよ」

 

「だから、すぐにそれ言うのやめてよ!」

 

「北郷さん、私達は当然生かされるのでしょう?私がこんなところで死ぬなんて、この大陸の大きな損失ですわ」

 

「・・・・・・・」

 

縄で縛られても、この人はなんで上から目線なの・・・?

 

「姫・・・普通に考えてこの状況では助かりません。・・・覚悟を決めたほうが。・・・うううぅ」

 

顔良という女の子は、三人のなかで唯一の常識人だった。

 

「ふん、そんなことありませんわ。・・・ですわよね、北郷さん?」

 

「・・・・・・・」

 

「ちょっと、なんで何も言いませんの?・・・・まさか、本当に?」

 

「・・・・・・」

 

「なんなんですのその眼は!?いやですわ!死にたくありませんー!」

 

さすがに引っ張りすぎかな・・・。ちょっといじわるだったか。

 

「えー、さっきまたみんなに集まってもらい、君達の処遇を決めた。・・・保護することになったから」

 

「いやー、いやー!聞きたくありません!・・・・・・って、今なんと?」

 

「だから、保護だ、保護。生かすって事」

 

「・・・姫」

 

「・・・麗羽様」

 

「二人とも・・・」

 

俺は呆けてる三人の縄を解き、離れる。

 

「基本自由だ。・・・けど、あんまり騒がしく―――」

 

「おーっほっほっほっほっ!だから、言ったじゃありませんか!私は名家・袁家の袁本初。こんなところで死ぬわけないのですわ!」

 

うわ・・・死ぬわけないって言いきったよ、この人。ここまでの自信家だと清々しいな。

 

と言っても、眼に涙溜めながら、三人で抱き合っているところを見ると、

 

「生きてるぞー!斗詩!」

 

「うん!文ちゃん!」

 

 

しばらくそっとしておくか・・・。

 

俺は気づかれないようにその場を離れた。

 

そして―――――。

 

 

「よかったね、ご主人様」

 

「・・・ああ、そうだな。これから大変そうだけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝絡新再び〟

 

 

 

 

忘れさられたとある廃城―――――。

 

 

 

 

「・・・いい感じだ。そろそろ行けるか」

 

茅需は立ったまま、体を動かし傷の癒えたことを確認する。

 

近くには曹操が無造作に転がされている。茅需はそれを眼で確認して、

 

「こいつも連れて行かなきゃな。・・・・よいしょっと」

 

糸で縛られ気絶している曹操を担ぎ上げようとしたところに、

 

「・・・・・・・・・茅需」

 

「!?・・・あ、姉上・・・って、どうしたんですか!?その傷は!?」

 

茅需は曹操を地面に降ろしすぐに絡新のもとに駆けつける。

 

「大丈夫ですか!?・・・姉上がここまでやられるなんて・・・!?」

 

「ええ、大丈夫よ。・・・それよりもあなたは大丈夫なの?怪我はない?」

 

「ええ、少し傷は負わされましたがもう塞がりましたし大丈夫です。これからこの人質を使って魏のやつらをコキ使ってきます」

 

絡新は人質である曹操に目をやり、にやりと茅需に気づかれないように笑う。

 

「そう・・・。悪いけど肩貸してくれない?」

 

「はい、姉上はここでしばらく休んでいてください。ボクより深い傷なので時間は掛かると思いますが姉上ならすぐに治ると思います」

 

茅需は絡新を立ち上がらせ肩を貸し、歩かせようとするが、

 

「・・・・・茅需」

 

絡新は後ろ首に腕を回すようにして前から抱きつく。

 

「・・・姉上。急にどうしたんですか?」

 

「・・・愛しているわよ」

 

「姉上・・・。・・・はい。ボクも姉上のことを――――――」

 

――――――ガブ、グシャ、グチャ。

 

「――――――え?」

 

「あなたの命、私にちょうだい」

 

絡新は肩のところから、齧り付き、その部分を食らい尽くす。

 

「あ、あ、ああああああああああああああぁぁぁぁっぁぁぁ」

 

「あ~、力が戻ってくるわ~・・・・」

 

口元についている血をペロリと舐めとり、更に食べようと近づいていく。

 

「ま、待ってください!?姉上!?なんで、こんな・・・!?」

 

「これから私の腹に収まるあなたには関係ないことだわ。・・・いただきま~す」

 

「い、いや―――――あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

グチャ、ガブッ、ブチャ、クチャクチャクチャ・・・・ゴクッ・・・ガブッ。

 

 

 

 

 

 

「あ~満たされていくわ・・・ありがとう。私の大事な予備部品(おとうと)」

 

絡新は自分の腹を撫で回し、力がどんどん湧き出てくることに発狂しそうになりながら、曹操に近づいていく。

 

「さて、この娘を利用して魏を動かし、今度こそあいつ等を・・・・殺す!」

 

曹操を担ぎあげ、廃城を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曹操不在の魏では、河北の袁紹を倒したこともあり、一気に領土が広がる。

 

その所為もあって中々に曹操を探すための人員を別けられないでいた。

 

自分達の総大将を見つけることは絶対のことなのだが、その所為で国をおろそかにしていては総大将が戻ってきたときに顔向けできないと皆で決めたことだった。

 

そんなある日の事、夏侯惇はついに我慢できず、自分の部隊を率いて曹操をさがすのだった。

 

 

 

 

「ええい!これだけの人数で探しているのになんで見つからんのだ!」

 

夏侯惇は怒り任せに剣を抜き、地面に叩き付ける。

 

「・・・春蘭さま」

 

「あ、いや、すまん、季衣。・・・そっちはどうだった?」

 

「すいません、こちらも華琳さまの情報はありませんでした」

 

「・・・・そうか」

 

「・・・・はい」

 

夏侯惇は黙り、二人の間には居心地の悪い空気が流れていた。

 

「春蘭さまー!季衣さまー!」

 

そこへ馬に乗り走ってくる楽進。

 

「どうしたのだ、凪?・・・まさか、華琳様の情報があったのか!?」

 

「いえ、攫って行った奴の姉と名乗るものが城にやってきまして・・・華琳さまと一緒に」

 

「なっ・・・!?・・・くっ!」

 

夏侯惇はすぐに馬を反転させ城へと奔らせる。

 

「あ、待ってください、春蘭様!?話はまだ・・・」

 

「ボクも行きます!」

 

「秋蘭様の伝言を伝えきってないと言うのに・・・自分も追いかけるしかないかっ!」

 

楽進も二人を追いかけるように馬を奔らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様ーっ!」

 

夏侯惇は城に着くなり馬を兵士に預け、玉座の間に急ぎ扉を開ける。

 

そこには許緒と楽進を除く魏の主要人全員が居た。そして玉座には

 

「あら?随分と早いお帰りね・・・夏侯惇将軍」

 

「な・・・・貴様、どこに座っていると思っているのだ!?」

 

「どこって玉座でしょ?見ればわかるじゃない?」

 

絡新は脚を組み、夏侯惇を見下ろすように見た後、隣に連れて来てあった曹操を持ち上げる。

 

「あまり下手な質問してくるとこいつがどうなっても知らないわよ?」

 

「―――――華琳様!?」

 

その姿を見て髪の毛が逆立つような怒りが込み上げ、近づこうと走り出すが、それを夏侯淵、張遼が止める。

 

「待つのだ!姉者!迂闊に近づいては華琳様も姉者も危険だ!」

 

「しかし!秋蘭!眼の前に華琳様が居られるのだぞ!」

 

「春蘭!気持ちはわかる!・・・けどな、あれ見ぃ」

 

張遼は玉座を指差す、夏侯惇は最初何を指差しているのかわからなかったが、曹操ばかり見ていた眼を下に持っていくと、玉座の周りには死体の山があった。

その数は二十を軽く超えていた。

 

「あの者たちはわが軍でも精鋭の者達ではないか!?」

 

「そうや、隙を突いて助けようとしてああなったんや。・・・あいつ、この前戦った奴より段違いに強いで」

 

「だが、我々なら――――」

 

「いい加減にしなさい!あんたが強かろうが弱かろうが、下手に何かすれば華琳さまの命が危ないのよ!・・・あんただってわかってんでしょ!」

 

「くっ・・・!・・・わかっている」

 

爪が肉に食い込むほど握りこんだ拳を解き夏侯惇は力を抜く。

 

「どうやら話は終わったみたいね。ならこちらの話をさせてもらうわよ」

 

絡新は待っていましたとばかりに立ち上がり、階段を下りながら話す。

 

「これからあなた達には徐州を攻めてもらうわ。具体的な作戦はあなたたちが決めて良いけど、北郷一刀、関羽、張飛、趙雲は捕らえること」

 

「徐州を攻めろだと?なぜ・・・そんなことを?」

 

「それには答えないわ。あなた達はこの娘のためにただ言われた通りに動けばいいだけ」

 

しかし、疑問がある軍師三人は次の質問をする。

 

「なぜ私たちを操らないのです?そうすれば面倒なことをせず、徐州を攻められるでしょう?」

 

「・・・そうね。そこの隠れている二人が出てくるなら話してあげてもいいわ」

 

「「!?」」

 

隠れて隙を窺い曹操を助けようとしていた楽進、許緒は壁越しに驚きながら出てくる。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・わかっていたのか?」

 

それを聞いたのは夏侯淵だった。それを聞いた夏侯惇は驚きながら、

 

「秋蘭!私に助けるなと言いながら・・・・!。いや、お前も華琳様のことを助けたいのは当たり前・・・だったな」

 

言い寄ろうとした夏侯惇は夏侯淵の表情を見て怒る気にはなれなかった。

 

「夏侯淵将軍、お前は私にこの中で一番私に殺気を放っていたからな。隠そうとしても隠し切れないほどのな。・・・何かするんじゃないかと周りに糸を張り巡らせてよかったよ」

 

絡新は腕を動かす。すると、楽進、許緒の体が浮き上がり、地面へと放り投げられる。

 

「・・・くっ!」

 

それを受け止めようと夏侯淵は動き、二人を受け止める。

 

「大丈夫か、二人とも。・・・すまん、私の殺気のせいでばれてしまった」

 

「いえ、秋蘭さまのせいでは・・・!」

 

「そうです!ボクたちがもっとうまく隠れていれば」

 

「慰めあっているところ悪いが・・・そこの女、その物騒なものをしまってもらおう」

 

武器を構え典韋はもう我慢の限界のように絡新に駆け出しそうになっていた。

 

「よくも季衣や秋蘭様や凪さんを・・・・このっ!」

 

その行動を予測していたかのように、張遼が典韋を止めに入る。

 

「まちぃや!お前まで動いてどうすんねん!・・・今は我慢の時やで!流流」

 

「・・・・・・はいっ・・・」

 

「・・・・・うむ」

 

絡新は次に誰か何かしてこないか確認するように全員を見渡したあと、

 

「・・・さっきの質問の答えは必要か?そこの軍師三人」

 

「・・・・・くっ!」

 

「完全に読まれてますね~」

 

「どうやらそのようね」

 

「沙和、なんか悔しいの!」

 

「それはみんな同じや!・・・けど、なんもできへん」

 

 

 

「それじゃ、準備を開始しなさい。出来次第徐州を攻めてもらう」

 

その言葉にそれぞれが悔しそうに返事をした後、持ち場に行き、誰も望んでいない戦いの準備を始める。

 

曹操はなにも出来ないままただただ気絶しているだけだった―――――。

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
22
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択