はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です
原作重視、歴史改編反対の方
ご注意ください
「よくもまあ、あんな言い訳がホイホイ出てきたもんね」
悠の部屋、大量の書物が積み重ねられ足の踏み場もままならない部屋の片隅で沮授は椅子の背凭れを抱えながら座り杯を傾けていた
「起こりうる現象に当然のように注釈を付け足す…元は貴女の常套手段でしょう?」
彼女の杯に酒を注ぎながら悠は苦笑していた
先の公孫瓚との戦いの折りに袁家に招かれたかの人物は、今朝の朝議の事を振り返り
夕闇が差し掛かる頃、悠の下を訪れていた
「どうでしたか?…袁家に入って初めての朝議は?」
自らも杯に注ぎながら正面に座る彼女に問う悠
果たしてその質問は何を意図する物だろうと、沮授はうーんと唸った後に杯の中身をグビリと飲み干し口を開く
「…あんたが自分の主を『姫』と呼ぶ理由が判ったよ…ありゃ『王』の器じゃないね」
彼女の杯に再び注ごうとしていた悠の手がピタリと止まり
「いやはや…これは…参ったなあ」
あっはっはと笑い出す悠
ひとしきり笑った後、自分でも心の底から笑うのは久しぶりだという事に気づき
そして
自分が長年抱いていた心の内を一度の朝議で見抜いてきた彼女の眼力に目を細めた
「お互い…主には恵まれない性なんですかねえ」
とりあえず悔しいのでポツリと嫌味
正面の彼女は仏頂面で手の中の空の杯を差し向け
「…おかわり」
してやったり顔の悠から酒を黙って注がれていた
彼女の前の主、冀州牧であった韓馥もまたこの群雄割拠の時代で早々にリタイアした一人である
勢力を着々と伸ばす袁家を恐れ、自ら身を引いてしまった『元』主の話題に溜息だけが重く出てくる
「あそこまで臆病者だとはね」
「言っておきますがウチは何もしてませんよ?」
「解ってるわよ」
主もそうだが自身も何の出番も無しに終わってしまった事に、もはや自虐の笑いすら込上げてくる
「そんでもって次の主とくれば世間知らずのお嬢様…自分でも嫌になっちゃうわ」
たは~っと酒の混じった溜息に自ら顔を顰め向いの杯に酒を注ぎながら今度は悠へと問いかけた
「で、先延ばしにしたのは良いけど勝算はあるわけ?」
「あれば苦労も無いんですがね」
沮授の問いに今度は悠が顔を顰め
「まあ、そうよね…将の数、兵の質、どれをとっても向こうが上だわ」
「ええ」
彼女の分析に悠も頷く
「おまけに肝心の袁家の懐刀が不在ときたもんだわ…間に合いそう?」
「期待はできませんね」
悠の回答に一際大きい溜息
「となると2枚看板の分散配置は必須、いっそ白旗あげて待ってみる?」
半ばやけくそ気味な提案に思わず吹き出し
「姫の性格を考えるとそれが一番難しいのでは?」
苦笑しながら口元を拭う
その様子に沮授も口の端を上げ
「それもそうか」
自分の手の杯を見つめながら笑いだした
やがて3本の酒瓶が空になった頃
「せっかくの良縁の話だったけど…やっぱ無しにさせてもらうわ」
御馳走様と杯を卓上に置く沮授
その様子に悠は肩を落とし
「出ていきますか、此処を」
「うん、なんかもう嫌になっちゃった…負けるの」
両手を天井に向けて突き出し背伸びする沮授
「そうですか…残念です」
「悪いね、せっかく誘ってもらったのに」
パンと手を合わせて悪びれる彼女に悠は首を振り
「振られるのは慣れてますから」
背もたれに深く凭れかかる
「それはあんたが本気で落としに行かないからだよ」
再び核心を突いてくる沮授
白い歯を見せて笑う彼女に悠も連られて笑い
「それだけの観察眼を持っていながら主には恵まれないんですねえ」
「ほっとけ」
そういって扉に手をかけた沮授は一瞬振り返ると
「安心しな、曹操の処には行かないでおいてやるから」
ひらひらと手を振りながら出て行った
一人部屋に残された悠はよっこらせと椅子から立ち上がると窓際に腰掛け
「さて、どうしたもんですかね」
窓の外を眺めながら独りごちた
時間は少々遡り
朝議が終わった直後の謁見の間
その場にいた誰もが昼からの自分の仕事に向けて持ち場に戻り
先ほどまでとは打って変わって人気のない様相の場で
「久方ぶりに面白い朝議じゃったのう」
胸元まで延びた真白な髭を指先で弄りながら老人がポツリと呟いた
郭図、名門袁家に仕える最古参の文官である人物だが、その真名を知る者をおらず
周りの人間からは~翁~とだけ呼ばれていた
「ずっと黙っていたもんだからてっきり眠りこけてたかと思ったよ」
英心はようやく喋りだした翁を一瞥すると老人の横の席に腰掛けた
「如何じゃったかのう、袁家最高の頭脳の人物の程は?」
机に肘を付き先程まで悠が座っていた場所を見つめ続ける英心に翁が問いかけると老人の問いかけに少年はニヤリと口の端をあげて笑いを浮かべ
「大した参謀役じゃないか、有能な人物だよ」
やがてくすくすと声をあげ
「でも僕にとって有益じゃあないな」
目を細める様はその端麗な顔立ちも手伝って恐ろしく冷たい様相を見せた
翁が背中に冷たい物を感じたと同時に
「消しちゃう?何進みたいに」
入口から聞こえてきた声に英心はやれやれと言った表情で声の方向に視線だけを向け
「こらこら、こんな処でそんな事言っちゃ駄目だよ…誰かに聞かれてたら拙いだろう」
そう言って隣の老人に「ねえ?」と顎で促した
「つまらないの」
コツコツと足音を立てて入ってきた女性
審配~聖(ひじり)は真赤な紅を差した唇を指で押上げて尖らした
「まだ僕達は此処では新参者なんだからあからさまな行動は控えなくちゃね」
「でも何時までも尻尾を振っている心算ではないでしょう?」
英心の前で腕を組んで笑う聖
彼女の様子に英心は椅子を引いてポンポンと叩いて座るように促すも彼女が腰かけたのは英心の膝の上
「若いのう」
ふぉふぉふぉと笑いながら視線を向けてくる翁に見せつけるように聖は英心の首に両腕を回し
「そ、この子のお目付け役だからね」
そう言って起用に片目を瞑ってみせた
「まったく、御老公の前で」
そう口には出すもののしっかりと彼女の腰に手を回している英心
「して、返事は如何程に?」
膝の上に居座る聖に顔を向けたまま英心は翁に問いかけた
「…王朝の復古か」
少年の問いに老人は暫し目を瞑り
「献帝を擁する曹操をどうするか?」
老人の独り言に英心はふふっと笑い
「参謀殿に任せるさ、僕らは美味しい処だけ頂けば良い」
「田豊が失敗したならどうする?」
楽観的に笑う英心の様相に目を細める翁
「成功しようが失敗しようが用済みになれば…後は解るよね?」
くすくすと笑い合う二人に再び髭の先をくるくると弄び
「首を袁紹、もしくは曹操に差し出す…か?」
「後者の場合は我らが『主』の首も差し出さねばねえ」
くっくと喉の奥を鳴らし聖の首筋を指先で撫でる英心
聖は恍惚の表情で英心の瞳を見つめていた
「じゃが、身内の駒が足りんのでは?少なくとも軍属の者の力も必要じゃて」
翁の問いに「ああ、それなら」と部屋の入口を指差し
「袁家の懐刀が引退しちゃって暇を持て余している人がいたよ」
少年に促された視線の先の人物に翁は瞳を見開いた
「…なんと」
「飼い主に捨てられて可哀想だったものね」
聖もまたくすくすと口元に手を当てて笑みを零す
「敬愛していた上司が勝手に女作って隠居しちゃったんじゃあ報われないよ…ねえ高覧?」
三人の視線の先には高覧
比呂の腹心であったはずの彼女は
両腕を胸の前で組み、膝を立て
静かに頭を垂れていた
あとがき
ここまでお読み頂き有難う御座います
ねこじゃらしです
展開が遅けりゃ投稿も遅いってか
御免なさい
長らくお待たせでした
なんか昼ドラみたいな展開だね…
まあ、いっか
沮授が一話キャラ…だと?
まあ、いっか
それでは次回の講釈で
Tweet |
|
|
29
|
3
|
追加するフォルダを選択
第37話です。
前回投稿から2週間、日が経つのは早いなあ