No.148444

真・恋姫無双 EP.20 覚醒編

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
感動的な目覚めを考えていたのに、こんな感じになってしまいました。キャラが増えてくると、何だか大変です。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2010-06-06 14:44:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6030   閲覧ユーザー数:5084

 いい加減、飽きるんじゃないかと思うほど、恋は毎日のように一刀の寝顔を眺めていた。月は村の手伝いに出かけ、詠と音々音は隣の部屋でチェス盤を挟んで対戦をしている。

 

「一刀……」

 

 馬超のおかげで、家族の食事を心配する必要がなくなった代わりに、恋はとても暇になってしまったのだ。しかし山奥の小さな村で、恋に出来ることはない。仕方なく、一刀のそばで時間を過ごすようになった。

 一刀の顔を見ていると、恋の心はポカポカする。それが心地よく、何時間でも見ていられた。だが、ずっとこのままなのは正直つまらない。

 

「一刀、起きない……」

 

 眠っている一刀もいいが、おしゃべりが出来ないのは悲しい。それに、自分と対等に戦える数少ない武人の一人でもある。以前は月の元にいた張遼が相手をしてくれたが、今はいないのだ。

 

「一刀……」

 

 ぷにっと、一刀の頬を指で突いてみる。すると、嫌がるように顔を背けた。

 恋は、今度は反対の頬を指で突く。すると、今度も嫌がるように顔を背ける。

 

「……」

 

 何だか楽しくなってきた恋は、それを何度か繰り返した。その時、言い争いながら詠と音々音が部屋に入ってきたのだ。

 

「ふふん、それはねねの負け惜しみね」

「なんですとー! ぐぐぐ……悔しいのです」

 

 どうやらチェスは、音々音の負けのようだった。

 

「恋、何してるの?」

「……暇だから……突いてる」

 

 詠の質問にそう答えた恋は、飽きることなく一刀の頬を突き続けた。

 

「恋殿、良い遊びですぞ! ねねもやるのです!」

「おもしろそうね、ボクもやってみるわ」

 

 こうして、三人が一刀の頬を容赦なく突きまくる。もはや、いじめであった。

 

 

 一刀は夢を見ていた。とても大切な夢のような気がした。けれどそれは、厳重な鍵を掛けられていて、記憶の奥に封じられている。

 

「今はまだ、知るべきじゃないんだよ」

 

 少年が言った。

 

「すべてを知ったら、きっと君は一人で決断してしまうからね。だから、鍵を掛けた。三つの鍵……それは三人の王の魂に結ばれている」

 

 三人の王、それは一刀が守るべきものだった。

 少年は言うべき事を終えると、その姿を消してゆく。一刀は、手を伸ばして追い掛けた。

 

「待ってくれ!」

 

 少年に触れる直前、目の前に貂蝉と卑弥呼が突然現れた。

 

「わあっ!」

 

 驚く一刀に、二人が両側からしなだれかかって来る。

 

「ご主人様、会いたかったわぁ」

「ふむ、いい男だ」

 

 子羊のように震える一刀を挟んで、二人は唇を突き出す。

 

「むちゅー!」

「ぶちゅー!」

「ぎゃああああーーー!」

 

 貂蝉と卑弥呼の唇が、一刀の頬に押し当てられる。嫌がるように顔を背けるが、右を押したかと思えば左から押され、左から押されたと思えば右を押してきた。

 無限に繰り返されるループに、一刀の心は疲弊する。

 

「嫌だ、もう嫌だ……助けて」

 

 涙目になりながら、一刀はありったけの力を振り絞って叫んだ。

 

「お前らなんか、大っ嫌いだーーーー!」

 

 

 がばっと起き上がった一刀は、ひどい寝汗をかいていた。

 

「ああ……夢か」

 

 ホッとしてふと見ると、呆然とした顔の三人の姿があった。

 

「恋に陳宮、賈駆……どうしたんだ?」

 

 一刀が声を掛けると、なぜか三人の目に涙が浮かんだ。

 

「ちょ、ちょっと、おい?」

「一刀……」

 

 突然、恋が一刀に抱きついてきた。ぷるぷると震え、潤んだ目で一刀を見上げる。

 

「恋、悪い子……ごめんなさい」

「えっ? あの、恋さん?」

 

 何がどうなっているのか、目覚めたばかりの一刀は混乱していた。状況がわからずに、ぎゅっと抱きつく恋に戸惑いながら視線を彷徨わせていると、詠とねねの様子もおかしくなっていた。

 

「あの、ボク……ちょっとした悪ふざけで……」

「ぐすっ……ねねは……ねねは……ふえ~ん」

「いや、二人とも、何で泣いているんだよ!」

 

 抱きついたままの恋をそのままにして、一刀は二人を引き寄せるとなだめるように頭を撫でた。

 二人のこういう反応は、一刀にとっても本人たちにとっても予想外だった。短い間とはいえそばにいて、一刀の懐の深さを詠も音々音も知っていた。桂花の罵詈雑言にも怒ることなく、笑って済ます。その一刀が感情を露わにして叫んだ事に、二人はビックリしてしまったのである。

 

「ぐすっ……ボクはほんの出来心で……」

「ねねも……そんなつもりじゃなかったのです……」

「恋は……一刀に起きて欲しかっただけ……」

「ああ、そうだよな。みんなは別に、何もしてないよ。ね?」

 

 ひきつった笑みで、一刀はそれぞれに優しい言葉を囁いた。嘘を言っているつもりはなかったが、何だか自分がとてもダメな男に思えて落ち込んでしまう。

 

(何なんだ、これ? 新しい嫌がらせか?)

 

 溜息を吐いて一刀がうなだれていると、カランと何かが落ちる音が聞こえた。そちらに視線を向けると、部屋の入口に呆然と佇む少女の姿があった。

 

(あれ? あの子は確か……)

 

 一刀が思い出そうと頭をひねっていると、その少女の目に涙が溢れた。そして――。

 

「……ご主人様、不潔です!」

 

 少女はそう叫んで、部屋を飛び出して行ってしまった。

 

「わかんないけど、きっとそれは誤解だ-!」

 

 一刀の悲痛な叫びが、木霊する。

 

 

 それから月を見つけ、説得してようやく落ち着いた一刀は、渇いた笑いを漏らした。

 

「へぅ……てっきり、ご主人様がいやらしいことを強要して、詠ちゃんたちを泣かしているんだと……」

「俺の印象って、そういうのなの?」

「ごめんなさい……うぅ」

「いや、まあ、もういいよ」

 

 しょんぼりとする月を見ると、これ以上は責められない一刀だった。誤解をされるような事をしていたのは、自分の責任でもある。

 

「本当に、ごめんなさい。ボクが止めるべきだったのに……」

「そのおかげで、こうして目覚めたわけだし、まあ、いいよ」

 

 とりあえず、悪いのはすべて夢に出てきた貂蝉と卑弥呼ということにした。

 

「でもなんか、董卓さんと初めてちゃんと会うのが、こういう形だっていうのは本当、申し訳なかった」

「いいんです……あの、私のことは月と呼んでください。ご主人様」

「いいの?」

「はい……ご主人様が眠っている間、ずっと考えていたんです。目覚めたら、真名を預けようって」

「わかったよ、月」

「へぅ……」

 

 一刀が真名を呼ぶと、月は嬉しそうは恥ずかしそうな顔でもじもじとする。

 

「じゃあ、ボクも真名を預けるよ。これからは詠って呼んで」

「ねねだけ仲間はずれは嫌なのです。真名は音々音なのです。ねねと呼ぶのです」

「ああ、ありがとう。詠、ねね」

 

 二人はちょっとだけ頬を染めて、そっぽを向いた。

 

「ところで、荀彧と明命は?」

「お二人は……」

 

 月が出て行ったことを説明する。

 

「そうか、まあ、仕方ないな。二人にはやるべきことがあるんだろう」

 

 どこかでまた、会えるだろうか。出来ることなら、それは戦場以外であって欲しい。一刀はそう願い、遠い地に居るかつての仲間を思った。


 
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