●現代の魔物の場合。
「ココ…その本は何? それに…」
ココが大学に合格した事を伝えに来たシェリーだが…彼女持っている見た事も無い本と、彼女の隣にいる存在に目を奪われた。
「シェリー、これから私が話す事を信じてくれる?」
「勿論、信じるわ」
親友の真剣な表情を見たシェリーはすぐにそう答えた。
ココが言うには、王を決める為に百人の魔物の子が最後の一人になるまで戦って本を燃やしあう。
魔物の子は人間をパートナーにし、本と人間の『心の力』が無いと術が使えない。
そしてココがその魔物のパートナーに選ばれた…。
あまりにも現実離れした話にシェリーは驚いたが、その魔物の術を見せられたらもう信じるしかない…。
「それにしても…魔物って、長くて鋭い角や牙や爪が生えていて、コウモリのような羽や尖った尻尾があるものだと思ってたわ…」
目の前にいる魔物は、そんなシェリーのイメージとはかけ離れた姿をしていた。
外見もそうだが、その魔物が優しい心を持っている為、シェリーには尚更そう思えた。
●千年前の魔物の場合。
「何かしら? これ…」
大学合格が判明する数日前、ココは変わった石版を拾った。
正方形の石版は真ん中の部分には人形が彫られていて、周りには見た事も無い文字が書かれている。
ココは純粋な知的好奇心から、この石版を調べてみる事にした。
大学合格の為に必死で勉強して来たココにも、英才教育を受けているシェリーにもさっぱり理解出来なかった。
そして、シェリーがココの大学合格を伝えに来た日…。
「ココ、あの石版はどうしたの?」
石版が無いのに気付いたシェリーはココに尋ねた。
「それがね…シェリー…」
ココの説明によると、あの石版は千年前に人間界に来た魔物が石にされたものだという。
昨日の夜、石版が月の光を浴びた事により偶然石化の呪いが解けた。
そしてココは偶然にもその魔物のパートナーになってしまった…。
話の後に魔物と魔本を見せられても半信半疑だったシェリーだったが、魔物の術を見せられてやっと信じた。
ココの言う事は必ず信じて来たシェリーでも流石に今回はあまりにも現実離れした話だったからだ…。
●一方、シェリーのパートナーは…。
それから数日後…ココは勿論の事、シェリーも魔物の存在に慣れた。
ココを助けてくれる優しい魔物の子…いつしかシェリーは『私の所にもああいう子が来てくれないかしら』と思うようになった。
そんな日の夕方、シェリーの部屋に一冊の本が投げ込まれた。
「これは…色は違うけどココの本と同じデザイン……」
シェリーが黒い本を手にすると、本は黒い光を放った。
「おまえがオレの本の持ち主か…」
男性特有の低い声を聞いたシェリーは、声のする方向に振り向いた。
「えっ……」
シェリーは頭を鈍器で殴られたような強い衝撃を受けて、石化してしまったかのように固まってしまった。
『自分の所にも魔物が来てくれた』という嬉しい気持ちで一杯だった分、尚更ショックが大きかった…。
その魔物は……黒尽くめの服を着て、凶悪な顔と鋭い目付きでこちらを睨み付け、鋭い牙と長い爪を生やしている。
角と羽と尻尾は無いが、正にシェリーの『魔物』に対するイメージ通りな外見だった。
これがブラゴとの出会いであった…シェリーは『ココのパートナーみたいなのが良かったのに…』と、心の奥底から本気で思った。
●ヨポポだったら…。
「ヨポポイ・トポポイ・スポポポイ・ヨポポイ・トポポイ・スポポポーイ♪」
軽快なリズムで一人歌い踊り続ける羽の付いた帽子を被った少年…ヨポポは、これでもブラゴと同じ魔物だ。
ブラゴとシェリーとココは近くの茂みに隠れて様子を見ている。
「チッ…ジッと獲物を待ち続けるのは性に合わねえ」
「我慢しなさい。貴方の方から捜しに行っても寸前で逃げられる事が多いのだから」
「しーっ、2人共もう少し静かにしてて…魔物に気付かれるわ」
「ご、ごめんなさい…ココ…」
「フン…」
謝るシェリーと、そっぽを向くブラゴ。
ヨポポの歌と踊りには他の魔物を引き寄せる効果がある。
そしてやって来た魔物が良い魔物だったら見逃し、悪い魔物だったら隠れていたブラゴが倒すと言う作戦だ。
「それにしても…良い悪い関係無くヨポポと一緒に踊ってしまう魔物が多いのに、ブラゴはどうして平気なの?」
「何をくだらん事を…」
ブラゴは額に青筋を立ててシェリーを睨む。
「言われてみればそうね…ブラゴさんが踊っている所見た事ないわ」
「ち、ちょっとココ…ヨポポと同じ様に踊るブラゴを想像しちゃったじゃない…」
「シェリー…てめえ…」
ココの台詞から想像したイメージがあまりにも可笑しくて、両手で口を押さえて必死で笑いを堪えるシェリー。
そんなシェリーを、並の魔物なら見ただけで逃げ出しそうな鋭い目付きと怖い顔で睨むブラゴ。
「まあまあ2人共…それよりも、今日は魔物来ないのかしら…?」
「そうね…最近、こういう日が多いわね」
「フン…ザコはともかく、強い奴はそう簡単には来ないだろうな…」
今にも喧嘩しそうな雰囲気だったが、ココが話題を変えた事で収まるブラゴとシェリー。
「ヨポポイ・トポポイ・スポポポイ・ヨポポイ・トポポイ・スポポポーイ♪」
(踊らんぞ! オレは絶対に踊らんぞ!!)
楽しそうに踊り続けるヨポポを遠くから睨みながら、両手を組んで必死で耐えるブラゴだった…。
●レイラだったら…。
頭に小さな2本の角が生えたクールな性格の魔物の子レイラ…小さな身体とは裏腹に人間の大人以上の怪力の持ち主でもある。
シェリーは彼女が魔物だという事実を中々受け入れられなかった…。
「変わった髪飾りね…角の形なんて」
「本物よ。魔物なんだから角くらいあるわよ」
レイラの角を見て最初の一言だった。
「そのステッキ、一体どういう仕掛けなのかしら?」
「種も仕掛けも無いわ。術なんだから」
レイラのステッキは彼女の服のお腹の部分の三日月の模様が変化したもので、彼女の体の一部だ。
使いたい時は自由に出し入れして意のままに操る事が出来、ダメージを受けて壊れてもちゃんと回復もする。
そのステッキから光が出たり、三日月の部分が巨大化して盾になったり、飛んだりする光景は科学では説明出来ない光景だ。
「凄いわね…どういうトリックかしら?」
「トリックじゃないわ。これ位術を使わなくても簡単よ」
軽々と岩を持ち上げるレイラを見てシェリーはただただ驚くだけだった。
「ねえシェリー……まだレイラが魔物なのが納得出来ないの?」
「だってココ! こんなに可愛い女の子があのブラゴと同じ魔物で! しかも魔界に住んでいるなんて!」
「でも事実なんだし…ブラゴさんに失礼よ」
「それは分かっているんだけど…ブラゴはこれ以上無い程魔物らしいんだけど、レイラは魔法使いか妖精の方がしっくり来るのよ…」
「シェリー…気持ちは分かるけど…」
現実を中々受け入れようとしない親友に対して、さすがのココも少々呆れ気味だ…。
「貴方のパートナー、クールじゃないわね」
「お前に言われなくとも、嫌と言う程分かっている…」
実にくだらない事で悩みまくるシェリーと、懸命にフォローするココ……そんなパートナー達をよそに、実にクールな反応をする魔物2人であった。
●パムーンだったら…。
無数の星を自在に操り、攻撃・防御・肉体強化に活かすパムーン。
その姿は、まるでTVや漫画のヒーローの様だ。
「どう見てもココとパムーンが正義の味方で、私とブラゴが悪役よね…」
「シ、シェリー…そんなに落ち込まないで…」
傍から見ても分かり易過ぎる程に落ち込むシェリーを慰めるココ。
「大抵の奴は、まさか俺達が仲間同士だなんて思わないだろうな」
「フン…」
得意気な笑みを浮かべるパムーンと、興味無さげにそっぽを向くブラゴ。
外見も性格も正反対だが、意外にも結構仲良くやっているようだ。
●リーヤだったら…。
頭にカブトムシのような角を生やし、羊のように全身が毛で覆われた小柄な魔物の子…リーヤ。
見た目と裏腹に気が強くて勇敢な性格だ。
角で突っつくのが友好の印だが、それは彼に認められる必要がある。
(か、『可愛い』…! まるで『ぬいぐるみ』みたい…!)
ココもシェリーも、リーヤへの第一印象が『これ』だった。
リーヤにとって、この第一印象は正直言って嬉しくなかった…彼の性格が、ぬいぐるみや愛玩動物と同じ扱いをされるのを嫌がったのだ。
「リーヤを抱っこしようとすると、すぐ逃げられるのよね…」
「仕方ないわよ、シェリー。私も、ようやく肩に乗ってくれるようになったんだから…」
リーヤは貧しい暮らしと不当な差別を受けて辛い思いをしながらも、働きながら勉強して大学に合格したココの『心の強さ』を認めている。
しかし『それはそれ、これはこれ』と言う事らしい。
「まったく、ココもシェリーも僕を何だと思ってるんだ…僕は可愛くなんかな~い!! 勇敢な戦士なんだぞ~!!」
「うるさいぞ、毛玉チビ」
「何だとー!!」
リーヤはブラゴ相手でも全く恐れる事無く、毎日こんな感じのやり取りを繰り返す。
パートナー同士が親友だから、仲良くケンカする程度で済んでいるのである。
●おまけ~ゾフィスのパートナー探し~
「こ、困りましたね…いち早くパートナーを見つける予定が台無しになってしまいました…」
ゾフィスは困っていた。心を操ってココを自分の魔本の持ち主にする予定だったのに、他の魔物に先を越されてしまった…。
「その上、近くにブラゴがいては…もうココには近付けないじゃないですか…」
しかも、ココの親友シェリーのパートナーはよりにもよって『あの』ブラゴ……この異様極まりない光景を見た瞬間、寿命が縮む思いだった。
ブラゴに見つかる前に全速力で飛んで逃げ、人気の無い場所で今後の策を練る事にした…。
「仕方ありませんね…こうなったら、別のパートナーを探しますか…。
まぁ、私の能力を使えば本の持ち主なんて選ぶ必要すら無いんですがね」
ゾフィスの『心を操る』能力は多種多様だ。
自分の意のままに行動する別人格を作り出す事も出来る…ココの様な善人を悪人に変える事も容易い。
洗脳して感情を消して戦闘マシーンのようにする事も出来る。
例えパートナー候補が魔本が読めなくても、まるで歯車を噛み合わせるかのように魔本を読めるように心の波長を無理やり合わせて調節する事が可能。
「おかげで他の魔王候補の連中と違って、私はパートナー探しに困らないのですが。
逆に言えば、誰でも良い訳ですが……実際の所、選択肢が多過ぎると言うのも悩み所なんですよね…」
腕を組んで真顔で悩み始めるゾフィス。
「私のパートナーに相応しい容姿か、心を操らなくても私と意見が合う高尚な性格か、私程ではないでしょうが優れた頭脳か、人間にしては高い戦闘能力か…ククク、楽しみですね」
自分の魔本の持ち主を選び放題と言う、自分だけの『特権』に心躍らせるゾフィス……傍から見たら、かなりブキミな笑みを浮かべながら。
「さて、気長にやりますかね…あの様子では、ブラゴも私を追って来ないでしょうし…」
不気味な笑みを浮かべつつも空を飛び、まだ見ぬパートナーを探しに向かうゾフィスであった…。
ちなみにゾフィスが理想のパートナーを見つける事が出来たかどうかは……皆様のご想像にお任せします。
終わり。
<あとがき>
シェリーが羨ましそうにココのパートナーを見てから、ブラゴを見て深~い溜め息をつきそうな感じの話にしました。
パートナーの条件は、ブラゴ相手でも怖がらなさそうなのを…他にも候補いましたが、似たり寄ったりのネタになりそうだったので…。
ココはゾフィスじゃなかったら、きっと良い本の持ち主になれていたと思います。
逆に、パートナーに恵まれなかった魔物もいますしね…悪人がパートナーだったせいで心が歪んでしまったのは可哀想です。
と言うか……ゾフィスも最初から自分と気の合う奴をパートナーにすれば良かったのに、と。
もしそいつが魔本を読めなくても、読めるように心を調節すれば、パートナー選び放題だったのに……と思ったのも、この話を書いたキッカケです。
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・ココのパートナーが良い子だったら…というIFネタです。
・シェリーのパートナーは原作通りブラゴです。