No.146108

『舞い踊る季節の中で』 第52話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

孫策の使者と会う美羽と七乃、
計画も最終段階に入りつつある中、二人は何を思うのか

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2010-05-28 19:32:27 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:19754   閲覧ユーザー数:13948

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -寿春城編-

   第52話 ~ 追憶に舞う想いに、三つの旋律は想いを紡ぎゆく ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術

 

  最近の悩み:某日、某屋敷にて

        甘く、心休まる匂いに、  下から感じる暖かい柔らかな感触に、  左手を引っ張ら

        れるも、掌にちょうど良い大きさの、柔らかな感触に、  そして、頭と下半身を包み

        込むように固定された感覚に、 俺は、母親に抱かれた赤子のような心地良さを感じな

        がら、意識が深い眠りから、浮上するのを感じる。

        そうだ、昨日は、また翡翠に見っとも無くも、泣きついて、喚いてしまったんだ。 そ

        うか、そのまま俺寝てしまったのか、そう思い出し、目を開けると、

        「・・・・・・・・・・っ!」 とんでもない事態になっていた。 俺の顔を包む柔らかなものの

        正体は、翡翠の胸とお腹で、左手は何故か明命の胸に手を当てていた。 ・・・・なんで?

        と思う反面、その感触と、彼女達の匂いに、頭が沸騰しそうになる。 とにかく二人が

        目を覚ます前に抜け出さねば、 と思ったのだが、びくともしない。 頭は翡翠の両手

        で抑えられ、 左手は、明命の手によって、胸に押し付けられていた。 そして絶望的

        なのが、下半身を、明命に何時かの抱き枕のように、足を絡ませられ固定されていた。

        ・・・・ど、どうしよう?(汗

        そ、そうだ、開いている右手で、なんとか気づかれないように、抜け出すだけの隙間を

        作ってやれば、 まずは翡翠の腕を、力の支点を逸らすように、良し、この調子なら、

        グイッ 「へ?」 何とか、隙間を広げて頭を抜け出すだけの空間を作った所に、突然

        翡翠の腕が、俺の頭を引き寄せ、その慎ましい胸に俺の頭を押し付ける。 俺の頬に、

        翡翠のそれの感触が、確かに伝わる。 そして、その柔らかさの中に、かすかに感じる

        堅い突起物の正体は、・・・・・・・・・・駄目だ考えるなっ、 思考を虫のようにするんだっ。

        考えたら敗北するぞっ 

        慌てるな、落ち着け、状況は悪化したけど、まだ幸い右手はまだ自由が利く、 なら、

        同じ事をして、もう一度抜け出す隙を作れば良いだけだ。 こう、膝を下から上げる様

        に  グイッ  引っ張られる感覚と共に、左手の掌に感じていた、危険な感触が無く

        なったと思ったら、左手が、暖かくてスベスベで、吸い付くような感触に、包まれる。

        『ごくりっ』 その感触に生唾を飲みながら、その正体が分かっていながら、確認する

        ために、翡翠に固定された頭のまま、何とか覗き込む。

        ・・・・・・・・『ごくりっ』 明命のむき出しの太腿に、俺の手が埋もれるのを確認し、もう

        一度、無意識に生唾を飲み込んでしまうが、そこで我に返る。 って、明命其処は駄目、

        女の娘が、そんな所に他人の手を導いちゃいけません。 て言うか近いっ、何処に近い

        かは、考えたくないけど、小指に触れる生暖かい布の感触って、まさかっ!?

        ねぇ二人とも起きてないよねっ!? 俺をからかっていないよねっ!? 

        ぬぉぉぉぉおぉぉっ! 耐えろ北郷一刀っ そして早くこの事態を何とかするんだっ!

        

  (今後順序公開)

美羽視点:

 

 

孫策が献上すると言った、見た事のない料理が、机上に所狭しと並んでいる。

蜂蜜料理と言うからには、もっとふんだんに蜂蜜を使った物かと思うたのじゃが、

そう言った物は、殆ど無かったのじゃ。

だけど、どれもこれも、蜂蜜料理と言えるものじゃった。

蜂蜜を余り使わない事で、より蜂蜜の味が、より鮮明になるようにしてあったのじゃ、

だけど、これは、大人の喜ぶ味なのじゃ、

美味しいには美味しいのじゃが、妾はもっと ど~~ん とした味が欲しいのじゃ。

 

そう思うておったが、宴の中を孫策の所の兵が運んできた熱そうな石の箱を、

大喬とか言う調理人が石の箱に入っていた四角い何かを、包丁で素早く切ったと思うたら小皿に盛り、

その上になにやら乗せた後に、小壺に入った蜂蜜をその上に、たっぷりと掛けたのじゃ

 

「蜂蜜焼麺麭と言います。 熱い内にどうぞ」

 

おぉ、これじゃ、こう言うのが欲しかったのじゃ。

麺麭等と聞いた事の無い言葉じゃが、表面は『カリッ』とし、中は『ふわっ』と柔らかく、

其処に、蜂蜜と何かが溶け合うように染み込んでおり、、素晴らしく美味しかったのじゃ。

母様(かあさま)と姉様(ねえさま)、そして七乃が作ってくれた、蜂蜜水の次くらいに美味しいのじゃ。

そして、最後にお茶が出てきたのじゃが、妾は七乃の蜂蜜水があるから断ったのじゃが、

曹操とアレ等の様子から、そちらの方も格別だったようじゃ。

 

 

 

無論、これが孫策が、我等を油断させる為の策である事は、分こうておる。

じゃが、料理には罪は無い。

孫策が毒殺や暗殺等を嫌う人物である事は、七乃が保証してくれた。

なので、安心して食べる事が出来たのじゃ、

 

普段は、七乃が作るものしか、食べぬよう気をつけておる。

それにアレ等は、傀儡とは言え、己の主たる妾には、贅沢をさせる気は無いようじゃ、

その分自分達が贅沢をしたいらしいのじゃ、

もっとも、それでも民の暮らしに比べたら、十分贅沢と言えるし、妾も、今はもう贅沢をしたいとは思わぬ。

とは言え、美味しいものを食べたく無い、と言う訳でもないのじゃ

なら、美味しく食べてやるのが、折角の料理に対する礼儀と言うものじゃ。

 

 

 

 

「お許し頂けるのなら、袁術様のために、舞を披露したいと思っております」

 

妾が蜂蜜水を飲んで、食後の一休みをしていると、調理人がそう申してきた。

そうじゃのぉ、孫策の策に乗って見せると決めたのじゃ。

なら、これに頷いて見せるも一興じゃ

 

「うむ、妾は今、機嫌が良いのじゃ、一つ楽しい舞を所望いたすぞよ」

 

妾は、無邪気にそう言ってみせるのじゃ。

皆が、そんな妾を見て、安心出来るように、無邪気に言って見せるのじゃ。

・・・・・だけど、そう妾が言った時の調理人、・・・・・・大喬の瞳は、何の感情も映さない目じゃった。

別にそれが、怖い訳ではないのじゃ。

ただ、まるで瞳に映った妾を、覗き込むような感じがしただけなのじゃ。

・・・・・・・・妾の素顔を、見られたような気がしただけなのじゃ。

 

 

 

 

りんっ

りんっ

 

小さな、鈴が鳴らす音は、

舞いながら、自ら鳴らしていく鈴の旋律は、

まるで、川のせせらぎのようじゃ

幾つもの長い布が、宙を漂う中を、動く手の動きは、川面を飛び交う魚だろうか

静かで、安心させるような緩やかな動きは、舞手の安からな表情は、

まるで、あの時の母上の膝の上の温もりを思い出させるのじゃ。

 

まだ小さかった妾が、母様の膝の上に寝転がり、

そんな妾に、姉様が草花を摘んで作ったの花輪を、妾に被せてくれたのじゃ。

 

 

 

りぃんっ

 

りぃんっ りりんっ

 

楽しげに、鈴同士が会話するように、小刻みに鳴る鈴の音が、

静かに、ゆったりと、妾の心にまで染み込んで来る。

忙しげに、波打つ布の動きは、まるで人混みの影のようじゃ

不規則なようで、大きくゆったり動く足運びは、人混みの流れのようじゃ

母様達と城を抜け出して、人混みの中を、祭りの雰囲気を楽しんだ遠い昔、

母様と姉様に挟まれるように、手を繋いで歩いたあの時、

姉様も七乃と共に、手を繋いで歩いておったのじゃ、

 

楽しかったのじゃ、

 

本当に、楽しかったのじゃ

 

 

 

 

気がついたら、妾は、泣いていたのじゃ、

別に声を出して泣いていた訳ではない、ただ、勝手に涙が零れ落ち続けておるのじゃ。

だけど、涙は流れてはいても悲しくは無いのじゃ。

ただ嬉しかった。

そして楽しかったのじゃ。

 

そうじゃ、もう一度あの舞を、見たいのじゃ

 

「大喬とやら、素晴らしい舞いじゃったぞ。 妾は深く感動したのじゃ

 暫し我が城に逗留して、妾を楽しませてはくれぬか」

 

妾は、涙を拭く時間を惜しんで、大喬にあの舞を見せてもらおうと、

あの失いし日を、思い出させてもらおうと頼んだ。

だけど、帰ってきたのは、・・・・・・・・・・謝罪の言葉じゃった。

 

大喬には、小喬と言う妹がおり、生き別れた妹を探さねばなら無いと言うのじゃ。

ならば、諦めねばなるまい。

姉が妹を思う気持ちは分からぬが、妹が姉を思う気持ちは痛いほど分かるのじゃ。

それを思えば、無理は言えぬのじゃ。

 

だけどその代わり、もう一度舞ってくれると言ってくれたのじゃ。

なら、迷惑であろうと、その舞に混ざりたいと思うた。

この者となら、あの時の想いを、今再び思い起こせると思うのじゃ。

 

 

 

 

七乃の奏でる二胡の旋律が、

妾の声が、

大喬のゆったりとした舞と鈴の音が、

重なり、紡ぎ合っていく。

 

七乃の奏でる音が、今日は、いつも以上に楽しげに聞こえるのじゃ。

その音に、妾の歌が、想いを乗せて、広がっていくのじゃ、

 

周囲に、

世界に届くように、

広がっていくのじゃ

そしてその世界を、

大喬の舞が、

鈴の音が、それを祝福する様に鳴り響き、

世界を形作っていく。

 

その世界で、妾達は一つとなって、更に世界を紡いで行くのじゃ。

そんな事は、ある訳が無いとは分かっておる。

だけど、今だけは、そんな思いにさせてくれるのじゃ。

あの時も、そんな思いにさせてくれたのじゃ。

 

暖かな庭先で、

母様の七弦琴が、

姉様の舞が、

七乃の二胡が、

そして妾の歌が、

 

妾達を一つに、

そして、広げて行ってくれたのじゃ。

 

 

 

 

「はぁー、   はぁー  」

 

妾は、熱くなった心と体を冷ますために、荒い息をする。

楽しかったのじゃ、

本当に、久しぶりに楽しかったのじゃ。

こんなに楽しかったのは、あの時以来じゃ。

 

「大喬よ、妹が見つかった後、もう一度だけで良い、こうして妾達と舞ってくれぬか?」

 

それは、何時になるかは分からぬ事。

そして、叶う事の無いと分かっている願い。

だけど、それでも、そう言ってしまったのじゃ。

なのに、そんな妾の思いを知ってか、

 

「はい、その時は喜んで」

 

そう大喬は笑顔で答えてくれた。

先程まで見せていた華やかな笑顔ではなく。

暖かな、まるで春の日差しのような笑顔で、妾に微笑んでくれたのじゃ

 

どくん

 

何故か心臓が大きく鼓動したのじゃ。

だけど、悪く無い気持ちなのじゃ。

とても心地良いのじゃ。

 

「大喬よ、舞に対するせめてもの礼じゃ。 妾と張勲の真名をお主に預ける、大事にするのじゃぞ」

「そのような畏れ多いモノを預かる訳には・」

「無理に呼べとは言わぬ」

「ですが、私めには、返すべき真名がございませぬ」

 

・・・・・そう言えば、七乃に、そういう部族も、少しだけどあると聞いた覚えがある。

そう言う部族出身の人間は、何かの事情で、部族を離れてしまう事になると、真名を持たない偏見から、差別される事が多いと言う事も、

・・・・・・そうか、それもあって、一つの所に留まる訳にも行かない理由も在ったのじゃな

 

「構わぬ。 ただ、妾達の事を覚えておいて欲しいだけじゃ」

 

そう、あの時の想いを、思い出させてもらったお主に、

三人が一つとなって、楽しい一時を過ごせたお主に、

妾達を、覚えていて欲しかっただけじゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に、今日は楽しかったのじゃ。

 

本当に、楽しかったのじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七乃視点:

 

 

ぢりっ

 

時折音を立てる行灯の火が、部屋と机上を照らし、

その机上では、私とお嬢様が、書き物を書き認めて行きます

もっともお嬢様は、今日の出来事を纏めたものを書き終え、墨を乾かしながら、

もう一度、今日の出来事を振り返っているようです。

足をぶらぶら揺らしながら、その時の様子を思い出しては、

その時の感情を次々に顔に出して百面相状態です。

 

(可愛いぞ、こんちくしょうです)

 

昼間は素直に出せない分、こうやって、自分を保たれているんでしょうね。

(無論出している時は、出しておりますが)

袁家を二分する内の一つの勢力の君主、

最後の肉親である、姉の空羽(くう)様を亡くされて以来、

お嬢様は、小さな時から、その座に据えられています。

 

君主と言う立場でありながら、最低限の教育しか許されず、

無邪気に我が儘で居る事を強いられ、

あの人達は、いざとなったら、全ての責任をお嬢様に押し付けるつもりのようです。

 

まぁ、我が儘に関しては、元々その素質はありましたけどね

孫策さんを、虐めて見せる時なんて、それはもう、イキイキしています。

え~いっ、そこも含めて可愛いぞ、この我が儘娘っ♪

 

 

 

 

しかし、あの人達の放蕩振りには、困ったものですよねぇ。

幾ら広大な土地を治めているからと言って、湯水のようにお金が溢れる訳ではないのですから、国庫にも限度があります。

と言う訳で、今回落とすように言われた分は、諜報部の予算と、城壁の修理費から少しづつ引いちゃいます。

それでも足りない分は、頃合も良いですし、今まで、ぎりぎりで抑えていた農民さん達から、少しだけ税金を上げて補填する事にしましょう。

 

そんな調子で山になっている竹簡に、次々と指示や政策を書き認めて行くのですが、

やはり、今日半日近く潰れたのは痛いですねぇ。

あの人達も、贅沢したいのならば、少しは真面目に働いてくれれば良いのですが、

・・・・・・そんな気なんてあったら、私がこうしている事は無かったですね。

まぁ、そのおかげで、多少なりとも動く事が出来るのですから、悪い事ばかりではありません。

 

あの人達にとって私は、あの人達にとって面倒な、お嬢様のお世話をする便利な女。

あの人達が、贅沢や、そのための無茶な政策の後始末をしてくれる、都合の良い女。

そんな所なんでしょうね。

 

その癖して、細作や密偵だけは、しっかり動かされるのですから、

どこまで性格が悪いのでしょうねぇ。

きっと、そのあまりの性格の悪さに、性根なんてものは、ドロドロに腐敗しちゃってますね。

 

同じ性格が悪いなら、お嬢様の我が儘の方が、素直な分、何万倍も可愛いです。

袁家の老人達の我が儘なんて、少しも可愛く無いですから、面倒なだけですよ。

まぁ老人と言っても、それは袁家の実質的な実権を持つ、立場に居る人間の総称ですから、

本当に皺だらけの老人ばかり、と言う訳でも無いんですけどね。

これで少しでも、お嬢様のように千分の一くらいでも可愛さがあれば、少しはやりがいも出るのですが、

とても、そんなものを持ち合わせているお方達には見えません。

お嬢様の様な可愛さは、大陸で只一人、お嬢様しか持っておりません。

 

そんな訳で、私はお嬢様一筋ですよ~。

そのためなら、こんな雑多なお仕事も、あっという間に終わらせてしまいます。

(と言っても、後半刻は掛かるでしょうけど)

 

 

 

 

そんな風に執務をこなす中、私は不意に何時ものように、指を立てて虚空を指し、

 

「お嬢様~、今日は如何でしたか?」

「うむ、最高だったのじゃ」

「そうですねぇ~、張遼さん一人で、アレだけの兵を得る事が出来るのですから、お嬢様が、拾ってきた甲斐

 が在ったと言うものですね~」

「お~、そうじゃった」

「これで、あの方達が集めた分も含めて、十五万の兵が、お嬢様を含めた袁家の方々を守ってくださいます」

「うむ心強いのじゃ」

「そのうえ、勇猛な張遼さんが鍛えてくれますから、万が一なんてありえませんね~」

「おぉぉ、妾は先見の目があるのじゃ」

 

もっとも、曹操さんの所の二万に、あの人達が集めた一万、あわせて三万の新兵なんて、

いくら張遼さんでも、きちんと鍛えれるものではありませんけどね。

曹操さんの提示してきた代価は正直計算違いですが、あの方達の性格を考えれば、何とかなるでしょうね。

 

「お嬢様の袁家の方々を、守ろうとするお気持ちが天に届いたのでしょう」

「うむ、孫策も妾に恭順を示しておるし、これで袁家も安泰なのじゃ」

「そうですねぇ、例え孫策さんが反旗を翻しても、けちょんけちょん に出来ちゃいますよ~

 もっとも、今のところ、そんな心配は無いようですけどねぇ。

 それはそうと、半年後に控えた、御結婚は了承する気になられましたか?」

「うむ、仕方あるまい」

 

お嬢様は、そう頷いて見せます。

相手は、あの方達の代表である人の御子息で、

お嬢様とは、年のかなり離れた豚さん以上に肥太った方の、醜いお顔が、一瞬だけ脳裏に浮かびます。

 

己が実権を、更に確たる物にする為の婚儀、

お嬢様はもう成人の儀を済まされておりますが、

あの時以来、何故か身体の成長が、止まってしまっております。

心の成長も、その時以来止まっているようです。

 

それ故に、婚儀も遅らせる事が出来ましたが、もう限界のようですね。

数ヶ月前、私が言う事も聞いてくださられずに、

関係ある人達に、婚儀の式を行う手紙を出されてしまいました。

無理やりにでも、お嬢様に子供を作らせようと言うのでしょう。

成長が止まってしまって、アレも来ていないと言うのに、

殿方には、そう言った事が分からないようですね。

 

 

 

 

すっ

 

私は指を下ろし、

 

「美羽様、お疲れさまです。 今日は、もうお休みになられては如何ですか?」

 

私は、美羽様の書き認められたものを受け取り、其処に書かれた短い文章から、

適度に改竄した物を、別のものに美羽様の書体で書き記し、棚に保管し、

美羽様が書かれた方は、隠し棚にしまい込みます。

そんな一連の作業を終えても、美羽様は椅子に腰掛けられたままです。

 

「美羽様?」

「今日は、七乃と一緒に寝たいのじゃ」

「何時も寝ているではありませんか」

「違うのじゃ、今日は初めから一緒に寝たいのじゃ」

 

なるほど、そう言う事ですか。

私は、お嬢様の心境を察し、小さく息を吐きます。

 

「美羽様、今日は楽しかったですか?」

「うむ、本当に楽しかったのじゃ。 七乃は違うのか?」

「私も楽しかったですよ。

 あんなに楽しかったのは、美音(みおん)様と空羽様が元気だった時以来です」

「そうなのじゃ、妾も母様と姉様が生きておった時以来なのじゃ。

 そう言えば、大喬に七乃の真名を、勝手に預けてしまったが構わなかったか?」

「構いませんよ。 美羽様がお預けしたいと思った方なら、私も喜んでお預けいたします。

 それに、あの時は、本当に楽しかったですから」

 

大喬さんの舞は、

一緒に共演した一時は、お嬢様と私に、今は亡きお嬢様の母君と姉君を思い出させてくれました。

あのお二人と一緒に居た時の暖かさを、例え錯覚とは言え、感じさせてくれました。

 

だからなのでしょうね、お嬢様は今、あのお二人を深く想い出されているのでしょう。

そしてあの想いを感じたまま、眠りに就きたいのだと思います。

私を含めた四人で一緒に居た、あの時の想いを胸に抱いて、眠りに就きたいのだと思います。

 

あの時以来、お嬢様が本当の意味で、我が儘を言われるのは珍しいです。

心から、甘えられるのは珍しい事です。

 

 

 

 

「仕方ありませんねぇ~。 私も今日は本当に楽しかったですから、お嬢様にお付き合い致します」

「うむ、では、寝る前に七乃の蜂蜜水を・」

「駄目ですよ~。 寝る前にそんなものを飲んだら、またお手洗いに間に合わなくなってしまいますよ~」

「んなっ! そんな事は無いのじゃっ 妾はそんな事をした事も無いのじゃっ!

 じゃが、七乃の言うとおり、我慢してやるとするのじゃ」

 

私の意地悪な言葉に、美羽様は顔を真っ赤にして、ムキになって反論してきます。

その姿は、本当に可愛いです。

そんな可愛いお嬢様を、私は楽しむように宥めながら、寝る準備をしていきます。

 

 

 

「なぁ七乃」

「なんですか? 美羽様」

 

寝台の上で、布団に包まれながら、

私に抱きつくように横になって眠られるお嬢様が、私に呟いて来ます。

 

「・・・・・・これで、望みを果たせるかのぉ?」

 

きっと不安なのでしょうね。

味方のいない中、綱渡りのように進めてきた計画が、

私達の悲願が、叶うのかが、

失敗すれば、おそらく二度と機会は無いでしょう。

それが分かっているから、不安なのだと思います。

 

今の所、計画は上手く進んでいるとは言え、私も不安が無い訳ではありません。

ですが、それをお嬢様に見せる訳にはいけません。

この優しい、お嬢様に私の弱気を見せる訳にはいけません。

 

「大丈夫ですよぉ~、孫策さん達も上手く掌で踊ってくれていますし、

 此方の方も、私達を今の所信用してくれています。

 きっと叶いますよ。

 お二人のために、叶えなければいけません。 そう決めたのはお嬢様ですよ」

「うむ、そうであったな」

「ええ」

 

私の言葉に、私の笑顔に、少しだけ安心したのか、お嬢様はすぐに寝息を立て始められます。

嘘で塗り固められたお嬢様、

厚く塗りすぎてしまった為に、もう本物になってしまっているお嬢様。

でも、こうして眠っている時だけ、本来のお嬢様に戻る事が出来ます。

 

「美羽様、今日はきっと良い夢が見られますよ」

 

そう、眠るお嬢様の髪を優しく指で梳きながら、

私も、お嬢様のように、在りし日の想い出に抱かれたまま、目を静かに瞑ります。

 

 

 

お嬢様、

 

美羽様、

 

美音様の忘れ形見、

 

空羽様の妹、

 

私の今の主、

 

そして、私の愛する義妹、

 

 

きっと美音様と空羽様は、怒られるでしょうね。

 

でも仕方ありません。

 

それが今の私とお嬢様の、一番の望みなのですから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

 第52話 ~ 追憶に舞う想いに、三つの旋律は想いを紡ぎゆく ~ を此処にお送りしました。

 

今回は、袁家の二人組みコンビのお話になりました。

書き終えてまず終わったのが、やりすぎた事ですね。

二人の思いに引っ張られて、まだ書いてはいけないプロットまで書いてしまいました。

そんな訳で、大きな修正を二度ほど行う羽目になってしまったんですよね(汗、

 

作中出てきた、袁術の母親(美音)と姉(空羽)、は史実や演技で、袁逢(父)袁基(兄)として実在していたらしい人物から取って来ました。

 

冒頭のおまけですが、今の話は、次回で終わる予定です。(おまけ事態は続きますよ)

 

一刀はどうなるのか?

 

1.欲望に従う。

2.二人には悪いけど、怒られるの覚悟で二人を起こす。

3.ただ、ひたすら一刀(悪)と一刀(善)が戦い続ける。

4.ついに悟りを開いて、二人から何も感じなくなる。

5.漢女に目覚める。

6.何とか脱出に成功する。

 

次回は、翡翠視点のお話が中心となる予定です。

彼女は、あの謁見で何を見たのでしょうか

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 


 
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