No.145504

剣帝✝夢想 第十六話

おひさしぶりです。随分長い間更新できずに申し訳ないです。現在、リアルが大変多忙であり、更新が遅れるかと思うのでお詫び申し上げます

2010-05-25 21:02:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5038   閲覧ユーザー数:4481

「さて、成都についたわけだが…これは、言葉にならないほどひどいな」

 

成都についたレーヴェたちを出迎えたのは、劉璋の率いる軍勢…ではなく、閉じられた城門だった。一応籠城だとは思うのだが、動きがあまりにも鈍い。

 

「…ご飯を食べて午睡する牛さんよりも鈍いです」

 

同じく、動きの鈍い劉璋の軍を見て朱里が呟くが、皆口にしないだけで同じ意見のようだった。

 

とにかく敵は士気が低い。既に戦うことを諦めているような兵が大半だ。それに加えての劉璋の愚鈍さが拍車をかけているようだ。

 

「この事実を見せられれば、民たちがご主人様たちを求める気持ちが分かりますね」

 

「ああ、それで状況は?」

 

「はい。攻撃対象は成都城。立てこもっているのは益州の州牧劉璋さんです」

 

「敵勢はさすが本城、というべきなのか、お味方よりもかなり数が多いです」

 

レーヴェの声にすかさず雛里と朱里が答えを返してくれる。今思うのは不謹慎かもしれないが、二人はいつも息が合っていて仲がいい、と思ってしまう。

 

「そうか。だが、今回の戦いにおいて、それは問題ではないな」

 

「そうだな。相手にもそれなりの質の将がいればその数も有用に使えただろうけど、相手にはいない。しかしこちらには、ご主人様を始めとして、愛紗や鈴々、星やあたしみたいなそれなりに軍を率いて連戦してきた人間がいる。それは大きな差だ」

 

レーヴェの言いたいことが分かっているというように、翠がレーヴェの言葉に続けた。

 

「はい。翠さんの言う通りです。相手は益州で内輪もめを続けてきただけの人たちですから、私たちの敵ではありません」

 

「ああ。では今回は桃香の手腕を見せてもらおうか。それに、益州平定に当たって、桃香の手腕も見せておく必要もある。そうだろう?」

 

「はい、その方がよろしいかと」

 

雛里の言葉にレーヴェは頷いて、前方へと視線を戻した。

 

「では、オレたちは指示があればすぐに動けるように準備しておこう」

 

「「はいっ!」」

 

レーヴェは朱里と雛里の元気な返事を聞きながら、前方で指示を出しているだろう桃香に幸運を祈った。

「桃香、城門が開いたぞ!」

 

戦が始まってしばらくすると、白蓮の声の通り、成都城の城門が開いていた。それを確認すると、桃香は指示を出し始めた。

 

「分かったよ!みんな今が好機!城門を突破して内部を制圧しよう!愛紗ちゃん、星ちゃん、華苑さんよろしくね!」

 

桃香の言葉に三人は応えて兵を率いて突撃していく。それを見送る時間を惜しむように、さらに次の指示を出す。

 

「白蓮ちゃんとたんぽぽちゃん、影くんは城門突破を図る三人の援護を!鈴々ちゃんは遊軍を率いて裏門に回って揺さぶろう!」

 

「朱里ちゃん、雛里ちゃんは住民たちに私たちが城を攻めている主旨と、占領した後の身分や財産の保証を約束する旨、宣伝しておいてね!」

 

桃香の指示を受けた人間はそれぞれが動いていく。桃香はそこまで指示を出すと、他にはないかと考え、そして何も思いつかなかったのか、恐る恐るレーヴェの方へと顔を向けた。

 

「及第点といったところか。あとは、戦による精神的圧迫で体調を崩したものがいないかどうかの確認も必要だ。それ以外は…必要な指示は出しているだろう。よく頑張った」

 

レーヴェはそう言って桃香の頭を撫でてやる。先に行ったことはすでに紫苑たちが取りかかっているので、今のところはやるべきこともない。愛紗たちの報告を待つだけだった。

 

「疲れたよぉ~。前線の指揮ってこんなにも大変なことだったんだねぇ~」

 

今さらながらそれに気づくというのもどうかと思うが、レーヴェはその言葉に頷いておく。

 

「それに、指揮するものは将兵の命、想い、願い、それらすべてを背負っていく必要がある。そして兵士たちの死からも、自らの指揮によって出た結果からも目をそらしてはいけない。たとえその結果が、絶望的なものだったとしても」

 

レーヴェの淡々とした言葉を桃香は静かに聞いている。そしてレーヴェは、少し説教臭くなってきた気がして話を切り替えた。

 

「それで桃香。これで益州はほぼ平定したことになるが、これからどうするつもりだ?」

 

「今はとにかく、この国の人たちが安心して暮らせるようにしないとね。そのためには治安の回復と異論な制度の改革が必要だと思う。でも、そのあとは分からない」

 

分からない、と言った桃香に対してレーヴェは何も言わずに、視線でその先を促した。

 

「今のこの大陸の状況じゃ、天下統一即平和、みたいにはならないと思うし。それに曹操さんに攻め込まれたときに思ったの。今の力じゃ曹操さんに対抗なんてできない。だから、今度は曹操さんが来てもやっつけられるくらい強くならないと、って。ご主人様だったら相手が十万、二十万いようと敵じゃないんだろうけど、それじゃ意味ないから」

 

いつも気楽なように見えて、やはり色々と思うことがあったのだろう。桃香は桃香なりにこれまでのことを思い返して反省していたようだ。

 

「それにね、ご主人様が負傷したって聞いた時、とても怖かった。それに思ったの。私は自分の理想を追い求めるだけで、大変なことは全部ご主人様に押し付けていたんだって」

 

「…そうか」

 

「だから、ここにきて一番に考えたいのはこの国を強くするってこと。私たちの理想を叶えるには、それを貫くだけの力が必要だって分かったから」

 

「桃香のしたいようにすればいい。オレはそれに手を貸すだけだ」

 

「うん。でももう頼りっきりにはならないつもり」

 

そう言って笑う桃香を守る。そうレーヴェは決意する。なぜ、死んだ人間である自分がこの世界に来たのかは分からない。ならば、自分でその理由をつくればいいだけのこと。桃香と、ここで得た仲間を守る。『剣帝』と呼ばれた自分の最大の武器はその戦闘力。ならば、それを生かさない道理はない。それに彼女たちを愛おしく思う気持ちがあるのもまた事実。ならば、この剣で全てを守って見せよう。守れなかった者の分まで。

 

愛紗たちが玉座の間を占領したという報告を受けるまで、そう大した時間はかからず、益州はレーヴェたちの国となった。そしてレーヴェたちは国の再建に向けて慌ただしく動き始めた。

益州を平定してからしばらくして、二つの方向から凶報の早馬が届いた。

 

一方は南方。こちらでは南蛮と呼ばれる国。もう一方が五胡と呼ばれている国だった。どちらも先遣隊らしき部隊を国境付近に繰り出し、街を荒らしまわっているらしい。それに早急に対処する。そのことがここにきて最初の試練ともいえるべきものだった。

 

「さて、知っての通り、我々は現在迫っている二つの脅威に対抗せねばならないわけだが…」

 

「残念なことに、私たちには二正面作戦を展開できるほどの軍事力はまだありません」

 

そう。流石にゼロからの、とまではいかないが、また新しく国を作ってからのスタートでは色々と足りない。だが…

 

「この件の処理に手間取れば、今まで私たちが来たのを歓迎してくれていた人々が、一斉にそっぽを向いてしまいます」

 

「自分たちをしっかり守ってもらうために、我らを受け入れたのですから当然でしょうなー」

 

雛里の言葉にねねが頷いていった。

 

「皆が皆、桃香様の心に触れ、その理想に全てを捧げたわけではない、か」

 

「仕方なかろう。庶人たちの希望は、日々平和に暮らせること。そんなささやかな希望を守ってくれぬものなど、必要とはされんだろう」

 

星の言う通りだ。庶人にとって、上の人間がいくら立派な理想を抱えていようが、まず望むものは自分たちの安全だ。それに、この国の人間は、桃香なら自分たちを守ってくれると思って、ここまで快く迎え入れてくれたのだ。ここで手間取っていては、桃香は住人たちに見放されることになるだろう。

 

「所詮は利か」

 

「だが、利に溺れれば、我利我利の亡者となる。…感心はできんな」

 

「それは誇りある武人として、生活に余裕をもって生きている桔梗だからこそいえることだ。それは持てるものの傲慢ともいえる。庶人にとって亡者となってでも今日を生き延びる、それが重要だ。元々追い込まれたような状態で誇りを持っていられる人間は驚くほど少ない」

 

白蓮がこぼした言葉に反応した桔梗に、レーヴェは静かに言った。桔梗は一瞬だけ顔を強張らせたが、レーヴェの言葉に納得したのか、すぐに表情を和らげた。

 

「さて、敵の初動はどうなっている?」

 

「はい。南蛮の方は、周辺の村を襲ったあと、すぐに自国領土に撤退していますので領土的野心からの侵攻ではなく、一過性のものかと。警部兵たちは住民を守って近くの砦に籠城したため、人的被害はなさそうです」

 

「次に西の方ですが、一つの村を占領した後、その村を拠点にして、周辺に被害を及ぼしています。早急に対応すべきはこちらかもしれません」

 

「そうか。ならば、南方の砦に将を…そうだな、二人と兵を一万派遣する」

 

「ご主人様の言う通りだな。私は一人でもいい気がするけど、二人の方が確実だもんな」

 

レーヴェの決断が翠が同意する。確かに、一人でもいいか、とも思ったのだが、なんらかの不測の事態が起こった場合に備えて、二人派遣することにしたのだった。

 

「でも誰が南方に行くのー?たんぽぽは暑いのやだー」

 

「何を言うか!!決めるのは御館か桃香様だ!わたしたちはそれにしたがっていればいいんだ!」

 

「また出た、桃香様、ご主人様命。じゃあ、あんたが行けば?」

 

「言われなくても命令されればな!」

 

またか…。焔耶が仲間になってからよく見るようになった光景に、レーヴェは気づかれないように溜め息をつく。隣の桃香も困ったような笑顔を浮かべていた。いや、実際困っているのだろうが。

 

「南方に向かってもらうのは紫苑と恋だ。紫苑が指揮を執り、恋はそのサポートだ。恋は万が一、打って出なくてはならなくなったときの保険だ。朱里、雛里、どうだ?」

 

「はい。紫苑さんなら経験も豊富ですから籠城戦には適任だと思います。それに、一騎当千の恋さんが行けば、兵の指揮も高くなると思います」

 

「恋殿がいくならねねもいくのです!」

 

「ああ、もとよりそのつもりだ。ねね、頼んだぞ」

 

「任せるのです!」

 

「よし。ならば、すぐに準備に移る!今回は時間が最大の敵だ!迅速に全ての準備を整え、出陣する!」

 

「「「御意!!!」」」

 

レーヴェの言葉に皆が応え、慌ただしく動き始めた。

「…さて、五胡に関しての情報だが、知っての通り、間者はすべて排除され、詳しい情報はない。影を出せればよかったんだが、彼には呉へと向かって貰っている。オレたちは未知の相手と戦わなければならないが…やることは変わらない。全力を持って叩き潰す。ここまで好きにやってくれたんだ。それ相応の代償は払ってもらう。総員、戦闘準備!」

 

五胡に侵攻されたという村に近づき、レーヴェは号令をかける。その声に兵士たちは気合の入った声で応える。そしてしばらく行ったところでついに敵と遭遇する。そして、両軍ほぼ同時に突撃を開始する。どの部隊よりも先を行くのは、やはりレーヴェの部隊で、敵の部隊に接近したレーヴェは、最初の一撃で、敵の一部隊を文字通り斬り払った。

 

「死にたいものからかかって来い。オレは『剣帝』レオンハルト!蜀が代表、劉備が主だ!」

 

レーヴェは名乗りを上げる。敵は、ただの一撃で部隊を壊滅させたレーヴェに恐れおののいていた。逆に、こちらへ来てから仲間になった兵士たちは、噂で聞いていたレーヴェの実力が真実だったということに士気を高めていた。

 

「敵は怯んでいるぞ!関羽隊もご主人様に続け!」

 

「鈴々隊も突撃!粉砕!勝利!なのだ!」

 

「見ていて下さい!御館!桃香様!」

 

…なにやら一つだけ違う叫びが聞こえてきたような気がするが、レーヴェは聞こえなかったことにして敵に向きあう。その背後ではレオンハルト隊の隊員が武器を構え、無言で佇んでいる。敵はその部隊の静けさにも異様さを覚え、動きが鈍っている。

 

そして、レーヴェは静かに剣を掲げ、敵の方へとその切っ先を突き付けた。それと同時に、レオンハルト隊は突撃を開始する。静かに、雄叫びを上げることもなく。そして五胡の部隊を蹂躙していく。一人一人が準武将クラスの腕前、なおかつ、レーヴェ自身が徹底的に鍛え上げたその部隊に敵はいない。いや、レーヴェの部隊だけではなく、彼の部隊に触発された他の兵士たちも、その実力をあげていた。

 

おそらく、劉璋の部隊との小競り合いで油断していたのだろうが、明らかに、質の違う部隊に呑みこまれる。辺りからは、五胡の兵士たちの悲鳴と断末魔の声が聞こえてきていた。

 

「くそ!!この化け物が!!」

 

五胡の兵士が信じられないほどの速さで接近してくるレーヴェに対して、恐怖の籠った声で罵りながらも槍を突きだす。だが、次の瞬間には、周りの仲間もろとも槍の先を斬りおとされ、その胴体を両断されていた。そして次の標的に向かい疾走する。五胡の兵にはそのレーヴェの姿が死神に見えていた。

 

だが、しばらくしてようやく恐慌から立ち直ったのか、整然とした様子で退却を始める。レーヴェたちはそれを追撃せずに見送った。十分大打撃は与えた。恐らくしばらくは警戒して攻めてはこないだろう。

 

「さて、撃退には成功したようだが…。朱里、今後の為に何か言い方策はあるか?」

 

「このあたりに鎮守府を築き、兵隊さんを常駐させておくほかは今は方法はないです」

 

「でも、こんな辺境にずっといるのは可哀想じゃないかな?」

 

桃香がそういうが、流石にそれにはレーヴェは気が抜けそうになった。流石に余程酷い人間でない限りは、こんな辺境にずっと勤務させることなどしないだろう。その地に封じられたのならば話は別だが。

 

「いや、なぜ、ずっと同じ兵士を駐留させることになるんだ?大体二回に分けて兵士を交代、一年の辺境任務にするつもりだ。本城の戦力は下がるが、その分質の向上を目指せばいいだけだ。だが、今現在は曹操との戦いが控えている。オレたちの誰かが抜けてここに赴任するわけにもいかない。誰かちょうどいい人材はいるか?」

 

「張仁、呉懿、呉蘭の三人に任せてみては?」

 

「うむ、あの三人ならば安心だろう」

 

「あと、法正さんもつけてください。それで内政・計略面でも安心かと」

 

星の言葉に愛紗が同意する。それに朱里がさらに人員をつけ足した。

 

「了解。じゃあ、それでいこー」

 

桃香がそれにゴーサインを出した。

 

「よし、ならばすぐに軍を動かし、紫苑たちの救援へと向かう」

 

レーヴェたちは返す刀で南方へと向かった。だが、南蛮兵は、大規模な援軍に不利を悟ったのか、すぐに兵を退却させていった。レーヴェたちは、ここにも砦を築き、南蛮を監視させる体制を整え、本城へと戻っていった。

 


 
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