その墓地はオオアマナの花びらが舞い続けていた。70年もの昔、最初の蛇が真の愛国者に贈ったオオアマナは、墓地全体に広がり無縁墓地とは思えない神々しさを醸し出していた。
そのオオアマナは、冒険譚を聞いて育った最後の蛇がトレードマークとして使っている。
そして20年ほど前に最初の蛇がその命を全うしたところだった。
今、自分はそこにいる。目の前には、最初の蛇と三人の蛇、そして真の愛国者が眠っていた。
金属の歯車によって人生を翻弄された五人に敬礼する。決意と・・・真の愛国者が伝えようとした「忠」の意志を秘めて。
2Gears Reason ~虚無~
天井が見えた。
蛍光灯の灯りは、今起きた彼には暴力的な光だった。思わず目をそらすが身体は起こす。
「・・・ここは」
視界に入ってきたのはどこか懐かしい無機質な風景だ。
「正史のフカフカベットだ」
扉を開けて入ってきたのは死んだはずの男だった。
「よう、何日ぶりだ?」
そう飄々と答えるジェームスの頬に、一刀の拳が突き刺さった。
拳に感じた触感は確かに骨にぶち当たった感触だった。
「・・・夢じゃない」
「お決まりのシチュエーションすぎるぞ」
しなを作りながらジェームスが起きあがってくる。
相変わらずタフな男だった。
* *
「強制送還用ナノマシン?ずいぶんと政治的な名前をしているな」
「とりあえずそんなもんが内緒で俺の体にぶち込まれてたって訳よ。ったく司令の人が悪い」
そういえば転送自体はナノマシンレベルでも可能という話をしていた気がする。
コンティニューありのゲームは実感がない。どのみち司令らしい。
「起きたか、一刀」
Jack/RAIDEN
CV:堀内賢雄
「司令・・・無事延命できたようだな。伝説」
「ああ、生きながらえてしまったよ」
車椅子姿が痛々しいが、これまた生きているケインだった。
「さて情報を整理しよう」
「一年後か」
ブリーフィングルームでFOXHOUND司令が唸る。
「はい。外史での最後の接触で、アシッドは外史は後一年と言ってました」
「加えてREX。時空震が発生していたのを見ると正史から転送されていると考えます」
司令はあのケインですら敬語を使うほどの人物だ。40代後半だがその眼光と実力は衰えることを知らない。
「つまりアシッド・スネークは一度正史に帰還し、外史に再出撃したと」
「やれやれ、アシッドが使った転送装置を破壊する仕事も増えちまったってことだな」
三国戦争の終結を見ることができなかった玲二が、頭をわしゃわしゃと掻き乱す。
「正史側の動きは?」
「うむ、PMCU側の動きは活発だ。アメリカ大陸はもはや拮抗・・・やや押され気味といったところだ」
スクリーンに映るのは赤に染められた世界地図だった。
「ここエリア51を含んだ米国主要拠点は、先制攻撃によって壊滅的な打撃を受けた」
アジアと中東はほぼ全域。アフリカに関しては完全制圧に近い。ヨーロッパは完全制圧された中東からの触手にむしばまれていた。
対して中南米はそれなりに善戦らしい。
「ジェームスの予想通り正史側の攻勢が狙いだったか」
「外史で得られたアドヴァンテージも無し。正史は押されっぱなしか」
「そうでもないよ」
ブリーフィングルームに眼鏡をかけた初老の男性が入ってくる。
Hal Emmerich/Otakon
CV:田中秀幸
「技術顧問」
「やあ、スネーク。起きたみたいだね」
かつてソリッド・スネークの相棒を務め、その最期も看取った目撃者だった。
孤児院で英雄譚を聞いて育った一刀にとっては彼もまた生ける伝説だ。
「みんな元気そうでなにより。あの時みたいに満身創痍じゃないぶんアドヴァンテージはあるさ」
「オタコン、嫌みか?」
そう返した司令もかつてソリッド・スネークと共に戦った英雄だった。
「けどメンタルが大事だって・・・ローズもきっとそう言うんじゃない?」
急に妻の名前を出されて司令が黙り込む。
「それに時間は僕たちに力を与えてくれた」
「力・・・?」
「完成したか?」
司令の期待に満ちた表情に頷き、技術顧問はおいでという手振りと共にブリーフィングルームを出て行く。ジェームスはケインの車椅子を押し、一刀もそれについていく。
彼に付いていくとTop-secretと書かれた部屋の前にたどり着く。技術顧問はIDカードでそこを開け放つ。
そこには一つの兵器が鎮座していた。
「これは・・・」
「戦争は変わった。メタルギア月光が戦場を闊歩する今、歩兵の戦術的価値は失いつつある。これはその局面を大きく変えるものだよ」
再び一刀はベットに入っていた。
少なくとも一ヶ月は安静にという医師からの指示だった。
「退屈そうだな」
横のベットにはケインが実に暇そうに成人雑誌を眺めていた。
「そう見えるならまだ余裕がある証拠かもな」
あくまで天井を眺めながらそう言った。
一刻も早くあの兵器の操作をマスターしPMCUのクーデターを阻止しなくてはならない。
「PMCは何故クーデターを起こしたのだろうな」
ふとそんな言葉が一刀の口からこぼれた。
「言ったはずだ。正史における戦争には信念は存在しない、ただの利益行為だ。軍事産業でしか国を継続できないアメリカが産み、冷戦が育て、世界が苗を植えた。その果ての話だ」
「利益主義・・・いや、企業主義と言うべきか」
「言えて妙だな。奴らの戦争に世論や大義名分はない。利益を生み出さない国家や政府に見切りを付けた。それだけだ」
ケインはベットから起きあがり、雑誌を床に設置する。
「確かに世間は腐りきっているかもな。物質世界は終わり権力と情報という虚無の力が世界が支配している」
20年前の動乱はその世界終焉の予兆だったのかもしれない。
「その世界に国家は要らない・・・か」
「国家解体戦争(※1)・・・か。パックス・エコノミカ(※2)とはよく言ったものだ」
一刀はどこかで聞いた単語を紡ぎ出す。何れイデオロギーは変革し進化していく。今はその改変期なのかもしれない。
「だがそんなことのために戦争を起こすだろうか?それこそ革命的な技術があるわけでもなし、一気に戦争を終わらせるわけでもなし・・・」
「・・・もっと大局的な、何かがあるのかもしれないな。あるいは利益の向こうにある何かが」
不意にジェームスが部屋に入ってくる。
「単純に革命したいのかもしれないぜ?今の世界の構図が気に入らないとかな」
そういって先ほど床に設置された雑誌を拾い上げケインに投げ渡す。
「おいおい、こんなところに置いてあったらホイホイ釣られちまうじゃねえか」
「実戦盥が落ちてきて死んでるな」
ジェームスとケインは痴話話を始める。
「ありのままの世界をありのままに残すのに最善を尽くす・・・か」
「誰の言葉だ?」
痴話話から戻ってきたケインが一刀に問いかける。
「・・・ザ・ボス(※3)の言葉だ」
「一刀、お前は何で軍の機密事項に詳しいんだ?ビッグ・ボスはともかくザ・ボスの情報なんて一般人はとてもじゃないが・・・」
「司令や技術顧問、それに二人が保管していたソリッド・スネークの遺品からいろいろ・・・」
「メタルギアサーガか」
小さい時にケインが一刀に聞かせた英雄譚。まだその物語は終わってなかったのだ。
「だがそれも一年に終わる。俺たちが終わらせる」
「今は俺たちの体力を戻すのが最優先だ。今は待つしかない」
ジェームスの言うことは一番正しかった。
動けない苛立ちは残っている。ケインジェームスも下ネタで盛り上がっているが、動けないもどかしさと悔しさは皆一緒だろう。
「そうだな・・・」
注釈
※1:国家解体戦争
アーマードコア4より引用。人口爆発やエネルギー供給の問題から統治能力を失っていた政府に見切りを付けた企業が国家を下した戦争。
※2:パックス・エコノミカ
これもアーマードコア4より引用。経済による平和を意味する。国家解体戦争後、企業が唱えた理念を皮肉った言葉。限りある資源を節度有る再分配を最適に実現する制度。事実上の社会主義であり、同時に奴隷制度でもある。
※3:ザ・ボス
MGS3とMGSPWの主人公、ネイキッド・スネークの師。作中人物に二十世紀における完璧な人間と称され、西側では特殊部隊の母、東側では戦士と数々の称号と栄誉を持つ。時代に翻弄され最期は最愛の弟子ネイキッド・スネークに命を絶たれるが、その存在感は死んでなお人々に影響を与え続けた。
* *
おまけ:無かったと願いたい裏話
ゴースト「ヒャッハー!外史はパラダイスだぜ!!」
フォックス「ロリ!巨乳!ツンデレ!」
スネーク「待て、二人とも。性欲を持てあましすぎだ」
フォックス「そういえば、お前は浮いた噂は出てこなかったな。手は出したのか」
スネーク「いや、出してないぞ」
フォックス「ヒソヒソ・・・(ど・・・て・・・)」
ゴースト「ヒソヒソ・・・(勃・・・不・・・)」
スネーク「二人とも、消し炭になりたいようだな」
第一話参考画像(張り忘れました)
メタルギア月光(作中では二脚兵器と呼称)
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この作品について
・MGSと真・恋姫†無双のクロスオーバー作品です。
・続きものですので前作一話からどうぞ。ttp://www.tinami.com/view/99622
執筆について。
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