「お疲れ様、月」
そういって舌戦から帰ってきた月を迎える詠
「うん。…皆、大丈夫かな?曹操さんは何か感づいてたみたいだけど…」
「大丈夫よ。私とねね、それに一刀の三人で考えた策だもの。後は皆を信頼しましょう。…じゃあ僕も動くわ。気をつけてね、月」
「うん、詠ちゃんも気をつけてね」
そういって詠は本陣を離れるのだった…
董卓軍 先陣
「さーて、敵さんが来よったでぇ」
「そうだな…華雄隊、張遼隊聞けぇ!!前方に見える夏候姉妹の軍に当たるぞ!!かかれぇ!!」
そういって兵たちを鼓舞し、霞と共に先陣を切る華雄
「まあええけど。華雄?自分の役割わかっとるやろなぁ」
「ふっ、わかっているさ…なにせ、私たちがこの戦いの鍵なのだからな」
そういいつつ更に速度を上げ、敵に向かっていく華雄
「まっわかっとるんやったらええねん。ウチも今の華雄の事は信頼しとるからな…じゃいくでぇ!!」
その速度のまま華雄、張遼の隊は夏候姉妹へと突撃していった
曹操軍 先陣
「来るぞ、姉者!!」
開戦後、全速でかかって行った曹軍とは違い、ゆっくりと展開をしていた華雄、張遼の先陣部隊だったが曹軍が目と鼻の先に来た途端、速度を上げて向かってきていた
「ああ…。三度目の正直という奴だ張遼!!あの時の決着、今こそつけるぞ!!」
夏候惇はそういうと敵の先陣を切る張遼に切りかかっていく
「あ~、また惇ちゃんかいな。何かと縁があるな…いや、寧ろ縁がないんか?」
夏候惇の一撃を飛龍堰月刀で捌きながら霞が嘆息する
「何を訳の分からん事を!!」
夏候惇の猛攻とそれを捌く霞
その舞踏のような打ち合いは十数合と続いた
「行くぞ夏候淵!!」
そういって金剛瀑斧を振りかぶりながら夏候淵に肉薄する華雄
「くっ!やるな…ならこれでどうだ!!」
手にした弓、牙狼爪で華雄をいなしつつ、弓による超至近距離かつ連続射撃で対抗する夏候淵
「ぐっ!…お前こそ、遠距離専門とばかり思っていたのだが接近戦でもなかなかやるものだ」
そういって更に踏み込んでいく華雄と隙を見て華雄を迎撃する夏候淵
こちらもそのまま一進一退の攻防を続けるのだった
兵たちが入り乱れ、乱戦となっている戦場にある影が切り込んでいく
「む?…夏候淵。どうやらここまでのようだ。霞!!」
「あん!?…何やもうきたんかい。やっぱ縁が無い見たいやな、惇ちゃん!!」
「だから何をいっている張遼!!」
そういって華雄と共に退く霞…夏候姉妹はそれを追おうとするのだが
「なっ!!ぐはぁ!!」
「あ、姉者!!…何故貴様がここに…!!」
夏候姉妹の追撃はその影に阻まれるのだった
中央の戦闘の暫く前 ある森の中
「そろそろだな…」
ここに伏せている千旗ほどの騎馬隊を率いる武将、翠が一人呟く
先ほど舌戦が終わり、両軍が激突間直でありそろそろ打って出る好機であった
「よし行くぞお前ら!!」
そういって森を出て、曹操本陣へ向かう…すると森を抜けた所にある丘の影から楽、于、李の旗と共に数千の曹操の兵が出てくるのが見えた
「そこまでだ、馬超!!我が名は楽進!!この先へは行かさぬぞ!!」
「私は于禁なの!!貴方たちの考えなんてお見通しなの」
「ウチは李典や!!…いくら錦馬超といえど、うちらを抜いていく事はできへんやろ」
そういって名乗りを挙げる三人の将…それを見て馬超が嘆息する
「はぁー。やっぱ私のほうが貧乏くじじゃないか。一刀の奴、もしかしたら成功するかも、なんていって期待させやがって…」
「何をいっている!?馬超、お前は自分の現状が理解できているのか!?」
楽進がそう叫ぶが、それを聞かず馬超は続ける
「まあ、それならそれで作戦のためにこいつら相手にしなきゃ何ねーからなぁ…おっと、言っちゃまずかったか」
「作戦?作戦って…」
ばつが悪そうな顔をする馬超の言葉に于禁が首をかしげる…同時にその言葉に只事ではない気配を感じた楽進が叫ぶ
「沙和、真桜!!急いで本陣に…〈ドゴォォン!!〉っく!!」
そんな楽進たちに一撃を見舞いつつ馬超が言う
「悪いけど本陣に返してやる事はできないんだ。一人一人じゃ逃げられちまうから、三人一緒に相
手してやるよ。…お前等!敵を一人たりとも逃がすなよ!!」
そう部下たちに命じつつ、銀閃を三人に向け馬超が叫ぶ
「錦の武将、錦馬超!!参る!!死にたい奴からかかって来い!!」
そういって馬超は三人に突撃していくのだった…
「…おかしいですね」
本陣で戦況をみていた郭嘉がそう呟く
「おかしい?どこがよ」
郭嘉の呟きに荀彧が反応する
「分からないですか?凪たちからの伝令が無い。馬超と接触した際はこちらに伝令を送るように命じてあるのですが…」
「馬超にてこずっているだけじゃないの?」
そう答える荀彧…だが、その荀彧の言葉に曹操が言う
「桂花、油断は大敵…そんなことも分からない軍師は私の覇業に必要ないわ。反省なさい」
「は、申し訳ありません!!華琳さま!!」
そういって頭を下げる荀彧
曹操はそんな彼女にいいわ、と答えると郭嘉に向かって問いかける
「稟。そちらも気になるけれどこの戦況をどう見るかしら?」
「はっ。…どう、といわれましても夏候姉妹の隊と華雄、張遼の隊がぶつかり、硬直状態となっているとしか…」
戦場では二つの軍が入り乱れているがどちらがどちらを撃破したという報は届いていなかった
「そこが問題なのよ。春蘭、秋蘭の二人ならば張遼、華雄らと互角の戦いができるでしょう…なのに二人からも戦況を知らせる伝令が来ない。それにいくら馬超がこちらを狙って来ているとはいえ、呂布を動かさないのはどういうことかしら?」
敵の本隊周辺を見ると、呂布の旗はおろか、十文字の旗、賈詡の旗も微動だにしていなかった
当初は馬超の奇襲が成功するまで本陣の護衛をしているものだと思っていたがここまで拮抗している状態の戦場に投入する気配が全く無いのは異常といってもよかった
「確かに。では…「うわぁ!!」何事だ!!」
周りが騒がしくなったと思うと、ボロボロになった伝令が入ってくる
「も、申し上げます!!敵本陣の旗は偽装です!!奴等は…ぎゃあ!!」
そこまで言いかけたところで本陣に突入してきた侵入者に切りつけられる
「あ~残念、バレてもうたか」
「ああ。だがここまでくれば同じ事だろう」
そういって本陣に乱入してきたのは…戦場の中心部で戦っているはずの華雄と張遼だった
「な…!!貴様等が何故ここに!!」
「いやぁ何故言われても…」
霞が言おうとすると親衛隊の許緒と典韋が間に割り込んでくる
「華琳様!!お下がりください!!」
「お前等なんか、華琳様に指一本だって触れさせはしないぞ!!」
許緒と典韋が二人に襲い掛かる…だが
「筋はええけどまだまだ若いなぁ…うらぁ!!」
「うわぁ!!」
「ああ、まだまだ伸びるだろうが、今のままでは我々の敵ではないな…ふっ!!」
「きゃん!!」
華雄と霞に一撃の下に下されてしまった
「さて…。まだやるか?」
二人に武器を突きつけられた曹操…だが、落ち着いた口調で問いかける
「…先ほどの伝令がいっていたことが確かなら…今、あの二人の相手をしているのは呂布ね?」
「ああ、そうだ」
旗の偽装…それこそが今回の作戦だった、と華雄が語りだす
華雄と霞の旗をもった恋、詠、一刀の隊を率いて敵先陣と激突
頃合を見て出てきた恋が夏候姉妹を一人で食い止め、一刀が恋と自分の隊をひきいて姉妹の兵を、詠が遊軍となり伝令兵を逐一潰して回っていたのだった
そして手隙になった二人が他に潜ませていた自軍を率いて曹操軍の本陣を急襲、今に至るという
「…待ちなさい。じゃあ董卓の本陣には…!!」
何かに気付いたように曹操が問う
「そや、親衛隊が百人ぐらいおる他は兵の振りした人形と持ち主のおらん旗がぎょーさんあるだけやで。元々兵力ではちょっと負けとったから無茶せんとあかんかったからな」
「本陣に兵が百ですって!?」
今度は荀彧が驚きの声を上げる…それもそのはず、一番守らなければいけない本陣ががら空きなんていうのは想定外どころか普通考えもしない事だった
「そやで…。まったく、ウチ等でさえおどろいたんやから月の度胸には恐れ入るわ」
「…そう、私は武人が自分の旗を人に預けるはずが無いという固定概念と、董卓の無謀とすら言える度胸に破れたというわけね」
旗とは武人の誇りであり、本来であれば自分の武勲を証明する物であるからそれを偽装するなどとは想定外だったのだ
「ま、ウチ等は誇りはともかく武勲についてはちゃんと分かってくれとる大将が居るからな。…さて、おしゃべりはここまでや。恋も何時までもあの二人相手にしとるんはシンドイやろからな」
「そうだな…。曹操、降伏してもらおうか」
「…わかったわ。稟、桂花。曹の牙門旗を降ろしなさい」
「しかし!!」
「敵を読みきれなかった私達の負けよ。…稟、桂花、御免なさい」
「そのような事…!!」
「そうです!!我々が至らないばかりに…!!」
「それでも敗戦は私の責任よ。…もう一度言うわ、牙門旗を降ろしなさい」
「「…御意!!」」
こうして曹操は董卓軍に降伏したのだった…
奇襲部隊
「な、凪!!沙和!!華琳様の旗が!!」
「え!?」
「な…!!」
三人が見た本陣は曹魏のが降ろされていた
「ふう、あの二人成功させたみたいだな…それで、お前等はまだやるか?」
明らかに戦意を無くし、落胆している三人に翠が問いかける
「…華琳様が負けをお認めになったのだ。我々が意地になって抗戦すれば華琳様の名に傷がつく…。降伏する」
「分かった。お前等は本陣に連れて行くからな…誰か!!縄をもて!!」
こうして楽進、李典、于禁の三人は翠の部隊に降伏したのだった
戦場中央
「あ、姉者!!華琳様の旗が…!!」
「なっ!!…クソッ!!張遼たちか…!!我々が至らないばかりに!!!」
そういって崩れ落ちる夏候姉妹…それを見た曹魏の兵たちも次々に戦意喪失していった
「霞と華雄、勝った」
恋の言葉に相槌を打つ
「ああ、そうだな…董卓軍の勇士たちよ!!俺達の勝利だ!!声の限り勝鬨を上げろ!!!」
「「「「「うをぉぉぉおーーー!!!」」」」」
こうして董卓軍と曹操軍の会戦は董卓軍の勝利で幕を閉じるのだった…
「やられたわ、董卓。まさか馬超を囮にした二重の伏兵だったとはね」
戦が終わり、おれたちの本陣には曹操軍の将たちが連れて来られていた
曹操の言葉に少し得意げに答える月
「私の信頼する皆の考えた策ですから。それに舌戦で何を企んでいるかと聞かれたとき、私言いましたよ。どの事か分からない、と」
「ふっ…虫も殺さないような顔してるくせにやる事が強かね。…私の負けよ。私の首と曹魏の領土は好きになさい。でも、この子達の命だけは保障して頂戴」
そういって頭を下げる曹操…それを聞いて曹操の将たちが声を上げる
「か、華琳様!!そのような事を言われないで下さい!!」
「董卓殿!!華琳様の命だけは…「黙りなさい!!」っ!!」
口々に曹操を庇う声が上がるがその声を曹操が一喝で止める
「これは戦に破れた王の責任よ。…すまなかったわ、董卓。返事を聞かせてもらえるかしら」
そう促されて、月が口を開く
「そうですね。では曹操さんの領土と命は私が貰います。その代わりに他の将兵の命は保障します」
「そう、礼を言うわ。…では首を取りなさい」
そういって首を差し出す曹操…だが、次に月から発せられた言葉は曹操にとっては予想外のものだった
「首なんていりませんよ。私は貴女の命を貰うといったんです」
「…は?」
意味が分からないといった顔で月を見る曹操だったが気にせず月は続ける
「私達の理想は敵を倒して領土を広げる事でも、天下を統一する事でもありません。そんなことは通過点なんです。乱世を治め、天下の万民が笑顔で暮らせる国を作る。その理想のためには大勢の有能な方の助けが要ります。あなたの命はそこで使って頂きます」
「…つまり私に臣下となれ、と?」
少し違います、と首を振り、月は続ける
「乱世を収めるためには国を一つとしなければいけない。…ですが、私は一人の人間に権力が集まる危険という物を目の当たりにしてきました。有り余る力は持つ人間をおかしくもさせます」
洛陽での政治、宦官が権力のすべてを握ったために起こった悲劇を知っている月の言葉には重みがあった
「ですから、貴女には私が、私達が間違いを犯したときに正してくれる…その役割を頼みたいのです」
「…私が裏切るかも知れないわ」
「だから初めて会ったときに貴女の理想を聞かせてもらいました。あの時のあなたの目には嘘偽りがなかったと自信を持っていえます。もし裏切られたなら私達に見る目が無かったという事です。…私達の仲間に、友になってくれますか?」
そういって月は曹操を見つめる…その眼力に押されたのか、溜息を吐きつつ曹操が言う
「はぁ…。まさか王の器でもこれほどとはね…。私の真名は華琳よ。貴方たちに預けるわ」
「はい。私の真名は月です、よろしくお願いします華琳さん。では華琳さんには今後も魏の領土を…」
月がそういいかけたところで本陣に伝令が駆け込んでくる
「申し上げます!!徐州が袁術に落とされました!!袁一族の圧倒的兵力の前に勝ち目無しと見た劉備は荊州に逃れました!!そして、ほぼ無傷に終わった袁紹軍は曹操との協定を破り許昌に進軍中とのことです!!」
「な、袁紹…!!そこまで愚物に堕ちていたとはね…!!」
「月!!」
俺は月に目配せをする
「はい。…董卓軍出撃準備!!」
そう叫ぶ月に驚きつつ華琳が言う
「なっ…!貴女何を…」
「もう許昌は私達の領土でもあります。それに友となってくれた人の国を、その国の民を救うのに理由は要りません。華琳さんも曹軍を率いてもらいますよ」
「…わかったわ。曹軍出撃準備!!恥知らずにも協定を破り、空き巣が如き所業を行った袁紹を討つわよ!!」
「「「「「おおぉぉーー!!!」」」」」
こうして俺達董卓、曹操連合軍は重症な兵と救護兵だけを残し、許昌へと向かうのだった
「おーほっほっほ!!あのクルクル小娘の悔しがる顔が目に浮かびますわ!!」
袁紹は大軍を率いて許昌の目と鼻の先に来ていた
「れ、麗羽様~!こんな卑怯な真似やめましょうよ!!」
「う~ん。アタイもこんな兵の居ない城を攻めるのは乗り気しないっすよ姫」
顔良、文醜がなんとか止めようと説得するのだが袁紹は聞く耳持たなかった
「うるさいですわよ二人共!!あのクルクル小娘が悪いんですわよ。私の面目を潰すわ、私に宣戦布告するわで生意気なんですわ!!」
「でも、今は停戦中ですよ。それなのに曹操さんの領土に攻め込むなんて、曹操さんが知ったら…」
「心配性ですわね斗詩。いま華琳さんは董卓と戦ってる最中でしょうから勝っても負けてもここに向かう事は…「申し上げます!!」なんですのうるさいですわね!!」
伝令に怒る袁紹だったが焦った伝令は急ぎ口調で言う
「と、董卓が曹操を下しました!!」
「あら、華琳さんたら負けてしまいましたの。まあこれでこの国は…」
「しかし我らが曹操の居城を攻めている事を知った董卓が曹操と組み、こちらに向かっております!!その数十万ほどです!!」
「な、何ですってー!!」
「だから言ったじゃないですかー!!」
驚く袁紹に顔良が言う
「そんなこと言ってる場合じゃないですわ!!全軍…」
「後方に砂塵!!旗は董と曹です!!」
「あ、ありえませんわーー!!」
こうして、慌てふためく袁紹軍を一方的に追い詰める俺たち
袁紹軍は散り散りとなりボロボロのまま本国へ逃げ帰るのだった
「礼を言うわ月貴方達のお陰でわが国の民達を守る事ができたわ」
そういって頭を下げる華琳に月が言う
「言ったはずですよ。友の危機を救うのに理由は要らない、と。ですから礼もいりません」
「…では、改めて誓うわ月。私、曹操こと華琳は董卓の臣であり、仲間であり、友である、と」
「はい、よろしくお願いします華琳さん」
こうして俺達は曹操、華琳たちを降し、中原一帯を手中に治めるのだった…
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董卓IF√十八話です
今回は対曹操戦の最後までなのでいつもに比べると少し長めです
特に苦手な戦闘描写で臨場感の欠片もありませんがあまり厳しい突っ込みはご遠慮頂けるとありがたいです
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けるとありがたいです