愛紗達と華琳達が五台山に着いたのは出発した翌日のこと。お互いここに来ていることは知らない。五台山に着いた後、ここから先は馬を降りて、徒歩で進むことになる。
「はぁ、はぁ・・・まだ着かない・・・のか・・・!」
もうかれこれ歩き続けて、一時間近くになるぞ・・・!
「おい、北郷。もう疲れたのか?少したるんでいるんじゃないのか?」
「はぁ、春蘭達と一緒に・・・しないでくれよ・・・」
けっこう傾斜がきついっていうのに、春蘭はもちろん、秋蘭や華琳も一切疲れた素振りを見せない。・・・一体どんなことしたらそんな風になるんだよ。
「春蘭の言うとおりよ。そんなことじゃ、修行以前の問題よ?」
「確かにな・・・。まぁ、どんな人なのか会ってみたいと分からないしな。」
蒼介が認めるくらいの人だから、期待はずれってことにはならないと思うけど・・・。
「けど、まだ着かないのかよ・・・。もう足が限界に近いぞ・・・」
「ほら、もう少しだ北郷。頑張れ・・・!」
「あ痛っ!」
後ろから秋蘭に喝を入れられる。けど、もう少し手加減をだな・・・。
そんな風にぼやきながら進むうちに、なにやら広い場所に出た。
近くには小屋らしき建造物が二軒。
「ここか?」
「うむ、それらしい建造物も見えんし、おそらくここだろう。」
「はぁ~~・・・やっと着いたぁ~・・・」
俺は情けない声でその場で座り込む。すると後ろの草陰から、呼びかけるような声が聞こえてきた。
「おい、そこに誰かいるのか!」
「へっ!?!?」
後ろからの不意打ちに思わず変な声が飛び出る。
「誰だ!隠れてないで出て来い!」
春蘭の呼びかけに草陰から出てきたのは、予想もできない人物だった。
「お、お前は関羽っ!?どうしてここに!?」
「それを言う夏侯惇や曹操達も、なぜここにいる!?」
出てきた人物は、なんと関雲長と諸葛孔明の二人だった。
「それはこちらの台詞よ。なぜあなた達がこんなところにいるわけ?」
「え、えっと・・・実はですね・・・」
朱里が続きを言おうとした時、小屋の方から男の声が聞こえてきた。
「おいおい・・・こんな山奥でギャーギャーうるせえな・・・」
ガラッと扉を開いて出てきたのは、いかにもさっきまで寝ていたのが丸分かりな、だらしない格好をした龍玄だった。
「龍玄さん!?どうしてあなたここに?」
「ん?おー、どっかで見た顔だと思ったら青年だったのか。・・・それに他の奴らも見た顔だ。一体どうした?」
「どうしたもこうしたもない!龍玄、ご主人様をどこにやった!」
愛紗は背中の青龍刀を龍玄に向ける。そんな姿を見ている俺含めた華琳達はこの状況が全く分からなかった。
「一体どういうことだ?関羽?」
疑問に思った秋蘭が関羽に問いかける。
「こやつは私達のご主人様を誘拐した張本人なんだ!」
「なにを勘違いしている!?お前達のご主人様はなぁ______________。」
「問答無用!でえぇぇぇぇい!」
龍玄が事を説明する前に、愛紗が手に持った青龍刀を振り下ろす。
「ちょ!?だから話を聞きなさいって!」
龍玄はギリギリのところで右に避け、愛紗の斬撃を回避した。
「ああ・・・愛紗ったら事情を聞かないで・・・止めてください、愛紗さん!まずはお話を聞きましょう!」
「はっ!す、すまない朱里・・・。つい我を忘れて・・・」
朱里が愛紗を鎮めて、事の事情を愛紗に説明する。
「・・・ようするにだ。お前達のご主人様は、『自分の意思』で俺に修行して欲しいって頼んできたわけよ。分かってくれるか?」
「な、なるほど・・・だが、肝心のご主人様はどこにいるのだ?」
「あいつなら、ちょうど薪が切れたから薪拾いさせてるところだ。・・・っと来たな。おーい!」
と龍玄が呼ぶと、小屋の方の林から薪を手一杯持っている蒼介が出てきた。
「何ですかぁ・・・って愛紗に朱里!?お前達どうやってここに?」
「ああ、ご主人様ぁ・・・ご無事で何よりです。」
愛紗は泣きそうな顔で蒼介の手を握り締める。・・・なんだか見てるこっちが恥ずかしくなってきた。
「ああ~・・・ごほん!」
「す、すまない。嬉しくなってつい・・・」
俺は咳払いを一つ。すると、俺達のことを思い出したのか、関羽は慌てて手を離す。
「あ、一刀。手紙を読んで来たのか。」
「ああ、まさかお前の師匠をしているのが、龍玄さんでびっくりしたよ。」
「なんだ、知り合いだったのかよ。お前の驚く顔が見たかったのによ。ハハッ。」
こんな他愛のない会話が妙に懐かしく思えてくる。それは蒼介も多分同じなんだろう。
「さて、そろそろ本題に移させてもらっていいかしら?」
華琳は一件落着したのをみて、本題へと移す。
「修行の師をするのは龍玄、あなたなのね?」
「まぁ、そういうことだ。」
「そう・・・なら一応、あなたの実力を試させてもらっていいかしら?半端な実力の者が師では、意味がないの。」
「なるほどな。それも一理ある。じゃあ誰が相手をするんだ?」
そこで華琳が選んだ相手は、
「そうね・・・春蘭、頼むわ。」
「分かりました!」
元気良く返事をする春蘭だった。確かに春蘭ほどの人を相手をして、互角かそれ以上なら師としてはこれ以上の人はそういないだろう。
「それならば龍玄殿。私も手合わせしてもらっても良いですか?」
それともう一人、立候補してきたのは愛紗だった。
「ご主人様や朱里が認めたその力、ぜひ私も確かめさせてもらいたい。よろしいですか?」
「ああ、いいぜ。なら、二人同時でかかってこいよ。その方が早くて分かりやすい。」
そう言うと、腰に携えた明鏡止水を鞘から抜き、構える。長い刀身に愛紗と春蘭の姿が映し出される。
「・・・後で後悔しても知らんぞ?」
春蘭も目を鋭き光らせ、剣を構える。
「なに、後悔するくらいならこんな戦い挑まんさ。」
「それもそうか・・・なら、行かせてもらう!」
「「はあああああああああっ!」」
愛紗と春蘭、二人の咆哮が斬撃と共に響き渡る。だが・・・。
「なにっ!?」
すでに龍玄が立っていた場所には本人の姿はなく、刃が空を切る。
「ど、どこにいった!?」
「・・・っ!!」
愛紗は背中から只ならぬ殺気を感じた。しかし気づいた頃にはもう、
「遅い。」
愛紗の首筋に刀身が当たる。
「ま、参りました・・・」
「・・・!ま、まだ私がいる!はあああああっ!」
春蘭は体勢を立て直し、再び剣を振り払う。しかし、
「ふん・・・!」
「うわあっ!」
龍玄は素早く屈み、春蘭に足払い。そして倒れた春蘭に刃の先を向ける。
「どうした?もう終わりか?だらしないね~」
「・・・くっ!参った・・・」
勝負は一瞬にして龍玄の勝ちに決まった。しかし二対一の状況で、しかも春蘭と関羽を相手にしても手玉に取っているような余裕だった。
見ていた俺や蒼介、華琳達は呆気に取られていた。
「まさかここまでとは・・・」
あの秋蘭でさえ驚愕の色が隠せないでいる。
「これで決まりね。一刀・・・あなたはこの人のところで修行するといいわ。私達のためにも、あなたのためにも、ね。」
「ああ、俺強くなってみせるよ。飛鳥を救うためにも。絶対に。」
「だな。あいつを救わなくちゃいけないのは俺達だ。やるぞ、一刀!」
「ああ!龍玄さん!」
「ん?どうした?」
「「これからよろしくお願いします!」」
「ふぅ・・・これからビシビシやってやるから覚悟しとけよ、青年!」
「「はい!」」
雲一つもない晴天の日。こうして、龍玄さんの指導の下、俺と蒼介の過酷な修行が始まった。
※どうもお米です。長らくお待たせさせてしまって申し訳ありません!これから前よりも忙しさは減ると思うので、更新もできると思います。ですので、この物語も完結まで誠心誠意書かせていただきたく思います。さて、次回からは修行編となります。そろそろこの物語も終端へと近づいていくばかりですが、応援してくれるみなさんのためにも、一生懸命頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!それでは失礼します~。
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長らくお待たせしました、第二十二話となります。この待たせた分だけ頑張りますので、これからもこの小説をどうぞよろしくお願いします!