No.144133

真・恋姫†無双 ~祭の日々~29

rocketさん

…えー、お久しぶりです。生きてます、Rocketです。
一か月近く投稿拒否ですみませんでした。
一度書いてから、「あれ?なんか違う」と思ってデータを自ら消したのが運の尽き。そこからさっぱり思いつかずに時間が経ってしまったのです。なんかイマイチ祭さんが出ませんが、まあラストに向けての前フリってことで…。
楽しんでもらえたら幸いです、ではでは!

2010-05-19 17:29:23 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8921   閲覧ユーザー数:6088

 

 

 

「…とまあ、こんなことがあったのだ」

 

そういって話を締める秋蘭に、俺はしばらく言葉を継ぐことができなかった。

何度も何度も口を動かそうとして失敗する。発するべき言葉を見つけられないからだ。

 

「桃香…が」

 

ようやく出たのは、そんな言葉ともいえないようなもので。

ただ俺は、ひどく感動していたのだった。

 

俺は桃香に会ってまだ日が浅いけれど、桃香のことをよく知っているとは口が裂けても言えないけれど――彼女のの悩みの一片くらいは知っているつもりだ。

桃香がどれだけ悩んで、どれだけ苦しんだか、ほんの少しだけは慮れているつもりだ。

だから、うれしい。

俺が何をしたわけじゃない。何をしてあげられたわけでもない。けれど、桃香が自分で考えて、自分で立ち上がれたことが、俺はどうしようもなくうれしかった。

 

「…わかっているのかな、お前は」

「へっ?」

 

気づくと、感動にうち震えている俺を、秋蘭がなにやらジト目で睨んでいた。

「どうしたの、秋蘭…?」

「…いや」

言いたくないとばかりに首を振って話を断ち切る秋蘭。

 

「体調はどうだ?悪くないか」

「ん、あ、ああ…大丈夫。ぴんぴんしてるよ。毒とか本当に信じられないくらいさ」

 

手を開いたり閉じたりしてみるけれど、全然違和感がない。

刺された腹はもちろんジクジクと痛んでいるけれど、毒がどうとかは正直実感が持てなかった。

「あまり動くな。そういう毒なのかもしれないだろう」

「うーん…」

 

襲ってきた男のことを思い出す。

刺されたりとか、毒だとか…あいつは一体何者なんだろう?俺は彼に、一体なにをしたんだろうか。

刺されるのも大概だけど、毒とかもう、恨みが半端じゃない感じがするよな…。

 

「さて、では私は皆にお前が目覚めたことを伝えてこよう」

「ん、わかった。頼むよ」

 

そういって秋蘭が立ち上がり、俺は座ったまま見送ろうとする…と。

不意に頭を引き寄せられ、唇になにかが触れた。すぐに気づく。触れているのは、秋蘭のそれだ。

 

「しゅう…らん…」

「お前は本当に、もう…」

「いでっ」

 

唇を軽く噛まれ、悲鳴を上げる。

それを意に介さないまま、秋蘭は振り向かずに部屋を出て行った。

 

 

「…わかっているのかな。桃香殿があんなに頑張ったのは、お前のためだろうに」

 

そんな声が、聞こえた気がした。

 

秋蘭が出て行って、俺は手持無沙汰になってしまった。

なにせ病人だ。動いたら傷が痛むし、そもそも何をしても怒られそうな気がする。

かといって何もしないというのもつまらない…。

何か考えようとするのだけど、それもまとまらない。浮かんでも益体のないことばかりで、すぐ消えてしまうのだ。

「うーん…大事なこと…大事なことを考えよう」

大事なことならば考えも長持ちするはずだ。そう、せめて、秋蘭が帰ってくるまで持てばそれでいいのだから…。

「あ…」

と、不意に浮かんできたものがあった。

決して忘れない、忘れるはずがない、大事なひとたちのこと…。

 

「…あ、れ?」

 

頭が重くなる。視界が暗くなって…靄が、かかる、みたいに。

 

「…俺、今なに考えてたんだっけ…」

 

わからない。

頭が霞んで、思考が回らなかった。

なにかを考えていたのに…大事なことを、考えていたはずなのに。

 

ぞくり、と背筋が震えた。

何かはわからない。でも確かに俺は何かを恐れている。何かが嫌で仕方がない。何かは…わからないのだけど。

胸になにかがつかえているからか。

 

体調が悪いから?なら、少しでも寝たほうがいいかな…××が戻ってくるまで。

 

「んん…?」

 

また、違和感。

自分の考えたことに自信が持てないこの感じ。

 

「やばいなー…やっぱ寝よ。起きたらきっと…」

 

きっと治っているだろうから。

この違和感も、胸につかえているなにかも、消えてくれるだろうから…。

 

「なに、一刀が起きたと?」

 

外で待機していた面々が、秋蘭のその言葉に顔をほころばせた。

「ああ、体調は悪くないらしい。それもある意味不安ではあるがな…」

「意識が戻らないより、ずっといいわ」

「そうですねっ、もう会っても大丈夫なのですか?」

「ああ、大丈夫だと思う」

 

皆がぞろぞろと一刀の部屋を目指して歩いていく。と、秋蘭はひとりだけ身動きしない人間がいるのに気がついた。

 

「祭殿…?」

「ん」

 

呼びかけて、ようやく気づいたように面を上げる祭。

「なにか…?」

「ああ、いや。ちいとばかし、嫌な気がしただけじゃ」

「嫌な気?」

肩をすくめて見せる。

「気持ちの整理…ついたと思っておったんじゃがなあ。我ながら情けない。まだしこっておるのかな」

守れなかったこと。みすみす傷つけられたこと。

「…あまり、気に病まれないほうが。土から出てくるなどと、そんな妖しげな術を使われては…」

「ああ、わかっておる。行こうか。一刀にも、気を抜くなと説教してやらんとな」

 

ふたり、連れだって歩きだす。

祭はそれでもまだ…心にひっかかっている不安を取り除けずにいた。

 

 

 
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