戦乱の世を開いた黄巾党による暴動は、主導者の張3姉妹の討伐により幕を閉じた。
1ヶ月の後、蓮聖達に吉報が届く。
後漢王朝第十二皇帝、霊帝の死去。
それは、漢王朝が滅亡間近という事を意味する。
諸侯達が動きを活発にするキッカケにもなり、正に、世は群雄割拠する真の乱世。
その時、各地の諸侯に檄文が届いた。
当然、蓮聖達、孫呉にも。
反董卓連合の召集。
待ちに待った、乱世の混乱。
独立に向けて、孫呉は歩みを進める。
今こそ、好機と信じて!!
揺れる揺れる・・・頭がぐわんぐわんと鳴る程に、一刀は揺れていた。
「なあ・・・俺達、何処向かってんだ?」
今の現状において最も聞かなければならない事を問う。
「あ?言ってなかったか・・・この前、檄文来ただろ?あれに召集されて、今、反董卓連合の本陣に向かってる訳。おわかり?」
「わかったけどさ・・・うん。わかった。だからこれ解いて?」
「えぇー」
「いや何でだよ!?」
現在、蓮聖達は反董卓連合の本陣に向け行軍中だ。
今回の召集をかけたのは袁紹。
袁術の従姉に当たる訳だが、どうやら袁術は袁紹の事が嫌ってるらしく、かなり嫌がってた。
そこを雪蓮が・・・
『皇帝になれるかもしれないわよ・・・?』
と、囁き、もっともらしい理由を立てると、バカでアホで無能な袁術+1名は信じ切ってしまい・・・・・・うんぬんかんぬん。
という訳で・・・行軍してる・・・のだが・・・・・・
「なぁ・・・そろそろ教えてくれない?何で俺さ・・・蓮聖の馬に縛りつけられてるの?」
縄でぐるぐる巻きにされ、しっかり・・・という風でもなく固定されている一刀。
馬の上は不安定で、少しでも動けば落ちそう・・・というか半分落ちてる訳で・・・
昨日眠りについた後、起きたら既に揺れる馬上だった一刀は何が何だかわからない。
多少現実逃避していたものの、やはり聞かずにはいられなかった。
「だってさぁ・・・・・・行軍中つまんねぇじゃん?」
「降ろせ!今すぐ降ろせ!!何でお前の退屈凌ぎの為に俺が死の境を彷徨わなきゃならん!?てか、せめてこれしっかり結べ!さっきから揺れる度にずれて落ちそうなんだよ!」
「・・・・・・・・・・・・ふぅん」
「何でそんな興味なさげなの!?なぁ!頼むから・・・って・・・え・・・ちょ・・・・・・蓮聖・・・?ずり落ち・・・という・・・か・・・・・・・・・んぎゃあぁぁあぁあ!!」
するっ・・・と縄が解け、一刀が落馬した。運良く足から着地したものの、転がり転がり・・・
「しーしゅーん。一刀拾っといてくれー」
「・・・・・・」
思春が蓮聖の呼び声で、ひょい・・・と地面の一刀を持ち上げる。
「・・・・・・」
そして、ひょい・・・と投げ捨てた。
「うおぉおおおおぉい!?」
「拾いはした。その後は知らん」
再び転がる転がる・・・結局、後ろの方にいた冥琳が一刀を拾う結果となった。
「まあ・・・何だ・・・・・・あんまり気に病むな」
「・・・・・・・・・むり」
そして数刻後、蓮聖達は反董卓連合の本陣に到着した。
「ふぃ・・・やっとついた・・・ああ、退屈だっ・・・・・・・・・すんません」
我が人生・・・今なら倒せないものはなし・・・・・・そう言い切れる一刀。
その眼光は蓮聖を怯ませる程のものだった。
その様子に深い溜息をつき、一刀は改めて本陣を見渡す。
「あれ・・・そういや蓮華や祭は?穏もいないような・・・」
「あいつらとは別行動だ・・・何だ?蓮華達が隣にいねぇと落ち着かんのか?」
「ガキじゃあるまいし・・・そうじゃない・・・・・・」
実際少し寂しさを感じている一刀・・・蓮華とはわかりあえたのだから、もっと一緒にいたいというのが本音だ。
「・・・・・・んじゃ、大将達んとこ行ってきますかね・・・雪蓮、一刀、行くぞ」
「ええ」
「え?俺も?」
「今日お前の存在を明かす。反董卓連合は今、大陸中が注目してっからな・・・いい機会だ。いいな。お前は胸はって、肝座らせとけ」
「あ、ああ・・・」
困惑しながらも、その表情にやる気が出てくる。
覚悟は・・・とうに出来ていた。
「よし・・・行くぞ」
「失礼するわよ」
雪蓮が大きな天幕の中へと入り、それに蓮聖と一刀が続く。
「あーら孫策さん、美羽さんは?」
金髪くるくる・・・曰く、袁紹。
彼女は上座に座っており、いかにも立場が上ーってのを見せつけている。
「袁術ちゃんならもう少しで来るわよ。途中で『蜂蜜水が欲しいのじゃー』とか言って、行軍止めちゃったから」
と、噂をすれば何とやらか、袁術の小さい体が張勲と共に天幕へと入ってきた。
しかし、その表情はふくれっ面。恐らく、蜂蜜水も何も貰えなかったのだろう。
その様子を嬉しそうに・・・でも表情には出さず、雪蓮と蓮聖は見つめて席に着いた。
数分して、次々と諸侯の代表が入ってくる。
曹操、公孫賛、劉備・・・黄巾党で名を残した諸侯達。
全員が揃った所で、袁紹が甲高い声を上げた。
「それでは、最初の軍議を始めますわ!恐らく、知らぬ顔もいるでしょうから、そちらの方から名乗っていただけません?」
「ん・・・幽州の公孫賛だ。よろしく頼む」
と、雪蓮とは反対側にいる赤髪の女性が答えた。
「平原郡の劉備です。こちらが軍師の諸葛亮・・・」
公孫賛の隣の少女が答え、その隣にいたさらに小さい少女が頭を軽く下げる。
「涼州の馬超。今日は馬騰の名代として・・・」
「なにぃ!?おばちゃん来ないの!?」
「ひゃ!な、何だよ・・・そうだけど・・・」
「えぇ・・・酒でも飲もうと思ってたのになぁ・・・・・・」
突然叫び声をあげた蓮聖はそのまま意気消沈。
「ちょっと。どちらの方かご存じないですけど、もう少し静かにしていただけます?」
「うるせぇ小娘。てめえの指図なんぞ聞くかっつうの」
ぴき・・・と、空気が固まった。
ここにいる中で、袁紹は1番力を持っている。
統率者ではなく、質でもなく・・・単純な数と装備で。
その袁紹相手に・・・・・・
諸侯達の中で、あの男は何者か知らんが消えるな・・・という思いが走る。
曹操と雪蓮達を除いて・・・だが。
「な・・・ななな・・・何なんですのあなた!!ちょっと孫策さん!?部下の育てがなってませんわよ!?」
「だって部下じゃないもの」
「だとしても・・・・・・」
「るせえ、名乗ってる途中だろうが。横槍だしてんじゃねぇよ」
「いや、お前が言える事じゃないと思う」
一刀の静かな突っ込み・・・袁紹も同意見だが、とりあえずあるのかどうかもわからない『威厳』を気にして、落ち着いた。
「典軍校尉の曹操よ」
曹操はそれだけ言うと座る。
「ん?妾か?袁術じゃ・・・・・・」
「もぅー、美羽様元気だして下さいよー・・・ええと、私は美羽様の補佐をしている張勲と申します。こちらは客将の孫策さん・・・と、他の方は知りません」
「私が紹介するわ。こちらは我が兄、孫・・・」
「ま、俺の事なんてどうでもいいんだわ。重要なのはこっち」
と、雪蓮の言葉を遮って一刀の肩を叩く。
「こいつの名は北郷一刀。見ての通り、奇怪な格好してるが怪しいもんじゃない・・・この大陸に真の平和を齎す存在・・・『天の御遣い』だ」
ばっ・・・と、劉備が反応を示す。
他の諸侯達はへぇ・・・と興味を示す程度。
やはり・・・噂はちゃんと大陸を走り抜けている。
時間をかいがあるというものだ・・・と、薄く笑った。
「天の御遣いたる一刀は、我が孫家が匿っている。今回は、貴君らにも会わせたく思い、連れてきた・・・顔は覚えたな?よし、んじゃあ一刀。外出てろ」
「え?いいのか?」
「ああ。紹介だけだ。それに、まだお前には見せたくないしなぁ」
朗らかな笑みを浮かべながら、蓮聖は一刀の背を押した。
「?」
一刀は?を浮かべながら天幕を出ていく。
ふう・・・と、蓮聖が息をついた。
「お初にお目にかかる」
瞬間、空気が変わった。
それは、英雄と呼ばれる人間が出せる空気。
圧倒的な重圧。
ただその場にいるだけで、己との差を見せつけられるかのよう。
「ひっ・・・」
英傑とは言えぬ、袁紹を始めとする人間がその空気と蓮聖の眼光に怯え、後ずさる。
平静でいるのは曹操、雪蓮・・・1度は驚いたものの、持ちなおした劉備、馬超。
それらを視界に入れながら蓮聖が続ける。
「我は、江東の覇人、孫覇と申す者」
「孫覇・・・って、あれ?」
馬超が声を上げた。
「ほお、ご存じか。馬騰殿は息災か?」
「あ、ああ。今は五胡の対応に追われていて・・・それで私が来たんだ」
「・・・・・・成程。まあ、驚くのも無理はない。風の噂で、我が死んだと聞いた者も少なくはないでしょうからな。しかし、我は生きている。これからも我が妹、孫策の所で厄介になるつもりだ・・・袁術殿も、ご挨拶が遅れて申し訳ない」
「ひぇ・・・く、くく、苦しゅうない」
「よろしく頼む・・・・・・それでは軍議をはじへぶっ!?」
途端、空気が元に戻り、蓮聖からも眼光が消える。
見れば、蓮聖の頭に雪蓮の手刀。
「その言葉づかい止めてよ兄さん・・・笑いがこらえきれないから」
後もうちょっとで爆発しそうな表情。
明らかに空気を読んでいない行為だが、兄妹だからこそ、蓮聖が諸侯を試す為にやってるという事がわかった。
「酷ぇな・・・何も叩くこたぁねぇだろ?」
「と、とととにかく、名乗りを・・・わたくしの名は・・・・・・」
「別にいいだろ?この名乗りは知らぬ方も・・・で始まったんだから。お前は誰もが知ってるからなぁ・・・なあ、曹操?」
と、隣の曹操に視線を投げる。
「ええ、そうね。それより早く軍議に移りましょ」
曹操が蓮聖の視線に気付き、相槌をいれた。
「だな。その方が手早く済む。それに名乗りって軍議を円滑に進む為のもんだろ?」
馬超も加担。
「そ、そうですか・・・まあ、いいですわ・・・では、軍議に移りましょう。進行は・・・」
「ああ、ほら、いいから。誰でもいいからさっさとやっちまおうぜ。んじゃあまず」
「って、何であなたが仕切ってるんですか!?」
「あ?だって誰が仕切るかなんて知らねぇし。だったら、誰でもいいだろ?」
「だからわたくしが・・・」
「ええと、まずは現状の確認と目的の明確化だな。袁紹、説明を・・・って無理か。公孫賛、頼む」
「きぃ―――!!何で無理なんですの!?そのぐらい出来ますわ!!」
「私達の目的は都で横暴を働いているという董卓を討つ事。でも、董卓の情報が少ないんだよな・・・誰か知ってるのはいるのか?」
「ちょ、白蓮さん!?」
「私達は知らないなぁ・・・曹操さんは?」
「同じく」
「あ?何だ、知らないのか?董卓なら見た事あるが」
「ちょっと、無視しないで下さる!?」
「そうなの?」
「ああ、言ったろ?洛陽にもいたって。そん時、ちょっとな」
「なら孫覇に聞けば大丈夫だな・・・で、次は」
「つ、次はこの連合の・・・」
「洛陽までの道のりだな・・・まあ、この人数だから街道沿いに行軍する事になるだろうが、問題はその先だ。難攻不落と呼ばれる、汜水関、虎牢関・・・そこと、その前後。戦闘になるとしたら、そこだろうな」
「配置されてる将は?」
「情報によれば、汜水関には華雄が・・・虎牢関には張遼と呂布が配置されてるそうです」
と、諸葛亮からの報告。
「変わる可能性もある。とりあえず、随時間諜を送って情報を入手しておかないとな」
「あ、じゃあ、私達がやります」
「んじゃあ、汜水関の情報は劉備に任せよう。こんな所か・・・はいじゃあ、かい・・・」
「ちょおおおおっっと待ったぁあぁぁ!!何か忘れていませんこと!!!!?」
完全に存在を消されていた袁紹がついに爆発する。
「この連合軍は誰が率いるか・・・そこが一番重要じゃなくって!!?」
「率いるも何もなぁ・・・戦闘になれば、お互いの軍なんて邪魔なだけだろ?ただでさえ腹探り合ってる奴らと共闘すんなんて、俺も願い下げだしな・・・」
「で、ですが、統率者というのは何れ必要ですわ!」
「いつ?いつ必要となる?必要性をちゃんと説明しろ」
「それは・・・連合が活躍した時の名声・・・とか・・・・・・」
「そんなん本当に貰えるとでも思ってんのか?実際名声を得られるのは、汜水関と虎牢関と洛陽を落とした諸侯だろう。はっきり言って統率者はあまり知られん。特に今回とかはな。即ち、必要ではない」
「ひ、必要ですわ!!」
「だから、その理由をちゃんと教えろつってんだろ?」
「う・・・」
沈黙が続く。
はぁ・・・という溜息が聞こえ、雪蓮が口を開いた。
「兄さん。楽しむのもそこまでにしたら?」
「えぇー、だってこいつ面白ぇじゃん?」
真剣な顔から一転、からからと笑いだす。
「な、なな・・・からかってましたの!?」
「うん。つうか、統率者の名前が知られねぇ訳ねぇじゃん?」
最もである。
「悪びれもなく・・・ある意味で凄いわね」
苦笑する曹操。
未だに笑う蓮聖に、袁紹は羞恥で顔を真っ赤にさせた。
「わあったわあった・・・お前が総大将になれ」
「・・・・・・は?」
一転、驚愕の表情。
それは他の諸侯も、雪蓮でさえもそうだった。
「反董卓連合の総大将に、俺は袁紹殿を推薦する。異存がある者は名乗り出てくれ」
再び、蓮聖から覇気が漏れだす。
しかし・・・今度は『本気』だった。
有無を言わせぬ眼光に、そもそも総大将に左程興味がなかった諸侯達は沈黙する。
「ないな・・・じゃあ、決まりだ。これにて軍議を終了とする・・・解散」
「ねぇ、どういう事なの?」
「何って・・・袁紹の事か?」
雪蓮軍の陣地。
軍議を終えた雪蓮達は、行軍するまで待機していた。
「それ以外ないでしょ?」
「まあ、そうだな・・・敢えて言うなら、袁紹が1番操りやすいからなぁ」
「操る・・・?まさか、兄さん・・・」
「ったりめぇだ・・・俺があんな奴に従うかよ・・・・・・今回の戦、俺が操ってやる」
邪悪な笑みを%
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