mirage -8-
「ね、ねぇ夜見子…話って何…?今日諒くんと帰る日だから、きっと諒くん今頃門で待ってるよ…」
放課後の教室はよく声が響く。いる人が私と明美だけなんだからなおさらだ。
「ん・・・すぐ終わるよ。
ちょっとね、今日は私も一緒に帰らせて欲しいなーってさ」
「え・・・・・・・・
えと・・・・・・・・」
「うん、だからね、私と明美と美坂くんの3人で帰りたいなって・・・
明美の彼氏がどんな人か気になるからさ」
「あぁ・・・なんだ、そういうことか
そんなことなら人がいるときに言ってくれても良かったのに」
・・・私が実行しようとしている2人を別れさせる方法・・・
それは・・・
美坂くんが私に浮気するように仕向けること。
こちらの明美も私に懐いてくれている。
ならばその私が美坂くんとそのような関係になれば明美も諦めてくれるかもしれない、と思ったわけだ。
まぁ、とはいっても私に異性を振り向かせられる自信などまったくないし、かといって向こうの美坂くんに嫌われるようなことをするというのもいろいろと気が引けたので
そのような錯覚が起こればいいということに落ち着いた。
正直、今ここで「私は美坂くんのことが好きだ」と言えばこちらの明美は道を譲るかもしれなかったが、焦りは禁物。
恋愛経験のない私でもこれはわかることだった。
なるべく自然に、段階的に美坂くんを意識しているということを見せなければ怪しまれる恐れがある。
「ごめんね諒くん、遅くなっちゃって・・・」
「いいよ。待ってるのも楽しみのうちの1つだからさ」
「あの・・・ね、それと、今日夜見子も一緒に帰りたいって言ってるんだけど・・・いいかな・・・?」
「え・・・・・・・・・」
美坂くんは明美と同じ反応をした。
意外なのか、邪魔されるのがいやだったのか、どちらの理由かは分からなかったけど。
「あ・・・・・えっと・・・大丈夫だよ」
・・・・・・・後者の方だったらしい。
夕暮れに歩く人影が3つ。真ん中の両隣より頭一つ高いものが美坂くんだ。
美坂くんを真ん中に配置し、自然と美坂くんに近づこうという私の作戦に、明美は気づいていないようだった。
私がいるという状況からか、なかなか上手く3人の会話が成立しない中私は敢えてさらりと、こんなことを切り出した。
「ねぇ、なんで美坂くんは明美の告白受けたの?」
「え・・・えっと・・・」
「な、なんで夜見子そんなこと聞くのっ?///」
「親友として一応・・・ね」
2人とも同じようにもじもじしている。なんとも初々しいというかなんというか・・・
しばらくして、美坂くんが頼りなげに口を開いた。
「・・・僕なんかに告白してくれたの・・・明美ちゃんが初めてだったし・・・」
「「初めてだったから」付き合ったんだね」
私はなるべく「初めてだったから」を強調してみせた。
鈍いこちらの明美は気づかなかったようだが、美坂くんは少し表情を強張らせたようで、
こちらとしては作戦成功である。
そんなこんなで、私は帰り道の間ちょこちょこと情報収集をしていった。
とりあえず分かったことは、美坂くんと明美ははじめから両想いではなかったということ。
美坂くん曰く明美が告白してから段々と明美のことが好きになっていったらしい。
それはつまり、付き合い始めて間もない今なら美坂くんの心を引き離すことがさほど難しくないということであった。
だがいくらはじめはその気がなかったといっても、今じゃ見た目はラブラブカップル。
ならば美坂くんの心を揺さぶって、明美に対しての気持ちを不確かにする必要があった。
それ故の、先ほどの言葉だったのである。
心理戦というものはあまり得意でない方なのだが・・・仕方がない
流れで美坂くんのメールアドレスもゲットできたため、これで心を揺さぶる準備はできた。
さて・・・どうやって揺さぶろうか・・・
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-指先のほんの一振りで、世界は180度変わることがある。-
-これは、鏡の表と裏の、無限の可能性の話-
その第8話。