No.138849

真・恋姫無双 EP.4 腹鳴編

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
『ぬこにはぬこなりの仁義ってもんがあるんすよ、おやっさん!』
楽しんでもらえれば、幸いです。

2010-04-26 00:43:13 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:8179   閲覧ユーザー数:6943

 全部で30人ほどだろうか。北郷一刀は、自分を取り囲む男たちを眺めて、ざっと数えてみた。

 どうしてこんな目にあっているかといえば、荀彧の提案の1つだった。

 

「今の私たちに必要なのは、名前とお金よ」

「お金はわかるけど、名前って?」

「いい? いくら剣の腕が立つといっても、どこの馬の骨ともわからない人に付いていく民はいないわ。お金があれば兵を集めることはできるけど、結局そういう兵はいざというとき役に立たないものなの。だから必要なのは、不平不満を胸の中に溜め込んだ民たちの力なのよ」

「なるほど」

「少しずつでいいから、とにかく名前を売るの。人助けとかして、徳のあるところを見せるのよ。その積み重ねが、後々に役に立つ。ついでにお金も貯まれば、文句はないでしょ?」

 

 そんなわけで、立ち寄った村の村長から依頼を受け、一刀が単身で盗賊のアジトに乗り込んできたわけである。最初は逃げ腰だった盗賊たちも、相手がたった1人だと知ると強気になって取り囲んで来たのだ。

 

「まいったなあ」

 

 困ったように頭を掻く一刀を見て、盗賊たちは声を上げて笑った。

 

「まったくだな、1人でノコノコと」

「いや、そういう意味じゃなくてさ……」

 

 軽く首を振りながら、一刀は腰に差した剣を手にする。

 

「この人数をまとめてだと、素手じゃちょっと辛いかなあって。出来ればさ、この剣は使いたくないんだよね」

 

 うっふぅぅぅぅぅん!

 むっふぅぅぅぅぅん!

 

 地獄の舞踏が、始まる。

 

 

「いつまで掛かってるのよ!」

 

 村に戻るなり、一刀は荀彧にそう怒られた。

 

「いやあ、大勢に囲まれちゃって」

「あんた強いんでしょ?」

「俺の場合は、少数を相手に戦うのは得意なんだけどね。前に言われたのは、周りを見てないってことらしい」

「わかってるなら何とかしなさいよ。この変態!」

「いや、関係ないだろそれ」

 

 そんなやりとりの後、村長から謝礼を受け取り、「ぜひ村に残ってください」という懇願を丁重にお断りしつつ次の街を目指して2人は出発した。

 

「前から思ってたんだけどさ、それって意味があるのか?」

 

 一刀は、荀彧の後ろを歩きながら言う。彼女は本物の猫耳を隠すために、猫耳の付いたフードを被っていたのだ。

 

「あるから被ってるに決まってるじゃない。私が趣味でやってるとでも?」

「違うのか?」

「当たり前でしょ。いい? 猫耳族は好事家に高く売れるの。人さらいなんて今の世の中、普通にあるんだから」

「そうか……」

 

 溜息と共に一刀がそう言うと、不意に荀彧は足を止めて振りかえった。

 

「そういう事を無くすために、旅をしているんでしょ? 落ち込むのは勝手だけど、そんなんじゃこれから先、身が持たないわよ」

「わかってはいるんだけど……」

「とにかく今は、こうやって盗賊退治とかしながら資金を貯め、名前を売って旅を続けるの。挙兵するにしたって、場所や時を見誤ったら潰されるだけなんだから」

 

 真剣な表情で語る荀彧に、一刀は勇気づけられた。口は悪いが、今の世の中を変えたいという強い意志がある。

 

「俺たち、仲間だよな!」

「はぁ? 何言ってんの。バカなんじゃない。あんたなんか死ねばいいのに」

「えぇ~……」

 

 しょぼーんとなった一刀は、再び歩き出した荀彧の後をとぼとぼと続いた。

 

(荀彧って、俺のことやっぱり嫌いなのかなあ)

 

 出会いからの事を思い返して見るが、何か機嫌を損ねるようなことをした覚えはない。というか、初めて見た時から喧嘩腰だった気がする。

 

(真名も教えてもらってないし……)

 

 どうしたものかと、頭を悩ませながら歩いていた一刀は、何やら背後から視線を感じた。誰かいるのかと振り返るが、特にそれらしい人影はない。林道が真っ直ぐ伸びているだけだ。

 気にせず再び歩き始めるが、何か引っかかるものがある。

 

(何だ?)

 

 

 正体のわからぬものに首をひねっていると、わずかだが奇妙な音が聞こえた。

 

 ぐうぅぅー。

 

「ん? 荀彧か?」

「私が何?」

「いや、今の音。あれ、腹の虫だろ?」

「お腹なんて鳴ってないわよ。耳が腐ってるんじゃない」

「……」

 

 理不尽な気持ちを味わいながら、一刀は再び歩き始めようとする。しかし、また。

 

 ぐうぅぅー。

 

「ほらっ! また聞こえた!」

「ええ、確かに私にも聞こえたわ」

 

 そう言うと、荀彧は一刀をじっと見る。

 

「な、何だよ」

「私のお腹じゃないんだから、あんたしかいないじゃない。まったく……」

「違うよ、俺じゃない。少しは減ってるけど、まだそれほどじゃないし」

 

 ぐうぅぅ-。

 

「……」

 

 ぐうぅぅ-。

 

「……」

 

 ぐうぅぅ-。

 

「あーもう! うるさいわね! 何なのよ!」

「待て、荀彧。よーく、耳を澄ますんだ。音はこっちから聞こえる」

 

 そう言って一刀は、すぐそばの林を指さした。

 

 

「さっきから見られているような気がしていたんだ。おい、誰かいるんだろ!」

 

 一刀は小石を拾うと、林に向かって適当に放り投げた。音に驚いて気配がわかるんじゃないかと思っただけなのだが、投げた小石は1本の木の幹にぶつかり――。

 

「ふにゃっ!」

 

 可愛らしい悲鳴が聞こえたかと思うと、幹の皮がめくれるようにハラリと落ちた。するとそこからは、黒髪の長い女の子が姿を現したのである。

 

「はぅあ! 見つかってしまったのです!」

 

 額に出来たコブを撫でながら、女の子はそう言ってクリッとした大きな目をパチパチとさせた。

 

「えっと、君は誰かな?」

「私は周泰と言います。あの……」

 

 名告った女の子――周泰は、訊ねた一刀ではなく荀彧の方を見て、目をとろんとさせた。

 

「あぅあぅ~」

「な、何よ……」

「あの、お猫様教の方でしょうか!」

「は?」

「その猫耳は、伝説のお猫様教の信者だけが許されるという聖なる猫耳では!?」

 

 あまりの展開に、一刀も荀彧も呆然とした。だがすぐに正気に戻った荀彧が、猫耳フードを取って見せた。

 

「これは正体を隠すために被っているだけよ。そんな怪しげな宗教なんか知らないわ」

「はぅあ! ほ、本物の猫耳族ですか! すごいです! すばらしいです!」

 

 周泰はものすごい勢いで荀彧にすがりつき、輝く目で手をワキワキとさせた。

 

「あの、その耳をモフモフさせてください!」

「モフモフ?」

「はい! こう、モフモフと……」

「絶・対・イ・ヤ!」

「そんな~」

 

 すっかり落ち込んだ周泰に、一刀は改めて訊ねてみた。

 

「で、周泰さん? どうして俺たちの後を? まさか荀彧の猫耳が気になって、なんて……」

「あの……はい。偶然見かけて、それで……」

「はあ……」

「あの、それだけじゃありません! あなたの儀式も目撃しまして、それでもしかしてお猫様教の方ではないかと思ったのです」

「儀式? 俺の?」

「はい! 奇妙な声を上げながら黒光りする2本の棒を振って踊る、あの儀式です!」

「ああ――」

 

 どうやら戦闘していた時のことを勘違いしているらしいとわかった一刀は、間違いを訂正してあげようと口を開きかけ、荀彧の全力パンチを顔面に受けて舌を噛んだ。

 

「あんたのせいじゃない! ほんっっっとに変態なんだから! 死ね! というか死んで!」

 

 荀彧は次から次へと、オトナの事情で表記できない罵詈雑言を吐き、一刀は心身共にダメージを負ったのだった。

 

 

 玉座に座った少年は、肘を付いて何事かを考えていた。そしてふと顔を上げて、指を鳴らす。すると、少年の前の空間が歪んで黒装束の男が現れた。

 

「いいこと思いついたんだ。朝廷に不満を持っている民を使って、曹操たちの相手をさせよう。どっちが死んでも、僕らは損をしないだろう?」

 

 そう言って笑った少年が片手を掲げると、その手の中に1冊の本が現れた。

 

「これを持っていくといいよ。手頃な奴に渡すんだ。きっと、うまく動いてくれる」

 

 ぽんと放り投げた本を、男は拾う。その本の表紙には、『太平妖術』と書かれていた。

 

「なるべく、おもしろい相手に渡してよ」

「はい……」

 

 男が消えると、少年はクスクスと笑い出す。

 

「いっぱい人が死ぬのかなあ……。ねえ、一刀」

 

 少年が手を開くと、そこにはわずかに光を放つ玉璽が乗せられていた。暗い眼差しでそれを見つめ、少年の姿は闇に呑まれた。

 

 

あとがき

 

 閲覧、ありがとうございます。

 コメントや支援、お気に入り、本当にうれしいです。

 なかなか時間がないので、一つ一つに返信することはできませんが、

 きちんと読ませていただいてます。

 

 こんな作品ですが、これからも読んでもらえるとうれしいです。

 

 

 あと、蛇足になりますが、作中の人名について少し書かせてください。

 今回、この作品を書くにあたって、自分で色々と考えた結果、『字』は使わないことに

 しました。

 世界観がすでに三国志から離れているので、そこにこだわる必要もないのと、

 正直、自分があまり詳しくないので、姓名と字、真名の使い分けがよくわかりません。

 シンプルに、通常は姓名を名告り、親しい人とは真名という感じにしました。

 

 それでは。


 
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