No.138614

改訂版 真・恋姫†無双 終わらぬループの果てに 第1話

ささっとさん

30回を超えるループを経て、様々な力を手に入れた一刀。
そんな彼が新たな世界で目にしたのは、自身の代わりに賊に襲われている風の姿だった。
即座に賊を薙ぎ倒して風を救いだした一刀は、何故この場所に一人でいたのかを尋ねる。
そこで風から返ってきた言葉、一刀にとって意外な内容だった……

2010-04-25 07:36:55 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:46041   閲覧ユーザー数:34573

?「ループ回数32回、ついにご主人様が管理者の想定していた強さにまで成長したわね。

  これでご主人様がループから解放されるための第一条件が満たされた。

  全てを知ったらきっと恨まれるでしょうけど、それでも私は応援してるわよん、ご主人様♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<風side>

 

 

何処までも続く荒野に立つ一人の男性。

 

光り輝く衣服を身に纏ったその人はやがて天へと昇り、大きな日輪へと姿を変えたのです。

 

強くて暖かくて、この大陸の全てに命を届ける………そんな優しい光で風達を照らしながら。

 

いつもなら夢なんて目覚めた途端に忘れてしまう。

 

でも、その夢はいつまで経っても風の記憶に残り続けて。

 

気付けば風は一人街の外へ出て、何かに導かれるかように歩き出していました。

 

冷静になって考えると、これはあまりにも無謀な行為。

 

文官としての能力ならばともかく、風は武術の方はからっきしです。

 

もし野盗にでも出くわしてしまえばどうする事も出来ないでしょう。

 

 

「お嬢ちゃん。一人でこんな所をうろついてたら危ないぜぇ~?」

 

 

そして、それは現実のものとなってしまいました。

 

 

「………貴方達には関係のない事ですよー」

 

 

卑しい顔をしながら風を取り囲む3人の賊。

 

恐怖を悟られぬよう気丈に振る舞いながら、風は正面に立っている男を睨みつけます。

 

それが今の風に出来る唯一の抵抗手段。

 

 

「つれねぇ事言うなよ、お嬢ちゃん。へっへっへっ……」

 

 

圧倒的優位な立場にいる男達は風の抵抗など気にも留めず、ゆっくりと歩み寄って来ました。

 

生理的な嫌悪を感じた風は思わず後ずさり………

 

 

「その子に触るなッ!!!」

 

 

………突然、何処かから怒鳴り声が聞こえてきました。

 

そしてその声が聞こえた次の瞬間、

眩い光と共に風の目の前にいたはずの男達が視界から消え去ったのです。

 

 

「……え、あ……え?」

 

 

目の前で何が起きたのか、風には全く理解できませんでした。

 

あの怒鳴り声は誰?

 

あの光は一体何?

 

賊は一体何処に?

 

 

「大丈夫だったかい?」

 

 

突如、優しげな声色で風を気遣ってくれている誰かの声が耳に届きました。

 

混乱してまともに思考が働かなかった風は反射的に振り向き………

 

 

「あっ……」

 

 

そして、夢に出てきたあの男性と出会ったのです。

 

 

 

 

真・恋姫†無双 終わらぬループの果てに

 

 

第1話

 

 

邪な笑みを浮かべながら風に手を掛けようとした連中の行動に我慢できず、

つい一般人には使用禁止レベルの氣弾をブチ込んでしまった。

 

威力や軌道のコントロールはバッチリだったから風には掠り傷一つないだろうけど、さすがにやり過ぎたな。

 

風もなんか茫然と立ち尽くしちゃってるし。

 

 

「大丈夫だったかい?」

 

「あっ……」

 

 

とりあえず近づいて話しかけてみると、俺の声に反応した風はすぐさまこちらを向いてくれた。

 

しかし俺の顔を見て再び硬直。

 

何故か物凄く驚かれてる。

 

 

「どうかした?」

 

「………っ! あぅ、いえ、なんでもないです!」

 

 

一体どうしたんだろうといった感じで俺が見つめていると、今度は急に顔を赤くして焦り始めた。

 

連中に襲われたことでショックを受け混乱している……のとは違う気がするな。

 

いつも飄々としている風のこんな姿は新鮮だけど、ホントにどうしたんだ?

 

 

「あっ……えっと、その、ありがとうございました! お兄さんが助けてくださったんですよね?」

 

「まぁね。それより、深呼吸でもして少し落ち着こう?」

 

「あ、そ、そうですね………コホン。すぅー………はぁー………すぅー………・はぁー………」

 

 

俺から指摘された風は一旦咳払いし、それからゆっくりと深呼吸を始める。

 

少々オーバーアクション気味に見える仕草が妙に可愛らしい。

 

そんな個人的感想はともかく、何度か深呼吸を繰り返すうちに落ち着いてきたようだ。

 

顔から赤みが引き、意味不明な焦りも消えた。

 

 

「………その、取り乱してしまって、申し訳ありません」

 

「いやいや。あんな事があったら無理もないよ。ところで、君はどうしてこんな所に一人でいたの? 」

 

 

風がある程度落ちついたのを見計らい、俺の方から質問する。

 

この時期の風は趙雲さんや稟と一緒に3人で旅をしているはず。

 

それでなくても風のような女の子がこんな場所に一人でいる理由なんて思いつかない。

 

 

「それはその………実は、夢を見まして」

 

「夢?」

 

 

何やら言い辛そうにしていた風だが、やがて観念したような表情で訳を話し始める。

 

曰く、近隣の町の宿に滞在していた風は今朝方不思議な夢を見て目を覚ました。

 

そしてその夢の内容が忘れられず考え込んでいるうちに、気づいたらここまでやって来ていたという。

 

ちなみに趙雲さんや稟とは一緒に旅をしているようだが、この事は2人に何も言っていないとの事。

 

………これはいろんな意味でダメだろ。

 

 

「どんな夢だったのかはともかく、ちょっと無茶が過ぎないかい?」

 

「………………」

 

 

俺のもっともな指摘と呆れた視線を受け、サッと目を逸らす風。

 

さすがに本人も自覚はあるようだ……というか、現に襲われたからな。

 

 

「結果的に無事だったから良かったけど、もうこんな真似はしちゃダメだからね。解ってるだろうけど」

 

「はい。すみませんでした」

 

「謝る相手は俺じゃなくて、一緒に旅をしてる人達だよ」

 

「……そうですね。町に戻ったらすぐ2人に謝ります」

 

「うん、それがいい」

 

 

趙雲さんも稟もきっと心配して探し回ってるだろうしな。

 

 

「ところでお兄さん。よろしければ、お兄さんの名前を教えていただけませんか?」

 

「ん? ああ、そう言えばまだ名乗ってなかったけな」

 

 

いかん、つい自己紹介するの忘れてた。

 

相手から話しかけてきた時なんかはともかく、

ループ回数が増えていくにつれてどうしてもこの手の配慮が疎かになってしまう。

 

皆の事を知り過ぎてるっていうのも結構考えものだよな。

 

 

「俺は北郷 一刀。姓が北郷で名が一刀、字はない。好きな呼び方で呼んでくれていいよ」

 

「北郷、一刀………解りました、それではお兄さんと呼ばせて頂きますね」

 

「………うん」

 

 

確かに好きな呼び方でいいとは言ったけど、名前関係ないよね?

 

まぁ、その呼び方が一番しっくりくるからいいんだけどさ。

 

 

「で、君の名前も教えてくれるかい」

 

「あっ、申し訳ありません。私は程立………いえ、本日この時より程昱と名乗らせていただく者です」

 

「程、昱……さんね」

 

 

畏まった口調で名乗ってくれた風だけど、ここでまさかの名前改名。

 

あれ、もしかして風が見た夢っていうのは日輪を支えるって内容の奴?

 

てことはまさか、ここで華琳に仕えることになるのか?

 

 

「あっ、でもお兄さんは気軽に風と呼んでくださって結構ですよ~」

 

「ん、そうかい? ありがとう、風」

 

 

いきなり真名を許されたけど、風のことなので特に驚きはしない。

 

しかし風との出会いもそうだが、これは今までになかった展開だな。

 

 

「それでお兄さ……あっ」

 

「えっ? おっと!」

 

 

続けて何か言おうとした風だったが、突然膝が折れて前のめりに。

 

俺は咄嗟に駆け寄って風の身体を抱きとめるが、彼女はそのままペタンと座り込んでしまった。

 

 

「だ、大丈夫? もしかして何処か怪我でも!?」

 

「いえ、そう言う訳ではないのですが……その、急に力が入らなくなってしまって」

 

 

いきなりの事で動揺した俺は勿論、風自身も何が起きているのかよく解らないといった感じ。

 

俺の身体に掴まって必死に立とうとするも、足どころか身体全体が思うように動かないらしい。

 

 

「多分、緊張が解けた反動で一気に脱力しちゃったんだろう。少しの間大人しくしてたらすぐ……ん?」

 

 

ふと遠くの方から聞こえてきた微かな地鳴り。

 

音のする方へ視線をやると、砂ぼこりを立てながらこちらへ向かってくる一団が見えた。

 

どうやら華琳達が来たようだ。

 

 

「あれは……お兄さん。

 助けていただいたばかりで申し訳ないのですが、すぐに風を連れてこの場を離れて貰えませんか?」

 

 

風も俺と同じく華琳達の接近に気づいたらしく、これまでのループと同じような反応を……って、え?

 

ここで華琳と合流するんじゃないのか?

 

 

「ここから離れるのかい?」

 

「はい。今の風の立場からしますと、官軍と関わるのは得策ではありませんので」

 

 

その理由は毎回の事だから既に承知している。

 

けど、夢の内容ほったらかしでいいのか?

 

現時点では何の面識もないから風が華琳の事を知らないのは当然としても、

夢を見てここに来たくらいだから何かしら感じるものとかあると思うんだけど。

 

 

「ホントに行くの?」

 

「お願いします、お兄さん」

 

「………わかった。それじゃあ失礼するよ」

 

「え…きゃ!」

 

 

疑問は残るが風がそこまで言うのならば仕方がない。

 

俺は機敏な動作で屈み、そのまま座り込んでいる風に両手を回して一気に抱き上げた。

 

すなわちお姫様抱っこの体勢である。

 

突然の浮遊感に驚いた様子の風だったが、

その驚きは今の自分の状態を理解したことで別の意味へと変化。

 

可愛らしい顔がみるみるうちに赤く染まっていく。

 

 

「お、おおっ、お兄さん!?」

 

「風は歩けないんだから、俺が担いで行くしかないだろ?」

 

「で、ですが、それなら背中におぶるなり色々やり方というものがあるじゃないですか!」

 

「いやぁー、俺としてはこの体勢が一番楽なんだよ」

 

 

俺は思いっきり自覚ありでニヤニヤしながら風に告げる。

 

とは言え、これで今回のループは華琳と別行動を取る事が濃厚になってしまった。

 

今後合流する機会が全くないって訳じゃないけど、このタイミングを逃すと結構面倒なんだよなー。

 

まぁこれまでのループにはなかった展開だし、

この流れに乗っていけばもしかしたらこのループ現象についての手掛かりが掴めるかもしれない。

 

そういう意味でこの選択は間違っていないだろう。

 

現在進行形で役得もあるし。

 

 

「……お兄さんって見かけによらず強引なんですね」

 

「はははっ、それじゃあしっかり掴まっててくれよ!」

 

 

さて、まずは趙雲さんと稟の所へ行かないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まったくもう………でも、夢で見たよりもずっと素敵な人でしたねー)

 

「ん? 何か言ったかい?」

 

「いえいえ、お兄さんは気にしなくて良い事ですよー。それよりもこの体勢を……」

 

 

 

 

気絶した3人組を放置したまま、俺は風と共に彼女が滞在している町へ向かった。

 

道中しきりに恥ずかしがって何とか俺の腕から逃れようと奮闘する風だったが、

彼女の些細な抵抗なんぞ俺の持つ圧倒的な力の前では無意味に等しい。

 

むしろ普段の風からは想像もつかないほどギャップに満ちた年相応の可愛らしい姿を堪能でき、

俺はもうそれだけでお腹一杯って感じだった。

 

しかしさすがに風もやられっぱなしでは終わらない。

 

どう足掻いても自力では逃げられないと悟るや戦略を変更。

 

今度は何が何でも離れないと言わんばかりにギュッとしがみ付いてきたのだ。

 

……それの何処が抵抗なのかって?

 

ふっ、確かに町へ向かう道中ならば俺を更に喜ばせるだけの単なる自爆行為だ。

 

しかしこれを人の多い町中、公衆の面前でやられたらどうなると思う?

 

 

「………風、俺が悪かった。調子に乗ってゴメンなさい。だからそろそろ降りてくれない?」

 

「それは無理な相談ですねー。残念ながらまだ力が入らないんです。

 それともお兄さんは歩けない風をここで放り出してしまうおつもりなんですか?」

 

「ぐっ……この、開き直りやがって」

 

「うふふっ♪」

 

 

まさしく肉を切らせて骨を断つ。

 

この時代にはないポリエステル製の制服に加えて美少女をお姫様抱っこしているという事実。

 

その結果として俺は今、見事に町中の視線を一人占めしていた。

 

ああっ、ちょっとそこの人! そんなあからさまにこっち見ながらヒソヒソ話をしないでくれーーー!!!

 

 

「お兄さん。あそこが風の滞在している宿ですよー」

 

「よし解ったすぐ行こうさっさと行こう今すぐ行こう!」

 

 

あまりの羞恥に耐えかねた俺は風の指差した先に全力でダッシュ。

 

と、建物の中には行ったところで運よく例の2人と鉢合わせした。

 

 

「「風?!」」

 

「稟ちゃん、星ちゃん!」

 

 

驚きで固まっている趙雲さんと稟を前にした風は俺の腕から降り、深々と頭を下げて2人に謝罪。

 

(頭を下げた時に宝慧が落っこちてしまったが、今はスルーしておこう)

 

そして2人が正気に戻るのを待ち、

何も言わず外出した理由と賊に襲われて俺に助けられるまでの経緯を説明した。

 

 

「……ともかく、無事で何よりだった」

 

「……ええ、本当によかったわ」

 

「星ちゃん、稟ちゃん……本当にゴメンなさい」

 

 

説明を最後まで聞き終えた2人は風に対して怒る訳でも攻める訳でもなく、

ただ心底ホッとしたような表情でそれぞれそう呟いた。

 

やはり親友同士、本当に風の事を心配していたんだろう。

 

そんな2人の想いに触れ、風も目頭を熱くさせながら何度目かの謝罪を述べた。

 

うん、なんか凄く良い光景だな。

 

 

「「まぁそれはそれとして(だ)、風?」」

 

「………………え?」

 

 

しかしそんな麗しの友情タイムもここまでだった。

 

安心と慈愛に満ちた2人の表情が突如一変し、怒りの大魔神×2が降臨。

 

そして先程の美しい光景とは比較にもならない地獄のお説教タイムがスタートする。

 

かなり長くなったので内容は省くが、

それが終わる頃には風が真っ白になっていたとだけ言っておこう。

 

合掌。

 

 

「さて……改めまして北郷殿。風の命を救っていただき、本当にありがとうございました」

 

「北郷殿には感謝の言葉もありません」

 

「あっ、いえいえ、お気になさらず」

 

 

お説教が終わった後、話題の中心はこれまで空気扱いだった俺へと移る。

 

風を救った事への感謝から始まり、自己紹介から着ている服の事などいくつか質問を受けた。

 

この辺のやり取りは毎回の事なので俺もお茶を濁しつつ普通に対応。

 

当たり前だが自分から天の御遣いだ等とは名乗っていない。

 

しかしその最中、俺の何気ない言葉が趙雲さんの興味を大きく引いてしまう。

 

 

「ほう、北郷殿は氣の使い手なのですか」

 

 

穏やかな目が一転、得物を捉えた肉食獣のそれへと変わる趙雲さん。

 

詳しく知らなかったけど、どうやらこの人も春蘭や霞らと同類らしい。

 

一応言っておくと、この世界において氣は別段珍しいものではない。

 

もちろん一般人がおいそれと使えるようなものではないが、

逆にある程度の力量の者ならばその扱い方を身につけているのが普通だったりする。

 

だからこそ俺の元いた世界と比べて武人と言われる人間が桁違いに強いのだ。

 

とは言えそのほとんどは氣の力で身体能力を向上させるくらいが精々であり、

今の俺や凪みたく自分の氣を体外に放出したりなどが出来る人間は少ない。

 

そのため自在に氣を使える人間…って、呑気に説明してる場合じゃないな。

 

 

「北郷殿………よろしければ、私とやりませぬか?(武人的な意味で)」

 

 

物凄いワクワクした様子でこちらに訴えかけてくる趙雲さんだが、

残念ながら期待に応えるつもりはない。

 

何しろこの手のタイプの人間は一度手合わせしたら最後、

以降勝敗に関係なく暇があれば問答無用で勝負に付き合わされる羽目になってしまう。

 

そりゃあ趙雲さんレベルの人との手合わせは良い鍛錬になるが、何事にも限度は必要だ。

 

もちろん手合わせに応じない場合も延々誘われ続ける事になるが、

一度許して以後断れない状況になるよりはずっとよろしい。

 

そんな訳で俺は趙雲さんの申し出を断るべく言葉を返した。

 

 

「すみません。お手合わせしたいのは山々なんですけど、

 生憎と今は得物を持ってませんので……」

 

「おや、北郷殿は武器を使われるのですか?」

 

 

俺の返答に意外そうな表情する趙雲さん。

 

氣を極めた人間というのは基本的に素手による格闘をメインにしている場合が多い。

 

何しろ氣弾という遠距離攻撃があるのだから弓や弩は無用の長物だし、

両手両足に氣を纏わせて攻撃すれば武器による攻撃となんら遜色ない破壊力が出せる。

 

そして何よりも、手が塞がっているとその分氣が使いにくい。

 

ハッキリ言って武器を使う必要がないどころか、持っていても邪魔にしかならないのだ。

 

ならばなぜ俺がこんないい訳をしたのかと言えば、俺に限っては武器の存在が有効だからである。

 

修行を積み重ねた結果、

俺は金属など無機質を媒介として間に挟んでも問題なく氣を使えるようになった。

 

氣を乗せて斬撃を飛ばすっていうゲーム何かではお馴染の技も勿論使える。

 

それに剣や鎧に氣を纏わせることで一時的に切れ味や強度を向上させる術も会得しているため、

なにも持っていない状態よりも遥かに戦闘力が増すのである。

 

 

「俺の戦い方は少々特殊でして、素手よりもむしろ武器を持った方が有利なんです。

 もちろん素手でも戦えない事は無いのですが、全力を出し切るのは無理ですね。

 一応近々新しい物を手に入れようとは思っていたのですが、

 今は先立つ物もない状態でして……」

 

「ふむ……」

 

 

命の奪い合いならともかく、全力の出せない相手と戦っても心から楽しめない。

 

無難だが趙雲さんのようなバトルジャン…もとい武人タイプの人間には有効な言い訳だ。

 

よしよし、このままいけば今回は諦めてくれそうだな。

 

 

「でしたら、助けていただいたお礼に風がお兄さんに武具を買って差し上げますよー」

 

「え?!」

 

 

しかし、ここで先程のお説教から復活した風がとんでもない発言をかましてくれた。

 

てか突然何を言い出すんだよ!

 

 

「この町には腕の良い鍛冶職人がたくさんいるようですし、

 きっとお兄さんの気に入る物もあると思いますよー」

 

 

なんでもこの近くに良質な鉄が採れる場所があるらしく、

そのおかげでこの町は職人も多く鍛冶技術がかなり発達しているという。

 

確かにそれは建前だけでなく本心から武器を求めている俺にとって嬉しい情報と言える。

 

だが、だからと言ってその好意に甘える訳にはいかない。

 

せっかく趙雲さんを上手く丸め込ん…じゃなくて、武具というのは基本的に高価な代物である。

 

その場凌ぎでよいのなら二束三文でも買うことは可能だが、

切れ味や強度など細かい部分まで加味して考えると話は別だ。

 

自分で直接的に戦う機会がない風とてそれくらいは解っているだろうから、

当然俺が欲しがる武器も値段が張ることは理解しているだろう。

 

だからこそいくら命を救われたお礼だとしても、

流浪の旅人でしかない今の風にそれだけの出費を強いるような真似はしたくない。

 

 

「いや、でもさすがに悪いよ」

 

「命を救っていただいたのですから、このくらいのお礼はさせてください」

 

「お礼なんていいよ。それに武器を手に入れるための算段もちゃんとあるしさ」

 

 

近くの野盗連中を壊滅させて貯め込んでるお宝をいただいたりとかで。

 

 

「遠慮なんてなさらないでください。お金に関しても心配ご無用です。

 それともお兄さんは、風の命などそこらの武具にも劣る価値しかないと仰るんですか?」

 

「えっ!? おいおい、そんな訳ないだろう」

 

 

俺が拒否の姿勢を崩さずにいると、風が滅茶苦茶な暴論を持ちだしてきた。

 

風の命と武器の価値なんて比べようがないだろ。

 

そんなこと言われたら絶対断れないじゃないか。

 

 

「それなら風の申し出を受け入れてくださいますね、お兄さん?」

 

「………ああ、お願いするよ」

 

 

これ以上の抵抗は無意味。

 

大人しく風の申し出を受けて武器を買ってもらう事にしよう。

 

買ってもらう立場なのにこんな不満たらたらっていうのもおかしいけどね。

 

 

 

 

話も終わり、荷物を持って町へ繰り出した俺達4人。

 

結局風に押し切られる形で武器を買ってもらえる事になった俺は、

少しでも良い物を手に入れようと真剣に辺りを物色していた。

 

ところで肝心の予算に関してだが、

 

 

「以前滞在していた街の賭博場でかなり稼がせていただきましたから、

 お兄さんのお好きなモノをご自由にどうぞー」

 

 

というちょっと笑えない返答を風本人からいただいている。

 

詳しい金額は怖くて聞けなかったが、

稟曰くその場で殺されていてもおかしくなかったくらいに勝ちまくったらしい。

 

どんな天才ギャンブラーだよ。

 

 

「………お?」

 

 

武器を探して通りを散策していた所、とある店の壁に掛けられていた剣が目に留まった。

 

何処となく日本刀を思わせる片刃の長剣。

 

これといって特徴的な装飾などは施されておらず見た目は地味だが、

握ってみた感触は上々で強度も申し分なさそうだ。

 

斬る、突くといった簡単な型を行ってみたがかなり馴染む。

 

値段も思ったほどじゃないし、

市場に出回っている武具としてはかなりの掘り出し物ではないだろうか。

 

 

「風。この剣を買いたいんだけど、いいかな?」

 

「お兄さんが気に入られたのでしたら、風にはなんの異論もありませんよー」

 

「それじゃあおじさん、この剣を貰えますか?」

 

「…へい、まいどあり!」

 

 

一瞬店主の目つきが気になったが、ともあれ武器は手に入った。

 

はぁ、いよいよ覚悟を決めるしかないか。

 

 

「では北郷殿、得物も手に入った事ですし早速…「た、助けてくれーーー!!!」…おや?」

 

「ん?」

 

 

ふと遠くの方から聞こえてきた誰かの悲鳴。

 

声のした方を向いてみると、一人の男が何やら叫びながらこちらへ向かって走ってくる。

 

そしてその後ろには武器を携えたいかにもな連中がぞろぞろと……えっ?

 

 

「オラオラオラッ! 大人しくしやがれ!」

 

「抵抗するんじゃねぇぞ!」

 

「ヒャッハー、殺されたくなかったら金目の物を出しやがれ!!!」

 

「きゃあーーーーーー!!!」

 

「に、逃げろーーーーーー!!!」

 

 

おいおいおい、なんか知らんが突然とんでもない状況になったぞ。

 

あの連中、まさかこんな真昼間からこの大きな町を襲撃しに来たってのかよ。

 

考えなしにも程があるだろう。

 

 

「北郷殿」

 

「ええ、どうやら手合わせしている場合じゃないみたいですね」

 

 

連中の数はざっと見で20人。

 

各々好き勝手な行動を取ってて統率を取ってる奴はいない。

 

ここではなく別の場所にリーダーがいるのか、はたまたコイツらだけなのかはまだ判断不能。

 

とりあえずコイツらを全滅させればこの場の安全は確保できそうだ。

 

 

「趙雲さんはもしもを考えて、風と郭嘉さんについててあげてください」

 

「おや、すると北郷殿お一人で全員を相手にされるおつもりですかな?」

 

「新しい武器を試すにはちょうどいい機会です。

 もっとも、あの連中だけだと少々物足りませんがね!」

 

 

そこで趙雲さんとの会話を打ち切り、逃げ惑う人々の流れに逆らって連中に突貫。

 

まさかこんな所でいきなり戦う羽目になるとは思わなかったけど、

これ以上の好き勝手はさせないぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<星side>

 

 

一目見た時から只者ではないという予感があった。

 

その予感は北郷殿が武器を選んでいる際に何気なく行った一連の型を見て確信に変わった。

 

そして今、実際に戦っている北郷殿の姿を見てその確信は驚愕へと変わっていた。

 

 

「まさか、これほどとはな」

 

 

もとより相手との技量の差は理解している。

 

だが、それを差し引いたとしても北郷殿の武は凄まじいの一言であった。

 

手にしたばかりの剣をまるで身体の一部のように操り、瞬く間に賊どもを打ち倒していく。

 

しかも全て峰や柄で攻撃しており、命を失った者は一人もいない。

 

いかに相手が格下で歯牙にもかけぬ存在とはいえ、

私でもあそこまで見事な対応は出来ないだろう。

 

 

「さすがはお兄さん。強いですねー」

 

「ですが、何故一人も相手を殺していないのでしょうか? まさか殺す事を躊躇っているのでは…」

 

「………いや。稟よ、おそらくそれはないだろう」

 

 

パッと見優男のような外見の北郷殿だが、

その身に纏っている空気ははまさしく生粋の武人そのもの。

 

あれは実戦を、命のやり取りを知らぬ者が身につけられるものではない。

 

それに北郷殿の武は鍛錬ではなく、その多くを実戦の場によって磨いた武だ。

 

一つ一つの動作に無駄は無く、戦い方も常に効率よく相手を屠るということを念頭に置いている。

 

ならば北郷殿は殺す事を躊躇っているのではなく、

何かしらの考えがあって生かしているという事だ。

 

 

「これでおしまいのようですねー」

 

 

おっと、考え事をしている間に終わってしまった。

 

さすがにこの程度の相手など問題ではないか。

 

しかし襲われた町人達には申し訳ないが、北郷殿の武を目にすることが出来たのは幸運だった。

 

北郷殿のおかげで大した被害もなかったようだし、今の不謹慎な考えは見逃して貰おう。

 

しかしこれ程の武人と手合わせ出来る機会など中々巡り合えるものではない。

 

いや、それもこれから先はいくらでも出来るようになるのか。

 

そう考えると自然に口元が緩んでしまうな。

 

 

「やれやれ、これで片付いたな」

 

 

気絶した賊を一か所に集め、全員を縛り上げた北郷殿が私達の方へ戻って来る。

 

言葉とは裏腹にその表情からは余裕が見て取れた。

 

 

「最後の一人を気絶させる前に色々と聞き出しましたけど、

 どうやら別働隊とかはいなくてコイツらだけみたいです」

 

「お見事でした、北郷殿。この趙 子龍、感服いたしましたぞ」

 

「よしてください。趙雲さんだってコイツら程度なら楽に勝てたでしょう?」

 

「それはまぁそうでしょうな。ところで北郷殿、何故奴らを一人も殺さなかったのですか?」

 

 

殺す事を躊躇っている訳ではないと解ってはいたが、その理由までは解らない。

 

 

「この剣は風に買ってもらった大切なものですからね。

 それにこの後は趙雲さんと手合わせする予定もありますから、

 こんな連中の血でいきなり汚したくはなかったんですよ。

 もちろん必要があればここで全員殺していたでしょうけど、裁くのは役人の仕事ですし」

 

「お兄さんったら……うふふっ♪」

 

 

北郷殿の言葉に風が頬を染めて照れ笑いを返す。

 

しかしまさかそのような理由だったとは……色々と興味深い方だ。

 

 

「では賊の掃討も終わった事ですし、早々にこの町から離れると致しましょうか」

 

「そう言えばこの近くに官軍が来ているのであったな。北郷殿、構いませんか?」

 

「ええ、俺は別に……って、俺も一緒に行っていいんですか?」

 

「元より我々はそのつもりでしたが?」

 

 

出会って間もないとはいえ、北郷殿は信頼、信用するに値する人物。

 

それは北郷殿を連れて来た風は勿論、私と稟の共通認識でもある。

 

男女の間で生じる問題も北郷殿ならば心配する必要はないだろう。

 

むしろ風などは自分から積極的に事に及びそうだしな。

 

 

「……それじゃあ、改めてこれから宜しくお願いします」

 

「はい。こちらこそ宜しくお願いしますね、お兄さん」

 

「宜しくお願い致します、一刀殿」

 

「北郷殿。私との手合わせをお忘れなきよう、お願いいたしますぞ?」

 

「はははっ、解ってますよ。それじゃあさっさとこの町から出ましょうか!」

 

「「「はい(ええ)(そうですな)」」」

 

 

こうして北郷殿が加わり、私達は新たに4人で旅を再開する事となった。

 

ふふっ、これは色々な意味でこれから先が楽しみだ。

 

 

 

 

あとがき

 

 

どうも、ささっとです。

 

改訂版というかほとんど書き直しになってます。

 

おかげで予定よりもだいぶ投稿が遅れてしまいました。

 

今回は一刀が風達三人の旅に同行するまでの内容。

 

改訂前と比べたらまだマシな流れになってると思います。

 

あと余談ですが、風の好感度は既にMAX近いですw

 

夢補正&吊り橋効果恐るべし。

 

 

たくさんのコメント・応援メッセージありがとうございました。

 

次回もよろしくお願いいたします。

 

 

 

 


 
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