東倣麗夜奏 ~ Phantasmagoria of Nostalgic Flower.
楽園の外に棲む妖怪達による些細な話。
1話
私の記憶の中にあるのは、辺り一面に広がる田園地帯と
ほんの少しの鉄の塔と鉄の道のはずだった。
神社に夢中になっていた頃は特に気にもしなかったが、
この場所も随分と様変わりしたように思える。
霊峰の麓から少し離れた土地。
かつては小さな農村だったが、今では鉄塔の森となっている。
その中でも最も高い塔の頂上から、彼女は人間の街を見下ろしていた。
桜子 「しばらく見ないうちに、ここも随分と角が増えたわね。
これだけ建ってるんなら、もう少し面白いデザインのが
混ざっててもいいのに。」
霊峰を背景に、整然と建ち並ぶ塔を眺めながら
何かおもしろい物は無いかと観察を続けていた。
しかし、彼女の現代の人間に対する知識は全くと言うほど無い。
足元に広がるものの役割や意味がわからず、興味の対象となるのは
その形状のみであった。
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桜子 「こんな所から見ててもやっぱりつまらないわ。
いっその事降りてみようかしら。」
そんな時である。
ふと見ると、鉄塔に取り付けられた大きな画面に見慣れた顔が
映っていた。 芸能妖怪菫野件である。
桜子 「こんな所でもあいつの顔を見るなんて・・・
あいつなら最近の人間について詳しいだろうけど。
・・・そもそも何であんなに目立ってるのかしら。
あいつも古い妖怪だし、何か企んでるんじゃ・・・」
件 「だれが古いって?」
桜子 「わー」
件 「あたしは何時でも時代の最先端を行くのよ。
ていうか、何よその驚き方は。 私がいるのわかってたでしょ?」
桜子 「あんたなんかに驚かされるほど、私は暇じゃ無いのよ。」
件 「つい最近まで暇暇言ってたのはどこのどいつよ。」
神社の一件からというもの、この妖怪に出くわす機会が増えた。
映像ではよく見るが、向こうがこちらの事を知っているとは限らない。
神社の話を持ちかけられる前から、屋敷の周辺でちょくちょく見かけたのを
私が注意したのが最初の出会いだったが、芸能活動で忙しい妖怪が
何故樹海に現れたのか、今考えると不気味である。
桜子 「で、何の用なのよ。
近くで仕事してたらーは聞き飽きたわよ。」
件 「近くで仕事してたらあんたがいたのよー」
件 「私は珍しいものに目が無いの。
あの神社と樹海でしか見かけない妖怪が、こんな場所にいたら
すっ飛んで駆けつけるわ!」
桜子 「妖怪を珍獣扱いしないの。」
件 「あら。 今の時代妖怪なんて珍獣どころじゃ無いわ。
だからあたしはこうやって目立つ活動をしてるってワケ。」
桜子 「それは人間として目立ってるだけじゃなくて?」
件 「目の付け所が違うのよ。」
桜子 「?」
桜子 「あーあ、今日はあんたのせいで何の収穫も無かったわ。」
件 「ほうほう、何かお探しかね。」
桜子 「神社以外にも何か刺激が欲しいじゃない?」
件 「あたしゃあんたを見てるだけで十分面白いわ。
何々、あたしの真似事? アクティブな妖怪仲間が増えるのね!」
桜子 「今すぐ帰れば前半は聞かなかった事にしてあげるわ。」
そろそろ陽も沈む頃である。
彼女は件を追い払って屋敷に戻る準備を始めた。
妖怪であればこれからが本来の活動時間であるが、
人間がそうなったように、妖怪の活動も何時の間にか昼夜を
問わなくなってきたように思える。
私も元は人間だった式神と暮らしているからか、人間の生活習慣が
すっかり身についてしまったようだ。
そんな事を考えている内に、空はすっかり黒くなっていたが
見たこと無い程の無数の光で辺りは明るいままだった。
人間や件にとっては当たり前の光景だが、彼女にとってはこの光景が
今日の唯一の収穫であった。
桜子 「そりゃ昼も夜も無いはずだわ。 こんなに明るいんだもの。」
光に包まれた鉄塔の森を眺めながら、彼女は帰路についた。
留守番をしている式神には大した土産話も用意していないが、
答える程の期待をかけられているわけでも無いので気にしない事にした。
未来世紀の妖怪アイドル
○菫野 件(Sumireno Kudan)
結界の外に棲む妖怪。
危険を予知して人々に知らせる能力を持つ。
人間のフリをして暮らす変わった妖怪。
珍しいものと注目を浴びる事が大好きで人間の歌手として芸能活動をしているが、
彼女にはもう一つの能力があった。
彼女の歌声を聴くと、人間は少しずつ狂ってしまうのだ。
最初は興味が無くともメディアを通じて彼女の歌を聴く事により
人は熱狂し、最終的には大多数の人間をある程度操ることができるという。
彼女の芸能活動がそれを意図しての事なのかは謎である。
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・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。