No.136186

種の救世主さま、お願いします 最終回

スーサンさん

今回で最終回です。一応感動路線で行こうと頑張りました。もし、気に入った人がいたら、お返事くださいね?

2010-04-13 15:40:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:659   閲覧ユーザー数:647

「はい。頼まれていた服。確かにお持ちしました!」

 元気のいい笑顔で作り終えた服をミリーに渡すと、ミーシャは家の窓側で、喋ることなく、たそがれている隆人を見た。

「あれ、なにかあったんですか?」

 依頼主を「あれ」呼ばわれしても、ぜんぜん、悪びれた顔をしないミーシャにミリーも特にツッコム気にもなれず、ため息をついた。

「昨日の夜から、あの調子なの……まぁ、昨日はいろいろあったから?」

「いろいろ……?」

 たいした興味も示さず、ミーシャは思い出したように両手をパンッと叩いた。

「そぅいえば、聞いてください! 私、ようやく、自分の店が持てました!」

「え……店って、呉服店屋を?」

「はい。あの後、隆人さん以外の人にも服を作ってくれって、頼まれて……作っていたら、厚意でアトリエを一つ、貸してくれることになったんです。これで、よぅやく、私の夢が叶いました。全部、隆人さんたちのおかげです! ありがとうございました!」

 ペコリと頭を下げ、ミーシャは手を振った。

「じゃあ、私はまだ、服を届けないといけませんので、これで?」

「うん……気をつけてね?」

「は~~い!」

 ぶんぶん手を振って、去っていくミーシャを見送り、ミリーは呆れたようにため息をついた。

「少しはなにか喋ったらどぅなの……昨日から、一言も喋らず?」

「……」

 ボ~~と窓の外を眺めるだけの隆人にミリーは青筋を立てて、怒鳴った。

「くぉら、林田隆人! こっち向かんか!?」

「……ん、なに?」

 今、気付いた顔で返事を返され、ミリーは肩で慣らし、部屋の真ん中の丸テーブルを指差した。

「今日は千年祭なのに暗い顔して……悩みがあるなら、聞くけど?」

「……ごめん。特に言えたことじゃないんだ」

「だ~~か~~ら~~……なんで、辛気臭い顔をしてるの!?」

 ガラスが響くほどの怒鳴り声に吹き飛ばされ、隆人は目をキョトンとさせた。ミリーは胸倉を掴み、さらに怒鳴った。

「今、あんたの世話をしているのは私なんだから悩みがあるなら、私に言いなさいよ!?」

「……ごめん」

 処置なしと胸倉を離し、ため息を吐いた。

「ただいま~~……お客さん、連れてきたよ?」

「お客さん?」

 バタンッとドアから入ってきた少女の姿にミリーの顔が硬直した。

「お、皇女さま、なぜ、ここに!?」

 慌てふためくミリーを一笑し、ルビーは晴れやかな顔でいった。

「なに、隆人に逢いにきただけだ。迷惑なら、場所を移すが?」

「い、いえ……とんでもない」

 急いで部屋の隅から余っているイスを引き出すと丸テーブルに加え、ミリーは手を差し伸べた。

「座ってください」

「ああ。そぅさせてもらおう。マオ、案内、悪かったな?」

「いいですよ。それくらい?」

 ニコッと子供のように笑うマオに苦笑し、ルビーはミリーが用意したイスに座り、隆人を見つめた。

「どぅした、なんだか、浮かない顔をしているが?」

「……」

 返事を返さない隆人にルビーは不思議そうにミリー達を見た。ミリー達も不思議そうに手を肩のほうまで持ってきて、「さぁ?」のポーズをとった。

「悩み事なら聞くが、どぅだ?」

 やさしくニコッと笑うルビーに隆人は首を横に振って、イスから立ち上がった。

「少し、散歩してくる」

「ちょ、隆人。せっかく、王女さまが来てくれたのに……」

 肩を掴もうとするミリーを制止し、ルビーは首を横にふった。

「たぶん、なにか、大事なことを考えているのだろう。ほっておこう?」

「……はい」

 納得の行かない顔で頷くとミリーは台所に向かった。

「粗茶ですが、お茶を出させてください」

「お構いなく……」

 といいながらも、お茶を飲む気満々のルビーにマオは苦笑した。

 

 

 街の中は祭り一色であった。行きかう人々全てが飲んだり騒いだり踊ったりと、せわしなく喧騒が息巻き、隆人はなぜか、寂しそうな顔をした。

「俺の使命は……これで終わったんだな?」

 自分でも聞こえないほどの小さな声に隆人は手をポケットに突っ込み、街を見下ろす千年樹を見上げた。

「種の救世主が植えた樹か……」

 数日前。といっても、一週間くらい前の話だが、この世界に連れてこられ、右も左もわからぬうちに、誰かが課したかわからない使命に気付かぬうちに自分は翻弄された。

 それ事態、別に嫌だというわけじゃなかった。

 むしろ、自分に出来た大事に誇らしい気持ちすらあった。

 だが、使命も終わった。

 後は自分に残された最後の仕事を果たすだけである。でも、それをすれば、自分は二度と、ミリー達と会えなくなる。

 それが寂しく、未練がましく、帰りたくないと思った。

 だが、時間は無常にすぎ、当然、帰る時間も迫ってくる。

「……俺は帰りたいのか、それとも帰りたくないのか、どっちなんだろう?」

 泣きたくなるような強い感情を覚え、隆人は涙がこぼれないよう首を上に上げた。

 

 

 昼が来ても帰ってこない隆人に、ミリー達は痺れを切らし、街の食堂まで来て、丸テーブルの前で食事をしていた。

「王女さま、本当にそれでいいんですか? 他にもいいものがあるけど……」

「ん?」

 口に含んだ、おにぎりを嚥下するとルビーは指についた汚れをハンカチで拭った。

「いや、おにぎりが好きなんだ。中身がなんだかわからないうちは宝くじを引いてるようで、ワクワクする」

「王女さまって、以外に庶民染みてるね?」

 キャハハとおかしそうに笑うマオを叩き、ミリーは怖い顔で小声で怒鳴った。

「あんた、死刑になりたいの……言葉を選びなさい!?」

「わ、わかったから、怖いよ……」

 離れると、マオは自分が頼んだ野菜スープを飲みながら、ルビーに聞いた。

「あのさ……王女さまは、隆人をどぅ思ってるの?」

 ミリーの目が仰天した。聞きにくいことをあっさり言ってしまったマオにある種、尊敬すら覚えた。

 ルビーも残っているおにぎりを食べ、かみ締めるように飲み込むと、マオを見据えた。

「好きだな……あんな、頼りになる男もそぅはいない」

 ミリーの顔が仰天したように真っ赤になった。マオも負けじと言い返した。

「ボクも好きだよ。初めて会ったボクに真摯に向き合ってくれたのは彼だけだったし……」

「……」

 素直に自分の感情を表に出す二人にミリーも隆人の顔を思い出し、胸を痛めた。

 バカでマジメで詰めが甘い奴だが、決して、人を不幸にする奴じゃない。

 人のために自分を痛めることの出来る人間は何人いるだろう。

 ミリーは隆人の人間性を思い出し、左胸を強く握り、二人に聞こえる程度の声で呟いた。

「私も好きだよ。あいつはどぅしようもないバカだけど、人を悲しませたりしない」

 マオとルビーの顔がニコッと綻んだ。

「じゃあ、今日からボク達はライバルだね?」

「ライバル。悪い響きじゃない。好敵手とでも呼ぼうか?」

「負けませんよ?」

 三人の右こぶしがトンッとぶつかり合い、ハハッと笑いあった。

 

 

 夜になると、千年祭の騒ぎもピークに達し、ケガ人が出るのではと思うほどの騒音が辺りに響いた。

 隆人は街外れの千年樹まで行く道のりで、ネオンのように輝く城を見つめた。

「これが最後の見納めだな……ミリー、マオ、ルビー。すまない」

 千年樹の根元まで来ると、隆人ははにかんだような笑顔を浮かべた。

 千年樹の根元には、お猪口にお酒を入れ、グビグビと飲みほす男がいた。

「やぁ……よく来てくれたね?」

 男は飲んでいた酒を置き、隆人を自分の隣に座らせようとした。隆人も言われるまま、男の横に座り、ニコッと笑った。

「初めましてかな……種の救世主様?」

「……わかってたのか?」

 男は少し意外そうに口を開け、苦笑した。

「そぅ、俺が初代、リーニスの国王。種の救世主といわれたダイヤモンド・リーニスだ」

 どぅだと、酒を勧められたが隆人は断り、世界中の下から見えるリーニスの街並みを見て、微笑んだ。

「俺をここに呼んだのは、あなただったんですね?」

「ああ……」

 コクリと頷き、ダイヤモンドは光り輝くリーニスの城を眺めた。

「君も知ってるように、この国の王は性格的に出来た人間ではなかった。自覚が足りないと言ってよかった。それ故に、国賊であるナーバムにあっさり騙され、国の政治を全てあの男に任せてしまった。このままでは、国はあの男のせいで滅びてしまう。だが、すでに故人である私には国を救うための力はなかった」

「あなたは、精霊かなにかですか?」

「わからない。死んだ後、気付いたら、この樹木の下で国を見守り続けていた。だが、見守るだけでなにも出来ず、私は手段として、新しい救世主を、この世界に呼ぶことにした」

「それが俺ですか」

 首を縦に振った。

「正義感が強いだけじゃダメだった。強く、包容力を持たねば、この国は私が望んだ、争いのない国には出来ない。結果、ナーバムは死んでしまったが……」

 隆人に向き合い、ダイヤモンドは深く頭を下げた。

「辛い思いをさせてすまなかった。私にこの国を救うだけの力があれば、君に迷惑をかけなかったのに」

 隆人は慌てて頭を上げるよういった。

「いいんですよ。俺のことは気にしないで……むしろ、俺は救世主の二代目になれて、嬉しかったです」

「そぅいってくれるとありがたい」

 ゆっくり頭を上げるダイヤモンドを見て、隆人は惜しむように樹木の葉を見た。

「出来れば、もぅちょっと、この世界にいたかったけど、もぅ俺は、この世界にいちゃいけない気がするんです。ここはあなた達にとって、現実ですが、俺にとっては、ただのファンタジーにすぎません。だから、これはお返しします」

 左腕につけた腕輪を外し、ダイヤモンドにつきだした。だが、ダイヤモンドは首を横に振り、腕輪を返した。

「また、必要になるときもあるかもしれない。勝手かもしれないが、それは君が持っていてくれないか?」

「いいんですか?」

「ああ……」

 その瞬間、城のほうから大音量の花火が舞い、隆人とダイヤモンドは目を輝かせた。

「この世界にも花火はあるのか……」

「ああ。とっても綺麗な花火だろう。この国の象徴にしたいくらいだ」

 隆人の足がわずかに消え、ダイヤモンドはニッコリ微笑んだ。

「どぅやら、お別れのようだな……さらばだ。種の救世主、林田隆人」

「さようなら……初代、種の救世主、ダイヤモンド・リーニス」

 隆人の姿が足から、この世界に消滅するように消え、ダイヤモンドは、また酒を飲み始めた。

「許せ……少女達」

 

 

「あれ?」

 目を覚ますと、隆人は見慣れたビルとビルの脇道に倒れるように眠っており、起き上がった。空はスッカリ、雨が降っていた。

「夢でも見てたのか……あ?」

 左腕につけられた鉱石のはめられた腕輪を見て、隆人はさっきまでの出来事は夢でないことに気付いた。

「帰ってきたのか、俺は……ふっくしゅん」

 雨に打たれすぎて、冷えたのか身体を震わせ、隆人は立ち上がった。

「……」

 もぅ一度、あの世界に行くことは出来ないかと考え、隆人は苦笑した。

「なに考えてるんだか……」

 バカバカしく思い、家までの帰路を歩きだした。

「あそこで一週間くらい過ごしたが、こっちではどれくらいの時間が経ったんだ?」

 怒っているであろう姉の顔を想像し、隆人は雨に打たれた寒さとは別の寒気を覚え、身を振るわせた。

 

 

 隆人が元の世界に帰って、一週間くらいが経った。

 元の世界は隆人がいたリーニスの国の騒ぎを知るよしもなく相変わらず平和な時間を流していた。

 学校に行って、帰って、学校に行って、帰って……

 その繰り返しも、よぅやく慣れるのを取り返し、隆人の頭の中で、リーニスの事件が夢であったのではと本気で思い始めていた。

 学校の朝のことであった。隆人は友人の竜太と一緒に教室まで歩いていた。話している内容は学生らしい、なんともくだらない内容であった。

 どのアイドルがかわいいか、うちの学校の女子のレベルはどれくらい高いか、消費税は下がらないか。

 下らなさを通り越し、すでにコントの域にまで話を昇華させていると隆人の背中から、一人の少女に声をかけられた。

「ねぇ、あんた……」

「はい?」

 振り返ると隆人は目を見開いた。

 ミリー……

 自分を呼び止めた少女は、髪こそは黒かったが、容姿から声までリーニスであったミリーとそっくりであった。そんな少女に声をかけられ、自然と心臓が高まるのがわかった。

「ねぇ……私達、どこかで会ったことない?」

「はい……?」

 阿呆のように呆け、聞き返した。

「同じ学校の生徒だけど?」

「そ、そんな事わかってるわよ!? 私が聞きたいのは、もっと別の話よ!?」

 バキッと強烈なチョップをもらい、隆人は泣き出しそうに頭を押さえた。

「ほぼ初対面の相手に、これはないんじゃないの?」

「ほぼ初対面ね……なんか、あんたを怒ると、しっくりくるのよね?」

「サドですか?」

 またチョップをもらい、隆人は若干、逃げ腰に彼女を見た。

「あの……俺、林田隆人。二年A組在学……」

「え、先輩? 私、月岡美里。一年A組在学……」

 顔を真っ赤にし、美里はまたチョップをした。

「先輩らしくしなさいよ!」

「そんな理不尽な!?」

 本気で泣き始める隆人に美里も、さすがにやりすぎだと思ったのか、素直に頭を下げた。

「ごめんなさい……先輩」

「隆人だよ……」

「え……?」

 美里の顔が不思議そうに呆けた。

「隆人でいいよ。なんだか、他人って気がしないのは俺も一緒だし?」

 美里の顔が真っ赤になり、気付いたら、廊下を反対方向に向かって逃げるように走り去ってしまった。友人達も後を追うように走り、隆人は不思議そうに竜太を見た。

「変なこといったかな?」

「マンガやゲームなら、フラグが立つイベントだな?」

「フラグ?」

 聞きなれない言葉を聞かされ、隆人は不思議そうに首をかしげた。

 

 

 朝から、不思議な出来事を味わったが、隆人はさらに不思議な出来事を味わった。

 それは隣のクラスに新しい転校生がやってきたという噂を聞いたことから始まった。

 好奇心満々に竜太にムリヤリ引きずられ、隣のクラスまで行くと、隆人は驚いた。

 転校してきた少女の容姿は今朝の美里と一緒で、今度はマオにそっくりな少女であった。

 可愛く社交的なイメージのマオとそっくりな少女は早速、休み時間に男子女子問わず団体の群れに押し寄せられていた。

 だが、不思議と隆人との視線があい。子供のように人垣を分けて、隆人のそばまで来た。

「ねぇ、君、どこかで会ったことない?」

「今朝も聞いたセリフだな?」

 ニヤニヤ笑う級友に隆人はため息を吐いた。

「さぁ、初対面だと思うけど?」

「そっか……あ、ボク、猫沢真央。君の名前は?」

「隆人だ。林田隆人……」

「じゃあ、隆人だね? ボクのことも真央って呼んでいいよ?」

 手を握られ、ぶんぶんっと元気良く振られると隆人は少し気圧されたように頷いた。

「えらく、馴れ馴れしいな?」

「そんな事ないよ? これでも下の名前は気を許した相手にしか許さないつもりだし?」

 照れたように頬を染める真央に隆人も恥ずかしくなったのか、そっぽを向き、廊下に出て行った。

「……やっぱり、どこかで会ったことがある」

 隆人の背中を見ながら、真央は怪訝そうに目を細めた。

 

 

 昼休みに入り、弁当を食べようと、鞄の中をゴソゴソと漁っていると、隆人はしまったと、おでこを叩いた。

「弁当を忘れてきちゃった……」

「なんだ、お前、弁当を忘れたのか?」

 隣で肉大盛りの牛丼弁当を食べている竜太に隆人は泣き出しそうな顔で手を合わせた。

「頼む、少し分けてくれ……?」

「別に構わんが……目の前のあの弁当を持った少女に悪い気がしてな?」

「少女?」

 教室の外を見ると、ハーフと思われる金色の髪の少女が、困った顔で手に持った風呂敷袋を隆人に向かって渡そうとしていた。

 竜太はニヤニヤといった。

「モテモテだな? 今日だけで、三人もフラグを立てるとは、この色男?」

「う、うるさい……それに、あの娘、確か……?」

 牛丼を食べながら、竜太が答えた。

「若干、一年にして、生徒会長になった氷川紅嬢だな? 確か、ハーフだって聞いたぞ?」

「紅……」

 今朝の二人と同じように彼女から、ルビーと同じ面影を感じ、隆人は言葉を失った。

「林田先輩!」

「は、はい!?」

 いつの間にか間合いに入られた隆人はギョッとなり、身を固めた。

「弁当を忘れたみたいですから、これ、お譲りします!」

「おにぎり……?」

 風呂敷から解かれたおにぎりの姿に隆人は目を数回、瞬かせ、紅を見た。

 紅も、不貞腐れたように顔を赤らめた。

「形が悪いのは愛嬌として許してください……おにぎりどころか、料理はしたことがないんで」

「あ、いや、形に驚いてるんじゃなく……」

 ルビーに貰ったおにぎりを思い出し、隆人はまた、言葉を捜した。

「ありがたく貰うよ?」

 おにぎりが手から離れると、紅は嬉しそうに顔を綻ばせ、教室から出て行った。隆人は出て行った紅に不思議そうにおにぎりを食べた。

「また、変なこといったか?」

「天然ジゴロだな。お前……」

 ポンッと背中を叩かれ、隆人はジゴロの言葉にムッとなった。

 

 

「妙だな……妙だ」

 学校が終わり、いつものように帰宅しようとすると隆人は今朝から感じている疑問になんども首をひねった。

「美里、真央、紅……名前がちょっと、違うだけで、全員、俺があの世界にいた三人の名前とそっくりだ」

 ルビーは日本語で紅玉と読むし……

 隆人は、なんども、美里たちともぅ一度会おうかと、思ったが、思いとどまった。

 今更、そっくりさんとあってどぅする。自分にとって、ファンタジーでしかない、あの世界をもぅ一度、体感したいのか。違う。あそこは俺にとって現実じゃない。現実じゃないはず……

 気付いたら、隆人は校門の壁に手を突き、苛立っていた。自然と涙が溢れ、泣いていた。わかっていた。あの世界が懐かしいんじゃない。あの世界で別れも告げず、消えていってしまった少女達にもぅ一度逢いたいと未練がましく、泣いてしまっているのだ。

「怒ってるだろうな……みんな、俺にこんな、腕輪をつけているから、未練が残るのかもな?」

 左腕につけた腕輪を外し、投げ捨てると、隆人は涙を拭い、校門を抜けようとした。

「待って! 腕輪……落としたよ?」

 優しい声がかけられ、隆人は振り返った。

 腕輪を持った少女に隆人は不思議と心が躍り、自然と笑顔が綻んだ。

 そこには隆人が一番、逢いたかった少女がいた。

 その少女も隆人に笑顔を浮かべ、腕輪を渡してきた。

「ひさしぶり、隆人……」

 少女の笑顔に隆人は嬉しくなった。また、彼女と一緒にいられる。

 それがなによりも嬉しく。

 自分が果たした使命へのご褒美ではないかと喜んだ。

 その少女は……

 

おわり 


 
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