No.136016

真・逆行†無双 一章その6

テスタさん

一章その6です。
楽しんでいただければ幸いです。

2010-04-12 18:10:30 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:7866   閲覧ユーザー数:6162

 

 

 

 

 

 

 

「へへっ、頭そろそろ昨日の邑が見えてきやすぜ」

 

「おう、今日は昨日とは違って根こそぎ奪うぞテメェら!」

 

一刀たちがいる邑へと向かっている集団、

それが昨日邑を襲った盗賊たちである。

その全員が頭に黄色い布を巻いている。

 

「きょ、今日はカワイイ女の子も連れて帰るんだな」

 

「ははっ、いいぜいいぜ。食料、金、女、皆俺達のもんだぁ!」

 

「「「「「「「オウ!」」」」」」」

 

そう言って盗賊たちは下卑た笑みを浮かべ歩を進める。

己の欲求をみたすために。

 

「ん?」

 

そんな中、一人の下っ端が気づく。

 

「どうした?」

 

「いえ、お頭……あれ人が集まってないですか?」

 

「あん?」

 

邑の外に出て、己ら盗賊を待っていた存在に。

 

次に賊の頭はそいつらが武器を持っていることにも気づく。

その存在が昨日襲った邑の人々だということにも……。

 

「何だあいつ等……」

 

向こうもコチラに気づいたのだろう。

武器を構え始めていた。

 

「やるっていうのか?」

 

昨日とは全く違う雰囲気、気迫。

そこにはただやられて見ているだけの存在はいなかった。

 

「昨日さんざんやられておきながら……」

 

いたのは……自分たちを退けようと

気力こもった目を向ける戦士たちだった。

 

「俺達と戦おうってのかぁ!?」

 

頭が武器を抜きながら叫ぶ。

それに反応するように下っ端たちもそれぞれの武器を構え、

『獲物』から『敵』になって眼前の存在を睨みつける!

 

その時、目の前の集団から一人の女性が出てくる。

蒼い髪をした槍を持つ美しい女だ。

 

賊の頭はその女を見て理解した。

アイツが一番強い……と。

 

「はは……上等だ」

 

一歩。

お互いに歩を進める。

 

それから互いの武器を空に掲げ叫ぶ。

 

「行くぞオラァーーーーーーーー!!!」

 

「突撃ぃぃぃ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「グエッ!?」

 

「ガッ!?」

 

「ギャアッ!!?」

 

誰よりも速く駆け、敵部隊とぶつかった趙雲は己が信を置く槍を羽のように振るう。

それだけであっという間に三人の賊を斬って捨てる。

 

「何だあの女!?」

 

「めちゃくちゃ強ぃぞ!?」

 

「我が名は趙子龍!獣に成り下がった賊共よ、

己が欲望を果たしたいと思うのなら私を倒してからにするのだなっ!!」

 

「ぎゃあっ!?」

 

名乗りを上げながら趙雲は敵をまた一人なぎ払う。

その武に、その姿に賊共は怯み、

仲間は勇気を貰う。

 

「なぁに女の私にやられても恥じることはない。

なにせ、この武は大陸で五本の指に入るらしいのでなっ!!」

 

趙雲は笑う。

嬉しくて笑う。

 

思い出すのは一刀の言葉。

 

『賭けてもいい、趙雲さんの力を一番信頼しているのは俺だって』

 

昨日初めてあった男の言葉。

だが、その男の目はとても真っ直ぐで好ましい。

そんな男からそんな言葉を言われたのだ。

悪い気はしない。

 

「存外悪くないものだ……。心底誰かに信頼されるというのもっ!」

 

「ぐぎゃっ!?」

 

「皆っ!言った通り決して一人で戦うな!

三人で一人に当たれば必ず勝てるっ!!」

 

「「「「「オオッ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いですね……正直ここまでの武を持っているとは……、

真名を預けてもらっているのに情けないです」

 

「そだね~。

でもお兄さんの言ってたことは本当だったということでもあります」

 

本陣からは趙雲たちが戦う様がはっきりと見えていた。

その武に旅をしてきた二人も驚いている。

 

「でもこれで成功率もぐっと上がったは、

嬉しい誤算なんだから今は気にするのはやめたら?」

 

「分かっています。まずは無事に―」

 

「今日を乗り越えるのですよ」

 

三人は表情を引き締める。

そう油断など出来はしないのだから。

 

「今は趙雲のお陰で兵たちも士気が上がって押しているけど」

 

「やはり数が違いすぎます。

すぐに盛り返されるでしょう」

 

「そしてらすぐに兵を林の近くまで引いてもらい」

 

「奇襲をかける!」

 

荀イクはチラリと林へと視線を向ける。

 

「心配ですか?」

 

「なっ!?ち、違うわよ別にあの変態のことなんか心配するわけないじゃないっ!」

 

「フフフ~、風は別にお兄さんのこととは言ってないのですよ~」

 

「~~~~~っ!?」

 

引っ掛けられたことに気づき荀イクは顔を赤くするが、

周りはそれを暖かな目でみていた。

 

「き~~~っ!!

これもみんな、あのバカのせいだー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅんっ」

 

「大丈夫ですか、御遣い様?」

 

「ん?大丈夫大丈夫。風とかじゃないから。

誰かが俺の噂でもしてたのかな」

 

ここは林の中。

一刀を含めた百人がこの林に身を潜めていた。

奇襲を成功させるために。

 

「ブルル……」

 

一刀の横にはやる気にみちた目をした六花がいる。

馬は全部で二十頭残っており、一刀を先頭に合図と同時に歩兵より先に駆けることになっている。

 

一刀は六花の頭を撫でながら、深夜のことを思い出す。

荀イクがくれた言葉をかみ締める。

 

それだけで一刀は不安を消すことが出来た。

勇気を震わせることが出来た。

人を斬る覚悟も出来た。

 

一刀は理解している。

自分という人間の小ささを。

己の力量を。

 

一刀では全てを救おうなんて出来ない。

いや、そんなことは人間であるならば誰にも出来ないだろう。

だから一刀は決めたのだ。

己の手が人殺しの手であるのならば、

その手は誰かを救うために使おうと。

 

矛盾した言葉ではあるが一刀は、

救うために殺すことを決めたのだ。

 

「御遣い様!時軍が押され始め後退を始めました」

 

「っ!みんなそろそろ俺達の出番だ。

準備は出来てるか?」

 

「もちろんでさぁ」

 

「いつでもいけますよ」

 

「奴らに目に物見せてやりますよ!」

 

頼もしい言葉に自然と笑みが浮かぶ。

 

恐怖はある。殺しに対する戸惑いも残っている。

でも大丈夫。

分かったから。

己の手の存在意義を理解したのだから。

 

北郷一刀は前を見て戦える!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいっ!はいはいはいはいー!!」

 

「ぐえっ!?」

 

「ひぐぅっ!?」

 

「どうした賊共?その程度では私は倒せんぞ!?」

 

「くっ!やっぱり強い……!」

 

「こいつ一人にに百人以上やられたぞ……冗談じゃねぇ!!」

 

賊たちを引き連れて後退するなか、趙雲はどんどん敵をなぎ倒していっていた。

その数は賊の言う通り百を越えている。

 

だが、彼女の顔に疲れは見えない。

いや、隠しているだけかもしれないが、

そのことが敵には恐怖を、見方には安堵を与えていた。

 

(ふむ、もうそろそろだな……)

 

「皆のもの!あともう一頑張りだ!!

持ちこたえてみせよっ!!」

 

「「「「「「オオォォーーー!!」」」」」」

 

「ふっ、何とも頼もしい……。

私も負けてられんなぁっ!!」

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

賊の頭は苛立っていた。

上手くいかない。

調子が狂う。

 

今は押しているが、あの馬鹿強い女に百人以上もっていかれた。

もっと簡単な筈だった。

もっと楽しい筈だった。

なのに上手くいかない。

 

「気合入れやがれ野郎共ォ!!」

 

叱咤を飛ばす。

だが現状は変わらない。

 

殺せないのだ、敵を。

 

倒せはしても殺せない。

しぶとく生き残っている。

 

それが頭である己を苛立たせていた。

 

「押しているのはコッチなんだ!

皆殺しにしちまえぇ!!!」

 

足掻くな、抵抗するな、大人しくしていろ!

そんな意味を込めて叫ぶ。

 

そして叫んだ賊の頭の耳に、大きな鐘の音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少し前、荀イクたちのいる本陣。

 

「やっぱり数はいても所詮は獣ですね。

簡単に罠にかかってくれました」

 

戯志才が笑みを浮かべ言う。

その笑みには安堵の色が色濃く写っていた。

 

「まだ安心するのは早いわ。

安心するのはあいつらを蹴散らしてからよ」

 

「ええ、そうですね」

 

「そろそろ敵さんが林のすぐ横まできますよ~」

 

「合図を出す瞬間は貴方にお願いしますね」

 

荀イクに向けられた言葉。

それに静かに頷く荀イク。

 

今、荀イクの視線に映る林には一刀が姿を潜めている。

 

「潰れるんじゃないわよ……」

 

そう呟き右手を上げる。

心で一刀に話かける。

 

(最高の瞬間で合図を送ってあげる。

だから、あんたが人殺しの手と言った手で、

此処の人々を救ってやりなさいっ!!)

 

「今よ!鐘を鳴らしなさいっ!!」

 

その声と共に戦場に大きな鐘が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!来たっ」

 

一刀の耳に鐘の音が聞こえた。

その場にいたもの全てが緊張に包まれる。

だがそれも一瞬、直ぐに行動へと移る!

 

「行くぞみんなっ!突撃ぃぃぃーーー!!!!」

 

一刀の叫び声と共に一斉に林から抜け出し駆け出す!

すぐ横にまで来ていた盗賊たちの下へと!

 

「な、なんだぁ!?」

 

「林の中からかっ!?」

 

「う、うわぁぁー!!?」

 

「六花!」

 

「ヒヒーン!!」

 

一刀の声に答え六花は躊躇なく集団の中へと飛び込んでいく。

動揺している人間に馬の体当たりを交わせる筈もなく、吹き飛ばされていく。

 

そのすぐ後ろでは奇襲部隊の兵たちも勢い良く盗賊を倒していく。

合図は完璧。勢いと流れは手に入れた。

あとは成功させるだけだ。

 

「ハァッ!!」

 

「ぐぇあっ!?」

 

一天を振るい賊を斬り捨てながら突き進む。

一刀の狙いは初めから一つだった。

 

古今東西、戦の勝利条件で変わらないことが一つだけある。

それは敵の大将を獲れば戦は勝利で終わるということ。

 

一刀の狙いは、敵大将を討つことだ!

 

 

 

 

 

 

 

一方こちらは敵をおびき寄せるために後退していた趙雲たち。

こちらの被害はゼロとは言わないが驚くほど少ない。

 

「どうやら奇襲は成功したようですな」

 

敵の慌てふためく声、叫び声、悲鳴を聞き

策が成ったことを知る。

 

「よし聞け!皆のものよ!

我らが策はなった!後は目の前の敵を退けて我らの勝ちだ!

気を抜くな!精神を研ぎ澄ませ!目の前の敵をなぎ払え!

そして何より生き残れっ!!」

 

「「「「「「「「「「「オオーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」

 

「突撃だぁぁぁ!!!!!」

 

声に反応して後退を止めまた進撃を開始する。

突然の奇襲に驚いていた賊たちはそれに反応が遅れ、

また数十人戦場から退場した。

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしい……何故?

そんな思いが賊の頭の脳裏に過ぎる。

 

こちらはこの場において強者の筈だった。

一方的な略奪、虐殺、強い者が弱い者を喰らう自然の摂理。

欲望を満たすための場になっている筈だったのだ。

 

それが何だ?

 

自分たちより少ない数の敵にいいようにやられている。

まだ数でいえば勝っている。だが、被害数でいえばこちらが圧倒的に多い。

馬鹿強い女の存在。

突然の奇襲。

全てが想像外の出来事であった。

 

「頭ぁ!もう半分以上やられちまいやしたぁ!!」

 

「何ぃ!?たったコレだけの人数に五百人がやられたってのか!?」

 

「ひぃぃっまた百人やられました!!」

 

次々に入って来る聴きたくもない情報に頭を抱える。

そして過ぎる考え。

 

このままじゃ……負ける?

 

「ふざけんな!?こっちは千人いたんだぞ?

それが……こっちの半分もいない奴らに負けるっていうのか!?

そんなの認められるかぁ!?」

 

「でも、現実だ!」

 

「っ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

「うわっ!いきなり馬が―ぐえっ」

 

声と共に現れる一頭の馬。

そしてその馬に乗る一人の男。

 

光り輝く衣を纏い盗賊たちの前に立つ姿は、

周りにいるもの全てにに神々しさを感じさせた。

 

「お前が盗賊の頭か?」

 

「何者だテメェ?」

 

「北郷一刀、天の御遣いさ」

 

「天の御遣いだぁ?

胡散くせぇ名前だな」

 

「俺も思うよ。でも邑の人たちはそんな俺を信じてくれてるんだ。

その思いに応えないわけにはいかないだろ?」

 

ユルリと一天を構える。

それに反応して賊の頭も槍を構えた。

 

「はっ!そんな小っこい剣で大丈夫なのか?」

 

「ああ。人を殺すには十分だ。十分すぎる」

 

「そうかい……オイテメェら!

俺一人でやる。手をだすんじゃねぇぞ!!

ま、テメェのことでいっぱいでそんな暇はねぇか……」

 

頭の言葉通り。

一刀以外の奇襲兵がやってきて、下っ端たちを討伐していた。

 

「………」

 

「………」

 

静寂は一瞬。

二人は同時に駆け出した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強い!

 

繰り出される突きを受け流しながら思う。

流石に頭だけあるか……。

 

でも、負けてられないっ!

 

「オラァっ!どうしたよ?防いでばっかじゃねぇか!!」

 

「くっ!」

 

一撃が重い……一天じゃキツイな!

 

すかさず一天を収め地刀を抜く。

そしてそのまま敵に斬りかかる!

 

「おっと!見え見え何だよぉ!!」

 

「づっ!?」

 

派手な音を立てて後ろへと飛び引く。

何とかかわせた……かわせたけど……。

 

ツーっと頬から血が流れる。

……避けきれなかった。

 

「へへっお奇麗な顔に傷がついちまったな?

だが気にするな、すぐにそんな傷が気にならないくれぇ

グチャグチャにしてやるからよぉ!!」

 

横薙ぎされた槍をバックステップでかわす。

まずい……流れがあっちにもっていかれた。

 

でも、だからって……引いてられない!

 

「ハァッ!!」

 

「温い攻撃してんじゃねぇぞ小僧がぁ!!」

 

くっ!ダメだ、弾かれる!

下手な攻撃じゃ間合いにさえ入らせてもらえない。

 

戦ったことなかったから知らなかったけど、

槍と刀って相性悪くないか?

 

俺の腕がないだけかもしれないけどさっ!

 

それにしても……

 

 

 

 

――本当に痛感させられる。

この状態になっていても押されているなんて、

実戦はやっぱり違うなぁ。

 

――この人は先輩に近い強さはある。

でも速さも強さも力量では先輩に劣るだろう。

 

――なのに先輩とやる以上に苦戦してしまうのはコレが殺し合いだからなんだろうな。

 

――……怖いな。うん、やっぱり怖いや。

でも逃げるなんて出来ない。

 

――胸を張れって言われたんだ。

 

――それなのに逃げてしまえば、きっと胸なんか晴れやしない!

 

 

 

 

「ぐっ、うぅぅ~~!!」

 

横から振るわれた槍を地刀で受け止める。

衝撃が強い!並の刀じゃこれで折れてるな……。

 

「なっ!?受け止めやがっただと!?」

 

驚く頭を他所に、瞬時に刃を寝かせて槍の上を滑らせながら踏み込む。

よしっ!刀の間合いに入った!

 

「貰ったぁ!!!!」

 

「くそがぁっ!?」

 

振りぬいた一撃は確かに盗賊の頭の血を噴出させた。

だけどその勢いは余りに微弱。

服の上から皮一枚を斬れたにすぎなかった。

 

つまり俺は失敗したのだ。

この一撃で敵を殺すことに。

 

チャンスを失敗すると待っているものがある……。

それは――ピンチだ。

 

「俺は……弱いな」

 

「そうだな。だから俺に殺されて死ぬんだ」

 

直ぐ横からかかる声。

視線を向けると賊の頭が槍を構え睨んでいた。

 

そしてすぐさま構えた槍が俺に向かって突き出された――。

 

 

 

 

 

 

 

 

趙雲がその光景を目にしたのは偶然にすぎない。

 

次々に敵を散らしていた趙雲は、

いつの間にか一刀たち奇襲部隊の所までたどり着いていた。

 

もう殆ど数も互角になっており。

油断は出来ないが趙雲はこの戦に勝ちを見た。

 

そうしてまた一人賊を倒し、少し廻りに目をやった時だ。

自分の視界に一刀を見つけたのは。

 

しかもどうやら一刀は格好からして盗賊の頭と戦っているようである。

敵は遠目からでもそこらの雑魚とは違う力量をしている。

 

趙雲はマズイと思う。

明らかに一刀のほうが押されていた。

 

このままではダメだと趙雲は駆け出す。

仮にも大将であるし、何より興味の尽きない相手を無くすのは趙雲は嫌だった。

 

「っ!?」

 

しかし、趙雲が二人の下へとたどり着く前に動きがあった。

一刀が相手の懐に踏み込み一閃するが、敵はそれを避ける。

 

そうして出来てしまう隙。

その隙を敵が逃すはずもなく、構えられた槍。

一刀は動くことが出来ていない。

だが、無常にも槍は突き出された!

 

「北郷殿――――――――――!!!!」

 

叫ぶ。

だが叫んだ所で間に合うはずはない。

 

ダメか……。

 

趙雲が諦めかけた時だ。

その光を目にしたのは。

 

「――え?」

 

気づけば趙雲は動きを止めていた。

その光に見惚れてしまったのだ。

 

強い光。

真っ直ぐに前を見据えた強い光。

その光を目に宿した一刀に。

 

一刀は諦めてなどいなかった。

この状況で、この場面で。

ただただ前を見据えていた。

 

強く。強く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな。だから俺に殺されて死ぬんだ」

 

そう言って突き出される槍。

避けきれない攻撃。

なら避けなければいい!

 

「それは違うよ」

 

ガッ!!

 

「なっ……!?」

 

「俺は弱い……だからこそだ」

 

柄頭で槍の刃を受け止めたまま腕を振りぬき弾く。

体勢を崩す賊の頭。

間合いに入るために一歩踏み出す。

同時に親指で一天の鍔を弾き鞘から抜き上げる!

 

「だからこそ俺はアンタに勝つんだ」

 

開いている左手で一天を逆手に持ち――

 

「アンタに勝って俺は一歩強くなるんだーーーーーーーーーー!!!」

 

一気に鞘から抜きさり振り上げた!!

 

 

 

 

………………。

 

………。

 

…。

 

「ありがとう」

 

「あん?」

 

「あなたのお陰で俺はまた少し強くなれた。

勝手な言い分だけど、あなたの命の変わりに貰ったこの強さ。

無駄にしないよ」

 

「……はっ、知るかよそんなこと。

でも、誰かに心の篭った礼を言われたのは初めて………だ……」

 

笑って倒れた賊の頭に小さく頭を下げる。

それから血に濡れた一天を空に掲げた。

 

「聞けっ賊たちよ!!お前達の頭はこの天の御遣い、

北郷一刀が討ち取ったーー!!」

 

その言葉を聞いて盗賊たちにどよめきが走る。

 

「う、ウソだろ?頭がやられちまった!?」

 

「もうこっちは二百もいねぇんだぞ!?」

 

「ど、どうする?」

 

「どうするって一つしかねぇだろ?」

 

「「「「「「逃げろーーーーー!!!!!」」」」」」」

 

それからわれ先にと逃げ始めた。

 

「逃げる者は追うな!向かってくるものを倒していけ!!」

 

邑の人たちに指示を出し、

それから逃げていく盗賊たちに向かって声を上げる。

 

「これに懲りたらもうこの邑に手を出さないことだ!

また手を出したなら天の御遣いである俺が、容赦しないぞ!!」

 

「ひぃぃ!!誰がこんなおっかない所に手を出すかよ!!」

 

「に、逃げろぉぉぉ!!」

 

逃げていく盗賊たちを見ながら安堵の溜息をはく。

どうやら無事に終わったみたいだ。

 

まだ向かってくる盗賊もいないし、全員逃げたんだろう。

 

「ブル」

 

六花が近くに来たので優しく撫でてやると嬉しそうに鼻を鳴らした。

 

「北郷殿!」

 

「趙雲さん!良かった、無事だったんだね」

 

「おや?大陸で五本の指の実力と申したのは北郷殿のくせに、

心配などしていたのですか?」

 

「当たり前だよ。趙雲さんみたいに可愛い子が傷ついたら悲しいよ」

 

「っ!……これは一本とられましたな」

 

顔の赤い趙雲さんに微笑みながら大事な質問をする。

 

「……被害は?」

 

「驚く程少ないですよ。……ゼロとは言えませんが」

 

「そう……」

 

分かっていたことだ。

戦争をする以上無害でいられるなんて出来る筈がないんだ。

 

でも、不甲斐ない気持ちで一杯になる。

 

「北郷殿……今は」

 

俺は……救えたのだろうか?

 

「うん、今は……」

 

邑の人たちを、救えたのだろうか?

 

見れば本陣にいた人たちも駆け寄ってきている。

 

「皆!盗賊は俺達に恐れをなして逃げていった!

ということはどういうことか分かるか?

そう、俺達は勝ったんだ!生き残って、

明日を勝ち取ったんだ!!」

 

でも少なくても、

 

「だから……勝ち鬨を揚げよーーー!!!!!」

 

「「「「「「「「「「「「「わぁああああああああっ!!!!」」」」」」」」」」」」

 

今この時、この人たちの笑顔は本物だろう。

 

 

 

 

 

 

 

この時、一刀が剣を掲げている光景を見て全てのものが大なり小なり一刀にその姿を見た。

 

それは人々を導く王。

『天の御遣い』の姿を。

 

そして中でも大きくその姿をみたのが二人いた。

 

一人は一刀の直ぐ傍にいた趙雲。

そしてもう一人は――……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき。

 

今回はここまでです。

戦闘描写はやっぱり難しいですね。

少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです。

 

ではコメントを返していきます。

 

村主さん>やっぱり現代の価値観からすると人を殺してしまったらとても正気ではいられないと思うのでこんな感じにしました。呉ルートでも吐いてましたしね一刀は。

桂花はこのまま微デレでいくことになりと思いますよw

 

tokiさん>そうですね。きっと励ましのないままいっていると鬱ルートに入っていたでしょうねw

桂花はいい女ですよ。僕はそう信じていますw

 

睦月 ひとしさん>そう言ってもらえると嬉しいです。きっとここの一刀は苦悩しながらも成長していくと思います。

 

BookWarm さん>桂花は常時ツンツンですからねwでも原作でもあったようにたまにデレるのがいいんですよw魏ルートで一刀が倒れた時にキツイ言葉ながら心配する桂花にはやられました。

 

ふじさん>桂花にはこんくらいのデレが一番合うと思うんですよ僕はw

 

 

 

ではまた次回に。

 

いつも見ていただきありがとうございます。

 

たくさんの開覧と支持、さらにはコメントをもらえてとても嬉しく力になってます。

 

 

また次も見てくれると嬉しいです。

 

 


 
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