「無関心の災厄」 -- 第二章 ワレモコウ
PROLOGUE 伝道師による開幕ベル
――この世で最も恐ろしいイキモノは人間《ヒト》だ
昔、漫画だかアニメだかで、こんな台詞を見た事がある。
この命題は真実《ホントウ》で、虚偽《ウソ》だ。
ヒトほど卑屈で、卑怯で、卑下する卑劣なイキモノは他に存在しない。
ただし、その脆弱さゆえヒトは思考し、学習し、周囲を貶める事を自覚した。長い歴史の中でヒトはその力に目覚め、試行錯誤を繰り返してきた。
だからこそ、ヒトは恐ろしい。
その武器は頑丈な牙ではなく、鋭利な爪ではなく、ましてや骨でも筋肉でも躰《カラダ》全体のどの部分でもなかった。
ヒトが武器として選んだのは、『言葉《コトバ》』という形無きモノだった。牙よりも鋭利にヒトを傷つけ、鎖よりも頑丈にヒトを縛り、時に不可能と思われる治癒の力さえ持つ『言葉《コトバ》』。
それは、ヒトが持つ唯一最強の武器。
武器をいかに巧みに操るかが、どれだけ強いかという証といっても過言ではない。
しかし最後に付け加えるならば、この命題には一つだけ条件がある。
それは、この命題を使用する本人もまたヒトである事――
長い枕詞になったが、要するに何が言いたいかって言うと、オレは今現在、目の前に出現した人物に恐怖している、というたった一文を導きたかっただけなのだ。
限界まで握りしめた拳は、とっくに感覚がなんぞ残っていない。
首筋がすぅっと冷えるのは、きっと汗が蒸発していく所為《セイ》だ。
「キミは不思議やなあ」
先輩がいつだったか言っていた――コトバは魔法なのです、と。
オレはそれを疑っていた。未熟なオレにはまだ魔法が使えなかったために、魔法の存在自体を疑ったのだ。
でも、違う。
この世に魔法ってのは存在する。それは、時にヒトを縛り、戒め、傷つけ、癒し、嬲り、弄び、時に殺《アヤ》めてしまう。ヒトが扱う最強の魔法だ。
現実に、彼の言葉がオレをこの場に縛り付けているように。
「見た目も、能力も、経験も……なんもかんも全く一般人やいうんに、あり得んほどめちゃめちゃ強い極性を持ってはる」
オレのすぐ目の前に佇む細い眼鏡の男は、さも可笑《オカ》しそうに目を細めた。
細く束ねた長い黒髪が風に靡き、風を巻き込んで翻る。
「キミは真実《ホンマ》に不思議やわ」
もう一度同じ台詞を吐いた『災厄の伝道師《エヴァンゲリスト》』は、オレをその場所に釘付けにしたまま、唇を笑いの形に歪《ユガ》ませた。
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オレにはちょっと変わった同級生がいる。
ソイツは、ちょっとぼーっとしている、一見無邪気な17歳男。
――きっとソイツはオレを非日常と災厄に導く張本人。
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