No.135684

悲恋姫†無双 第七十三・八百話「『死線上を舞う修羅達』」

Nightさん

唐突に思いついた、と言うわけではないこの企画。
読んだ方の感想を聞かせていただけたら嬉しい限りです

どなたか一人でも面白いと思っていただけたら僥倖です

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2010-04-11 02:50:13 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:15920   閲覧ユーザー数:11923

 

 先の見えない程に並んだ万を越す騎馬の隊列

 だがそこには・・・当然有るべきものがなかった

 

 死の恐怖に怯えた瞳も

 

 兵士に対する戦口上も

 

 たった一つの、ざわめきさえも・・・

 

 黒衣の男の見渡すそこには・・・一本の旗も、立っていなかった。

 

 つまりは、そう言うことだ・・・

 此処は戦場で、黒衣の男が率いる軍は・・・『魔王の軍』

 率いるその男こそが、左腕に『天使』を抱き、右腕を闇に染めた、黒衣の『魔王』。

 如何に着いて来たがろうとも、舌戦に朧は抱いて行けない・・・付き従う麗に朧の小さな身を預ける。

「行って来る、何か有れば、そのまま突撃して食い破れ」

 鋼の声はそう告げ、優しく朧の頭を撫で付けると、背を向けようとするのを、朧が引きとめ・・・その左手を握り、小さな唇を押し当てて、柔らかく微笑む。

「行ってらっしゃい、お兄様」

 一影の背を見送る朧、敵の陣より一騎進み出てくるのを見て、朧はその姿を見るまでも無く相手の正体に思い至っている。

「・・・曹魏の三夏。

 聞く所によれば、相手の人となりを見抜く慧眼を持つ御使いがいると聞きます。

 その方には、お兄様はどう見えるのか・・・」

 クスリと笑う朧の目には、イタズラっぽい笑みが浮かぶ

 人では無いものを、見抜けるのでしょうか、その御使いさんには。

 

 出て来たのは男・・・そうか、『慧眼の御使い』をもって、オレを見抜きに来たか。

 さて、朧ですら見抜き正解に至るまで行かなかった我が身を見て、なんと評する、慧眼の御使い。

「不死の兵を引き連れ民の平穏を奪おうとする者よ、いかに人外のものであろうと天を頂く我等の王を、民を脅かす事は出来ん」

「・・・笑止。

 天を戴いているというならば、何故オレが軍を率いて此処にいるのか。

 それこそまさに、天意が無いことの動かぬ証。

 偽帝を掲げる国より、民を解放せよとの勅命である。民の平穏を願うなら、我が軍門に下れ」

 惜しいかな『慧眼の御使い』、その口上は・・・味方向けの鼓舞にはなるが。

 敵の足場を崩しには来れまい・・・防御だけが、守り方では無いぞ。

 凪、真桜、沙和・・・夏侯の旗が多い、秋蘭が、居るのか。

 賈・・・賈とは、誰だ。

 

「何を言う、天を語るには天、地、人、三つが揃わねばならない。

 劉協様を手中に収め、地を手にしている事は認めよう、

 だが肝心の人が俺の眼をもってしても貴様からも兵からも感じられない。

 人を捨て天を語り民を開放せよとは、民にその兵のように人を捨てよと言うことかっ!

 そのような偽りの勅命など誰が聞こうか」

「語るに落ちたな、曹魏の将。

 淡雪がオレに命を下したと認めた以上・・・貴様に天を語る資格なし。

 武器持ち、兵を従え、人を殺さんと構えるオレに人が無いのなら、即ち、お前にも人が無い。天も地も人も無い、ただ暴力のみの獣と自ら証明したな」

 漆黒の方天画戟を肩に背負う、何時もの通りの自然体の構え。

 その姿から指一本動かさずに、一気に肉体を活性化させ、身に纏う空気を重くさせる。

 押し潰すような重苦しい空気と共に、突きつけられた鋼の声は・・・

 静かで

 優しくさえ聞こえた

「獣と化した逆賊など黄巾党と同じだ。

 そのまま・・・藁の様に死ね」

 青州兵の動揺が小さすぎる・・・何かがおかしい、どこかが違う。

 賈、魏に属す賈とは誰だ・・・賈逵、賈充・・・

 

 賈が、魏で、おかしい・・・ものか。

 

 兵の掌握、錬度の高さに、一影がマフラーに隠された口元がきつく噛み締める。

 ・・・間違いない。

 三国志演義で一度も策を破られたことの無い・・・化け物軍師が敵に居る。

 

 敵の軍師は・・・賈文和・・・詠、だ。

 

ヤツの目にある覚悟が折れない・・・流石は、秋蘭を差し置いて曹操軍の・・・華琳の代理として一軍の総大将となるだけの事はある。

 

では、見極めよう

 

この男は、華琳に必要かどうかを。

 

「曹孟徳・・・いや、華琳のやっていることは、侵略に過ぎない。

 力を持って他を制圧する、その『覇王』こそが、民の平穏を奪っている張本人。

 徳なき奸雄に従うお前達こそが、民の害毒に他ならん」

ズキリと胸が痛む、華琳は・・・そこを受け入れ踏み越えている。

それでも・・・覇王であっても、一人の女の子なのだ。

覇王でも、英雄でも、女でもなく・・・一人の女の子、お前の慧眼はそれが見えているか、

それとも、戦に勝つことだけ考えているか、御使い。

もし、そうであるなら・・・

 

一影の身が殺気を纏い始める。

 

・・・お前には、此処で消えてもらう。

 

「そんなことは知ってるよ。戦を起こす意味も、そのせいで沢山の人が死ぬことも、華琳は

それを全て背負っている。たった一人で、王だからといって」

 

「華琳はただの女の子、でも自分が人を救える力があると理解しているから全てを背負うと決めたんだ

王は玉座に独り座るもの、華琳の心は寂しく戦で苦しむ人たちの心を一人背負っている。

だから俺はアイツを一人にしない為にこの眼を持ったんだ」

 

「華琳が徳が無いとか民の害毒とか言われても俺達は何も思わないよ、知らない奴には言わせておくさ

この乱世で力が無ければ誰も守れない、だからこそアイツは覇道を歩むと決めた。

それなら俺達は覇王の心を守る為に生き残り、戦い続けるだけだ」

 

 黙って聞き流すかのように相手の言葉を受ける一影・・・

 華琳を御輿として掲げるだけの男ではなかった。

 それがわかっただけでも、よしとしよう・・・だが、その男の言葉で解ってしまった。

 『慧眼の御使い』と呼ばれる男は、華琳が縋りつける場所なのだ、と・・・

 目線は華琳と同じかもしれない、慧眼と呼ばれるほどだ、見通せる目も持っているだろう、だが・・・この男は、まだ夏侯姉妹と同じ立ち居地にいる。

 

「・・・隣にたって、支えているわけではない」

 

 その小さな掠れるような呟きは、誰の耳にも聞こえなかった。

 ミシッと闇に染まった右手が重く迫るような音を立てる。

 その虚無の瞳に、暗い闇が灯るのを隠そうともせず・・・

 殺気はいや増しに増し・・・それを己の内にと一影は飲み込んでいく。

 

 ただの『女の子』と言うお前が、何故、友として隣に立たず、臣下の位置に立った。

 

 胸倉を掴んでそう吐き捨ててやりたい衝動を抑え付ける。

 それが、八つ当たりだということもわかっている。

 華琳は、易々と隣になど立てる存在ではない・・・

 自分は、己を捨てて漸くそこに手が届いた・・・それを相手に求めるのは、無理と言うものだ。

 わかっている、わかりすぎるほど解っている・・・それでも、何故と・・・

 

 心を殺せ『魔王』・・・そんな事で、華琳に『平穏』など与えられるものか・・・

 

 冷静な自分がそう、呼びかけてくる。

「未熟な舌戦だな、御使い。

 侵略を繰り返す、虐殺者・曹孟徳の軍に属する全ての兵の首を、稲穂を刈るが如く打ち落とす。

 加わる全てのものは勅命に抗う逆賊とし、末代まで不忠者と誹られるが良い」

 

 低い鋼の声は、曹魏の陣を叩き・・・その効果を確認するまでもなく、一影は背を向ける。

 解っている、華琳の兵は・・・こんなことで揺らがない。

 

 だが、力が無いようなら・・・貴様を殺して、華琳を捉える。

 

 自陣に戻った一影の目は、常と変わらぬ虚無の瞳。

 麗より朧を抱き取り、素早く馬上に身を躍らせる。

「幽、縦列陣・・・相手の器を計る。麗、お前が先駆けだ」

 その鋼の一言に、赤毛の少女が・・・『魔王の片腕』へと変貌し、微笑み返す金髪の美女が、戦場とは思えない優雅な一礼をしてドレス姿のまま、馬上の人となる。

 穏やかな笑みを浮かべる彼女こそが、どれ程の戦場であろうと笑みを絶やさず、ドレス姿のまま駆け抜ける『魔王の舞姫』・・・

 真正面から、中央突破をしてのける、そうあからさまに示した陣形で、斬り込めと言われて微笑むことが出来るものなど、他に居るはずが無い・・・

「敵に陣形を整えさせてあげることは無いのです、走りながら、縦列陣に出来ますよね、幽お姉さん」

 それがどれ程無茶なのかは、言っているほうも言われているほうも、充分承知している。

「『魔王の片腕』に、不可能はないんだよ、朧ちゃん」

 それでも幽は凄絶な笑みを浮かべ、そう返しながら朱の方天画戟を高く振りかざすと、『魔王の軍』が初めて音を立てる・・・万を越す槍を構える音。

「『魔王』様、全て滞りなく。麗、行けるね」

「御主人様のご命令は既に下されました、何時でもどうぞ」

 凄絶な笑みと、穏やかな微笑み・・・戦場において、一体どちらが真に恐ろしいものか・・・

「突撃」

 短い鋼の声と共に振り下ろされた漆黒の方天画戟が向く先は、夏侯の旗が立つ敵陣中央。

 遭遇戦に陣形など不要、突破し、ただただ蹂躙すればよい・・・そういわんばかりに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    嘘でした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    4月11日、十日遅れのエイプリールフール・ネタお楽しみいただけたでしょうか

 

 
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