After Sky1
空暦2043年 某森の中。
そこに、少年が仰向けで、寝ていた。
今の少年がおかれている状態は、辺りからの焼け焦げた木の臭い。首からは下は、感覚がない。
そして、最悪にも空からは、雨が降っている。
その所為で、体温はどんどん奪われていく。
雨は、容赦なく少年を打ち付ける。
(さ……む…い………)
幼い少年の頭に〝死〟という文字が過る。
そのとき、不意に、少年の横で枝が折れる音が聴こえた。
少年は、重い頭を傾け、音がした方を、虚ろな目で見つめた。
すると、そこには、狼がいた。
その狼は、一般のものよりも、倍近く大きい。そして、とても印象的な、銀色の毛を陽炎のようになびかせいた。
狼は、こちらの横まで近づいて来ると、地面に転がって居る少年を、大きな金色の目で見下ろしてくると、
「無様ダナ、小僧」
と低い声で言ってきた。
「……」
「小僧、生キタイカ?」
その問いに、少年は、でない声を絞り出した。
「……ち…か……ら…が………ほ……しい……」
「それはなぜだ? 誇りか? 名誉か? それとも金か?」
狼の問いに少年は、笑みを浮かべて言った。
「……俺…に……ちか………ら…を……よ…こ……せ……」
その瞬間、狼は一瞬、目を大きく見開く。そして、すぐに、大きな口を開けて笑い出した。
「カッカカカカカ! オモシロイ! コノワシニ指図スルカ、小僧! 気二入ッタ、ゾ」
そう答えると、狼の足元から魔方陣が出現した。
「ワシノ名ハ、マーナガルム。貴様ニワガ力ヲクレテヤル。精々、ワシヲ楽シマセテミロ」
少年の記憶は、その瞬間、途絶えた。
○
何所から聞こえる物音に誘われて、俺の意識は引っ張られた。目を開けると、知らない天井が目に入ってきた。
〝トントントン トントントン〟
まだ頭はっきりせず、その天井をぼんやり眺めていると、何処から共なく聞こえてくる、リズミカルな音に気付いた。おれは、その音がする方へ体を動かした。
その瞬間、体中にもの凄い激痛が走った。
「ぐぅあぅ―――っ!!」
あまりの痛みに言葉にならない言葉が漏れた。そして、そのまま、床に倒れ伏す。
「ちょっと、大丈夫!!」
そのとき、誰かが駆け寄ってくる足音が聴こえてきた。声からして女性だということが、すぐに判った。その女性は、おれを抱き起こすと、ベッドに戻した。
すると、女性は、おれを怒鳴ってきた。
「まったく、何考えてるの!? あんな大怪我しといて、動けるわけないでしょ!!」
「・・・け・・が?」
その言葉に、徐々に記憶が戻ってきた。
たしか、飛行機が墜ちて・・・あれ? そもそも、何でおれ飛行機に・・・!!
「ハルカ!!―――っ!」
おれは、記憶が鮮明になると、跳ね起き、守らなくちゃならない人物の名前を叫んだ。だが、体は悲鳴を上げる。
「だから、安静にしなって」
すると、女性は、呆れた風に言うと、俺の方へ手を伸ばしてくる。
だが、おれは、その手をはらうと、その女性を睨みつけた。
「俺の他に、誰かいなかったのかよ! 女の子が」
その瞬間、女性の顔が曇る。そして、少しの間、黙った。
しばらくしたとき、女性は、重い口が開いた。
「残念だけど・・・生き残ったのは貴方だけよ。他の、いっしょに乗っていた人たちは、もう・・・」
「・・・え?」
何言ってんだ? こいつ・・・。
おれは、すぐにこの女性が言っている意味が理解出来なかった。
「私が駆けつけたときは、時空船の火災が沈下した後で、貴方は、そこから少し放れた所に、大怪我して投げ出されていて、近くには」
女性は黙る。すると、近くの壁に掛けてあったものを、おれの前に置いた。
「あと、これが近くに落ちていたわ」
・・・剣?
渡されたのとてもキレイな剣だった。装飾品はあまりなく、派手さは無いものだったけど、一点だけ、赤色の丸い石が剣その存在を沸き立たせていた。
だけど、
「おれのじゃない。たぶん一緒に乗っていた誰かの―――」
『酷いわねー。使っといて、それはないんじゃ無い?』
「「―――っ!!」」
そのとき、いきなり赤い石が光ると、声が聞こえてきた。
「ちょ!? 何この剣、今喋った!?」
女性は、明らかに驚いた顔になる。
「この一週間、一度しゃべらなかったのに。一体どうなってるの?」
「知らねーよ! おれもビックリしたんだから!」
『そういえば、貴方と話すの初めてだっけ? 私は何時も、貴方を近くから見ていたけど』
「ちかく?」
剣から出た単語に引っ掛かりを覚え、おれはもう一度、単語を口ずさむ。
「---っ」
その瞬間、頭に電気のようなものが走った。
それは、記憶の断片。
おれに楽しそうに呼ぶ女の子。優しく笑い掛けてくる女性。そして・・・
「・・・思い出した。部屋の端に飾られていた、あの・・・」
そう言うと、剣は
「へぇ~、記憶消去があまかった のかしら? それとも・・・」
と、なにか意味が判らないことを呟き始めた。そんなことよりも、
「ハルカは!? アンタずっと見てたんだろ? アイツは今―――」
『ストップ。少し落ち着きなさい。傷口が開くわよ。順番に話してあげるから』
剣はそういうと、疲れたと、溜め息をついた。
さっきから思うけど。この剣、すごい人間ぽい気がする。
「まず、貴方の姉、ハルカは無事よ。母親の方は・・・残念だけど」
「かあさん?」
おれは、剣から出てきた、思いがけない単語を呟く。ハルカが無事なのは、判った。だけど、また、疑問が目の前に表れた。
「・・・だめだ。思い出せない」
『・・・まあ、無理に思い出す事はないわ。おいおい思い出すでしょう』
おれの発言に剣は、気にするなと、励ましてくれた。おれは、その言葉のお陰で、不思議とさっきの様なパニックにならなかった。
『まあ、今は傷を治すことだけに、専念しなさい。あの事故で生きている自体が奇跡なんだから』
「そんなに激しい事故だったのか?」
おれは、剣の言葉に驚き訊き返した。
『そうよ。だから、治療してくれた、そこの人にお礼を言いなさい』
「え?」
いきなりの指示に、おれは、一瞬戸惑い、女性の方に視線を向ける。すると、女性は、優しく笑い掛てくれた。おれは、急に恥ずかしくなって、視線を外す。けど、
「・・・ありがとう。助けてくれて」
「はい。どういたしまして。・・・そういえば、まだ、自己紹介まだだね。私の名前はアイネ。貴方は?」
「・・・リョウ。リョウ・カイザー」
自分の名前は覚えてるみたいだ。
「よろしくね。それで、そっちは名前あるのかな?」
というと、アイネはおれの手元を指差した。
「え~と・・・あるのか?」
訊かれたおれも、判らず。剣に訊いてみた。
『一応、前の持ち主には、ニトロアーサーって付けられてたけど』
「にとろあーさ?」
「なんか、すごい物々しい名前ね」
そう感想を言うと、アイネは、苦笑いを浮べる。
「ニアでいいだろ。その方が言いやすいし」
『別に構わないわよ。呼びやすい方で』
「じゃあ、私のことは、お姉ちゃんでいいよ」
すると、アイネは、期待を込めた笑みで言ってきた。だから、おれは、
「なんか焦げ臭い」
と言って逃げることにした。
「え? ああ! 火を止めるの忘れてる!!」
アイネは、急いで台所へ向かって行った。
これが俺の短かい幸せの始まりだった。
○
そこから2週間でおれの怪我は治る。医者にもその尋常じゃない早さに驚かれたけど、俺自体は、治ったなら別にどうでもよかった。
あと驚いたのは、髪の色が変わってたことだ。鏡で顔を見たとき、黒から銀色に変色していたことに気づいた。医者も原因不明のことだ。まあ、それも数日経つと慣れて気にならなくなった。
生活の方は。アイネは、服のデザイナーで、自分で洋服を作って売っていた。人気がとてもあり、この町だけでなく、隣町、他の世界の人もお土産で買って行くほどの物だ。なので、生活に困ることは無かった。
体が治った俺は、教会がやっている。《日曜学校》に行かされることなった。アイネ曰く。
「子供は子供らしく、学べるときに色んな事を学びなさい」
とのことだ。それを渋るとニアが、
『なら、私が教えましょうか? 人格変わるかもしれないけど』
と提案してきた。勿論俺は、学校の方に即答した。
二人と一体の共同生活。
そんな、奇妙な共同生活が始まって五ヶ月。
今思えば、それは楽しく、幸せな時間だった。
○
12月25日。
だが、この日、俺の運命を変える出来事が起きた。
町外れの森の中。
「しっかし、何時見てもよく生きてたなぁー」
この日、おれは、お使いのついでで、おれが巻き込まれた事故現場を見にきていた。
『まあ、普通なら死んでても不思議じゃないわね。悪運強くて良かったわね』
すると、刃に布を巻いているニアが、率直な感想を言った。
「悪運って・・・」
おれは、その言葉に、右手に持っているニアを呆れた目で見た。
まあ、否定はしないけど。
「もっと違う言い方があるんじゃ---ん?」
ニアに突っ込もうとしたとき、なんか草むらで光ったのを見つけた。おれは、すぐにその光の方へ駆け寄る。
『どうしたの? 急に』
不意なおれの行動に、ニアは、不思議そうに訊いてきた。
「今この辺でなんか光った―――あ、あった」
草むらで見つけた物をおれは、つかみあげた。
『・・・オカリナ?』
「やけにキレイだな。最近誰かここに・・・っ!?」
おれが、感想を言おうとした瞬間、急に頭が痛くなった。
すると、頭の中で映像が流れる。
それは、誰か判らない女性が、オカリナを吹いている。顔が判らない。でも、優しい笑みを浮べているのがわかる。曲もとても温かい―――。
『リョウ!!』
「―――っ!!」
ニアの呼びかけにおれは、意識が戻る。
「今のはいったい・・・」
『どうかしたの? 急に反応がなくなるから驚いたわ』
「いや、今女の人が見え―――」
〝ドーーーン!!!!〟
「『!?』」
おれが、ニアに説明しようとしたとき、いきなり、大きな爆発が音が響いた。音の方へ視線を向ける。見えたのは黒煙。そして、その場所は。
おれは、弾かれた様に走り出した。
姉さんがいる町に・・・。
○
町につくと、目の前には驚く光景が広がっていた。家は空から隕石が落ちたような穴があき、地面には、機械で掘ったようにえぐれていた。
「何だよこれ・・・?」
おれは、あり得ない光景に自然と声が漏れた。
『魔力反応? まさか、魔導士がこんな町で何を?』
「はぁ!? お前なにーーー」
〝ドーーン!!!!!〟
また近くで爆発が。
まさか!?
おれは、すぐに音の方へ体を向けると。
「リョウ!!」
そのとき、後ろから、誰かに呼ばれた。おれはすぐにそっちに向く。
「町長!?」
そこには、ボロボロの姿の町長がそこにいた。おれは、すぐに駆け寄る。
「町長! いったい何が起きてんだ!?」
「行ってはならん! あっちには盗賊が」
・・・嘘だろ?
「姉さんは!? あっちには姉さんの店があるんだぞ!」
おれの問いかけに、町長は、おれから視線を外らした。
それを見たおれは、すぐに飛び出した。
○
「姉さんを離せ!!」
おれは、姉さんの店の前につくと、目の前では、最悪の状況がうつった。盗賊といわれた奴らの数は、三人。その一人が、姉ちゃんをさらおうとしているところだった。
店は、全壊。店員は地面に転がっており、ここからだと生きてるかどうか判らない。
おれの声に三人の盗賊は、振り返った。
「んぁ? 何だァ? ガキ」
「うあぁあああ!」
おれは、掛け声と共に、盗賊達に向かって駆け出した。だが、
「ガッ!!」
蹴られ、簡単にやられた。
「リョウ!!」
姉ちゃんの必死な声が聞こえてきた。だから、おれは、
「あぁああああ!!」
諦めずに立ち向かう。
何度、蹴られ、殴られても、 何度も何度も。
そして、
「ガハ! ゲフ! ハァハァ・・・」
俺は、胸からせり出てきた血を吐き出した。
「ち、頑丈な餓鬼だ」
「はぁはぁ、まったく・・・一人ヤられちまった」
そう、姉さんを掴んでいた奴を倒す事ができた。
「どう・・・だ。クソ野郎・・・が・・・」
「リョウ!! しっかりして! 何でこんな事したの!?」
姉さんは、泣きそうな顔でおれを見下ろして、叫んだ。
なんで? そんなん決まってる。
「か・・ぞく・・・だから」
「―――っ!?」
その瞬間、姉ちゃんの目から滴が流れ落ちた。
何で泣いてだ? アイツラの所為か?
そう答えを出すと、姉ちゃんをかばうように、立ち上がる。
「ち、餓鬼には、使いたくなかったんだけどなァ」
盗賊の一人はそう呟くと、手の平にバレーボール台の大きさの火の玉が表れた。
「消えろクソ餓鬼」
それを、おれに向けて投げた。
だが、体はもう動かない。
おれは諦め、目をつぶる。
〝ドーーン!!!!!〟
次の瞬間、もの凄い音が、鼓膜を震わせた。
だが、痛みは何時までたってもこない。
その代わりに、なにか温かいものがおれを包みこんだ。
おれは、恐る恐る目を開ける。
「!? あ、あ、あ、あ、」
それは、最悪な事だった。
「だ・・・い・・じょ・・・・うぶ」
「ねえちゃーーーーん!!!!!」
おれは、崩れ落ちる姉ちゃんをしっかり抱きとめる。
姉ちゃんは、細く、弱々しい息づかいをしている。
「ニア!! なんとかしてくれ! 姉ちゃんが!」
『・・・無理よ。臓器がヤられてる・・・』
だが、ニアからの答えは絶望なものだった。
「いいっよ。リョウ。もう・・・」
「いいわけねえだろ!! おれは、まだなにもーーーっ!?」
おれの言葉を姉ちゃんは、おれの頬を触って制止した。姉ちゃんの顔には、消えそうな笑みが浮かぶ。
「いいの。貴方と過ごせて本当に楽しかった。だから、もういいんだよ」
「姉ちゃん?」
その瞬間、おれの目から、なにかが頬をつたった。
「ありがとう。涙」
「なんで、笑うんだよ!」
なんで、生きたいって言ってくれねぇんだよ!
おれの言葉を姉ちゃんは、笑うとゆっくり目を閉じた。そして、
「いい男になりなよ・・・」
「・・・姉ちゃん?」
もう反応が返ってこなかった。
「バカな女だ。じっとしとけば、よかったものを」
・・・バカだって?
その言葉を聞いた瞬間、おれの中で何かが湧き上がってきた。
「てめぇらが殺したんだろうが!!」
次の瞬間、俺の周りの地面が大きく弾けた。そして、地面が燃え上がる。その色は銀。この世の炎ではあり得ない色。盗賊達は驚く。だが、おれは、コイツらが殺せるなら、そんな事関係ない。
おれは、弾かれた様に敵に向かって走り出す。
背負っていた剣を抜き、邪魔な布を燃やす。そして、横一閃。まず一人を斬る。斬られた奴は、銀色に燃え、一瞬で灰になった。
「てめぇ!!」
それに驚いた最後の一人は、さっきと同じ、火の玉をおれに向けて投げた。火の玉は、おれに直撃した。そして、おれは、激しく燃え上がる。だが、
「何だ? この温い炎は。こんな火で姉ちゃんを殺したのか?」
おれには全然効かない。
「ば、化物だ!」
それを見た男の目には、恐怖の色が浮かんだ。
「化物で結構。化物のおかげでお前を殺せるんだから」
そう告げ、おれは、下から上への縦一閃をくらわした。切られた盗賊は、銀色に燃え、声にならないものを上げながら灰になった。
その瞬間、おれの中には、復讐の達成感ではなく。虚しさが、胸の中に湧き上
がった。
○
「行くのか?」
「ああ、これ以上。ここにはいられないから」
あれから三日後、姉ちゃんの葬儀を終えたおれは、この世界を出る事にした。あの事件以来、みんなのおれへの見方も変わり、中には気味がるものも出てきた。
それは、そうだ。化物なんだから。
「本来ならこの町の英雄なんじゃが、な」
「化物だよ。おれは。こんな魔法が使えるんだから」
町長の言葉をおれは、苦笑いを浮べて否定した。だが、町長は、
「バカもん。そんな事を言うと、お前守ったアイネに申し訳がたたんぞ」
「・・・ごめん」
その名前を出されると、これしか言えなくなる。その姿を町長は、溜息をつくと、分厚い封筒を差し出してきた。
おれは、意味が判らず受け取ると、
「アイネがお前のために残した金じゃ。大切に使うんじゃぞ
と言ってきた。おれは、その言葉を聞き、持っている手に力がはいった。
おれは、そのまま時空港に向かって歩き出す。
その後ろで、
「命日には、顔を出しに帰ってくるんじゃぞ」
と聞こえたが、振り返らず歩き出す。
これが、俺の旅の始まりだった。
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今回は、僕が投稿している作品
Sky Fantasiaの外伝です。
Sky Fantasiaを読んでない人は、そちらも読んでみてください。
では、作品をお楽しみください。