はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です
原作重視、歴史改変反対の方
ご注意ください
あの日
主従の関係を結んだあの日
真の主をを見つけたと歓喜に打ちひしがれたあの夜
あんなにも心穏やかな夜など体験したことなど無いにも関わらず
夜空に浮かぶ月が曇って見えなかった
否
曇っていたのは私の心だ
主より真名を授けられたというのにも関わらず
私は主に真名を明かさなかった
明かせずにいた
あの夜程
自分の真名を恨めしく思った日など無い
あの夜程
自分の存在を疎ましく思った日など無い
あの夜程
主の儚げな笑顔に
泣き崩れてしまいそうになった日など無い
真名を明かせないと告げた私に
主は
月様は唯、微笑んでおられた
いつか私から真名を頂ける
そんな主になってみせますと
違うのです
違うのです……月様
貴女があまりにも優しくて
あまりにも綺麗で
天に高く昇り、優しく地を照らす月をまともに見ることができず
私は逃げたです
自分の真名を捨てて
我が名は華雄
唯それだけでいいと
~右翼~
「はあああっ!」
「くっ!?」
金剛爆斧を振り下ろし
「でええい!」
横薙ぎに振り払い
「っつあああ!」
下から突き上げる
「おらあ!」
次々と繰り出される華雄の攻撃に雪蓮は防戦一方であった
どの一撃も速く重く
まともに受ければ南海覇王とはいえもたないだろう
雪蓮は受け流しながら華雄の繰り出した攻撃の直後の隙を突こうとするが
「くっ!」
「フン!」
横薙ぎに払った直後を狙った突きの一撃を自身の一撃の勢いそのままに身体回転させて避ける華雄
さらにその勢いでもう一回転
「っは!」
「ちぃ!」
ガキャン!と二人の武器がかち合う
が
「…っらああ!」
「なっ!?」
構わず振り切る華雄の力任せの一撃に後方へ踏鞴を踏む
「…どうした?そんな物か貴様は」
怒るでもなく笑うでもなく唯真直ぐに、唯静かに
華雄の視線が此方を見据えている
「…貴女の変貌振りに戸惑っているだけよ」
ビリビリと痺れが残る手をプラプラと振りながら雪蓮は笑ってみせる
「戸惑うなどと…『先王』はそんな素振りを戦の最中には見せもしなかったがな」
ふぅっとため息を吐く華雄の姿に雪蓮は唇を噛む
「貴女に母様の何が…」
「今なら解るさ」
雪蓮の怒号を静かに遮る華雄
「…何ですって?」
「足りないのだよ孫策…貴様にはな」
「……」
スッと金剛爆斧を雪蓮に向ける華雄
「『覚悟』が」
「『決意』が」
「『重み』が」
ゾクゾクと背筋に寒気が走る
ズキズキと胸が痛む
「何もかも足らないから『戸惑う』などど軽々しく口から出てくるのだ」
「何もかも足らないから貴様の『言葉』は軽いのだ」
頬を伝うコレは汗ではない、涙
何も言い返せない
ワタシニハ…ナニモカモガタリナイ
ワタシハ…アマイ
雪蓮の涙に華雄が微笑む
そうではないと
「…『優しすぎる』のだよ、孫策殿は」
震えている
泣いている
こんな私を見て
華雄が泣いている
ポロポロと
涙を流している
貴女は一体
ダレヲ見テイルノ?
「孫呉の『王』よ涙を拭え」
ハッとして涙を拭う雪蓮
その姿に華雄は白い歯を見せる
「勝手ながら次で終わりにせぬか?…実はもう限界でな」
華雄の腕は既に自身の血で真っ赤に染まっている
両肩から溢れ流れる血で
血で染まったその下は青黒い
自身の限界を超えて金剛爆斧を振り続けた腕が悲鳴を上げていた
その姿に雪蓮が頷く
…こんな事ならもっと鍛錬をしておけば良かった
自分の武器如きに振り回されぬ様、悲鳴を上げぬ様
後悔ばかりだな私は
今も尚、後悔の念が耐えない…だが
満足…そう
私は今満足している
「…行くぞ」
「ええ!」
『彼女達』に会えたのだから
振り下ろされる金剛爆斧
それを
同じく真正面から振り上げる南海覇王
一瞬の火花が散り
そして
金剛爆斧が砕け散った
「お前も限界だったか…相棒」
誰もが
二人を見つめていた
孫呉
袁術
華雄
彼の兵の誰もが
両腕をだらんと下げ立ち尽くす華雄と
南海覇王を華雄の眼前に向けて構える雪蓮を
「…見事」
「貴女のお陰よ」
はにかむ雪蓮に華雄も連られて微笑む
「大きくなられましたな『孫呉の王』よ」
「それも…今日貴女に会えたから」
誰もが息を呑み
ただ穏やかに二人を見つめる
やがて
「華雄…私の元に下りなさい」
スッと南海覇王の切先が地面に向けられる
「我が旗の下、その力を振りなさい」
華雄に向けて手を差し伸べる
天高く昇る太陽を背に雪蓮が笑いかける
やはり貴女は太陽を背負われておられる
それは何時か彼女が見た孫呉の王の姿
全てを背負い
誰よりも気高く雄雄しい
誰よりも優しい
誰よりも美しい
溢れ出る涙で視界が霞む
「不躾ながら…そう仰られると思っていました」
直後
足元の短剣を拾い切りかかる華雄
「…なんで?」
華雄の身体を貫いた南海覇王から彼女の血が伝い流れる
カランと音を立て短剣が転がる
自身に突き刺さるそれを物ともせず華雄が雪蓮を抱きしめる
「華雄?」
「…月です」
「…え?」
「我が真名を…我が王に」
ふふっと笑う華雄~月
まさか主と同じ真名だとは口が裂けても『あの方』には言えまい
「月!…なんで!?」
「幸せ者なのですよ…私は…二人も…仕える王に会えたのですから」
太陽と月
天を照らす二つに仕えられたのだから
だからこそ
「天に月は…二つもいらないでしょう?」
月の声に雪蓮は肩越しに虎牢関を見上げる
「あの子も…?」
「ふふっ…二つも月があっては…明るすぎて眠れまい」
そう…夜の闇を照らす明かりは一つで十分だ
雪蓮の頬を月の両手が包む
「正真正銘の…後生です…」
流れ出る涙で顔をくしゃくしゃにして
「何卒…何卒!お救いください…『月』様を」
「…月」
「此度の戦においては連合に義はありません!導いて下さい…我が王よ」
震える月の手を雪蓮は優しく包む
「解った…解ったから…月!」
雪蓮の涙に月は微笑む
有難う御座います
我が王よ
「誰か在る…牙門旗を此処に」
「…此処に」
祭が孫呉の旗を雪蓮に差し出す
その旗を
横たわる『孫呉の忠臣』に覆い被せる
「行かれるのですな?」
「約束したのだもの…彼女に」
ブンっ!と南海覇王を振り『彼女』に『血』を振付ける
「私は王であると…あの子を救うと」
全てを背負う王の姿に
「行って来られませい!孫呉の王よ!」
祭は片膝を付き臣下の礼を取る
「「「「「我等も続きます!我が王よ!」」」」」
祭に続き兵達が膝を付く
古くから孫呉に仕えた古参も
今回の遠征で彼女と共に戦場に出た袁術の兵も
彼らと戦場で今しがた刃を交わした華雄の兵も
誰もが王に付き従うと臣下の礼をとった
母様…私は貴女を超えてみせるわ
「この戦を終わらせる…彼女を救って!」
「「「「「はっ!」」」」」
南海覇王を虎牢関の上に一人立つ『董卓』に向ける
「皆我に続けえぇ!!」
「「「「「応っ!!!」」」」」
此処に一人の『王』が誕生した
「ふむ」
遠く前線を見つめながら冥琳は頷いていた
もはや…此処に留まる必要は無いわね
突き進む雪蓮に背を向け自身が陣営の奥へと歩き出す
ようやく…待ちくたびれたわ
やがて陣地の一番奥にある天幕に入る
「七乃~!蜂蜜水が飲みたいぞ~」
「はいは~い♪…って周喩さん?」
満面の笑みで入ってくる冥琳に気づく七乃
「どうしたのじゃ?もう終わったのかえ?」
「随分と早く終わったんですねぇ」
前線にも出ず天幕に引き篭もっていた二人には外の…前線の様子など知るわけもなく
「いや…進言に参ったまで」
「「は?」」
冥琳の言葉に顔を見合わせる
「揚州に引上げ、兵を纏め戦の準備をしなさい」
「何を言って…」
七乃が立ち上がると同時に詰め寄り彼女の腰の剣を引き抜く
イィィン
「なっ!?」
「動くな!」
そのまま剣を袁術~美羽の鼻面に突き立てる冥琳
「宣戦布告…という訳ですよ、愚かな『袁術様』?」
「お嬢様!?」
目の前の鋭利な殺意にガチガチと歯を合わせる美羽
「この戦の後…孫呉は独立させて頂く」
「ここっ後悔するぞえ!…わらわに刃向かうなど!」
震えながらも此方を睨みつけてくる…健気にも涙を浮かべながら
「後悔…だと?」
「ひぃっ!」
冥琳の怒気に震えがさらに大きくなる
「後悔など疾うにしている…先王が先立たれ、貴様等がのこのこと手を差し伸べたあの日からな!」
冥琳の肩も震えていた
何故あの時
自分にはもっと力が無かったのだ
何故あの時
これ見よがしにと差し出された手に噛み付いてやらなかったのだ
何故あの時
気丈にも頭を下げ、屈辱に耐える彼女を泣かせてやらなかったのだ
何故あの時
是で孫呉は生き延びられるなどと息を吐いたのだ
「既に我等孫呉には新たな『王』が生まれた…これ以上…貴様等に諂う理由は無い!」
後悔し続けた日々を
屈辱に…悲しみに震え続けた彼女の今日までを
無駄にしない為にも
「我等は堂々と!真正面から!貴様を撃ち滅ぼす!!」
天幕から二人を追い出し
「…精々首を洗って待っていろ」
失せろと顎で促す
走りながら
逃げ出しながらも聞こえてくる二人からの怨念の叫び
「この痴れ者~!」
「絶対後悔させてやる~!」
「ば~か!ば~か!」
「お前なんてその無駄乳を破裂させて死んじゃえ~!」
「や~い!おっぱいお化け~!」
あっかんべ~っと舌を出したその矢先
ズドンっ!!!
走る二人の目の前の大木に剣が深々と突き刺さる
「…忘れ物だ」
背後に室伏〇冶のスタンドを背負った冥琳がにこやかに笑いかける
その姿に二人は抱き合いながら
「態々返して頂くなんて…良い所もありますねえ美羽様」
「う…うむ!よきに計らうぞ」
汗をだらだらと流し続ける
「…消えろ」
「「は~い♪」」
やがて二人が見えなくなった頃
「…冥琳」
雪蓮が妹、蓮華が彼女の前に立っていた
「出すぎた真似をしました…この処置、如何様にも」
臣下の礼をとり跪く冥琳
その彼女を抱きしめる
「っ!?蓮華…さま?」
「冥琳…今日まで…姉さまを支えてくれて有難う」
蓮華の言葉に涙腺が緩み出す
「今日からは私も一緒に…一緒になって支えるから」
そう言いながら冥琳の背中を撫でる蓮華
まだだ…まだその時ではないというのに
冥琳の嗚咽が止むまで
蓮華は彼女を抱きしめ、彼女の背中を優しく撫で続けた
あとがき
ここまでお読み頂き有難う御座います
ねこじゃらしです
なんかこうね…
うまく書けないんです
もっと上手に書きたいのに
下手くそなんですわ
董卓の乱編も折り返し地点を過ぎました
よろしければどうぞお付き合い下さい
それでは次の講釈で
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第25話です。
4月は出会いと別れの季節
皆さん『新生活』楽しんでますか~?