No.132995

天使たちの日常。

林檎あめさん

ツインエンジェルたちの日常。

乱文拙文になりますが、読んで頂けると幸いです。

2010-03-29 09:17:51 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:629   閲覧ユーザー数:617

 
 

「ごきげんよう、お姉さま」

 

「ごきげんよう、クルミちゃん」

 

 さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。

天使様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。

汚れを知らない心身を包むのは、純白の制服。

スカートのプリーツは乱さないように、青いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。

もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。

 

 ここは聖チェリーヌ学園。ここは乙女の園。

 

「はぁはぁ、ちょっと待って、クルミちゃんっ! 何だか全然違う作品の冒頭部分みたいな感じのナレーションが聞こえてくるのは私の気のせいっ!?」

 

 健やかな笑顔で挨拶をする少女達の間を割るように走ってきた少女が一人。

ぴこぴこと鮮やかなオレンジ色のツインテールを揺らし、息を切らせている。

 

「何よ遥っ、私とお姉さまとの爽やかで素晴らしい朝の邂逅を邪魔しないでよねっ!」

 

「おはようございます、遥さん」

 

「ちょっと待って、葵ちゃんまで…… さっきまで一緒に登校してたのにっ!」

 

「うふふ、冗談ですわ」

 

 いつもの様に、三人の騒がしい一日が始まる。

だけど、今日は少しだけいつもと違うお話。

ツインエンジェルのお仕事では無く、女の子の「水無月 遥」、「神無月 葵」、「葉月 クルミ」の三人が送る普通のお話。

はじまり、はじまり。

 

 キーンコーンカーンコーン。

静まり返っていた学院にお昼を告げるチャイムが鳴り響く。

 

「今日の授業はここまで」

 

 凛とした声が、騒がしさを取り戻しつつある教室に響く。

その一声を皮切りに、教室内が喧騒につつまれていく。

 

「はぁ…… やっと終わったよぉ……」

 

 喧騒に取り残され、机に突っ伏したまま項垂れる少女が一人。

心なしかトレードマークのツインテールも元気が無さそうに揺れている。

 

「お疲れ様です、遥さん」

 

「あっ、葵ちゃん~、本当にお疲れ様だよぉ~」

 

「うふふ、遥さんはお勉強が少し苦手ですものね」

 

「あぅ~、それは言わないでぇ~」

 

 そう言いながら、遥はいそいそと鞄からお弁当らしき包みを取り出している。

 

「あの、遥さん…… お弁当の前に少しお時間良いですか?」

 

「ふぇ? 良いけど、どうしたの?」

 

「少し相談と言いますか、お話したい事がありまして……」

 

「りょーかいだよっ。 何処でお話する?」

 

「ありがとうございます。 でしたら、いつもの場所でお願いしますね」

 

「じゃぁ、早くいこっ!」

 

 そう言うやいなや、遥は葵の腕を掴んで走り出した。

 

「あわわっ、ちょっと……引っ張らないでくださいぃ~」

 

「あははははっ、早くぅ~」

 

「はっ、お姉さまっ」

 

 机に突っ伏して寝ていたクルミが覚醒した。

きょろきょろと周りを見回し、ぴくぴくとネコ耳を動かしている。

 

「っ!! お姉さまがいないっ!?」

 

 葵がいない事を確認するやいなや、クルミは立ち上がり教室の外へと駆け出していく。

 

 ドーンッ!!!

 

「あいたたたっ…… 何処見て歩いているんですか!?」

 

「きゃぅっ、だ、誰よっ!!」

 

 お互いが、お互いの姿を確認し終えると、空気が固まった。

淡く鮮やかな緑色で、腰まで伸びた長い髪を翻し、優雅に立ち上がるのは、留学生の「テスラ」。

その後ろには、テスラよりは短いが、こちらも鮮やかな緑色の髪をした妹の「ナイン」がいつもの様に無表情で立ち尽くしている。

 

「もう少し前に気を付けて移動していただけませんかしら?」

 

「あんたこそ、前に眼が付いてるのっ!?」

 

「なっちゃんに怪我でもあったら、私は貴女を許しませんので、以後お気を付けを」

 

「はんっ! 別にあんたに許して欲しくも何とも無いんですけど?」

 

「何ですって、このネコ耳百合女っ!!」

 

「何よっ! この腹黒シスコン女っ!!」

 

「「♯」」

 

 互いに引くべき場所を失い、睨み合う。

大きな火花を散らし合う二人を尻目に、周りの学生達は生暖かい眼を向けている。

ここ最近、毎日の様にいがみ合っている二人の光景は風物詩となっていたのでした。

 

 場所は変わって女子トイレの中。

遥と葵の秘密のお話。

 

「それで、葵ちゃん。 お話って何かな?」

 

「クルミちゃんの事なんですが…… 少し教室だとお話しづらくて……」

 

「クルミちゃんがどうかしたの?」

 

「クルミちゃんが転校してきてから色々と忙しかったので、歓迎会みたいな感じで三人で遊びに行きたいと思っているのですが…… どうでしょうか?」

 

「それ、良いかもっ!! 私も、もっとクルミちゃんと仲良くしたいと思ってたんだっ!!」

 

「遥さんは初対面が"アレ"でしたものねぇ……」

 

「そうなんだよっ!! 今の内に仲良くなっておかないと、天使の涙も探さないといけないから忙しくなるし……」

 

「それでは、今日の放課後にでもどうでしょうか?」

 

「りょーかいだよっ!!」

 

 周りを気にしてか、ゆっくりと覆い被さる様に口元を遥の耳元へ移動させ、先程までとは違い小さな声で囁く。

 

「うふふ、それでですね…… ごにょごにょ……」

 

「ふむふむ…… それは楽しい事になりそうだね……」

 

「うふふふっ」

 

「えへへへっ」

 

「けど、こうやってお話してると悪の秘密結社みたいでカッコイイよねっ!!」

 

「あのぉ、遥さん…… 出来れば悪の秘密結社はやめて欲しいんですが……」

 

「えぇ~…… 葵ちゃんはこういうの嫌い?」

 

「こうやって二人でお話するのはドキドキして素敵ですが…… "悪の"という響きが……」

 

「じゃぁ、秘密結社かな?」

 

「うぅ…… 私はもっと可愛い呼び方が良いですぅ……」

 

「あはははっ、そろそろクルミちゃん誘って、お昼ご飯食べに行こうよっ!」

 

「そうですね、お昼休み終わってしまっては困りますものね」

 

「クルミちゃん一人で拗ねちゃってたりして」

 

「うふふふ、流石にそれはないんじゃないでしょうか」

 

「じゃぁ早く教室に戻ろうよっ」

 

 教室を出た時と同じ様に、遥は葵の腕を掴んで走り出した。

 

「あれ? クルミちゃんにテスラさん、どうしたの?」

 

「ぐるるるるる……」

 

「しゃーっ!!」

 

 遥と葵がお弁当を取りに教室に戻って来た時にも、教室の前の廊下では、まだクルミとテスラが睨み合っていた。

後ろでは、こちらも変わらず無表情で立っているナイン。

 

「はわわわ、ナインさんも止めてあげてよぉ……」

 

「クルミちゃん、ケンカしちゃ、めっ! ですよ?」

 

「お姉さまっ!?」

 

「ふんっ、お仲間ならもう少しキチンと教育しておいていただきませんかっ!?」

 

「……姉さん、その言い方は少し良くないと思う」

 

「そうだよぉ、二人とも仲良くしないとダメだよぉ…… そうだっ!? 今から一緒にお昼ご飯食べない?」

 

「なっ!? どうして私が、貴女がたとお昼を共にしなければいけないのですかっ!? なっちゃん、行きましょう」

 

 そう言い残し、テスラとナインは教室の中へと消えて行った。

 

「べーっ、だっ!!」

 

「もぅ…… クルミちゃんったら…… どうして仲良く出来ないのでしょうか……」

 

「まぁまぁ葵ちゃん、とりあえずお昼ご飯いこっ」

 

「本っ当に遥は本能に忠実で羨ましいわっ」

 

「うふふふ、今日は何処でお昼にします?」

 

「いつもの中庭で良いんじゃないかな?」

 

「じゃぁ、お弁当持って、ここにまた集合しようよ」

 

「分かりましたわ」

 

「べ、別に遥と一緒が良い訳じゃないんだからね、お姉さまと一緒が良いだけで、あんたはオマケなんだからっ」

 

 学園内での数少ないリラックス出来る時間を過ごすべく、各々がお弁当を取りに教室へと戻っていく。

 

 緑豊かな学園の中庭。

教室の無機質な静けさとは違い、緩やかな時間の経過を感じられる柔らかな空間になっている。

小鳥の囀り。

木々の葉が風に揺られ擦れる音。

すべての音が優しく響き、そこにいる人を包み込んでいる。

その中で……

 

「何だかさっきから、ナレーションみたいなのがうるさいんだけど…… 気のせいかな?」

 

「ばっかじゃないの? ナレーションって何よ? 折角の麗しいお姉さまとの食事の時間に夢見てるんじゃないわよ」

 

「えっ、うん、そうだよね、私何言ってるんだろ……」

 

「クルミちゃん、今日の放課後少し時間ありますか?」

 

「はいっ!! 不肖、葉月クルミ、お姉さまの為なら何時間でもっ!!」

 

「それでは、放課後は校門の前で三人で待ち合わせですね」

 

「りょーかいだよっ」

 

「えっ、遥も一緒なんですかっ!?」

 

「そうですよ? 少し三人で行かなければいかない所がありまして……」

 

(まっ、まさか…… ブラックファンドの居場所を突き止めたとか…… 流石私のお姉さまですっ!)

 

「わ、分かりました。 放課後に校門でお待ちしておりますっ!」

 

「うふふ、ありがとうございます。 では、お昼休みも残り時間が少ないので、食事にしましょうか」

 

「そうだねぇ、もう私お腹ぺこぺこだよぉ……」

 

 三人はそれぞれのお弁当箱を開き、食事の時間が始まるのでした。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「クルミちゃん遅いねぇ~」

 

「まぁまぁ遥さん、まだチャイムが鳴ったところなので、まだ掃除は終わらないと思いますよ?」

 

「それにしても、ホームルーム早く終わって良かったね。 クルミちゃん驚かしてみようかなぁ~♪」

 

 時は流れて放課後。

運悪くクルミが掃除の当番だった事もあり、遥と青いは二人で校門の前で待っている。

 

「はぁはぁ……おっ、遅くなってごめんなさい、お姉さまっ!」

 

ぜぇぜぇと肩で息をしながら、黒く艶やかな髪が乱れるのを気にもとめずに走ってきた少女が一人。

 

「全然待ってないから、そんなに急がなくても良かったのに」

 

「ばっかじゃないのっ!? お姉さまを待たせるなんて事出来る訳無いじゃないっ!」

 

「では、目的の場所へ早速向かいましょうか」

 

「そうだねぇ~、楽しみだなぁ」

 

「……楽しみ?」

 

「さぁさぁ、クルミちゃんも頭にクエスチョンマーク出してないでいこっ!」

 

「わわわっ、遥っ、引っ張るなぁ~」

 

「うふふふ」

 

「ここって……」

 

 三人がやってきた店の前で立ち尽くすクルミ。

煌びやかな装飾に、ショーウィンドウ。

ショーウィンドウの向こう側には、テレビの中でしか見る事の無い様な洋服が所狭しと並べられている。

 

「今日はクルミちゃんのお洋服を、歓迎会も兼ねてプレゼントしようと思いまして」

 

「私たちがクルミちゃんを可愛くコーディネイトしてあげるよっ」

 

「な、な、な……」

 

「さぁレッツゴー~」

 

「あぁ、楽しみですわ…… あんな服装やこんな服装……クルミちゃんなら何でもお似合いになると思います」

「えっ、えっ、まぁ、お姉さまがそう言うなら……」

 

「お姉さまはここによく来るんですか?」

 

「そうですね、遥さんとよく来ますよ」

 

「葵ちゃんの私服はここで買ったのが多いんだよぉ~。 私好みのしまパンも売ってるし~♪」

 

「それじゃぁ、私はお姉さまとお揃いの洋服がっ……」

 

「は~いクルミちゃん、こっちだよぉ~♪」

 

「うふふ、遥さんはここのお店に来るとテンションが上がってしまうので、気を付けてくださいね」

 

「たっ、助けて、お姉さま~」

 

「では、私もクルミちゃんの洋服を探しましょうか」

 

…………

 

……

 

 遥の手には黒を基調とし、下品にならない程度にフリルの付いた少女趣味な服。

一般的にゴスロリと呼ばれている種類の服。

 

「クルミちゃん、こんなのどうかな?」

 

「こ、これは、ちょっと恥ずかしい気が……」

 

「これならきっと葵ちゃんも可愛いって言ってくれるよぉ~」

 

「そ、それなら…… ちょっと待って、先にお姉さまに確認してくれないと試着なんかしないんだからねっ!!」

 

「えぇ~、似合うと思うんだけどなぁ……じゃぁ他にも探してみようか……」

 

「あっ、お姉さまっ!!」

 

「遥さん、こういう洋服はどうでしょうかぁ~?」

 

 小走りに二人の元にやってきた葵の手には黒を基調とし、下品にならない程度にフリルの付いた少女趣味な服。

一般的にゴスロリと呼ばれている種類の服。

 

 遥の手にも黒を基調とし、下品にならない程度にフリルの付いた少女趣味な服。

一般的にゴスロリと呼ばれている種類の服。

 

「同じだね」

 

「同じですねぇ~」

 

「「クルミちゃん~♪」」

 

「ひっ!?」

 

 いつもと違う、二人の迫力に思わずたたらを踏む。

 

「さぁ試着しましょうか」

 

「そうだよっ、クルミちゃん。 ちゃんとお姉さまも同じ物を持ってきたんだから~」

 

「えっ、えっ、本当に……?」

 

「本当に、だよっ♪」「本当に、ですわ♪」

 

 満面の笑顔の二人に試着室に押し込まれる。

「シャッ」という無常な音を立ててカーテンは閉められる。

 

(うぅ…… これはちょっと、いや、かなり恥ずかしい……)

 

 改めて自分の着る予定の服を広げて見てみる。

 

(けど、お姉さまも遥も可愛いって言ってくれたし…… べ、別に遥に褒められたのが嬉しいんじゃなくて……)

 

 身体に当てて、試着室に備え付けられている姿見の鏡を見る。

 

(少し恥ずかしいけど、可愛いかも……)

 

「クルミちゃ~ん、一人で着れる~?」

 

「だ、大丈夫よっ、バカにしないでよねっ!?」

 

(よしっ、少し勇気を出して着てみようっ!)

 

 ゴソゴソと衣擦れの音が聞こえる。

 

「クルミちゃん、ちゃんと着てくれるみたいだね」

 

「きっと可愛いですわ~♪」

 

 衣擦れの音が消え、カーテンが開く。

 

「こっ、これで良いんでしょっ!?」

 

 小柄な身体に合わせて仕立てたかの様にぴったりな服に包まれて出てきたクルミ。

膝丈よりも少し短いフリルの付いたスカート。

スカートに合わせた膝より上まで伸びた黒いソックス。

少し膨らみの見える上半身にも、適度にフリルが見え隠れしている。

ネコ耳は着けたままだった。

 

「すっごい可愛いよっ、クルミちゃんっ!」

 

「なんて素晴らしいのでしょう~」

 

「ほ、褒めても何も出ないんだからねっ!」

 

 頬を染め、そっぽを向いてしまう。

 

「これだけ可愛いんだし、このまま帰ろっか」

 

「それは素晴らしい提案ですね、遥さん」

 

「無理無理無理ーーーっ!! 絶対無理ーーーっ!!」

 

「まぁまぁそんな事言わずに~」

 

「そうですわ~」

 

 ずるずると二人掛かりで引きずられていく。

半ば諦めの入った涙目で二人に付いて行く。

 

「うぅ~……恥ずかしい……」

 

(でも、お姉さまも遥も褒めてくれたし……たまにはこういうのも良いかな……)

 

「これからもあのお店でみんなで洋服選ぼっか」

 

「そうですね~、もっとクルミちゃんと遥さんに可愛くて綺麗なお洋服着ていただきたいですしね~」

 

「いぃぃぃぃぃいいいいやああぁぁぁぁあああっ!!」

 

 今日も変わらず夕日が沈んでいく。

世界が紅に染まる時間。

クルミの両脇には眩しい程の笑顔の遥と葵。

涙目になりながら叫ぶクルミの声が空に吸い込まれていく。

 

(こんな恥ずかしい格好、もう二度としたくないっ!!)

 

それでも、とクルミは思う。

 

(遥とお姉さまと三人で、こんな平和で楽しい日常がこれからもずっと続けば良いのになぁ……)

 

fin

 
 

 
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