雪がしんしんと舞い降りていた。
幼い私は耳が痛いほど無音で真っ白な雪原で独り、夜空を見上げる。
雪が降っている為、星空は見えない。だが、私はそれでも空を見上げ、両手を胸辺りで握り合わせ、祈る。
「かみさま、リュウスがひとりぼっちにならないように、ぼくにもリュウスとおんなじようなおめめをください。そしたらリュウスだけいじめられることなんてないから……」
私が真剣に空に向かって祈る。すると、目を刺す光が私に向かって……
「……オン、リオン。皇帝である僕の前で居眠りなんて度胸があるねぇ」
「ほげ?」
私が変な声を出して目を開けると、オロオロしている柊次くんの横で視稀が黒い笑みを浮かべていた。
どうやら、柊次くんを招いての今後の方針についての会議の途中で居眠りをしてしまっていたらしい。
「いやん☆最近寝不足だったから居眠りしちゃったわぁん♪乙女に寝不足は大敵だわん」
私が悪戯っぽくウインクをすると、視稀の黒笑みのレベルがさらに跳ね上がった。
場の雰囲気がだんだんと黒く染まっていく。
「あっ、俺、妃沙羅に呼び出しが掛かってたのでお先に失礼します。またなんかあったら連絡してください。それでは」
場の空気に堪えられなかったのか、柊次くんはガタンと勢いよく席を立ち、そそくさと執務室から出ていった。
「逃げちゃったねぇ」
リュウスが私と目を合わせニヤリと笑う。
「あー、逃げたな」
いつも見せる偽りのオネェキャラの仮面を脱ぎ捨てた私は、リュウスをやや呆れ顔で見てため息をつく。
「柊次くんが居なかったら、兄さんの寝込みを襲って上げたのに。兄さんの目が醒めた頃には僕から逃げられないくらいになっていることだろうねぇ」
リュウスはクスッと笑う。
「大丈夫だ。私がリュウスごときに触発されるわけがない」
「それもそうだね。ところで寝ながら唸っていたけど、兄さん、夢でも見ていたの?」
リュウスはそう言いながらお茶をすする。
「あの日の夢を見ていた……あの雪降る夜の日の夢を」
「あの日の夢ねぇ……」
私が話し出すと、リュウスはすっと執務室唯一の窓に視界を移動させる。
「あの日、私は神に、リュウスがひとりぼっちにならないようにリュウスと同じ苦しみを私自身にも植え付けて貰うように懇願した。そして、私はあの力を得たのだったな……」
「でも、兄さんは……」
リュウスが俯き加減で弱々しく呟く。
「兄さんの力は誰にも疎まれることは無かった。それに、僕は結局ひとりぼっち。兄さんは昔から僕を正義を貫く道具にしか見ていない……そんな兄さんが嫌いだよ」
リュウスから紡がれた一言一言は弱々しくものだったが、私にとっては胸に響いて痛い。
「そうだな、私は正義という言葉に酔いしれているあまり、人々を騙し続けている愚かな人間だ。だからこそ、同族のお前が嫌いだよ、リュウス」
私はそう吐き捨てて、執務室を去る。
嫌いという言葉さえ偽り。
本当はお互いこんなに愛し合っているのに、それを口に出さないのは、これ以上本当の自分を晒して君が壊れてしまうのが怖いだけ。
ずっと綺麗な君を見ていきたいから、
私達は道化を演じる愚者であり続けよう……
End
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