その日、記録的な豪雨が竜ノ守町に降り注ぎ、雷が鳴った。
その雨に濡れながら、一人の男が、勇ましい咆哮をあげて笑っていた。
まるで、すべてを破壊しかねないほどの、狂喜に満ちた笑い声をあげながら……
「うわぁ……!?」
モンスターを破壊され、吹き飛んだ子供を見て、少年はニシシと悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「まだまだだな……寅吉?」
ゆっくり、寅吉と呼んだ子供に近づき、手を差し伸べると少年は立ち上がれと意思表示した。
寅吉も、一瞬、悔しそうな顔をするも、すぐに笑顔になり、抱きつかん勢いで立ち上がった。
「やっぱり、竜耶兄ちゃんはすごいや! さすが、日本デュエル界の学生ランク三位だね!?」
「まぁ、一意以外は、ビリと一緒なのが、デュエル界の厳しいところなんだがな?」
近くの茂みを指差し、竜耶は少し休もうと提案した。
寅吉もうんと頷き、小走りで、近くの茂みにダイブし、寝転がった。
「太陽が気持ちいいや!」
「ああ……最高のデュエル日和だな?」
寅吉の横に座り、優しい笑顔を浮かべる竜耶に寅吉は目を輝かせ、肩をつかみ、ねだりだした。
「ねぇ、兄ちゃん……今日もあの話してよ!」
「あの話……またするのか?」
「だって、もぅ、あの話、兄ちゃんしか、してくれる人いないんだもん!」
拗ねたように唇を尖らせる寅吉に、竜耶はおかしそうに笑った。
「今じゃ、大人も信じない伝説だからな……まぁ、いいか?」
ニッコリ微笑み、竜耶は昔話をするように語りだした。
「それはまだ、人とデュエルモンスターの関係が調停されてない時代の話であった。人間を快く思わない一体のモンスターが、人間は支配するものだと考え、多数のドラゴン族のモンスターを操り、この町を攻めてきた。強力なドラゴン達の前に人間はなす術もなく、滅びの道を待つだけであった。だが、希望は潰えなかった。一人のデュエリストと、そのデュエリストと心を通わせたモンスターが軍勢を引き連れたモンスターに戦いを挑み、たった二人で、幾千といるドラゴンモンスターを倒していった。そして、二人は、ついにドラゴンを操るモンスターを倒し、町に平和を取り戻したのであった。幾戦ものドラゴンたちに破竹の勢いで勝利を収めたデュエリストとモンスターに人は畏敬の念を込め、「ドラゴンバスターズ」と彼らを讃え……そして、彼らが救ったこの町は彼らの強さをたたえ、「竜ノ守町」と名づけた……これが、竜破壊の物語であった」
話を終えると、竜耶はどぅだと微笑んだ。
「すごいや! 俺の爺ちゃんでも、そんなにハッキリ話せないよ!」
「まぁ、誰も信じてないからな……たった二人で、ドラゴン族の群れを倒したなんって……」
「俺は信じてるよ! だって、その救世主がいなければ、この町はなかったんだから!?」
「……いい子だな?」
ゆっくり、頭を撫でると、竜耶はゴロンッと芝生に寝転がり、空を眺めた。
「それにしても、いい天気だ。空はこぅでないとな……ん!?」
黒くかかりだした雲を見て、竜耶は心の奥でドクンッとなにかが高鳴るのを感じ、立ち上がった。
「どぅしたの、兄ちゃん?」
いきなり立ち上がった竜耶に驚きを隠さない寅吉に竜耶は大声を上げて空の向こうを指差した。
「なにかが飛んでくる!?」
「あれって、カース・オブ・ドラゴン!?」
「なっ!?」
カース・オブ・ドラゴンの口から放たれた光で、一瞬で吹き飛ぶ町並みに、寅吉は怯えたように竜耶に抱きついた。
「あ、あれ、デュエルモンスターの精霊だよ!?」
「ああ……あいつ一体だけじゃない。他にもいるぞ!?」
西へ東へとわらわら現れるドラゴンに竜耶は慌てて寅吉の手を握り、走り出した。
「逃げるぞ!?」
「う、うん!」
町の外に向かって走る二人に、同じようにドラゴンから逃げる人々を見て、寅吉は悲壮な声で泣き出した。
「ねぇ、ドラゴンバスターズは来ないの!?」
「ッ……!?」
目を見開く竜耶に寅吉は涙を流し、叫んだ。
「もぅ昔の人だから、死んじゃったの!? それとも、最初から、ドラゴンバスターズなんっていないの!? ねぇ、答えてよ!?」
「寅吉……」
パッと手を離し、竜耶は背を向けた。
「兄ちゃん?」
「そぅだよな……町がピンチなのに、逃げてしまったら、格好がつかないよな?」
グッと親指を立てると、竜耶は左腕につけたデュエルディスクから、一枚のカードを抜き去った。
「今日から、俺が新しいドラゴンバスターズだ!」
バシッとデュエルディスクにカードをセットすると、デュエルディスクから眩い光があふれ出し、一体のモンスターが現れた。
「出て来い! この町の救世主……バスター・ブレイダー!」
「おぅ!」
バンッと地響きを上げ地面に着地するモンスターの姿を見て、寅吉は唖然とした顔で、呟いた。
「バスター・……ブレイダー?」
バスター・ブレイダーは、グッと親指を立てて、いった。
「大丈夫だ。何度、この町が襲われても私がこの町を守ってみせる……」
竜耶は空で暴れるカース・オブ・ドラゴンを指差し叫んだ。
「いけ……バスター・ブレイダー! この町を滅ぼそうとする邪竜を討ち払え!」
「任せろ、竜耶!」
大地を蹴りバスター・ブレイダーは大空に向かって飛び上がった。
「破壊剣一閃!」
「ウギャッ!?」
身体を切り裂かれ、光とともに消えるカース・オブ・ドラゴンを見て、竜耶はさらに叫んだ。
「まだだ! 一体たりとも、人間に危害を加えさせるな!」
「わかっている! 竜耶、サポートを頼む!」
「ああ!」
デュエルディスクからカードを引き抜き、叫んだ。
「罠カード"バトルマニア"! 相手モンスターは全て、バスター・ブレイダーに攻撃しなければならない!」
「来たぞ!?」
目の色を変え、飛んでくるドラゴンたちに、バスター・ブレイダーは大剣をグッと構え、切り裂いた。
「破壊剣一閃!」
ぶわぁっと、一閃の閃光が襲い来るドラゴンたちをいっぺんに切り裂き、大爆発を起こした。
「すごい。本当に……本当にドラゴンバスターズは存在したんだ! それも、俺の一番大好きな兄ちゃんがドラゴンバスターズだったんだ!」
グッとニヒルに親指を立てて笑う竜耶に上空にいるバスター・ブレイダーが叱責する。
「油断するな。このドラゴン軍団……おそらく、奴が絡んでいるぞ!?」
「奴か!?」
目線を吊り上げる竜耶に寅吉は不思議そうに首をかしげた。
「あいつって……?」
不思議そうに首をかしげる寅吉に、竜耶は静かにいった。
「さっき、ドラゴンモンスターは、一体のモンスターに操られてるっていったよな?」
「うん、いったけど……」
「そいつの名は……」
「それ以上は私がいいましょう……」
「え……!?」
突如、寅吉の身体に頑強な鎖が巻きつけられ、上空に吊り上げられた。
「ウワァァァア!?」
「あれは、"闇の呪縛"!?」
「その通り……相手モンスター一体の攻撃と表示形式の変更を奪い、攻撃力を700ポイント下げる魔法カード」
「やはりお前だったか……」
ギリッと歯を食いしばる竜耶に寅吉を宙に縛り付けた男は静かな足音でそっと顔を見せた。
「私を知ってるとは……あなたはもしや?」
不敵な笑みを漏らす男に、竜耶は自分を指差し叫んだ。
「葉柱竜耶……かつて、お前を倒したドラゴンバスターズの子孫だ!」
「やはりそぅですか……」
男の顔が忌々しそうに歪み、震えだすようにつぶやいた。
「私の名前は"ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-"。かつて、この町を襲わせ、あなたの祖先に倒されたモンスターですよ」
「……」
上空にいたバスター・ブレイダーも地面に着地し、大剣を構えた。
「なら、今度も倒されるのだな?」
「おっと……動かないほうがいいですよ。こっちには人質がいるのですから?」
「ウッ……」
動きを止める二人にロード・オブ・ドラゴンはゆっくり、一枚のカードを取り出し、後ろに控える五体のドラゴンに光を浴びせた。
「融合……」
「なにッ!?」
五体のドラゴンが一つに融けるように重なり合い、上空から雷を落とし、五つの首を持つ巨竜が地面を破壊し、地上に現れた。
「我が最強のしもべ、"F・G・D"!」
「ふぁ、"F・G・D"……」
「なんと、強い力を感じるんだ……」
"F・G・D"の巨大なオーラにたじろぐ二人にロード・オブ・ドラゴンは大声を上げて叫んだ。
「やりなさい、"F・G・D"! 積年の私の恨みを、この青二才に晴らしてやりなさい!」
「キァァァァァァァ!」
五つのドラゴンの口から、五色の炎を噴き出し、竜耶とバスター・ブレイダーはお互い目線をあわせ、走り出した。
「逃がしませんよ!」
器用に五つの首のうち二つの首を竜耶に向け、残りの三つの首をバスター・ブレイダーに向けると"F・G・D"はゴァッと凄まじい炎を吐き出した。
「甘い!」
デッキから、カードを抜き去り、デュエルディスクにセットした。
「罠カード、"攻撃の無力化"! 相手攻撃を無効にし、バトルフェイズをスキップする!」
竜耶とバスター・ブレイダーの前に時空を歪めたような空間の穴が開き"F・G・D"の攻撃を吸収すると、ロード・オブ・ドラゴンは苛立った顔で舌打ちした。
「クッ……あじなまね!? でも、こっちには人質がいることを忘れないことですね?」
「残念ながら、こっちにはこれがあってね?」
「それはっ!?」
取り出したカードを見て、ロード・オブ・ドラゴンは驚愕した。
「"サイクロン"!?」
「その通り! フィールドのセットされた魔法、罠を破壊する即効魔法! 破壊するのはもちろん、"闇の呪縛だ"!」
ガキンッと音を立てて砕け散る鎖に竜耶はスライディングするように寅吉の身体をキャッチし、ニコッと笑った。
「大丈夫か、寅吉!?」
「うん! やっぱり、兄ちゃんは、伝説のドラゴンバスターズ……うぅん、俺の最高のヒーロー「バスターセイバーズだ!」
「バスターセイバーズ……悪くないな?」
ニコッと笑い、バスター・ブレイダーを見ると、バスター・ブレイダーも満足そうに頷き、"F・G・D"を睨んだ。
「これで残ったドラゴンもお前だけだ!」
「ふっ……それはどぅですかね? バスター・ブレイダーの攻撃力は2600に対して、"F・G・D"は攻守ともに5000の超上級モンスター……しかも、"F・G・D"は光属性のモンスター以外の攻撃では、破壊されない。勝ち目はないですよ!?」
「……それくらい、心得てるさ?」
ニヤッと笑い、竜耶はデッキから一枚のカードを取り出し掲げた。
「装備魔法、"幻惑の巻物"!」
「なっ!?」
目を見開き驚くロード・オブ・ドラゴンに、バスター・ブレイダーの身体に一枚の巻物が螺旋状に巻かれ光か輝き消えた。
「"幻惑の巻物"は装備モンスターの属性を好きな属性に変えることができる装備魔法……もちろん、俺が指定する属性は、"光"!」
「だ、だが……それでも、攻撃力は"F・G・D"のほうが上ですよ?」
「そぅかな……試してみるか?」
ギュッと手を握り締める寅吉のぬくもりを感じ、竜耶は右腕を大きく振り上げた。
「やれ、バスター・ブレイダー!」
「おぅ!」
バッと飛び上がり、バスターブレイダーは大剣を振り上げ、"F・G・D"に向かって振り切った。
「破壊剣一閃!」
ズバシャンッ……
「キァ……!?」
身体を真っ二つに裂かれ、消滅していく"F・G・D"にロード・オブ・ドラゴンは信じられない顔で首を横にふった。
「な、なぜだ? バスター・ブレイダーの攻撃力では、"F・G・D"の足元にも及ばないはず……」
「時を経て忘れたようだな……」
デュエルディスクからバスター・ブレイダーのカードを取り出し、見せ付けた。
「バスター・ブレイダーは相手のフィールドと墓地のドラゴン族一体につき、500ポイント攻撃力を上げる。お前に会う前に、俺たちはドラゴンを何十体と倒したんだ。バスター・ブレイダーの攻撃力を知りたいか?」
「バ、バカな……」
身体を震わせ逃げ出そうとするロード・オブ・ドラゴンに竜耶はデッキからカードを一枚抜き去り叫んだ。
「逃げられる思うな! 魔法カード"地割れ"! 相手モンスターの一番攻撃力の低いモンスター一体を破壊する」
「なっ……?」
バガッと足元が割れ、地割れに落ちていくロード・オブ・ドラゴンを見て、地面に着地したバスター・ブレイダーは剣を背中に仕舞い、首を横にふった。
「ロード・オブ・ドラゴン……哀れな奴だ」
閉じられた地面を見て、竜耶はため息を吐いた。
「終わった……」
数日後。
『竜ノ守町を襲ったドラゴンのことは依然、なぜ、町を襲ったのか不明のままですが、ドラゴンから町を守った一体のモンスターの存在に人々は熱い言葉を投げかけています。町を救ったモンスターに町の人たちは感謝の意味を込め、こぅ呼んでいます。「バスターセイバーズ」と……』
テレビに映し出された先日のニュースを見て、寅吉は嬉しそうに竜耶を見た。
「すっかり有名人だね、兄ちゃん?」
「まぁ、町を救ったからな……?」
「また、あいつが復活したらどぅするの?」
「戦うさ……何度だって、俺とバスターブレイダーがいれば、この町は絶対に安全だ。なんせ、俺たちは……」
「バスターセイバーズだからな……」
デュエルディスクから現れたバスター・ブレイダーに竜耶はニコッと笑い、寅吉にいった。
「安心だろう?」
「うん!」
元気よく返事を返す寅吉に二人とも満足そうに頷いた。
Tweet |
|
|
4
|
0
|
追加するフォルダを選択
第2話です。今回のメインは"バスター・ブレイダー"です。人々の英雄として語られたドラゴンバスターズの異名を持つ少年とモンスターの無双物語です。前回と比べると、若干、RPG要素が薄れてるかも……