はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役の話です
一応原作キャラも出てきますがキャラ崩壊を起こしています
ご注意下さい
月明かりの下
一つ影が歩いていく
その影が実は
二つの影が合わさったもので
一つを背負った影と
背負われた影
村へと続く畦道に
月明かりに照らされて
真直ぐに伸びていた
「そんなに……のか?」
背中に感じる重みに声を掛ける
「え?」
よく聞き取れなかった彼女は聞き返す
「そんなに…面白かったのか?…演劇」
「…うん」
今度はちゃんと聞こえた声に彼女は応えた
「…そうか」
彼女を背負う彼の背中は温かく
「だったら…次は二人で見に行くか?」
「…うん」
彼女を背負う彼の声はどこまでも優しい
先程まで泣き続けた為か目の回りがヒリヒリする
だけど…
月明かりで照らされただけの道は暗く、怖さから彼の肩に回す手に力が入る
それでも…
彼女はもう泣いていなかった
「…昔を思い出してました」
隣に立つ悠は桂花と同じ方向を見ている
二人の視線の先にあるのは小さな城
その城に今まで見たことも無いほど大勢の人間が集まっている
あの城の中がどうなっているかなど、二人には想像出来なかった
「昔?」
桂花はこの状況で悠が何を言いだすのかと、首を傾げた
「桂花が初めて一人で街までお使いに行ったときのことですよ」
途端に桂花の眉が吊り上る
「覚えてませんか?」
「…覚えてないわ」
その態度は覚えていると言ってるようなものですよ
口には出さないが悠は苦笑する
「桂花が初めて一人で街までお使いに行って…日が暮れても帰ってこない桂花を比呂が迎えに行ったときのことですよ」
「…」
桂花が初めて一人で街までお使いに出た日、街には大道芸の一団が来ており、その中の出し物の一つに演劇物があった
それがあまりにも幻想的で面白くて
桂花は時間が経つのを忘れて見入っていた
気が付けば辺りはとっくに真っ暗で街の入り口で途方に暮れていたところに
なに泣いてんだ?
手に持った明かりで桂花の顔を照らして笑う比呂
「桂花がいつまでも帰ってこないことに大人達は皆慌ててましたが…比呂が迎えに行ってくると村を出た途端、不思議に…皆落ち着いていたものです」
「…」
事実帰れば怒られると思っていた彼女だったが。大人達は心配かけてと口にしたものの笑っていた
「今回も…そんな気がしません?」
「…」
二人とも遠く城の方を見ているため桂花には悠がどんな顔をしているか見えない
だが視線を合わせなくとも彼がどんな表情をしているか解る
「桂花から見て…比呂は…変わりましたか?」
悠の突拍子もない質問に桂花は比呂を思う
変わってしまったと思ってた
変わってしまったように見えた
そのことが悲しく
そして私は傍を離れた
だけど今は
いや…でも
確信が持てない彼女はそれを悠に求める
「私も…あんたに聞きたいことがあるの」
「あいつは……あんたの病気のこと知っているの?」
ゴクリと息を呑んだ音が聞こえた
「…気づいてました?」
悠の声が
震えている
「…あんたの湯呑…薬臭いわ」
「ふふ…嗅いだんですか?」
「馬鹿」
冗談を言う声も、いつもの調子じゃない
桂花は悠を見れないでいた
暫くの沈黙の後
「誰にも言ってないですよ、もちろん比呂にも…でも」
…やっぱり比呂は
「気づいて…いるのでしょうね」
…あの馬鹿
「気づいてて…知らない振りをしてるのでしょう」
…なにが「抱き心地が良さそうだった」よ
比呂は変わっていなかった
今なら彼女にも解る、比呂の…あのときの表情の理由も
比呂は守ろうとしている、これから来る戦乱の世で力なき人々も、そして悠のことも
知っているのだ…悠がこの先長くないことを、だから証明するために
自分の友には王佐の才があることを証明するために
時間がないから
あの女を本当の王に
あの女を利用してまで
「ほんと…馬鹿」
だがそのことに桂花が気づいても
桂花はもう戻れない
自分の王を見つけたのだから
比呂の傍にいることを捨ててでも
此処に立つことを決めたのだから
とっとと戻ってきなさいよ
私は自分の力で…脱してみせたわ
だから
で、その頃の比呂
誰もが言葉を発せないでいた
三姉妹も
役満姉妹親衛隊も
何進も
先程まで暴走していた雪蓮でさえも
誰もがその光景に息を呑み、沈黙していた
ゴロゴロと転がってきた首を見て…比呂がようやく言葉を吐く
「…コイツが張角」
静かな水面に石を投げたように、波紋が広がる
「見事なり公孫瓚!汝が手柄、帝より勅命を受けしこの何進!しかと見届けた!!」
何進の賞賛に波紋はいつの間にか津波まで昇華する
「「「「「おおおおおおおおお」」」」」
「マジ?うっそ!」
「まさか…」
兵達の雄叫びに雪蓮と比呂は驚愕し
「え?張角はわ…」
「いいから姉さんは黙ってて!」
「…ついてるわ私達」
三姉妹の内の二人は胸を撫で下ろし
そして役満姉妹親衛隊は…
「親衛隊二十三号から各同志に通達!我等はこれより目標を確保!!速やかにこの地より離脱する!!!」
「「「「「ほああああああああ」」」」」
「「「えっ?…きゃああぁぁぁ…」」」
ズドドドドドドドド……
来たときのように三姉妹を御輿のように担いで去っていく
その光景に
「見よ!賊共が我等の武勇に恐れをなして逃げていく!勝鬨をあげよっ!!!!」
「「「「「おおおおおおお」」」」」
「え?そうなの?」
「てゆうか最初殲滅させると言ってたような…」
二人の疑問の間もなく
ゴゴゴゴゴゴ…
城が揺れ始める
「いかん…崩れるぞ!何進将軍!我々も撤退を!!」
我に返った比呂が叫ぶ
あれだけの数の人間が押し寄せたのだ、こんなオンボロの城がもたないのも頷ける
「撤退っ!撤退いぃぃぃ!!!」
「「「「「おおおおおおおお」」」」」
我先にと駆け出す連合軍
「まって!服がっ!」
「だから何で脱いだんだ貴女は!?」
脱ぎ飛ばした服をオロオロと探し出す雪蓮
「時間がない!早くしろ!」
この状況に言葉遣いも荒くなる比呂
ガラガラと天井が崩れ始める
「もう~どこ行ったのよ私の服~!」
同じくこの状況に涙目な雪蓮
比呂は舌打をして彼女をを抱き上げる
「え?…っやん!」
「諦めろ…行くぞ」
「えええっ!このまま~っ!?恥ずかしいよぅ」
「貴女がそれを言うかっ!?」
と二人の前にバタバタと音を立てて旗が落ちてくる
「「これだっ!」」
二人は互いの顔を見合わせて叫ぶ
「万歳!」
「はいっ!」
グルグルと旗を雪蓮の身体に巻いて再度抱き上げる
「しっかり掴まれっ!」
「うんっ!」
再び走り出す二人の前に
「張角覚悟っ~!!!」
「だからそれは違うってゆってるだろうが~(怒)!!!」
メキャ!!
比呂の飛び膝蹴りが春蘭の顔面を捉える
ズシャアアアアアアっ……べちょ
「…雪蓮殿」
「はいは~い♪」
近付きながら雪蓮に促す比呂
比呂の両腕は雪蓮を支えて塞がっているため雪蓮が春蘭の落とした刀を拾い上げる
「…っぐ!?」
…イィン
起き上がる春蘭の鼻先にお姫様抱っこの状態のまま刀の切先を向ける雪蓮
「先程も言ったが…我が名は張郃、我が主にして袁家が当主…袁本初に授けし是の名、二度も愚弄することは許さぬ」
「「…」」
比呂の冷徹な声に二人が沈黙する
「くっ…だが…」
「ついて来い」
「…何?」
「貴様が主、曹操の前にてそれを証明してやろう…曹操が認めなかった時、貴様の主の目の前でこの首を刎ねるがいい…」
すでに春蘭の主も呼び捨てにする比呂、この女にも…その主にも、もはや敬意を払う必要も価値もない
そういって踵を返し歩き出す比呂
「…いいの?」
雪蓮が比呂を見上げる
「構いません、精々赤っ恥を掻いて貰いましょう…あの馬鹿女にはいい薬だ」
そう笑ってみせる比呂
やばい…かっこいい
剣を捨て比呂の首にしがみ付く雪蓮
「…っ雪蓮殿!?」
「貴方!真名は?」
「は?」
「私だけが真名で呼ばれるなんて不公平でしょ?」
満面の笑みで問いかけてくる雪蓮
思い返してみればどちらかというと一方的に押し付けられた気がしないでもないが、確かに此方だけが真名を呼ぶのは礼儀に反する…のか?
「比呂…そう御呼び下さい、我が真名…雪蓮殿に授け…」
「真名もかっこいぃ♪」
比呂の言葉を最後まで聞かず益々しがみ付く雪蓮
「っ雪蓮殿!?前が、前が見えません!?」
「比呂!うちに来ない!?」
「はい?」
今度は引き抜きか…この状況をなんだと
「今より沢山報酬を弾ませるわ!」
否、彼女にとっては状況など関係ないのだろう…事実、彼女の現在の境遇は袁術の客将だ、まだ独立も果たしていない今は弱小勢力と言わざるを得ない
だからこそ彼女にはこの場の状況など関係ないのだ
「貴女の誘惑は確かに魅力的だ…」
「でしょでしょ!?」
走りながら比呂は答える
「だがこの身…主と友の志に捧げると決めた」
比呂の真剣な表情に雪蓮が息を呑む
「…そう」
「すまないが…」
「ううん…いいの、そうよね…簡単に身を振るなんて出来ないわよね?」
雪蓮の表情が和らぐ
「でも!」
「?」
再度ガバリとしがみ付く雪蓮
「それなら尚更この状況を堪能しなきゃね♪そして何時か…比呂!貴方を私の物にしてみせる!」
きゃ~告白しちゃった!と愉快そうに笑う雪蓮
そんな彼女の表情に自然と笑みが零れる
「言っておくが、それなりに強いぞ袁家は」
「承知の上よっ!」
上等だわ!と王者の資質を宿す瞳が輝く
と
「待ってえぇ~」
いつの間にか後方に白蓮が追いついていた
「公孫瓚殿!?」
「なによ~!?せっかく二人だけで良い所だったのに~!」
いやいやちゃんと春蘭もすぐ後ろ走ってますからね!…珍しく空気を読んでいただけで
「…ってナニ持ってるの?あんた」
よく見れば白蓮は何かを抱えながら走っている
「何って、張角達の首…」
「捨てなさいよっ!そんなもの!!」
白蓮が剥き出しで抱えるそれに雪蓮の顔が引き攣る…春蘭もまた「うわ~…」と引いていた
「だって~コレないと証明が…」
とはいっても三つの首を抱えている本人も実は嫌なのだろう、涙目で走っている
その直後に彼等が走る先の天井が崩れてくる
「うわっ!?」
なんとか避けるものの白蓮だけが躓いて転んでしまった
ゴロゴロ…
転んだ拍子に落としてしまった三つの首が転がっていく…
「ああっ首が!」
白蓮はしまったと叫ぶ
ゴロゴロ…
…その首の上から
…っプチ!
「「「「ぎゃああああああ」」」」
四人の絶叫が崩れ去りつつある城内に響いた
あとがき
ねこじゃらしです。
ここまで読んでいただきありがとうございます
続きはまた今夜
煙草…逆に火を付けてしまった
最後の一本が…
…それでは次の講釈で
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第13話です
風呂敷をひろげては今度は広げた風呂敷の回収をば
小説って難しい…