「器用にこっちの右翼と左翼の動きを止めている、劉備の軍師の仕業ね」
「諸葛亮か、此方の兵を右に左にぶらしてくる。風並みに器用なことをっ!」
動きが止まっては趙雲と張飛の格好の的だ、脚が止まれば狙い撃ちになる
曹操様はっ!救いに行かねば、ここはもう駄目だ城に戻り篭城をっ
「隊長っ!もうあかんで!これ以上はもたへん」
「真桜、いいところに来た。それを貸してくれ」
「えっ、あっ!隊長っ!」
真桜の腰から下げている袋から煙球を抜き取ると馬に飛び乗る
作らせて置いてよかった、何かの役に立つと思って作らせたが
「昭っ!」
「詠、撤退だ篭城戦に移す。全軍に退却命令を出せっ!」
そういい残すと俺は馬を前線へと走らせた、曹操様が居る前線に
早く救い出さねば、このままでは曹操様が殺されてしまう
戦場を駆け抜ける、周りでは兵士達が血を流し殺しあう、前線は俺の眼に強すぎる光景だ
直に敵も味方も関係なく感情が眼から入り込む
痛い、苦しい、死にたくない、助けてくれ、殺す、殺す!殺す!!殺す!!!殺す!!!!
「くそっ、しっかりしろ」
涙が自然と頬を伝う、しっかりしろ止まっては駄目だ!
(・・・・・・・・・)
「!?」
今のは戸惑い?戦の兵士から戸惑いだと?どういうことだ?兵士達は望んでいないのか?
それとも劉備の変化に引きずられているだけか?劉備の変化は急激なものだったのか?
いや、今はそんなことよりも曹操様だっ!見えてきたっ!相手は関羽と・・・呂布かっ!
「・・・・・・遅い」
「なっ!」
「曹操様っ!」
俺はとっさに曹操様に切りかかる呂布めがけてありったけの煙玉を投げつける
着弾した弾は一瞬にして白い煙を周りに撒き散らし、辺りを白く包んでしまう
「な、なんだっ!何も見えんぞっ!」
「・・・・・・ましっろ」
「昭っ?」
今だっ!俺は曹操様の手を掴み引き寄せ馬に乗せようとしたところで関羽が俺達の動きに気づき
気合とともにこちらに突っ込んできた
「む!そこだぁっ!」
関羽の青龍偃月刀が煙を切り裂き曹操様を狙う、俺はかばうように身を盾にして曹操様を
後ろに引き乗せた、その瞬間左の頬から右のわき腹にかけて一筋の熱を帯びる
「くっ!ぐああああぁああああ!!」
ズバァッ!!!
肉が裂け、血が噴出すが無理やり馬の手綱を引き走り出す。曹操様だけはっ!曹操様だけは守り通すっ!
「ぐぅっ!ま、まだだっ!走れっ!」
「おのれ逃がすかっ!」
くそ、走り始めは追いつかれるっ!見切れっ!動きをっ!背中の棍だけでも動きは止められるっ!
次に切りかかる瞬間を狙う、冷静に秋蘭のように、弓を撃つ時と同じだ、狙うは顔、顔なら必ず武器で払う
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
関羽は走り始めた馬と距離を詰めると地を蹴り切りかかってくる
地から脚を離した、空中なら避けられまいっ!振り向きざまに背中の棍を関羽の顔を狙い投げつけた
「むぅっ!小癪なっ!」
斬ッ!!
顔に投げつけた棍を真っ二つに切り捨てる、今だっ隙が出来たっ!
俺は馬の手綱を叩き更に加速させ関羽をその場に置き去りにしていく
「く!」
関羽はそこから追いつくのは無理だと悟ったのかその場で歩を止めてしまう
良かった、振り切ることが出来た。後は曹操様を・・・・・・
「昭っ!昭っ!しっかりなさいっ!」
「だ、大丈夫・・・撤退、しますよ」
後ろから手を回す曹操様の手にべっとりと赤い血が着く、俺が斬られたことに気がつき俺の顔を覗き込んできた
「ああ・・・汚してしまって、もうしわけ・・・」
「馬鹿っ!そんな事はいいから早く戻るわよ!華佗を連れて来ているわよね?」
華佗、つれて来ていた、良かった。まだ戦える、この人を守れるんだ早く戻らなければ
「手綱を貸しなさいっ!後ろからでも操れる」
無言で頷くと曹操様は顔を青くして手綱を握り城へと走る
城門に滑り込むように入ると負傷兵を見ていた華佗が俺に気が付き駆け寄ってきた
「これは・・・すぐに部屋に運び込む、詠、手伝ってくれ!」
「解ったわっ!」
曹操様は俺の体を運ぼうとする華佗に無言で近づくと華佗の胸倉を掴み体に怒りを充満させ
小さな体が何倍にも感じてしまうほどの覇気を纏わせる
「必ず救いなさい、出来なければ貴方の命は無いと思いなさい」
「任せろ、俺の友を死なせはしない」
「その言葉、信じるわよ」
掴んだ手をしっかりと握り華佗は真直ぐに曹操様の目を見る。曹操様はその目をしっかりと見据えた後
城壁へと走り出す
「昭、今から縫合手術を行う。」
「か・・・だ・・・俺を、うごける・・・ように」
「馬鹿をいうなっ!こんな傷で動いていたら死んでしまう!」
部屋に運び込むと華佗は俺の体の服を剥ぎ取り触診を始め傷の深さを調べ始める
駄目だ、戻らなければ、あの人を守らなければ
「これは・・・鏃?なぜ鏃など入って?しかしこれのお陰で心の臓は無事だ、胸だけは傷が浅い」
秋蘭、俺を守ってくれたのか・・・ありがとう、お陰でまだ戦えそうだ、俺は華佗の腕を握る、強く、強くそして真直ぐに眼を見る
「たのむよ・・・俺のたいせつなものを・・・・・・守らせて、くれ」
「し、しかしっ!」
お願いだ、俺に生きる意味を与えてくれた人たちを守らせてくれ、この世界で俺にとって大切な、とても大切な繋がりなんだ
あの三人が居なければ俺はこの世界でどんな扱いを受けたかわからない、この世界で天の御使いなど為政者の道具に過ぎない、家族を、俺の大切な家族を守らせてくれ
「わかった、そんな顔をするな友よ、俺は友の願いを聞かない男じゃない」
「あ、ありがとう」
「その代わり約束しろ、必ず生きて帰って来い、また面白い話を聞かせてくれ」
「ああ・・・・・・」
「これより術式を開始する。左肩部から右腹部にかけて縫合を行う、術後、麻沸散を処方し痛みを麻痺させる」
無言で聞いていた詠は頷き、華佗とともに手術を開始した
詠は今までの付き合いから気持ちや考えを読み取ってくれたようだ、悲しそうに困ったような顔をして
眼が「馬鹿ね・・・」と語っていた
「敵が下水路に入り込んだわっ!真桜っ東5番から1番までの要石をはずしてっ!」
「了解やっ!」
真桜が下水路の上にある取っ手の様なものを下に下ろすと一気に要石が外れ用水路が瓦解する
入り込んだ敵兵士の悲鳴が聞こえ、城内部への道が閉ざされていく
「次、西3番から7番!」
「えいやっ」
風も同じように取っ手を踏みつけて要石を外し崩していく、しっかりとした作りの下水路がまさか
簡単に崩れるとは思っていなかったのだろう、敵は奥深くまで侵入しており大多数の兵士が生き埋めとなった
「なかなかね、この罠!まさか敵も下水路が罠になるとは思ってもいなかったでしょうに」
「お兄さんの言ったとおりでしたねー」
「次は城壁で華琳様がやっとるうちの新兵器をもう一個組み立てるで」
「なら私達は華琳様の元へ糧食と武器の報告に行きましょう」
そういうと桂花と風の二人は城壁へと走る、華琳の元へと到着すると真桜の新兵器は太い綱を切られ
無用の長物と化していた
「華琳様っ!なっ!あの綱を切った!?」
「呂布よ、厄介ねあの武は」
「しかも敵の攻撃は止むことを知らないようですね」
くっ!私が劉備に変な期待などしたばかりに、まだ私は解らないというの?
私がこの大陸を治める、それ以外に平穏を手に入れる術は無いのよ、劉備のことを言えないわね
私も十分に甘い、人に期待をするなんて、王は独り誰も頼らず将を道具として使い勝利を手に入れる
他人を期待しては駄目だ、現実を見なければ、いつから私は他人を頼るように
思考を遮るように目の前には黒い外套、何時もと変わらぬ笑みを称え
その身を真っ白な包帯で包みそこからは赤く滲む血液
「あ、アンタっ!」
「・・・昭」
男は華琳を優しく抱きしめると、放し身を翻す
そうだ、この人だ、私に他人を頼るようにしたのは、気が付けば何時も私の側にいる
隣で何時も笑って、御祖父さまのように私に安心をくれる。だめだ行ってしまう、あの時と同じように
「だめよっ!昭っ!」
男は振り向き笑顔を見せると切られた綱をたどり城門前へと呂布の前へと降りていく
腰には六本の剣、眼は決意と強固な意志を携えて
「誰かあの人を止めてっ!」
叫ぶ華琳に周りの兵が反応し綱を引き上げようとするのを後ろから来た一馬が止めると
男と同じ笑顔を華琳に向け、優しく語りかけた
「兄者を信じてください、必ず生きて戻ります」
そういうと一馬は兵士達を指示し、城壁に並ばせ武器庫から持ってきたありったけの剣を城壁から投げ
地面に突き刺していく、突き刺さった大地はまさに剣の草原
草原に降り立つ黒衣の男、地に突き刺さった剣を抜き取り二本の剣を力を抜きだらりと下ろしている
「アイツ死ぬ気っ!相手は呂布よっ!」
「そうよ、自分の命など昭の頭にはもう無い」
「華琳様・・・」
桂花が叫ぶが華琳は冷静に無表情に黒衣の男を見つめるのみ
その握り締めた手からは血が伝い、流れ落ち地面を染める
「舞が始まるわ」
華琳の言葉を皮切りに男は剣を脚で救い上げる様に宙に舞わせる
宙に浮いた剣が手で持った剣に撃ち出され、呂布を矢のように襲う
ギンッ!ギギンッ!!
戟を持った片手で振り払われるがその間に間合いを詰め、滑り込みながら更に地に刺さった剣を脚で舞い上げる
「・・・・・・遅い」
滑り込ん出来た男の頭に戟を振り下ろすが、男は体を回転させ半身で避けると顔に横薙ぎを合わせてくる
「・・・よけられる」
余裕で横薙ぎを頭をさげ避けると目の前には刃
「くっ・・・」
斬ると同時に後ろ手で動きを見切り、顔に剣を投げていたのだ、そこから攻撃は速さを増してくる
宙に浮かせた剣を更に腕で、甲で、指で跳ね上げ常に敵の眼前に浮かせ
浮いた剣を時には掴んで打ち込み、防がれると解ると当たる瞬間に手を放し敵の武器に当て宙に浮かせる
腕を振り切る前に宙に浮く他の剣を掴み更に攻撃を繰り出す
「・・・そこっ」
呂布も攻撃の間に反撃を仕掛けようとするが距離を潰される、戟の間合いではなく常に剣の間合い
拳で殴ろうものなら手を捕まれ引き寄せられ膝を受けてしまう
更に地面をなめる様に体を滑らせ回転を利用し左剣で脚を狙い防御されると、残った右剣を地面に突き立て体を浮かし
蹴りを顔面に入れてくる、辛うじて防御をするが脚を首に引っ掛けて顔に左剣で突きを入れに来る
「な、なんて強さなの、あの呂布が一方的に」
「強くなんて無いわ、昭はあの剣の草原の中でしか戦えない」
「どういうことですか華琳様?」
「常に剣を浮かしてじゃないと戦えないの、手数が足りないとかわすことも出来ずやられてしまうわ」
突きを避けると右剣が首を薙ぎに来る、それを素手で掴み、止めるとあっさりと剣を離し、浮いた剣を掴み更に首を
逆から薙いで来る。呂布は無理やり間合いを外すため、薙いで来た剣を戟で抑えると力ずくで体から引き剥がした
地面に浮いていた剣が落ちる、今度こそは自分の間合いだと戟を構え一瞬のうちに切り込みにかかると
やわらかく、脚を小刻みに動かし剣でいなしていく、決して逆らわず時には体を宙に浮かし、横薙ぎを剣を盾にし
滑らせ宙で回転して戟を受け流す。そして避けながら更に剣を宙へと舞わせていく
「まずい!何やってるのよ!」
「大丈夫でしょう、お兄さんの逃げる先を見てください」
かわし続けて逃げた先は落ちた剣の重なる場所、呂布は重なった剣に脚を取られ態勢を崩したところに
男は浮かした剣を投げ、また剣撃が襲い掛かり始めた
「まるで軍師の戦い方ですね、逃げる先も計算し、まるで呂布が牢に閉じ込められた獣のようです」
「一体どこでこんな戦い方を」
二人は驚き、ただ男の美しい舞に見惚れるだけになってしまう
「・・・秋蘭を娶るため、ただそれだけのために手に入れた力」
「えっ!華琳様・・・」
そう、ただ秋蘭を妻に迎えるためだけに得た力、私の咎だ
あれは私の命で秋蘭と閨を共にし、子を孕ませ、春蘭に認められるためだけに生み出した舞の極み
いくつもの舞を組み合わせ、相手に合わせ変化し続ける、彼にはこれしか人より秀でるものが無かっただけ
「春蘭を倒すためだけに生み出した舞、だから才で剣を振るう呂布には噛み合う」
また間合いを潰すと今度は攻撃を当てると同時に剣を手放し呂布の戟を掴み、残った手で剣を振り
呂布の手をなぎ払う、が呂布は武器から手を放し後方へ飛びのく
「・・・それ、恋の」
指を指す方向には戟を奪い取った持った男が立つ、くるりと後ろを向くとすたすたと城門前まで
歩き地面に戟で線を引く、ここからは進めない、進ませない、そんな意味を込めて
「かえすよ」
男から投げて返された戟を受け取ると、呂布は首をかしげて不思議そうに男を見つめる
「・・・・・・へん・・・よわいのに、つよい?」
男の腕は剣を弾き跳ね上げ続け、綺麗に巻かれた包帯は切れ切れになり所々から血が滲み始めた
「ああ、腕が・・・」
「お兄さんの腕の包帯はこういう意味だったんですね」
宙を舞い続ける剣を更に跳ね上げ、舞い上がった無数の剣の中に手を入れる、
その結果腕は傷つき、次第に肉を削り始め包帯は赤く染まり始める
これではいずれ負ける、まだ足りない、見ていると次第に呂布に無理やりではあるが
押されてきてしまう、せめてもう少し敵が居ればっ
「華琳様っ!関羽がっ!」
桂花の指差す方に視線を向けるとそこには関羽と張飛、趙雲がこちらに向かい呂布と合流
しようとしていた、良かったこれなら条件が揃う、だけど・・・腕がっ、胸からも血が流れ落ちてる
私は彼の腕から流れる血を見て自分自身に怒りがこみ上げるのを覚えた
もし彼が命を落とすようなことがあれば、私は私を許すことが出来ないだろう
劉備を討ち取った後、秋蘭にこの命を取られてもかまわない
「恋、何だこの大量の剣は」
「本当なのだ!剣が沢山地面に突き刺さってる」
趙雲に張飛か、関羽まで来てるな。良かった呂布1人はきつかったんだ
腕はまだ動く麻酔もまだ効いている、秋蘭達が来るまで一日、城を出るとき一馬が言っていた
それまでは両腕が落ちてもここは通さない
そう思っていると俺の目の前に関羽がゆっくりと歩を進めが立ち、俺に話しかけてきた
「昭殿、貴方に会いたかった」
「・・・・・・」
関羽の言葉に趙雲たちは驚くが、手で制され真直ぐ俺を見つめるとその眼はとても澄んでいて
美しく見える、何時かの詠の目のようだ
「桃香様の変化を貴方はどう見られるか、おそらくは武王に成り代わろうと見えるだろうな」
違うのか?この戦の仕方、南蛮を一度で制した話などを聞けばそうとしか考え付かない
「桃香様は演じているのだよ武王を、貴方を手に入れるため」
演じているだと、それこそ馬鹿げている。劉備の器は武などが入るものではない
そこには徳と儀が入るはずだ
「あの邑を見たのだ無理も無い、あそこには私達の求める理想郷が確かにあったのだから」
「・・・」
「だが私は貴方が居なけば私達の理想がかなわないとは思わない、私達の力で桃香様の力で
天の御使いなど無用だと証明してみせる」
「・・・そうか」
俺は関羽の言葉に笑みがこぼれた、関羽も俺を見て笑顔になる
「桃香様が急速に変わられたのは南蛮制覇からだ、おそらく今でも悩み苦しんでいるのだろう
悩んだ結果が武ではないと私は思う」
そうだな、きっと目の前にある自分の理想に似た場所に目がくらんでいるのか
それとも独りで立つことが出来ないくらい度重なる戦で心が憔悴しきっているのかもしれない
「ならば私は桃香様を信じるのみ、貴方を倒し御使いなどいらないと証明してみせる
だが、それでも天の御使いを必要とするのならば、私が桃香様の天の御使いになってみせよう!」
他の将は劉備を何度か止めたのだろう、しかし関羽は主をずっと信じる道を選んだのか
必ず立ち直ると、今は寄り道をしているだけだと、主を信じるか・・・・・・俺と
「私は貴方に少し似ているのかも知れませんね」
関羽は悲しげに手の中の偃月刀を見つめると、それを構え俺に刃を向けた
「今の私の刃に義は無い、だが主を信じ私も今だけは武王の将を演じよう、軽い刃なれど貴方を打ち倒すには
私の揺るがぬ心があれば良い」
「フフッ愛紗よ、軽い刃は私も同じだ、ならば刃も重ねれば重くなろう」
「鈴々達は愛紗を信じてるのだ」
「・・・・・・恋も」
そういうと四人は武器を重ね合わせ俺に刃を向けてくる
だがそれならば俺も容赦などするものか、そのために兵達が戸惑い死んでいく、今の迷いのある劉備はただの猛毒!
俺にとって主に仇名すただの害敵だ、我が主を失望させた罪は重いぞ!俺の全てを賭けて劉備の頸を取る
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武王編-舞-
主人公の舞については次回あたりで詳しく出します
舞のイメージ曲としてはBring to the Boilです
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