ロマーノとスペイン
ここは、どこだ?
ただ、静かにロマーノはそう思った。今更、慌てても自分には、どうしようにもない。なら、静かにそれを受け止めた方が、有意義だ。
ロマーノは、渓谷に来ていたはずだ。進んで行くような所じゃないところを選んだ。ヴェネチアーノには、スペインの家に行ってくると言った。そうすれば、何日帰らなくても心配しないから。
そこで、自分の国を静かに感じたかった。いや、違うなと自分の考えを否定する。自分は、ここでなら、誰にも、スペインにもヴェネチアーノに迷惑をかけないで、消えられると思って来た。消えてしまえば、跡形も残らない。もしかすると服は、残るかもしれないが、同じ服を持っている奴なんて、探せばごまんといる。
そうなると、自分は消えてしまったのだろうか? なら、ここは天国か?
ロマーノは、周りを確認しようとするが、身体が動かない。どうやら、自由に動くのは、意志だけのようだ。
こんな不自由な所が、国が最後に辿りつくところなのだろうか?
もしそうなら、それはそれで良いなと笑う。
半永久的な国から解放されて、ここでずっと過去を振り返る。そして、いずれ考えることも面倒になり、動かなくなるのだろう。
さて、何から振り返ろうか?
記憶が膨大で、何を振り返れば良いのか分からない。
とりあえず、スペインのことを振り返ってみよう。一番、最初に思い浮かんだ。
アイツは、俺のことをどう思って育てていたのだろうか? 聞きたい。どうして、育ててくれたのか。生きている間は、恥ずかしくて聞けなかったこといっぱい聞きたい。
「ロマーノ」
誰かが呼ぶ声が聞こえる。曇った声のために、判別ができない。
(誰だ?)
「ロマーノ」と何十回、何百回と叫ばれる。呼ばれる度に、クリアになっていき、ついには耳元で、大音量で叫ぶように聞こえる。
ロマーノは、耐えきれずに何度かその声から、離れようとする。だが、やはり身体を動かすごとは出来ない。
―――――怖い。
早く逃げないと。何かに捕らわれてしまいそうで、たまらない。
逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。
いつもは、探さなくても本能的に逃げ道を見つけることが出来るのにここには、それがない。もしあっても、ロマーノは、身体を動かすことが出来ない。
どうすればいい?
動け動け動け動け動け動け動け。
こんな所に居たくない。
無理矢理動かそうとすると、身体が悲鳴を上げる。それでも、ロマーノは逃げたかった。頭の中にはそれしかなかった。
(スペイン!)
助けて、スペイン。いつものように、助けに来て。
こんなときにしか、頼らない卑怯な俺を助けてくれ。お願いだ。
「ロマーノ!」
(……スペイン? スペイン!)
大音量の声の中に、微かに違う声が聞こえた。
ロマーノは、それがスペインだと感覚的に認識する。それ以外、彼の頭の中には浮かばなかった。
「スペイン! スペイン!」
声が聞こえる方に、腕を伸ばそうとする。少しでも、スペインに気づいてもらえるように。
「ロマーノ」
ふと、動かなかった体が、何かに引っ張られるように、身体は倒れこんだ。
目の前に飛び込んできた、懐かしい風景。見慣れた顔に匂い。特徴的なイントネーションをロマーノは確かに聞いた。
「まったく、ロマーノは、相変わらずお寝坊さんやな」
涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃなスペインを笑いながら、ロマーノは、周りに目をやる。
そこは、確かにロマーノが来た渓谷だった。誰にも言っていなかったのに、よくここに居たのが分かったものだ。
「にーちゃーーーん!」
後ろからいきなりヴェネチアーノが飛びついてきた。振り向けば、見慣れた国々。どうやら、一斉捜索したようだ。
せめて、迷惑をかけたことを謝罪しようと立ち上がろうとした瞬間、ロマーノの記憶は、途切れた。
次に、ロマーノが目を覚ましたときは、スペインの家のベッドの上だった。
「おやようさん、ロマーノ」
そう言って、抱きしめてくるスペイン。ロマーノは、ゆっくり背中に腕を伸ばし抱きしめ返す。
ああ、俺は生きてる。消えてない。
これで、もしかして、消えなくてすむのかもしれないと、ロマーノは思った。
そして、そんなことは無いと、後に知ることになる。
ロマーノがロマーノである限り、その可能性が無くなることはないんだと。
スペイ――――――
あとがき
バッドエンドで、すみません。
もしこれが、西ロマだったら再会シーンになにか入れたんですがね。
ハピエンは、続編で書く予定だったんですが、それは要望があった時に書きます。
ひとまず、ロマーノの消失はこれで完結です。
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