ロマーノとトマト
ロマーノの家の後ろには、トマト畑がある。規模はそんなに広くないが、一人で世話をするには、ちょうど良い広さだ。そこで、ロマーノは、草むしりをしていた。
今年のトマトは素直だ。別段、病気にかかることもなく順調に育って行っている。このまま行けば、夏には大量収穫が出来るだろう。
「ふぅ」
手を止めて一休みする。
元々ここのトマトは、スペインの所から苗を分けてもらい、徐々に増やしていったものだ。ロマーノにとっては、思い出の1つだ。
世話をするときは、スペインの家に居た頃のことが頭を過ぎる。良いことも悪いことも今では、笑い話の1つでしかない。
「……」
男に言われたことが頭を過ぎる。ロマーノは、収穫するまでは消えないでいたいと思っている。せっかく育てたトマトぐらいは食べたい。それに、スペインやヴェネチアーノが作るトマト料理が食べたい。
どれだけ自分はトマトに関して貪欲なのだろうか。だが、何をしても弟のヴェネチアーノに勝てなかったロマーノが唯一自信を持って誇れることが土いじりなのだから仕方がない。
「早く大きくなれ……」
草むしりを再開して、トマトに話し掛ける。いっぱい話かけてやれば、その分上手く出来るような気がしたからだ。
今日の昼は、簡単にピッツァを作ることにした。自分しか食べない物に時間を使ってもただ疲れるだけだ。小麦粉を適当に混ぜて、発酵させる。冷蔵庫から、トマトの瓶詰めとチーズを取り出す。本来なら、他の食材ものせるのだが、それすらも面倒だった。簡易石釜に火を付ける。ダメ生地でもこれで、焼けば何とかしてくる。
それなりに膨らんだ生地を、伸ばして、トマトピューレを乗せる。これは一年中トマトが食べられるようにと、スペインと一緒に作った物だ。
冬が近くなるとどうしても、トマトは腐る。冬にどうしてもトマトが食べたいと我が儘を言ったロマーノのためにと、スペインと考えた結果として、トマトの瓶詰めを作った。ジャムみたく加熱処理をして、瓶に詰めとけば何とかなるだろうという、最初はとても安易な考えから始まったものだ。今は、定着してスペインの家で作ったりロマーノの家で作ったりといろいろだ。
たっぷりのトマトピューレの上にチーズを一握り分ぐらい乗せる。石釜の温度を確認して、生地をいれた。
数分で焼き上がったピッツァを切り分けて、椅子に座る。味は、問題ない。それは、何度も食べているから証明済みだ。だが、ロマーノは美味しいと感じられなかった。慣れ親しんだ味がしない。昨日までは、確かにトマトの甘酸っぱさを感じることが出来た。
「はぁ」
味覚がなくなった。体調が悪化してきているのは分かっていたが、まさか味覚がなくなるとは思ってもみなかった。これで、ロマーノの楽しみの1つである食は、栄養摂取以外の意味を持たなくなってしまった。きっと、それも時期に意味を持たなくなる。なら、いっそのことジャガイモでも食べてやろうか。味が分からないのにトマトを食べるなど、トマトに対しての冒涜だ。
せっかく無い体力で作ったピッツァは食べるが、夕食はいらない。今日は、パエリアでも作ろうと思っていたが、味が分からないのに作っても仕方がない。
「あ」
口に運ぼうとしたピッツァが、テーブルに落ちた。持っていた方の手をみるとぼやけて見える。テーブルやピッツァははっきり見えるのに、ロマーノの身体だけがぼやけて見える。見ようとすればするほど、ぼやける。
目を開けることも椅子に座っていることも辛くてたまらない。ベッドで休もうと足に力をいれるが、立つことが出来ずに前のめりになり、そのまま床に倒れこむ。
消える。
意志が薄れて行く中で、かすかにスペインの声が聞こえた気がした。
あとがき
どうしよう。
ロマーノと~は、基本的にスペインとイタリアは、悪役です。
別に悪いことはしてないんですが、悪役です。(消失的な意味で)
スペインが、なかなか登場しなくて泣いた。そして、次も出ない。出てもKYだから、泣ける。
トマトの瓶詰めとジャム、どっちが最初に出来たかは、知りません。
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