No.126406

黒剣王 第一章 -聖杯戦争- 第二話 -衛宮士郎-

愚王さん

Fate/stay nightの二次創作第三作目です。
出てくるキャラクターの強さが変わっていたり
性格が全然違ったり
そもそも出てこなかったり
オリジナルキャラクターが出てきたり

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2010-02-24 15:00:51 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:12395   閲覧ユーザー数:12071

『黒剣王 ~Sword king of the darkness~』

第一章 -聖杯戦争-

第二話 -衛宮士郎-

 

強い光に意識が薄れていく。

「ごめんね、士郎」

声が聞こえてくる。

夜の闇にとけ込みそうな小さな声だ。

「全部、僕の所為なんだ」

今日の様に寒くもない冬の月夜。

月明かりを浴びながら士郎は切嗣と縁側に座る。

切嗣の声を士郎はただ黙って聞く。

「ごめんね、ごめんね・・・・・・」

「切嗣は悪くない」

突然、士郎は切嗣の言葉を遮る。

「切嗣は間違ってない。ボクはそう思うよ」

「でもね、士郎。僕の判断の所為で士郎の幸せを、みんなの幸せを奪ってしまったんだよ」

「確かにそうかもしれないけど、そうしないと更に多くの人の幸せが無くなったんだろ?」

その一言に切嗣は答える事が出来なかった。

「なら、その判断は間違ってない。ボクはそう思う」

「士郎」

「切嗣、ボク決めたよ」

突風が吹き、二人を包んでいく。

 

「―――――――――士郎」

切嗣の声は弱々しい声であったが、先程よりも確りと聞こえた。

「だめだよ、士郎」

今にも消えてしまいそうなその声を士郎は聞く。

「―――なんで?」

「士郎、君は誰よりも幸せにならないといけないんだ」

彼の問に切嗣が答える。

「士郎、君は唯一の生き残りだ。あそこで死んでしまった人の分も幸せにならないといけない」

「・・・・・・」

「それにね。これは父親としてのお願いでもあるんだよ。親は子供に幸せになってもらいたいものだよ」

「・・・・・・切嗣」

「だから、士郎。君はそんな願いを抱いちゃいけないんだ」

2人の間に沈黙が流れる。

「・・・分かった」

沈黙を士郎が破る。

その同意の言葉に切嗣は顔を綻ばせる。

「ボクは[幸せになる]という願いも叶える。それなら切嗣も文句ないだろ?」

ほころばせた顔をしかめ、切嗣は士郎に言う。

「士郎、その二つを両立させる事は出来ないよ」

「なんで諦めるんだよ。ボクは諦めない。二つの願いを俺は絶対叶える。ボクはそれをここに誓うよ」

「士郎」

「だから切嗣、魔法教えてくれよ。願いを叶えるためには絶対必要だって」

困ったように切嗣が士郎を見る。

(そうだ。これが俺が魔術を必要とした瞬間だ)

「だめだよ、士郎。あれは危険なんだから」

(結局教えてくれたっけ。懐かしいなぁ)

強い光にくらまされた目が回復していく。

 

 

「――問おう。汝が我がマスターか」

光の消えた倉に凜とした声が響く。

そこには凛々しく美しく可愛らしい青い女性騎士が立っていた。

外から差し込む光に彼女は神々しく輝いていた。

「私はセイバー。すぐに外の敵を排除します。」

そう言い彼女は倉より出て行こうとした。

「待ってくれ、セイバー。ランサーに敵意はない」

「え?」

士郎のその言葉にセイバーは反応する。

「ランサーは君に聞きたい事があるんだ。その答えを聞いたら帰ってくれる。

 セイバー、俺は敵対してない相手を殺したくない」

その士郎の言葉にセイバーはふっと微笑んだ。

「分かりました。見た目は違ってもシロウだ。私には分かります」

「やっぱり、与えられているんだね?」

「・・・何故、あなたがそれを知ってるのかは後で聞く事にします。では、外に行きましょう」

そう言うと士郎とセイバーはともに倉を出て行く。

 

「よぉ、セイバー。召喚された気分はどうだ?」

倉から出てきた士郎とセイバーをランサーが塀の上から声をかける。

「ええ、凄く良い気分ですよ。ランサー、どうやらあなたも」

「おう、今回の[聖杯戦争]はかなり異常だぜ。セイバー、多分お前は今回のサーヴァントの中で一番不幸だ」

「何?」

セイバーはランサーの言葉に反応してにらみつける。

「ランサー、何を言っているのだ。シロウは最高のマスターだ。[記憶]とは違い、魔力も申し分ない。

 そのマスターを馬鹿にするとはどういう事だ?答えによっては切り捨てる!」

見えない何かを構えたらしいセイバーが叫ぶ。

「そうじゃねえよ。確かにマスターとしては最高だろうな。だが、[記憶]のなかの坊主に会う事は絶対に出来ない」

「―――っ!」

「分かってる見てえだな。そいつは[記憶]と明らかに違う。お前の[衛宮士郎]はこの世界にはいないんだよ」

そう言うとランサーは立ち上がり、士郎達に背を向ける。

「じゃあな、セイバー、坊主。次はシロウと戦ってみてぇな」

そう言うとランサーは闇の中へと消えていった。

 

「・・・・・・ランサーは帰ったようですね。」

消えていったランサーを見ながらセイバーが言う。

何かの気配を探るようにセイバーは目を瞑る。

「―――っ!シロウ、下がってください。屋敷の中に一体、外に一体のサーヴァントがいます」

目を瞑っていたセイバーがいきなり叫びだす。

「いや、少なくても一人は仲間だよ。もう一人は分からないけど」

急に叫びだしたセイバーに吃驚しながら、士郎は言葉を発する。

「仲間?・・・アーチャーですか?」

「いいえ、違うわよ。セイバー」

すっと屋敷の襖が開き、フードの女性が奥から現れた。

「キャスター!」

登場した女性に対し何かをセイバーは構える。

最大限の警戒をしつつ、彼女はそれをキャスターの方へと向けた。

「セイバー、彼女は味方だ。それを納めてくれないか?」

今にもキャスターに襲いかかろうとするセイバーを士郎は止めた。

「なっ!?・・・シロウ、一体どういう事ですか?説明を求めます」

半目でシロウを睨みながらセイバーが抗議する。

「あ、あぁ。分かった。」

セイバーの迫力に臆したのか士郎は戸惑いながら言う。

「遠坂も一緒に説明を受ける?」

振り返り、塀の上に現れた影に向かって士郎が言葉を発した。

「ええ、そうしてもらえると嬉しいわ。衛宮君」

敵意を含んだ笑顔を見せながら遠坂が言う。

「じゃあ、玄関から入ってもらえるか?そんな所にいると警察呼ばれるぞ」

「わ、分かってるわよ!」

顔を赤く染めながら遠坂が叫ぶ。

玄関へと歩いていく士郎と後に続くセイバーの背中がそれを聞いていた。

 

 

「さてと、遠坂は食うか?」

「は?」

腕まくりをし、エプロンを着けた士郎が遠坂に問う。

「・・・あんた、何考えてるのよ」

「いや、夕食食べて無いなぁと思ってな。セイバーとキャスターは食べるよな?」

「ええ、もちろん」

「シロウ、確かに食事も大事ですが、先に何故ここにキャスターがいるのか教えてもらえますか?」

キャスターから距離を取りながらセイバーが士郎に言う。

彼女にとって今は夕食よりもキャスターの事が気にかかるようだ。

「何故って、キャスターが俺のサーヴァントだからだけど」

「はい?」

「は?」

セイバーと遠坂が間抜けな声を上げ、遠坂の後ろにいたアーチャーが顔をしかめる。

「キャスター、美綴は?」

「彼女なら隣で眠ってもらってるわよ。大丈夫、命に別状はないわ」

「衛宮君、キャスターはあなたのサーヴァントなのね?」

呆けているセイバーと遠坂をまるで見えていないかのように料理の準備を続ける士郎に遠坂が話しかける。

「そうだけど?」

「じゃあ、そこの女性は?」

未だに呆けているセイバーを指さしながら遠坂が言う。

「セイバーか?さっき俺が召喚したからそうだけど?」

「あんた二体もサーヴァントがいるわけよね?」

「そうなるな」

「そんなの卑怯じゃない!セイバーとキャスターのコンビを持つマスターだなんて!

 前衛が全サーヴァント中最優のセイバーで、後衛がキャスターのサーヴァント?

 あんた分かってんの?完璧に近い組み合わせよ?最恐にして最強の組み合わせじゃない!

 と言うかなんで宝石をたくさん使った私はむさい男で、あんたは可愛い少女なのよ!トレードを要求する!」

いきなり叫び出す遠坂、その咆哮をまともに士郎がくらい、後ろでアーチャーが体育座りをし、セイバーはまだ呆けており、キャスターは我関せずといった感じであった。

 

「と、遠坂落ち着いたか?」

何分間叫び声が上がったか分からない。

頭に上った血が降りてきたのか、叫び疲れたのか。

とにかく漸く遠坂はおとなしくなった。

しかし・・・。

「シロウ、説明していただけますか?」

それと同時にセイバーが正気を取り戻した。

放つ雰囲気はまるで戦場のそれ。

「え、いや、あの・・・」

「説明していただけますか?」

「は、はい。説明させていただきます」

問答無用の雰囲気を醸し出す彼女に逆らえる人物は誰もいなかった。

 

台所から居間に連行され、士郎はそこで正座をさせられている。

別に正座しろと言われたわけではない。

彼女の放つ雰囲気がそう言っているように感じただけだ。

「では、説明させいただけます。

 キャスターがマスターを失い、消えそうになっているところを俺がマスターになったんです」

しーん・・・そんな音が辺りを支配した。

静けさに支配されたその場の雰囲気は士郎の次の言葉を発するまで誰も言葉を発しないのではないかと思わせた。

しかし、いくら待っても士郎から次の言葉が発せられる事はなかった。

誰も破ろうとしない沈黙を破ったのはセイバーであった。

「・・・それだけですか?」

「・・・・・・それだけだけど?」

士郎の一言にその場にいた全員がため息をついた。

「な、なんでさ」

自分の説明に全員がため息をついた事に士郎は戸惑った。

彼としてはしなければならない説明は全て終わらせたと思っているようだ。

「あのね、坊や。そんな説明で理解できる人はいないわよ」

士郎の様子にあきれ顔のキャスターが話しかける。

「え?そうなの?」

キョトンとした表情をしながら士郎が言う。

「・・・坊やの説明では分からないでしょうから、私が説明するわね」

士郎に説明させるのは無理だと判断したのかキャスターが話し始めた。

 

 

一週間ほど前の話である。

キャスターはその時柳洞寺の周りにある暗い森の中にいた。

ぱらぱらと雨が降り、彼女の服を濡らしていく。

彼女にはここで待っている男がいた。

[記憶]では彼はここにいるはずである。

自分にとって最高の男性。

彼に会うのが早いか、自分の魔力がつきるのが早いか。

そこに足音が近づいてきた。

足音の方向を見ると人影が此方に向かって降りてきていた。

今度こそ彼かも・・・と思ってその人影を見上げた。

しかし、その人影は自分の待ち望んだ人物ではなかった。

「・・・そこに誰かいるのか?」

人影が話しかけてくる。

身長や体格こそ違うが、おそらく[記憶]で敵にマスターではないか、とキャスターは心の中で呟いた。

「あんた、そこで何をしてるんだ?」

「・・・あなたには関係ないはずよ、衛宮士郎」

「俺のことを知ってるのか?」

「ええ。私はここで人を待ってるの。分かったら早く行ったら?」

「そう言われてもなあ。・・・なあ、あんたの待っている人俺の知っている人かもしれないし、教えてくれない?」

確かに彼は士郎の先生で士郎の親友の家に居候しているはずである。

[記憶]によれば士郎は見返りを求めず、自分を犠牲にして生きている男だ。

自分のタイプではないが、もし彼に会う前に士郎に会っていたならば彼のために生きたかもしれない。

人を疑う事はなく、人を騙す事もない。

彼は希少種に値するほど特異な人物なのだ。

 

「この柳洞寺に居候している葛木宗一郎という人物を待ってるの」

彼ならば正直に答えてくれるだろうとキャスターは判断して、士郎の質問に答える事にした。

「・・・この柳洞寺はよく知ってるし、今そこから帰ってる所なんだけど・・・葛木宗一郎って人いないはずだよ」

衝撃が走った。自分が命をかけても守りたいと思った男性がいない?そんなはずはない。

[記憶]が間違っている?そんなはずはない。

「嘘よ!」

そう叫ぶしかなかった。[記憶]が間違っている。

信じられなかった・・・。否、信じたくなかった。

彼は嘘をつくような人物ではない。

分かっていても否定することしかできなかった。

理解できた。でも、したくはなかった。

「嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ・・・。」

彼女が叫ぶのを士郎は見ていることしかできず、彼は静かにその場に佇んでいた。

 

叫びが嘆きに変わり、やがて彼女は泣き崩れていた。

「・・・なあ、その葛木宗一郎って人を俺が知らないだけで本当はいるかもしれないだろ?」

彼女にはその言葉が何とか聞こえた。でも、彼女には慰めにはならなかった。

彼が知らない以上、少なくともこの街にはいないであろうことは推測できた。

「だから、ここで待つんじゃなくて探してみたらどうだ?」

「・・・無理ね。もう限界よ」

もう彼女には現界できるだけの魔力と気力がなかった。

「限界?」

士郎は何かを考えるかのように黙り込んだ。

「・・・一時的に俺がマスターになろうか?」

「え?」

この少年が何を言ったのか分からなかった。

なんでこの少年がマスターという言葉を知っているのだろうかと彼女は疑問に思った。

[記憶]では彼は半人前に魔術師で、[聖杯戦争]何て物は全く知らないはずである。

「俺がマスターになれば現界出来るだろ?」

「確かにそうすれば現界は出来るけど・・・」

「だろ?俺と仮契約でもして、その人が見つかったら鞍替えすればいいよ」

「あなた、それがどう意味か分かって言ってるのかしら?」

マスターの鞍替え。

それは通常マスター自体が死亡するか、令呪と呼ばれるものを移植するかで行う事が出来る。

令呪とはマスターがサーヴァントに対し行える三つの絶対命令権で、サーヴァントを従えるために必要なものだ。

令呪は魔術回路と一体化している為、もし移植をしようとするならば魔術回路自体も移植しなければいけない。

魔術回路は体の臓器の一部だ。上手くいかなければ良くて発狂だろう。

「もちろん」

「そう。じゃあ、あなたはなんで私に手を貸してくれるのかしら?」

「え?だって困ってるから」

 

 

辺りに静けさが満ちる。

「・・・あなた、本気で言ってる?」

「俺、変な事でも言ったか?」

この青年が何をしたいのかを知るため、キャスターは彼に探りを入れる。

キャスターほどの魔術師になれば彼の心の中をのぞく事は可能だ。

その結果分かった事は、彼には悪意も、作意も、害意も、邪意も存在していない。

それどころか"善意すら"存在していない。

彼にとって困っている人を助けるのは当たり前の行為である。

困っているから助けるという条件反射と言っても過言ではない思考。

それが今回の発言の理由だ。

「はぁ、坊や。忠告しておくけど、そんな風に言って信用してくれる人は殆ど居ないわよ」

キャスターのように探りを入れられる人でもない限り、初対面の人物にそんな事を言っても信じる人は居ない。

自分の側にしかメリットがない話であるなら、逆に勘ぐって話を聞こうとしなくなるだろう。

「む、そうか?」

そう言うと黙り込んで何事かを士郎は考え始める。

「サーヴァントに脱落されては俺が困るからってのはどう?」

寸刻して、士郎はキャスターに話しかける。

「・・・それなら信じる人はいるかもしれないわね」

百万人に一人くらいでしょうけど、と付け加えながらキャスターが呟く。

「契約の前に聞いておきたい事があるわ」

「俺に答えられる事が出来る質問であれば」

「あなた、なんで私がサーヴァントである事を知っていたのかしら?」

「人でも魔術師でも死徒でもない気配がしてるし、この冬木だからもしかしたらと思って」

彼は自分の[記憶]とは明らかに違う。

だから、この世界は[記憶]の世界とは違う。そう判断せざるをえなかった。

皮肉にも自分を助けるという少年によって葛木宗一郎という自分の想い人はいない可能性が高くなった。

 

「――告げる!汝の身は我の下に、我が命運は汝に!聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら――」

声が響く。これはサーヴァントの再契約の呪文だ。

マスターを失ったサーヴァントでも再契約により再び[聖杯戦争]に参加する事が出来る。

それはつまり・・・。

「―――我に従え! ならばこの命運、汝に預けよう……!」

この世に現界出来なくなったサーヴァントをこの世に繋ぎ止めるという事。

「キャスターの名において誓う。そして我が主と認めよう、衛宮士郎―――――」

探し人のいるキャスターにとってとても都合の良い事だ。

都合の良い人物が居て、使ってくれと言ったような感じで手を差し伸べてくれるのだ。

キャスターはその手を掴んだ。

「はい、これ」

そう言い士郎は自分のポケットから赤い宝石を取り出した。

「この宝石。分かりづらいけど、もしかして」

「そう、マナの塊」

士郎がポケットから取り出した宝石はマナの塊であった。

「あんただってサーヴァントだ。他のサーヴァントから狙われるだろ?その宝石を使って身を守ると良い。

 また困ったことがあったらここに来て。手伝えることは手伝うよ」

はい、俺んちの地図と言って士郎はキャスターに紙を渡した。

「その人見つかるといいな。じゃあな」

そう言って士郎は去っていった。

 

「その後必死で探してまわったけど見つからなかったわ。

 分かったことは宗一郎さまがこの冬木にはいないって事ね」

キャスターによる説明が終わり、一時静寂が流れる。

「キャスター、質問しても良いか?」

静寂をアーチャーが破る。

「なにかしら?」

「[記憶]とはなんだ?何故、貴様は葛木宗一郎の事を知っている?」

「何を言ってるんですか?」

アーチャーのその言葉にセイバーが何を言っているか分からないように反応する。

「セイバー、どうやらアーチャーには与えられていないらしい」

「なっ?」

セイバーは驚きを隠す事が出来ずに、そのままの顔でアーチャーを見る。

「『与えられていない』?どういう意味だ?」

アーチャーもまた士郎の一言に反応して、士郎をにらみつける。

「何故か、今回サーヴァント達は[並行世界での第五次聖杯戦争のあらゆる記憶]が与えられている。

 体験するはずのない体験でさえ[記憶]として与えられている」

「なにっ!」

「何ですって!」

アーチャーと遠坂が同時に叫ぶ。

「サーヴァントが[聖杯]に与えられる現世の情報に[並行世界での第五次聖杯戦争の記憶]が混ざってるんだ。

 何故、[記憶]が与えられているのか?

 何故、与えられているサーヴァントと与えられていないサーヴァントがいる?

 何故、与えられた[記憶]は並行世界のものなのか?

 今のところ何も分かっていない」

「・・・どうして並行世界の[記憶]だと分かるの?」

「あぁ、キャスターに[記憶]見せてもらったけど全く違うものが存在するんだ」

「全く違うもの?」

「さっきの[葛木宗一郎]って人は[記憶]では俺たちの学校の先生をやってる。でも、俺が知る限り、うちの学校にはいない。

 あと[記憶]では俺の養父である切嗣が死んだのが五年前ってなってる。

 だけど、この世界の切嗣が死んだのは十年前だ。

 また、[記憶]に登場する[衛宮士郎]と俺は見た目からして違う」

「確かにそうですね。身長も体格も、髪の色さえ違いますね。私の[記憶]ではシロウの髪の色は赤銅色のはずです」

士郎の言葉にセイバーが付け加える。

「一体何が起こってんのよ?」

「それは分からない。[聖杯]の意志か、それとも別の何かの意志なのか。今のところ何も分かっていない」

「あー、もう!訳が分からないわ」

その場に全員が深く思考の海へと飛び込む。

誰も喋ることなく、誰も動くことなく時が過ぎていく。

 

 

「・・・キャスター」

沈黙を破り、セイバーがキャスターに向かって話しかける。

「なにかしら?セイバー」

「あなたは何故まだ現界しているのですか?

 自身の想い人が居ないと分かり、現界している理由はなくなったのではないですか?」

「確かにそうよね」

セイバーのその問に遠坂が反応する。

「・・・坊やに世話になったから、恩を返さないといけないと思ったのよ」

「[裏切りの魔女]がよく言いますね」

「あら、[裏切りの魔女]も恩くらいは返すわよ。特に、坊やのような純粋な恩には」

セイバーとキャスターがにらみ合う。漫画のような火花が散っているのではないかと思うほどのにらみ合いだ。

「・・・にらみ合ってもしょうがないだろ。セイバー、俺としてはサーヴァントには出来るだけ脱落して欲しくないんだ」

「そう言えばそんな事言っていたわね。それは何故かしら?」

士郎のその一言に遠坂が疑問を投げかける。

その疑問は他の者達の疑問でもあった。

 

「その前に、遠坂」

「なに?」

「遠坂は[聖杯]に何を願うんだ?」

[聖杯]。何でも望みを叶える願望機。巨大なエネルギーを保持しているもの。

それが欲しいからマスターは[聖杯戦争]に参加する。

遠坂もまた[聖杯]が欲しくて参加しているのだろうかと士郎は思った。

だから、士郎は遠坂にそう語りかけた。

「そんなもの無いわよ。私はお父さんが出来なかった『[聖杯戦争]で勝利する』と言う宿願を果たすだけよ」

[聖杯]を手に入れるのではなく、[聖杯戦争]に勝利する事こそが彼女の願いだ。

「宿願を果たすという事は"遠坂のお父さんも"前回の[聖杯戦争]の参加者なんだね?」

「ええ、途中で敗退してしまったわ。だから、私はお父さんの意志を継いで聖杯戦争に臨んでるのよ」

「つまり、[聖杯]自体には用がないと?」

「そうよ。[聖杯戦争]に参加する以上勝つ事が私の目標」

「そうか、安心したよ。遠坂が[聖杯]欲しがったらどうしようかと思った。

 遠坂、よく聞いてくれ。俺は[聖杯]を、いや[大聖杯]を破壊する」

[大聖杯]。[聖杯戦争]を引き起こす根源。

これが冬木市のどこかにあって、マナを少しずつ貯めてサーヴァントを召喚するのに充分な魔力を蓄える。

マスターが手に入れる[聖杯]は[小聖杯]と呼ばれ、敗退したサーヴァントを取り込む器。

[小聖杯]を破壊しても[聖杯戦争]は続くが、[大聖杯]を破壊すれば[聖杯戦争]を終わらせる事が出来る。

「あんた、何て事考えてるのよ!」

「遠坂、落ち着いて。[聖杯]は既に純粋なエネルギーではないんだ」

「は?何言ってんのよ。[聖杯]が持つ純粋なエネルギーを手に入れるための戦争が[聖杯戦争]でしょ?」

「ところがです、リン。[聖杯]は既に汚されていて、願いを歪んだ形でしか叶えません」

遠坂と士郎の言い合いにセイバーが割り込む。

「例えば、[聖杯]に『お金持ちになりたい』と願ったとしよう。

 その場合金持ちを殺してその金を与える、と言ったように願いを必ず人が死ぬようにして叶える。

 それが汚れた[聖杯]の願いの叶え方だ」

「・・・・・・何よそれ。」

遠坂が息を呑む。

それは自分が今まで聞かされ続けた話とは全然違うものだった。

「で、でも、それは[並行世界]での[聖杯戦争]での話でしょう?この世界では違うかもしれないわよ?」

「いや、この世界でも確実だ。十年前の火災は[聖杯]が起こしたものなんだ」

「え?」

「つまり、十年前の火災が発生している以上、[大聖杯]は確実に汚されている」

「そんな・・・」

「だから、そんな[大聖杯]を破壊して、[聖杯戦争]を二度と起こせないようにしないと」

「・・・分かったわ。でも、それとサーヴァントは何の関係があるのよ?」

「遠坂、[聖杯]のエネルギーはサーヴァントの魔力なんだよ。

 脱落したサーヴァントが[聖杯]に溜まる事により、そのエネルギーは蓄積されていくんだ。

 そのエネルギーが溜まる前に[聖杯]を壊さなければ、[聖杯]が願いを叶えてしまうかもしれない」

辺りに静けさが訪れる。

 

 

「[聖杯]が汚れている事は分かったわ。でも、どうして汚れてしまったのかしら?」

沈黙の中、遠坂が疑問を口にする。

純粋なエネルギーを保持する願望機であったはずの[聖杯]が何故汚れてしまったのか。

その原因はいったい何なのかと言う事は彼女にとって重大な問題であった。

「[第三次聖杯戦争]の時、アインツベルンのマスターが召喚したサーヴァントが原因らしい」

遠坂の疑問に士郎が答え、遠坂はその言葉を静かに聞く。

「アインツベルンが召喚したサーヴァントの名は[この世全ての悪(アンリマユ)]」

「アンリマユですって!?ゾロアスター教の悪神じゃない!神霊級なんて召喚できないんじゃないの?」

「もちろん本物じゃない。

 [この世全ての悪]を背負わされ、人々に呪われ蔑まれ疎まれ続けた人が[そういうもの]なってしまったんだ」

【この世全ての悪性をもたらしている悪魔を仕立て上げ、人間全体の善性の証明する】という身勝手な願いのために悪魔[アンリマユ]となってしまった哀れな人間。

「と言うかなんでそんなものがサーヴァントとして召喚されてるのよ!?

 サーヴァントは英霊が召喚されるんじゃないの?」

サーヴァントの正体は英霊が使い魔として召喚された者。

その[アンリマユ]が英霊として奉られていたようには遠坂には思えなかった。

「遠坂、英霊は人々の心の拠り所になる事により人々を救う者の事を言うんだ。

 生前何をしたかではなく、死後信仰されて心の拠り所になる事が英霊の必要条件。

 だから、“[この世全ての悪(アンリマユ)]を恨む”と言う事を心の拠り所にした人たちがいたとしたら・・・」

「英霊として扱われてもおかしくはない、と言う事ね?」

悪を行い人々から呪われる存在ながら、それが結果的に人々の救いとなって奉られた英霊を反英霊と言う。

[この世全ての悪(アンリマユ)]はこれに該当するためサーヴァントとして召喚されてもおかしくない。

「そう言う事。

 サーヴァントとして召喚された[この世全ての悪(アンリマユ)]は[聖杯戦争]で敗退し、[聖杯]に取り込まれた。

 その時、[聖杯]が[この世全ての悪]という“願い”を叶えてしまった」

「それが[聖杯]が汚れた原因って事?」

「そうだから、[聖杯]は手に入れた者の望みと[この世全ての悪(アンリマユ)]の望みどちらも叶えようとする。

 [この世全ての悪(アンリマユ)]を産みだし、人を殺す形で願いを叶える。それが[聖杯]の望みの叶え方」

「そんなもん放っておくわけには行かないわね。衛宮くん、私も協力するわ。アーチャーもそれで良いかしら?」

先程から押し黙っている自分のサーヴァントに向かって遠坂は問う。

その一言を聞き、アーチャーは遠坂の方に向き言葉を発する。

「凛、私もそれには賛同するが、その前に・・・」

アーチャーはすっと目線を士郎の方へと向ける。

「少し聞きたい事がある」

士郎を睨むように見るアーチャーの醸し出す雰囲気に辺りは静まりかえる。

 

「衛宮士郎」

静けさを消し去るようにアーチャーが士郎に話しかける。

睨み付けるような視線が士郎を刺す。

「何だ?[衛宮士郎]」

士郎はその視線に対抗するようにアーチャーを見ながらそう言い返した。

その言葉を聞いたアーチャーは驚きで鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってしまった。

「・・・あんた、何言ってんのよ」

遠坂は理解できないようで混乱しているといった表情をしていた。

衛宮士郎がアーチャーに向かって衛宮士郎と呼びかけた。

誰もが混乱しそうな状況である。

しかし、キャスターとセイバーは驚いた様子も混乱している様子もなかった。

「サーヴァントは[第五次聖杯戦争のあらゆる記憶]を与えられている。

 その[記憶]を見ればアーチャーの正体も分かる」

「ええ、あなたが[並行世界]で世界と契約した未来の[衛宮士郎]であることは分かるのよ」

「あなたが何故サーヴァントになったのか?何故この聖杯戦争に参加したのか?願いは何か?

 そんな疑問もすぐに解決できますよ、アーチャー」

「・・・アーチャー?記憶喪失じゃなかったの?」

遠坂が放つ雰囲気が変化する。

背中に悪魔か、修羅か、別の何かを携えているかのような雰囲気にアーチャーは飲み込まれていく。

「いや、その・・・」

自力では何も出来ないと判断したのか、助けを求めてかその目は士郎達の方へと向く。

キャスターは面白いものを見るように遠坂とアーチャーを交互に見、セイバーは目を反らし、何も見ていないかのような態度を取り始める。

(くっ。この二人に期待しても駄目か。ならば最終手段だ)

そう心の中で考えて士郎の方へと視線を向けるといつの間にか台所の方へと歩いていく士郎が見えた。

(助けろ!衛宮士郎。この状況は貴様が作ったのだぞ?)

(こういう時は関わらない方がいいと本能が告げているから無理だ)

アイコンタクトで二人はそう会話すると突然士郎はアーチャーの方を向き何事が呟いた。

「Viel Erfolg!(がんばれ!)」

恐らく一生で何回も出来ないであろう良い笑顔の士郎がそこにはいた。

「き、貴様あぁああぁ!」

「随分と余裕があるのね、アーチャー」

ものすごい威圧感を背に感じ、アーチャーは油の切れたロボットのような動きでギギギ・・・と振り向いた。

「確りと説明してくれるわね?」

そこにアカイアクマがいた。

「は、はい・・・」

アカイアクマに耐えられずにアーチャーは自白する事しかできなかった。

 

 

「自分が[衛宮士郎]である事を知られたくなかったってわけね?で、目的は衛宮士郎の抹殺」

「はい、そうです」

阿修羅のごとく仁王立ちしている遠坂の前に正座するアーチャー。

その光景は滑稽なものであった。

「遠坂は食べるか?」

声の聞こえる方を向くとエプロンを着けた士郎がテーブルに食事を並べながらこっちを見ていた。

「・・・あんた、状況分かってるの?」

「何が?遠坂は[大聖杯]破壊するの手伝ってくれるんだろ?だったら敵同士じゃないじゃないか」

「はぁ、確かにそうだけど。敵のマスターが言った事信じるの?」

「遠坂は嘘付いてたのか?」

あっけらかんとそう言う士郎に遠坂は得体の知れないものを見るかのような顔を向ける。

「あんた、その内騙されて連帯保証人とかなりそうね」

呟きが届いたのか士郎は一瞬眉間に皺を寄せるが、直ぐにそれを正し、遠坂に再び話しかける。

「で?遠坂は食べる?」

「・・・ええ、いただくわ」

そう言うと遠坂は食事の用意できた食卓へと座った。

それを満足そうに見ると士郎はまた料理を取りに台所へと戻っていった。

「サーヴァントって食事する必要ないんじゃないの?」

食卓に着いていたセイバーとキャスターを見ながら遠坂が言う。

「絶対しては駄目ってわけではないでしょう?それに食べないと坊やが不機嫌になるのよ」

「そ、そうですよ、リン。食べる事は魔力補給になりますし、シロウも満足します。だから、しょうがなくです」

ふんと胸を張り、大義名分が出来たとばかりに満足な顔をするセイバー。

「まぁ、あんたらが良いと言うのならこっちは文句いわないわよ」

呆れた顔をしてセイバー達を遠坂は見つめる。

料理を手にした士郎が台所から現れその光景を訳も分からず見る。

「・・・よし、用意が終わった。じゃあ、食べようか」

食事の用意を終え、四人それぞれが食事開始の合図を口にする。

 

「・・・ホント、おいしいわね」

負けたと呟きながら遠坂はじっと目の前の料理を見る。

「[記憶]の中のシロウの料理よりおいしいです」

パクパクパクと無我夢中に食事をするセイバー。

喋ることなく静かに食事をするキャスター。

まだ、先程の精神的ダメージが消えないのかがたがた震えるアーチャー。

「だろうな。味にうるさい知り合いがたくさんいるから」

「ふーん、誰か知らないけどよっぽどの食通ね」

一口一口味わいながら味わう三人を微笑ましいものを見るように士郎は見つめる。

 

「そう言えば、アーチャーが俺に聞きたい事ってなんなのさ」

食事を終えて、一息ついた遠坂達は静かにお茶を飲んでいた。

すると士郎が思い出したかのようにアーチャーの方を見て呟いた。

「ふむ。誰かの所為で話が途切れてしまっていたな」

ギロッっと士郎を睨みながらアーチャーが言葉を発する。

「そいつは酷い奴だな」

アーチャーの睨みをまるで何もないかのようにスルーしながら士郎が言う。

「・・・私が貴様に聞きたい事は[記憶]を見れば直ぐに分かるだろうが。衛宮士郎、貴様は何を目指す?」

「俺が目指すもの。それは・・・」

場が静まりかえる。

士郎の次に発する言葉を聞き逃すまいと誰も音を発するものはいなかった。

「『悪を滅ぼす存在』」

士郎のその言葉に静寂が訪れる。

「『悪を滅ぼす存在』、と言ったな?」

「ああ」

「貴様にとって悪とは何だ?」

「命を物やオモチャのように弄ぶ事」

「・・・貴様はそれをどうやって滅ぼす?」

「この手で」

自身の右の掌を見つめながら士郎がアーチャーに答える。

「それが貴様の答えか?」

「ああ、俺は『正義の味方』にはならない!」

右の拳を血が出んばかりに握りしめ、士郎が言う。

「やはり貴様と私は遙か昔に分岐してしまったのだな。貴様を殺した所で私の願いは叶わない。

 いいだろう、衛宮士郎。貴様の行く末、この目で見守ってやろう」

「いや、結構」

その言葉に時が静止する。

「何?」

自分としては最大限の譲歩を一蹴されたアーチャーは驚きを隠せずにうろたえた。

「俺はあんたが嫌いだよ」

そう言うと士郎は立ち上がり、奥の方へと歩いていった。

「ふん。折角、こちらが譲歩したというのに」

「・・・衛宮くんがあそこまで感情をあらわにしたのははじめて見たわ」

「怒った所を見た事はありますが・・・あそこまでの嫌悪はありませんね」

「一体、何が彼を動かしているのかしら?」

それぞれが士郎の態度に対して違った反応をして彼の背中を見送った。

 

 

「シロウ?」

「セイバーか」

奥へと行った士郎を追いかけてきたのかセイバーが彼のいる部屋へと訪れた。

「その子は確か・・・」

「ああ、美綴綾子・・・。俺や遠坂の同級生さ」

目の前で眠っている少女を見ながら、士郎が呟く。

セイバーは無言で士郎の横に座る。

「・・・本来なら巻き込まれるはずがなかったんだけどな」

「でも、巻き込まれてしまった」

「ああ、俺が確りしていれば」

「その辺りの経緯を聞いていませんので何とも言えませんが、士郎。あなたは背負いすぎています。

 その荷を他の人にも分け与えてみてください」

真剣な眼差しでセイバーは士郎を見つめる。

その瞳は自分がその荷を預かろうと言っているようであった。

「はは、そうだな。でも安心してくれ、セイバー。俺の荷を預ける相手はもう既にいるんだ」

ニコっと笑い、士郎がセイバーを見る。

「でも今回の事は俺が降ろすべき荷じゃない。俺が背負うべき荷なんだ」

無言のセイバーに士郎が語りかける。

「昔、親友に言われたんだ。『後悔はするな、反省しろ』と『反省を糧に今日を生きろ』と。

 俺はまだそう言う精神にまで達してはいないけど、近づけるように精進するつもりだ」

「シロウ・・・」

「大丈夫だ、セイバー。俺は過去を悔やんだりしない」

空を見つめながら士郎がそう呟く。

その後、雰囲気に飲み込まれたのかセイバーも士郎も喋る事はなかった。

 

 

一ヶ月以上振りの更新ですね。

すみません。大学が始まり、単位認定試験でたくさん引っかかり、小説を書いてる余裕がありませんでした。

楽しんでいただけると幸いです。

今回の更新でやっと見習い卒業です。

アドバイスなどをしていただけると助かります。

また、誤字、脱字、変な文などの指摘も受け付けております。

 

2011/5/24 久々に小説を書いていたら年数計算ミスをしていることに気がつき訂正を行いました。

切嗣が死んだのは九年前だ→切嗣が死んだのは十年前だ

次の話は26~27日には更新できると思います。

ただいま頑張って書いております(`・ω・´)


 
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