No.126364

真・恋姫無双~左慈・外史伝~前篇

 こんばんわ、アンドレカンドレです。

 コラボ企画第1弾です。今回は『タンデム』さんの外史、恋姫無双~魏の龍~とのクロスオーバーです。タンデムさん、ありがとうございました!
 
 ※なにぶん、初めての試みのため至らないところもありますが、何とぞ御容赦の程を・・・。

続きを表示

2010-02-24 01:33:56 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4664   閲覧ユーザー数:4068

~魏の龍~

 

 

 

  魏の龍の外史・・・北郷一刀ではなく、曹朋(真名は龍翠)という新たな人物を突端として開かれた外史。

   別の人物を主人公にし、北郷一刀とは違う視点から恋姫無双を新たに解釈した物語。一刀と一味違う、

   龍翠が持つ独特の爽やかなキャラクター性はオリジナル主人公を良しと思わない人達も魅了する。

 

 

 

  「はぁっ!」

  ザシュッ!!!

  黄巾を身に纏う男達。

  「せぃっ!」

  ザシュッ!!!

  大陸は漢王朝の失墜を決定的にした、貧困に苦しむ民達が起こした大暴動、黄巾の乱に見舞われていた。

  「何していやがる!相手はたった一人の餓鬼じゃねぇか!!」

  そしてその乱に身を投じる青年が一人。

  ザシュッ!!!

  「ぐぎゃぁっ!」

  黄巾党の兵数千人に包囲され、圧倒的不利の真っ只中にその青年はいた。

  ザシュッ!!!

  「がばはっ!」

  しかし、青年は数の暴力を難なくと一掃する。

  「こ、こいつ!化け物か!?」

  ザシュッ!!!

  「がぁあああっ!」

  いつしか数千人いた黄巾党の兵達の大半が肉塊と化し地面に転がっていた。

 自身が築き上げた死体の山を背に青年は、自分の背丈を超える大剣を片手で横に払い、刀身に

 付着した血を払うと、そのまま肩に乗せ生き残っている黄巾兵達に見える様、威風堂々と胸を張る。

  「我が名!性は曹!名は朋!字は錬鳳!魏の龍と知って恐れぬ者は掛かって来い!」

  その言葉に黄巾兵達は恐怖と絶望に追い込ませ、更に死体の山を築き上げる事になった。

  

  それから数刻後、先程まで地面を震わす轟音が今では静寂に包まれ、そこにあるのは血に濡れた

 肉塊と武器の残骸、そしてその中央には淡い緑を帯びた長髪を吹き抜ける風に靡かせ、周囲を見渡す。

  「・・・これで、ちょうど二十・・・ですかね」

  青年が呟いた二十という数、これは今までに彼が潰してきた黄巾党の拠点の陥落数と同じである。

 だが、そんな数などこの青年には大した意味などは無かった。彼はとある場所へと赴く途中で、通り

 かかった拠点をついでに陥落させてきただけに過ぎないのである。

  「さて、一体どっちに向かえばいいのでしょうか?」

  そう言いながら青年は左、右と首を回し広がる地平線の先を見るようにして自分が行くべき方向を

 見定めていた。

  端から見れば、無防備に見える彼の姿。敵からすればそれを逃す機会は無いと思うであろう。

 死体の山の中に隠れて彼の背後を狙いながら、息を殺してゆっくりと青年に気取られない様死体の中に

 紛れて近づいていく。

  「・・・?」

  ふと、青年が後ろを振り返る。そこには肉塊と死体のみ。だが、彼の命を狙わんとする死体が

 そこにはいた。

  「・・・・・・」

  青年は再びを前を見直すと、右手に持っていた大剣を腰に携え、そして先を行かんと右足を前に進めた。

  「死ねぇええええええっ!!!」

  突然一体の死体が起き上がると、大声を上げながら剣を振り上げ、青年を背後から刺し貫かんと一気に

 近づく。

  「っ!」

  生き返った死体の声に反応して、青年は後ろを振り返ると同時に右手は腰に携えていた大剣に手を伸ばす。

  ドガァッ!!!

  「ぎゃあっ!」  

  「え・・・!?」

  これには青年も驚きを隠せない。自分に襲いかかって来た死体が横へと吹き飛ばされたのだ。

 死体が吹き飛ばされた先には、地面に突き刺さった柄の折れた槍。吹き飛ばされた死体はその折れた槍へと

 自分から首を刺し貫き、再び死体に返るのであった・・・。

  「・・・済まなかった」

  死体の最後を見届けた青年に声が掛かる。警戒しながら、青年は声が掛かった方向へと体を素早く向ける。

 そこには、白装束を身に纏った、恐らく自分と歳が近いと思われる銀髪の青年が立っていた。

  「・・・?どうして君が謝るのです」

  自分の目の前の白装束の男に警戒しながら、謝る理由を聞いた。白装束の男はふふっと不敵に笑う。

  「俺が出しゃばらずとも、お前ほどの腕なら軽くいなしていただろうからな。余計な手を出した

  事への謝罪と受け取ればいい」

  「・・・成程。ありがとうございます」

  青年は警戒心を解き、白装束の男に感謝の意を示す。

  「礼を言う事でも無いだろうが」

  「いや、それでも君が僕を助けてくれたという事に変わりはありません、ならば、僕はその行為に

  礼を示さなくていけません」

  「ふっ・・・、変わった奴だ」

  二人の青年の邂逅、すでに日は地平線へと傾き、後数刻で夜になろうとしていた・・・。

 

  「そう言えば、まだ自己紹介がまだでしたよね。・・・僕は性は曹、名は朋、字は錬鳳」

  「・・・俺は、左慈・・・元放」

  日が沈み、周辺が暗闇に包まれる中、その一点に火の光が灯っている。そこでは先程知り合った二人が

 夜を過ごすべく、焚き火に当たっていた。蛇、蛙、鳥だった肉片を木の枝で串刺しにしたものが焚き火を

 囲むようにして地面に刺さっている。言うまでも無く、これらが今宵の食事となる。

  「それにしても随分と手慣れているようだな」

  蛇の肉塊を刺した串を手に取り、左慈は思った事を口にする。

  「もう慣れましたし、最初はどうしたらいいか分からなくてまさに手探り状態でしたよ、ははは・・・」

  蛙の肉塊を刺した串を手に取り、曹朋は左慈の疑問に答えると、自嘲気味に笑った。

  「・・・と言う事は、随分と前から一人で旅をしてきたという事か。さしずめ、世直しのためと

  言った所か」

  「いやいや、そんな大それた事ではありませんよ、左慈」

  左慈の言葉に困った表情を浮かべ、後ろ頭を掻く曹朋。

  「一人で黄巾党兵数千の相手をしておいて何を言う?」

  「あれはたまたまあそこを通り掛かったので」

  と、黄巾党討伐はそこにいただけの話と言う事と、左慈は受け止める。常人の常識では考えられない事を

 横にいる青年は、平然と言ってのけているのだ。

  「ついでに陥落させた・・・か。賊討伐をその程度で片づけるとは、お前には余程大事な

  目的があるのだろうな」

  と、さり気なく興味を

  「・・・まぁ、そうですね。と言っても、君にすれば大した事ではないのかもしれませんが」

  「ほほぅ・・・、そう言われると変に気になってしまう。是非聞かせて貰いたいものだ」

  左慈は曹朋の方に前のめりになって彼の旅の理由を聞き直した。藪蛇だったかと、少し困った表情を

 再び浮かべる曹朋。そして諦めた風に曹朋が口を開いた。

  「実は・・・帰る途中なのです」

  「帰るとは家に帰るという意味か、そんなことは躾の成っていない餓鬼でも当たり前に出来る」

  「はは・・・身も蓋も無い。ですけど、本当の事だから返す事が出来ません。・・・もう五年ですから。

  五年も家に帰らず、皆に心配を掛けさせてしまいました」

  左慈の嫌味を受け止めつつ、曹朋は自分から旅の目的を語り出した。

  五年前、彼は賊の放った矢に討たれ、崖の底へと落ちた。それが原因か彼は記憶を喪失し、自分が誰か

 すらも分からない状態に陥ってしまう。そんな彼を憂いたとある家族が彼を家族の一員として受け入れ

 彼はそこで五年の月日を過ごした。しかしとある事件をきっかけに失った記憶を取り戻し、本当の家族の

 元へと帰る道中の過程で今に至っている。

  語る曹朋の顔はとても穏やかで、しかし時折彼が持つ芯の強さが垣間見える。自分の家へと帰る。

 たったそれだけの事がこの青年には命を賭しても惜しまない覚悟を持っている事が左慈には見受けられた

 のであった・・・。

  「ところで左慈、そういうあなたはあそこで何をしていたのですか?」

  食事を済ませ、就寝に入ろうとした時、曹朋は思い出したように、反対側で彼に背を向けて眠る体勢に

 あった左慈に尋ねた。

  「貴様には関係のな・・・、まぁいい。ある人間を探していた」

  「ある人間を・・・?」

  「・・・あぁ、その人間を守るようにと頼まれているのでな」

  「そうですか・・・。早く、見つかるといいですね・・・」

  今度は返答が無い。焚き火の燃える際に生じる空気の破裂音に静かな寝息が混じって聞こえてくる。

  「・・・・・・眠ってしまいましたか。それでは僕も・・・」

  そう言って曹朋も目を瞑り、眠りに入るのであった・・・。

 

  「おい、曹朋・・・。いつまで寝ている、起きろ・・・!」

  夜が明け、すでに太陽が地平線から昇っているにもかかわらず、いつになっても起きてこない曹朋

 に嫌気が差した左慈が起こしにかかる。だが、それでも起きる様子はなく、気持ち良さそうな顔をしな

 がら寝返りをうつ。

  「・・・この優男が・・・!」

  そんな曹朋を見て、左慈のこめかみの部分に血管が少し浮かび上がる。あの綺麗に整った顔に一発

 拳を叩きこもうと腹の中で決め、地面に横たわっている曹朋に近付いていく。

  「ん~・・・、ぅん・・・」

  そんな事も知る由もない曹朋は未だに眠っている。

  「・・・!」

  曹朋を見下ろす形で立つ左慈。そして曹朋の綺麗な顔に狙いを定めて拳を振り上げる。

 左慈は加減を知らない。拳を本気で固め、曹朋に振り落とした。その拳が顔面に叩き込まれさえすれば、

 普通ならば、鼻はへし折れ、歯が叩き折れ、悲惨な事になるだろう・・・。

  ガシィッ!!!

  「っ!?」

  だが、その拳が顔面に到達する直前、曹朋の手が遮る形で受け止める。不思議な事に、曹朋はまだ

 まだろみの中にいるにも関わらず、左慈の本気の拳を受け止めたという事だ。しかし、曹朋の不可解な

 行動はまだ終わらない。

  グィッ!

  「うぉっ!?」

  曹朋は左慈の拳を握ったまま、寝ぼけているとは思えない程の力で自分の方へと左慈を引き寄せた。

 その思わぬ行動に左慈は成す術が無く抱き寄せられ、両腕で抱き締められ、さらに足を絡めてくる。

 左慈は完全に身動きが取れなくなる。

  「ん~・・・フフフ~、華琳・・・、また君ですか~・・・?」

  寝ぼけ顔で寝言を言う曹朋。どうやら左慈の事をその華琳という人物と勘違いしているのだろう。

 そして左慈の方に顔を近づけていく。

  「・・・!おい止めろ貴様!何をする気だ!?・・・俺に、そんな趣味は・・・無い!」

  顔を近づけてくる曹朋から顔を遠ざけようとする左慈。しかし、身動きが取れないため、遠ざかろう

 にも限界がある。だんだんと近づいて来る曹朋の顔。

  「エヘヘ・・・、どうしたのですか、華琳?何を、そんなに怯えて・・・」

  朦朧とした意識が次第に確かなものへと変わっていく。その証拠に細目の中に垣間見える瞳の焦点が

 次第に定まっていく・・・。

  「・・・・・・・・・」

  「・・・・・・・・・っ」

  

  「うわぁああああああああああああああああああっ!!!」

 

  朦朧とした意識が完全に覚醒する曹朋。完全に目が見開き、絶叫にも近い叫びを左慈の眼前で上げると、

 左慈を乱暴に押しのけ、距離を取るのであった。

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・!」

  荒い呼吸を肩でして、項垂れる曹朋。全身から嫌な汗が流れる。

  「い・・・、一体、僕は、何を・・・!」

  恐る恐る思わず突き飛ばしてしまった左慈に顔を向け、自分がした事を尋ねる。

  「・・・それを俺にわざわざ聞きたいのか、貴様は・・・?」

  完全に引いている左慈。そしてこの白けた言葉からさすがの曹朋も事態を理解するのであった。

  「・・・・・・・・・」

  「・・・・・・・・・」

  少しの沈黙。互いに目を見合わせたままの状況が続く。

  「・・・・・・・・・、ごめん」

  先に沈黙を破ったのは、曹朋の謝罪の言葉であった。

 

  「うわぁああああああああああああああああああっ!!!」

  「今度は何だっ!!」

  食事を済ませ、その場所から離れようとした時、またも曹朋の絶叫にも近い叫び。

 今度は若干声が裏返っていた。二度目の叫び声にさすがの左慈も怒りを露わにする。

  「ない・・・、無い!一体何処に無くしてしまったのだろう!?」

  そんな事を言いながら、曹朋は自分が寝ていた場所周辺をくまなく探している。

  「無い・・・、何を無くしたというのだ?」

  「耳飾りが・・・!僕が耳にしていた耳飾りが・・・!」

  取り乱しながらも曹朋は左慈の疑問に答える。

  「・・・それがどうした。昨日からそんなものを付けてはいなかったではないか?」

  曹朋とは対照的に落ち着いた雰囲気であちこちと探している曹朋にそう告げた。

  「え!?い、いつから・・・!?」

  「・・・?少なくとも、最初に会った時からそんなものはしていなかったぞ」

  左慈の言葉から曹朋は顎に手の甲で押さえながら、耳飾りの行方を検討する。

  「と言う事は、もしかしたら昨日の黄巾党の拠点で落としてしまったのかもしれません。

  左慈!申し訳ありませんが、僕はここで失礼します!またいずれどこかで会えるといいですね!」

  曹朋は左慈に軽く会釈をするとその場を一目散に飛び出していくのであった。

  「おい、待て。一体何処に行く気だ?」

  一方、左慈は見送りの言葉を掛けるかと思いきや、既に分かり切った事を曹朋の背中に掛けられる。

  「え?いや、だから昨日の黄巾党の拠点へと・・・!」

  「ならば、こっちだろう」

  そう言って左慈は指を差す。その先は曹朋が飛び出した方向とは正反対の方向だった。

 

  結局、曹朋一人では辿り着けないと判断した左慈は止むなく同行する事となった。

  「しかし、その耳飾りはそれ程に大事なもの・・・」

  「大事なものです!」

  「・・・・・・」

  話を最後まで聞かずに曹朋が口を挟んできたため、言葉を失う左慈。この青年の人間性を理解できず、

 頭を抱えてしまう。昨日は落ち着きのある穏やかな性格と思いきや、今日はこんな感じなのだ・・・。

  「あれは僕が十八の誕生日の時に、妹が僕のためと作ってくれた大事な宝物なのです!」

  そんな左慈の心境を知らないのか、頼んでもいないのに耳飾りに関する話をする曹朋はとても輝いて

 いるのが呆れる程に見て分かる。

  「・・・まぁ、それを無くしてしまったお前が言ってもあまり説得力も無いがな」

  「ぐぅ・・・!」

  左慈の突っ込みに、今度はしゅんと涙目になる曹朋。こいつ、いつもこんな感じなのかと少し疲れを

 感じながらも、左慈は曹朋を昨日の陥落させた拠点へと連れて行くのであった。

 

  それから一刻後・・・、場所は昨日二人が出会った黄巾党の元連絡拠点。昨日の今日のせいもあり、

 そこに見渡しても人の姿があるはずも無く拠点周囲は静寂に包まれていた。

  「妙だな・・・」

  「やはり君もそう思いますか?」

  だが、その静寂とは別に、この二人は全く同じ違和感を抱いていた。

  「綺麗過ぎます」  

  綺麗過ぎる・・・、曹朋の言葉通りである。拠点周辺に、塵らしいものが落ちていない。

  「昨日まで賊共の死体で埋め尽くされていたにもかかわらず、今日はその死体が一つも見当たらない」

  昨日まであったはずの死体が一体も見つからない。あれからまだ一日と経っていないはずだと言うのに、

 一体どういうことなのだろうか・・・?

  「はっ!そうだ、耳飾り!」

  目の当たりにした違和感で頭の片隅に追いやってしまっていた自分の本来の目的を思い出し、曹朋は

 拠点の中へと我先にと入っていくのを、追いかける左慈。拠点に落ちていると思われる耳飾りを見つける

 のに果たしてどれだけの時間を要するだろうか・・・?そんな事を考えながら拠点の門を開ける。

 しかし、実際は意外にも早く見つかる事となった・・・。

 

  「・・・っ!」  

  拠点の門を開けた曹朋の目に飛び込んで来たものは、死体の山・・・。言葉通り、肉塊と化した

 黄巾党兵、恐らく曹朋が殺した者全てが上へ上へとに積み重ねられて出来た山が拠点の中央に形成

 されていた。これから火葬でもするのであろうか・・・。しかし、だからと言って、拠点の中に自分

 達以外に人間がいる様子も無い。

  「ほぅ、何処の誰の仕業か知らないが、これはまた随分と丁寧に積み上げたものだ」

  曹朋の後から入って来た左慈がその死体の山を見て、むしろ感心している。

  「・・・誰だそこにいるのは?」

  気配を感じたのか、左慈が山の方に声を掛ける。すると、山の反対側から女が現れる。外見は齢二十

 から三十。黄色の布を頭に巻いている所を見ると黄巾党なのだろう。胸元がはだけ、そこから豊満な胸

 の谷間が垣間見える。

  「黄巾党の残り・・・!」

  曹朋は牙龍に手を掛けいつでも戦闘に移れるように体勢を整える。そんな彼の姿を見て、女は面白そう

 に笑った。

  「貴様、黄巾党だな」

  左慈は現れた女に話しかける。

  「張、曼成・・・」

  自分の名前であろうか、女は名前らしき言葉を放つ。よく見ると、その目に生気を感じる事が出来ず、

 朦朧とした表情をしている。その女の異様な雰囲気に左慈は違和感を感じる。

  しかしその後、曹朋に衝撃が走る。張慢成が徐に谷間から取り出し、彼に見える様に眼前に見せびらかす

 それによって。ただし、張慢成の伸ばした手の内に隠れ、指と指の合間から垣間見えるだけ。それでも

 曹朋はそれが何かを直感する。

  「それは僕の耳飾り・・・!やはりここに落としてしまったみたいですね!」

  確信する曹朋。

  「すみませんが、それをこちらに返して下さい。張曼成さん」

  そう言って、こちらに渡して貰えるよう、催促する。しかし、それを拒むかのようにそれを再び手の

 内に握ると自分の方に持っていく。

  「・・・その耳飾りは僕の物です。僕は女性に手を上げたくはありません。互いに穏便に済ませましょう?」

  説得する様に張曼成に声を掛ける曹朋。

  「・・・・・・」

  だが、その声が届いていないのか。彼女に反応は無い。

  「曹朋。この女様子がおかしいぞ」

  「やはり君もそう思いますか?」

  目の前に現れた女、張曼成に対し、曹朋は牙龍に手を掛け、左慈は構えてより一層警戒する。

 それに合わせるように、それを持つ手を大きく、分かる様に上に振り上げる。上に一杯に伸ばした瞬間、

 その手が開かれる。そしてそれが手から離れ、更に上方へと飛んでいく。

  「・・・!」

  曹朋はそれを目で追いかける。しかし、それがちょうど太陽と被さり目を瞑ってしまう。そしてそれは

 死体の山の中へと落ち、紛れ込む。

  「何て事を・・・、あなたは!」

  曹朋は張曼成の取った行動に怒りと動揺を隠せない。そんな彼に興味が無いと言わんばかりに、踵を返す、

 背を向ける張曼成。

  「・・・待って下さい!・・・!?」

  その場から離れようとする張慢成を捕まえようと、曹朋は追いかけようとした瞬間、地響きにも似た揺れ

 が襲う。突然、死体の山が横倒れしたのだ、ちょうど曹朋と張曼成とを遮るのように。

  「く・・・っ」

  曹朋はそんな事に構わず、横倒れした山を乗り越えようとした。

  グィッ!

  だが、それは左慈にまるで猫の様に後ろ首を掴まれ、後方に投げ飛ばされた事で阻止される。

  「いたぁ・・・、何をするのです左慈!?」

  尻餅をついた尻を摩りながら、文句を左慈にぶつける。

  「感情に身を任せて不用意に先走るな。見ろ、様子が変だぞ」

  「・・・?」

  左慈に言われ、曹朋もその異変に気付く。横倒れた山の元となっていた死体が一体、二体、三体・・・

 次々と起き上がっていく。生きていたのか、そう考えたが、牙龍の斬撃をその身に受けて残った無残な

 傷跡から、生きていられるはずもないと理解出来る。では何故、死体が独りでに動いているのだ?

  「・・・まさか、妖術使いなのか?」

  先程の女がその類なのではないかと予想しながらも、牙龍を手に取り戦闘体勢を取る。

  「さてな・・・、まずはこの事態を打破するのが先決だ」

  左慈はこの状況に困惑する様子はない。一人、納得をしているのだ。

 そんな二人に更なる状況の変化が起こる。次々と起き上がる死体の全身が黒く覆われていくのだ。

 そして黒化した身体から防具、武器が内側から浮き上がる様に具現化される。顔には黒い体とは対称な

 白い包帯が巻き付けられている。その姿に変わった途端、水を得た魚の様に動き出し、二人を囲みだして

 いく。曹朋に無残にも斬り殺された恨みを抱く様に、手の甲に備え付けられていた二枚の刃の先を曹朋に

 向けている。

  「颯(はやて)か・・・」

  一方、漆黒の死兵をそう呼ぶ左慈であった。

 

  ↓の絵は僕が描いた龍翠君です。和兎さんの絵(http://www.tinami.com/view/7934を参照)を参考にさせていただきました。武器、牙龍(がろん)は僕の勝手なイメージです(タンデムさんすみません・・・。しかも、途中で途切れてしまった・・・どんだけ大きいのかと・・・)。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
14
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択