「な、真名をだと?風は真名を授けられるのか?」
「そうみたいだ、成長してからの付け方を知っているみたいだよ」
風達との話の後、屋敷に戻り、ことの説明をすると春蘭が驚きの声を上げた
確かに聞いた話だと真名は基本子供のときに付けられるらしい
名付けるのにも易を使い子の性質を占うか、人物評の出来る人間が子を見通して名を付ける
涼風も俺が見て名を付けたわけだが、どうやら成人してからは名付けるための方式が違うようだ
「本来は生後一年の間に決めることになっているが、成長した後には相応の儀式が必要だ」
「ああ、どうやら風は大陸を歩いている時にその方法を覚える機会があったようだ」
秋蘭が言う通り、成長後は名を付けるのに色々と難しいらしい
今はほとんど行われない儀式で知る者も少ないため、生まれたときに必ず付けるようになっているようだ
「秋蘭、秋蘭は良いのか?昭の真名など勝手に決められて」
「ああ、俺もそれを聞こうと思って風に一度秋蘭と話してみたいと言ったんだ」
「ん?ああ、かまわんよ。どちらにしろ昭という名が真名になっていたから、初めて会う相手にも
知らずに真名で呼ばせてしまうのだ、これでは相手が知らずの内に礼を欠いてしまう」
確かに、今まで俺の名が真名に値すると解らず。人物評に来ていた人達がそれを知ったとたん
恐縮してしまい、何度も謝られて大変な思いをしたことがある。そういった意味では真名があったほうが
初めて会う相手に戸惑わせることも無くなるし、真名を預けてくれた人に対する返礼になる
「それに、私の中では昭という名が真名だ。小さいころからそうだったし、親からもらった唯一の名だ、そうだろう?」
「ああ、そうだよ。秋蘭」
「そうだな、確かに私の中でも昭という名がお前の真名だ、それに秋蘭の言う通りだ」
春蘭はうんうんと頷いて納得してくれた。それに心なしか秋蘭が少し嬉しそうだ、やはり俺の思った通り
俺が真名を秋蘭に預けられることを嬉しく思ってくれているんだろうか
「では華琳様にも報告せねば、昭に真名を付ける儀式を行うと」
「そうだな、では俺は曹操様の下へ行って来る。」
そういって俺は屋敷を後にする。秋蘭は「姉者と風から聞いて儀式に使うものなどを準備する」
と言って風の元へ向かった。さて曹操様はどんな顔をなされるだろうか?
「真名を・・・・風は面白いことを知っているのね。後で木管に記録させて残しましょう」
日も暮れて来たころに城に着き、俺は曹操様の部屋に失礼して先ほどの話を報告すると
曹操様の興味は風の儀式の方に向いていた。
まあそうだろうな、珍しい知識だしそちらに興味が向くのも当たり前か
「ウフフッ、そんな残念そうな顔をしないで、私も貴方に真名が付くのは嬉しいわ。でも私にとって
貴方の真名は昭よ。秋蘭にもそう言われたでしょう?」
俺の顔を見てクスクスと笑う、どうやらからかわれていたようだ
しかし曹操様の気持ちは秋蘭と一緒のようだ、それに真名のこと喜んでいただけて良かった
「では麗羽達が攻めてくることもあるし、早めに行いましょう」
「ええ、そのことなんですが今日にも出来るらしいです。」
「へぇ、わかったわ。それなら主要な将をあつめましょう、凪たちも帰ってきたことだし丁度良いわ」
そういうと曹操様は近くの兵士に将を集めるよう伝え、準備を整えるために風を玉座の間に呼び寄せた
風に着いてきた春蘭と秋蘭、稟と合流し準備に取り掛かる。それから一刻ほどで準備は整い
集まった将は白い装束に着替え、俺も白い礼服に着替え玉座の間はすっかり儀式を行う場所となっていた
「さて、これで準備は良いのね風?」
「はいー華琳様、白装束に黄竜を祀る祭壇それに風の持ってきた神酒で準備は整いました。」
俺の左右に将の列が並び、中央には黄竜の祭壇があり、祭壇の中央に神酒が杯に注がれ置かれている
風の説明では大陸の民として大地の加護を受けるために黄竜に真名の赦しを請うらしい
「私も見させてもらおう」
「だれだっ!」
影から染み出すように現れたのは前に曹操様を奸雄と言った占い師、なぜここに?
大剣を抜き出し、構える春蘭に曹操様は構えを解くようにとおっしゃられた
「良いのよ、橋玄様の知り合いですもの変なことはしないでしょう」
「しかしっ!せっかくの昭の儀式を」
「俺はかまわないよ。曹操様の言う通り心配無いさ、見るくらいかまわないだろう」
俺はそういうと風のほうをみる。風は「かまいませんよー、その代わり白装束になってくださいね」
との言葉に一瞬で占い師の黒ずくめの服装は白く変色する。このおっさん本当は仙人なんじゃないのか?
「ではではお兄さん、そこに座ってください儀式を始めます」
俺は素直に座ると風は祭壇の神酒をとり右手の指をつけ周りの将たちの前を歩きながらブツブツとつぶやき
神酒を撒く、一通り回ると辺りは神酒の匂いに包まれ、その匂いは今まで嗅いだ事の無い甘い匂いだった
「今より、大地の子となるべく黄竜の赦しを請い、この者に真名を授ける」
そういって俺の額に神酒を浸した人差し指を当て放し、そこを小刀で傷をつけ、流れた血を指で掬い杯にうつす
「我、黄竜に変わり汝に問う、汝この大地の子としてその命を大地に捧げるか?」
「捧げます」
「汝、今より授かる真名に叛かず、真名の指し示す生を生きるか?」
「誓います」
「汝、この黄竜の守護する大地の全てを愛し、慈しむ事が出来るか?」
そのとき俺はなぜか秋蘭の方に眼が向いた。そこには愛するものがいる
愛するものとの間に慈しむ我が子がいる、俺は少し照れたように笑って
「はい」
そう答えた。
「三つの問いに黄竜は応えた。今ここに真名を授けることを赦された」
その言葉で無色透明だった神酒が琥珀色に変わる。
額の傷も血が止まり、そこから垂れる酒は琥珀色
「これより汝の真名を叢雲とする。」
皆が感歎の声を漏らす。叢雲、それが俺の真名か
「風の感じたままの真名を付けさせていただきました。お兄さんの性質をそのまま、雨雲、雷雲、青雲いろんな雲が
集まっているのがお兄さんだと思うので」
「ああ、ありがとう嬉しいよ。」
「ではお兄さんの真名を預ける最初の三人を選んでください、この三人はお兄さんの真名の保証人
のような存在になります。真名を裏切るような生き方や行為をしたときこの三人がお兄さんに罰を与えます。」
風によると生まれたばかりで真名を付けるようになってきたのは成長してからだとこういったことを
父母に頼めなくなるためのようで(亡くなってしまったり)、他人がこの役を引き受ければ、
気に入らない相手を真名に叛いたといって最悪は殺してもお咎めなしと言うことになるらしい。
さて保証人か、そのようなことは最初から決まっている
「秋蘭、俺の真名を預かってくれるか?」
「ああ、喜んで受け取ろう」
秋蘭は優しく微笑んで俺の真名を受け取ってくれた。次はもちろん
「曹操様、預かっていただけますか?」
「ええ、もちろんよ。貴方のことはこれからも良く見てあげるわ」
良かった、しかし良く見ると言うことはこれからも気が抜けないな、最後は
「春蘭、俺の真名を預かってくれ」
「え?よ、良いのか?私で」
「当たり前だ、俺達は小さいときから一緒だったんだ、俺のことを良く知ってるだろう?」
最後に顔を真っ赤にした春蘭が俺の真名を預かり、最後に風が琥珀色になった神酒を四人に分けて渡し
俺たちはそれを同時に飲む、なんだろう初めて飲む味だ、暖かくて甘くてやわらかい香り、そして最後に土の匂い
「それは黄竜の血と呼ばれています。お兄さんの血と空気に触れた時間で変色するお酒なのですよ」
「へぇ、不思議な味だな。確かに後味は何と言うか血の味に似ている」
「ええ、ではこれにて真名の儀式は終わりです。ご苦労様でした」
そういって儀式の終了を告げると皆が集まって俺の真名を受け取ってくれる
喜び声を上げながら受け取ってくれる者、泣きながら受け取ってくれる者
俺はそんなみなの表情を見ながら丁寧に一人ずつ返して言った
「ふぅ、これで全員かな?」
「ああ、そういえばさっきの占い師はどこへ?」
春蘭がそういって思いだした、あの占い師は気が付けばまた影に溶け込むように
いなくなっていたのだ。一体何者なのだろう。
「さて、それでは片付けましょう。いつ袁紹軍がこちらに向けて兵を動かすか解らないわ」
「袁紹軍との戦いが終わったら昭の真名襲名の酒宴を開きましょう」との言葉を戴き、みな
喜んで片付けを始める。さて戦いが終わったら秋蘭とまた料理を作るか、そうだ!久しぶりに
みなの前で舞を舞うのも良いな、後で秋蘭と新しい舞を練習をしておこう。
片付けが終わり、帰りに秋蘭と二人きりで屋敷への岐路を歩く
春蘭は詠と月に任せてある涼風に早く会いたいと一馬を連れて先に帰ってしまった
「昭、昭・・・・・・・・・・・・昭」
さっきからこの調子で玉座の間から出て二人っきりになると急にピッタリと腕を取ってくっ付いてきた
俺の名をずっと呼んでニコニコしっぱなしだ
「どうした秋蘭?俺の真名がそんなに嬉しかったのか?」
「フフフッ、違う。真名を一番最初に預けてくれたのが嬉しいんだ。私がお前の一番だ、それが嬉しくてな」
俺を見上げてニコニコと笑って恥ずかしそうに顔を赤らめる。良かった秋蘭に真名を預けることが出来て
真名を付けてもらうことはやはり間違っていなかった
「しかし、何と言うか曹操様に甘える春蘭そっくりだな」
「当たり前だ、前も言ったが私と姉者は基本同じだ。それに私を変えたのはお前だよ」
確かに言ったな、何と言うか可愛くて仕方ないなこういう秋蘭は、普段の落ち着いた感じも良いが
こうやって甘えてくれるのも良い、何と言うか凄く嬉しい
「私の真名もお前に最初に預けることが出来たら良かったのに」
「秋蘭、その気持ちだけで凄く嬉しいよ。ありがとう」
そういうと俺のほうをじっと見つめて首に手を回してくる
「これからの初めては全てお前に」
そういって唇が重なる。
俺たちは顔を赤くしながらお互いを見つめ、腕を組んで歩き出す
俺は静かに心の中で強く思う、必ず秋蘭を幸せにしてみせると
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真名襲名辺です。 土曜日か日曜にあげるつもりだったのですが予定が狂いましたので更新させていただきます><
真名の儀式ですが勝手に色々と決めさせていただきました
もし不快に思われたらごめんなさい><
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