No.125105

なんだろう?

柊 幸さん

終電間際、ちょとアレな僕の彼女は道であるものを拾う。
それは一体、なんだろう?

2010-02-18 06:35:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1282   閲覧ユーザー数:1264

「ねえ、これ、何だろう?」

 

 ふと彼女が立ち止まり、足元を見つめている。

 

 通り過ぎようとするぼくの服のすそをつかみ引き戻す。

 

 今はそんなことをしている場合ではない。時計は夜の2時を指しまさに終電間際。これを逃せばタクシーしかない。

 

 給料前の今、家までのタクシー代は非常にいたい。僕がそんなことを考えてる間にも、彼女はその場に座り込みその「なんだかわからないもの」を覗き込んでいる。

 

 それほど目が良くないぼくはこの位置からそれが何なのか確認することはできないが、どうやら小型の懐中電灯のようだ。

 

「おいおい、そんなものいいだろぉ。終電なくなっちまうよ・・・」

 

 と僕。しかし彼女は動こうとしない。彼女の悪い癖だ。

 

 彼女ははっきり言って美人だ。僕になんかはもったいない。ただひとつ欠点を言えば人より少し好奇心が旺盛で、やや人と違う方面の知識に秀でているということ・・・。

 

「これはアレね、大きさ形、間違いないわ。昔、撮影現場で本物に触らせてもらったもの。ほら、シュワッッ!ってやつ。」

 

それを一生懸命空に掲げ、「デヤ!」だの「トウッ!」だのポーズを決める彼女、端から見たらかなり間抜けだろう。

 

「電池でも切れてるんだろ、ほらいくぞ」

 

「これは電池で動くわけじゃないわよ!」

 

 彼女の手をとり駅に向かおうとしたその時、その男はやってきた。オレンジのラインの入った時代錯誤なコスチューム。手にはなぜかスプーンを持っている。

 

「良かったぁ、こんなとこで落としたのか、お嬢さん拾ってくれてありがとう。でも僕はもう行かなくてはいけないんだ」

 

 そういうと、彼女には今まで持っていたスプーンを握らせ、自分は例のものを空に掲げた。

 

『ジュワッ!!』

 

「うれしい、本物にあえるなんて・・・しかも!ほらこのスプーンカレーの跡がついてるのよ!」

 

 彼が空に消えたあたりをうっとりと見つめながら彼女がつぶやく。

 

「なんだよそりゃ」

 

「わかる人にはわかるのよ。宝物にしなきゃ」

 

 スプーンをハンカチで包み、バックにしまう彼女を半ば強引に走らせ駅に急ぐ。何かいやな予感がするんだ。

 

 もう少し、あの角を曲がれば駅が見える。というそのとき。

 

「ちょっとまって!」

 

 彼女は足を急に止め、足元に落ちていた帯状のものを拾い上げた。

 

 どうやらそれはベルトのようだ、かなりぶっとい。しかも中央に風車がついている。これは僕でもわかるアレだろう。

 

「これは、風車が2つ・・・V3のベルトね、個人的にはスーパー1が好きなんだけど、まあいいわ。一度つけてみたかったのよね」

 躊躇することなく、腰に巻こうとする彼女。

 

「やめとけって」

 

 僕が彼女を止めているその横を風のように一台のバイクが通り過ぎていった。ふと気づくとベルトがない。ひとつ向こうの角で「ヴイスリャー!」の掛け声が聞こえた気がした。

 

「もう、こんな機会めったにないのに!」

 

「変身して何するんだよ、そんなことよりホント急がないと電車なくなるって」

 

 口を尖らせる彼女を引きずり駅に飛び込む。時間的にはかなりきわどい。

 

 僕らがたどり着いたときには、ホームの電気も消えていき、今日の電車はすべて出終わった事を注げていた。僕らを照らす光が月明かりだけになったそのとき、彼女が何かを見つけた。

 

「ねえねえ、ほら。まだ電車あるみたいだよ!」

 

 そんな馬鹿な!しかし確かに。こちらにむかって光が大きくなってくる。でも、おかしいじゃないか!こんな都会の真ん中をSLが走るわけがない!!

 

 ホームに止まり扉が開く。明らかに怪しい車掌のいる扉から飛び乗ろうとする彼女を押さえ、無言で乗車を待つ車掌を睨み汽車がホームを出るのを待つ。

 

 車掌の合図があると、二人の前で扉は閉まり、SLはそのまま月に吸い込まれるように空に消えていった。

 

「なにするのよ。電車行っちゃったじゃない!」

 

「ばか、あんなの乗ったら機械の体にされちまう。今日は仕方ない、タクシーで帰ろう」

 

 僕らがホームを出ようとしたそのとき、放送が次の電車の到着を伝えた。数分後放送のとおりいつもの見慣れた車体がホームに到着した。

 

「良かったぁ。まだ電車あったんだね、時刻表にはないけど臨時列車かな?」

 

 彼女の言葉に車内を見回すが、特に変わったところはない。今日は一日変なことが多すぎて疑り深くなってるのかもな。自分にそう言い聞かせて、深く座席に座った、そのとき。車内アナウンスから緊迫した声が響いた。それは車内の人に向けてというよりも、電車の独り言、というのがふさわしい声だった。

 

『くっ、またあいつらか!懲りないやつらだ』

 

「あいつら??」僕らがそう思ったときにはすでにそれは見慣れた電車ではなかった。

 

 意味がわからないうちにつぶされる僕の耳に残った言葉はこれだけだった。

 

『待ってろデストロンめトランスフォーム!』

 

 

end


 
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