No.122949 「少年戦記ガイアテラス」第7話・「一輪の花」Bパートその22010-02-07 16:47:33 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:683 閲覧ユーザー数:680 |
シーン5・「マーリーヘッド」との遭遇
カイトの指示により、二人はその発信源にぎりぎりまで近づくとわずかに
あった平坦な場所を見つけ、そこにマキシを着陸させる。
ジン 「それじゃ、行くか。」
ケンスケ「うん。」
そして、そこからはケンスケが持っているMC(モバイルコンピューター)を
参考にしながら、徒歩で目的地へと向かっていくこととなる。
携帯用小銃を手にしたジンを先にその後ろでケンスケがMCのモニターを
チェックしつつついていく。
ところどころ低い木が茂っている、アップダウンのある地形の間をしばらく
歩くと、やがて二人の視界に無残に壊れた地球政府軍人型機動兵器・マーリー
ヘッドの姿が少しずつ現われてくる。
そこで二人はいったん歩みを止め、近くの岩場の陰に隠れて相手の様子を
うかがうことにする。
ケンスケ「あれだけやられてたら…。」
その姿を見て思わずつぶやくケンスケ。
ジン 「でもまだ信号は出続けてるんだよな。」
後ろを振り向き問いかけてきたジンに、MCを操作しながらケンスケは答える。
ケンスケ「自動送信であることに変わりはなさそうだけどね。」
ジン 「とりあえず、行くだけ行ってみるしかないか…。」
そう言うとジンは改めて壊れた機体をじっと見据える。そして一度大きく
深呼吸をしてから小銃を構える手に力を入れ、一気に機体の方へと駆け
寄っていく。
ジン 「おいっ!誰かいたら返事をしろっ!」
しかし機体のすぐそばまで近づいたジンの眼に映ったのは、ハッチが開いて
いるコックピットの中にいる瀕死の少年兵の姿、ジンは静かに小銃を下ろすと
大声でケンスケのいる方向に向かって呼びかける。
ジン 「おーい!すぐにこっち来てくれ!」
その声を受け、ケンスケも小脇にMCを抱えてジンのもとへと走っていく…。
シーン6・「マーリーヘッド」コックピット前
壊れた機体の前までやってきたケンスケはジンに促されてコックピットの
中を覗き込む。その少年兵は顔中血にまみれてはいるが、体のところどころが
時々わずかに動いているのが確認できる。
ケンスケ「一応、まだ息はあるみたいだね。」
ジン 「年齢的には俺たちと同じぐらいか、あるいは…。」
改めて彼の顔をじっくりと見たジンは、そう言ってからふとケンスケの
方へと目を移す。
ケンスケ「かもね…でもこの年でマーリーヘッド動かしてたってことは、
結構期待されてたんじゃないかと思うよ。」
ジン 「だけど才能だけで戦い抜けるほど現実は甘くなかった…ってことか。」
彼の姿に何か変化がないかを気にしながら話を続けるジンとケンスケ、
するとやっとその声に気付いたのか、その少年兵がかすかに目を開いて
口を動かし始める。
ジン 「おい、何か話し始めたみたいだそ。」
ケンスケ「ちょっと待って、簡易音声翻訳機能通して聞いてみる。」
ジンの言葉に、ケンスケは持っているMCを彼の口元に近づけ、急いで
表面のタッチパネルを操作する。やがてコンピューターの方から流れてくる
機械音声が二人の耳に聞こえてくる。
少年兵 『…もしかしてアサト?それにウルマも?…来てくれたんだ…。』
ジン 「俺たちのこと、誰かと勘違いしてるのかな。」
ケンスケ「かもしれないね。」
その声にしばらく顔を見合わせていた二人だったが、そのうちケンスケが
MCを通して彼に話しかける。
ケンスケ「そうだよ…。」
ケンスケの声は今度はコンピュータ内でオケアノス語に翻訳され、やはり
機械音声となってその彼のもとに届く。すると彼の表情が少しだけ和らいだ
ように見える。
少年兵 『お願いがあるんだ…。』
ケンスケ「何だい?」
少年兵 『3人で埋めた、あのカプセル…あれ、掘り出してくれないか?』
彼の言葉は力なく、また幾度も途切れつつのモノであったが、ケンスケは
穏やかな表情で彼を見守りながら彼との機械越しの会話を続ける。
ケンスケ「…カプセル?」
少年兵 『まさか、忘れた…ワケじゃないよな…アカデミア出る時に校舎の
裏に埋めた…ヤツ。』
ケンスケ「ああ、あれか。」
少年兵 『ったく、お前はホントに忘れっぽいんだから。』
ケンスケ「ごめん…でもまだ他に大事なこと」
少年兵 『バカ野郎…あの中にはお前らの秘密も…入ってるだろうが。』
ケンスケ「そうだったね。」
少年兵 『今なら…ちょうど目印に植えたシクラメンの花が…咲いてるかも…。』
ケンスケ「わかった、必ず見つけてみせるよ。」
少年兵 『よかっ…た…。』
そこで完全に彼の言葉が途切れ、その目は固く閉じられてしまう。
ケンスケ「…!キミ!ねぇ、キミ!」
状態の変化に気づいたケンスケはあわてて彼の肩を激しく揺さぶるが、
もう二度と彼の目が開くことはなかった…。がっくりと肩を落とすケンスケに
ジンがそっと近づき、声をかける。
ジン 「死んだのか?」
ケンスケ「たぶんね…。」
そう言うとケンスケは改めてその少年兵の近くに寄り添い、胸のあたりに
自分の手を当ててみる。
ケンスケ「もう…心臓は動いてないみたいだから。」
唇をかみしめ彼の姿をじっと見つめているケンスケの後ろで、ジンも悲痛な
表情を浮かべながら静かにつぶやく。
ジン 「安らかに…眠れよ。」
シーン7・「一輪の花」
辺りに散らばる機体の残骸の一つをシャベル代わりにして、ジンとケンスケは
彼をその機体の隣に埋めるための穴を掘り始める。しばらくしてそこそこの
深さの穴が出来上がると二人は少しずつ冷たくなりつつある彼の体を
コックピットから引き揚げ、そしてやさしくその穴の中へと横たえる。
ケンスケ「こうやって埋めてあげることしかできないけど。」
それから二人は彼の上に少しずつ土をかぶせていく。徐々に彼の姿が土に
埋もれていき、最後に二人がその顔の上に土をかぶせると彼の体は完全に
土の中に隠れてしまう。
そうしてすべての作業が終わると、ケンスケは手にしていた機体の破片を
土がうっすらと盛り上がったその場所にそっと差し込み、土の中の彼に
向かって話しかけるようにつぶやく。
ケンスケ「あんまりかっこよくないかもしれないけど、墓標の代わりだと思って。」
ジンはしばしその姿を無言で見つめていたが、やがて一度その場を離れると
手に小さな一輪の花を持って戻ってくる。
ジン 「これも一緒に供えてやってくれないか。」
そう言ってジンはケンスケにその白い花を手渡す。ケンスケは大きくうなずくと
「墓標」の隣にその花の根っこを埋めていく。
ケンスケ「これがキミの「目印」だからね。」
そして、マーリーヘッドの残骸と白い花が並んでいる彼の「墓」の前で
ジンとケンスケはどちらからともなく黙って目をつぶり、静かに頭を下げる。
それからいくばくかの時が流れ、ケンスケは再び横に置いていたMCを
手にする。
ジン 「何するんだ?」
ケンスケの行動を不思議に思ったジンがケンスケに声をかける。
ケンスケ「とりあえずこの機体のデータ拾えるだけ拾ってみるよ。」
ジン 「ケンスケ…。」
ジンが心配そうな顔で見つめる中、ケンスケは無言でコックピットの中に
入り、まだわずかに作動していると思われるマーリーヘッドのコンピューターへの
接続を試みようとする。
ジン 「でも、何でこんなところまで来ちまったんだろうな…、あいつ。」
ケンスケの作業を見守りながらふとジンがつぶやく。その声に早速移し替え中の
データを調べてみるケンスケ。
ケンスケ「レーダー関係がいかれてるから、この前の戦闘ではぐれて…それから
ウチの制空圏内に迷い込んで撃ち落とされた、と考えるのが妥当かな。
あ、データのコピー終わったよ。」
ジン 「ん、ああ…。」
コックピットから出てくるケンスケを迎えるジン。ケンスケは目の前に
広がる青空に視線を移しながら言葉を続ける。
ケンスケ「データはこうやって簡単に移せるけど、人は死んでしまったら
それで終わりだもんね…。だから僕らは大事にされてるのかも、
貴重な「道具」として。」
すべてが終わってもなかなかその場を動こうとしないケンスケに向って、
ジンが諭すように声をかける。
ジン 「それじゃそろそろ行こうか、あんまり遅くなってもカイトが
心配するだろうしな。」
ケンスケ「あ、うん。」
その言葉を受け、歩き出すジンの後ろをケンスケはついていこうとしたが、
2,3歩歩いたところでいったん立ち止まり、そしてもう一度「墓」の方へと
振り返ってつぶやく。
ケンスケ「ごめんね、ウソばかりついちゃって…。」
その時そこに一陣の風が吹き抜け、供えられた一輪の花がわずかにそよぎ出す…。
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http://www.tinami.com/view/113957 よりの続き、かなりダラダラとした感じのうpになってしまいましたが、とにかくこれにて完結です、ここまで読んでくださった方、本当にどうもありがとうございました。