おや、どこの汚い赤ん坊が転がってるのかと思ったよ。ねぇ爺さん、あんたこの前死んだばかりだろう。生まれてくるのは何度目だい?
朔妖の知人の発する声が、私の近い所にいるにも関わらず、なぜか妙な程に遠く感じた。朔妖は私たちが共有する神話の中で、もっとも早く誕生するため「朔」と呼ばれる。そして「妖」の字の所以は。
「生まれてくるのは四度目だよ。最近は女が子供を産まなくなったね。今回は生まれてこれないかと思ったよ。さてまぁ、女が子を産まなくなったのは、この術を編み上げたわしらのせいかねぇやはり」
その声にぞくりとする。冬のせいだろうか。窓に張られた硝子がかたかたと神経質な音をたてている。
「朔妖の寿命は百年だ。若くして死ぬことはあってもそれ以上生きることはない。それ、おまえは何年生きた、死に損ない」
あぁ、と思った。声自体が悪寒なのだ、これは。
私は側に立つ知人をかえりみた。知人は何も言わず微笑をたたえている。いつその命尽きるかもわからない私の知人。知人は黙って言葉をつむぐ赤ん坊を見つめていた。
「おまえは転生する気がなさそうだね」
赤ん坊は無感動にささやいた。
知人は何も言わない。ただ笑むばかりだった。
転生。もの言う赤ん坊。決められた寿命。そしてそれが生活と、人生と、密接に関わった暮らし。
ここでは「こういうの」が日常なのか。
これは確かに妖だな、と、私は止まらぬ寒気を必死で押さえようとしながらそう思った。
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いろんな種族が出てくる長い小説を書いています。その中から朔妖という種族を表わす短編小説を書いてみました。