[ ワーウルフ調査日誌⑦
失敗作を放ち数日が経つが、その内2体が戻らぬ日が続いた。
行方を捜索した所、驚くことに魔王の下に押さえられていると知る。
調査が行われることを恐れ身を隠すが、
遅かったものがおり、また数人の同士が捕らえられた。
研究・実験を行うものが減ったことも問題だが、
それ以上に、何故失敗作の存在が知られたのか。
失敗作といえど、あれは魔法を扱える我々魔族であろうと、
身体能力は比べ物にならないものであり、
捉えることは用意ではないはず。
我々はその原因の調査を行う。
]
猛獣の拘束をし、ケガ人の手当てを終えた全員は、揃って村へと向かう。
「村長。入り口のところ、リリィちゃんが立ってるわ」
「何!?」
強化された感覚により、いち早く気付いたルビナスが教える。
村長は走り出して入り口を見、言葉通り入り口に立っている娘に気付く。
向こうも走り寄ってくる村長に気づき駆け寄ってくる。
「お父さん!」
「リリィ、待っていてくれたのか?」
「うん…今日はみんなで危なくなる所に行くって言ってたから。…皆大丈夫だったの?」
「ああ、皆大きな怪我も無くて済んだよ。ルビナスのお陰でね」
「ルビナスちゃん?」
村長の言葉を聞き、リリィはルビナスの姿を、狼であるルビナスの姿を探す。
が、メンバーの中に狼の姿は無く、代わりに一人の見知らぬ女性がいた。
その女性は、身体の所々が人間で、他をルビナスと同じ白銀の毛皮で被い、
狼の耳と尻尾をつけた不思議な格好をしている。
「お姉ちゃん…だれ?」
「…ただいま、リリィちゃん」
「………もしかして、ルビナスちゃん?」
「うん、正解」
見覚えのある毛皮、耳、尻尾、聞き覚えのある声を聞いて出てきた答えに対し、
ルビナスは満面の笑みで返した。
村に全員が帰ってきてから、村長は広場に村民全員を集め二つのことを報告する。
今回の討伐の成功と、ルビナスの覚醒についてを。
安全になったことにも喜んだが、それ以上に、
皆はルビナスの覚醒を喜んでくれた。
きっかけがハリーやマオ、皆を守る為であったと言うのも大きな要因だろう。
安全になったということで、ささやかな宴会が開かれ、
その席でルビナスは、
「おめでとう!」という祝いの言葉、
「守ってくれてありがとう!」という感謝の言葉をルビナスは受け、
それに対してルビナスも「ありがとう!」と返すのであった。
自分の今の姿を、獣人の自分を誰も恐れることなく、
ルビナスと言う村の一員としてみてくれることに。
宴会が終わり三人は帰宅する
体の汚れを風呂で洗い流した後、夕食を食べる。
この時食器の扱いに苦労するかと思っていたが、
以前食事するときは、常に稟と一緒にとっていたからか、
意外にもすんなり使え、特に問題なく食べることが出来た。
食事を終え、食器を片付けた後、マオが気になっていたことを言う。
「そういえば、ルビナスにも服を用意しなくちゃいけないわね」
とりあえず、大事な所は毛皮で覆われているとはいえ、
今のルビナスは服を着て無い状態と変わらないのだ。
「サイズの問題もあるけど…まずはこの尻尾の部分を何とかしないと」
半獣半人の今の姿は、身長は比較的長身であるハリーと同等、
マオの1.5個分高い。
プロポーショントータルバランスはモデルのよう。
そして、腰の少し下の部分から生える抱き枕としても問題なく使える大きさの尻尾。
服を破らずに着るとなるとかなり降ろさなければならない。
「サイズは…とりあえず僕ので我慢してもらうしかないな。
でも、流石に尻尾は…」
「・・・・・・・・・」
「ルビナス、どうしたの?」
服の話が始まってから一度も喋らず何かを考えるルビナス。
やがて何かを考え付いたのか、頭を上げ口を開く。
「ねぇマオ…もしかしたら尻尾の問題解決するかも」
「どういうこと?」
「私の、ワーウルフとしての本能が告げてくれるんだけど、
ワーウルフには狼の姿、今の半獣半人の姿、それから人間の姿になれるらしいの」
「…それは本当かい?」
「ええ…どうすればいいかもなんとなくわかる。やってみる」
ゆったりと立ち、手を胸の前で握って落ち着く為に深呼吸。
そして目を閉じ何かを考えるように、何かを祈るようにする。
すると…部屋の中を一瞬光が包んだ。
光が晴れると、そこには一人の美女がいた。
それは、完全に人間の姿になったルビナスだ。
頭にあった狼の耳はなくなり人間の耳が生え、
身体を被っていた毛皮と尻尾は全て消え、
人間の素肌が見える。
「ハリー、マオ…できたよ」
成功したこのに喜び、どこか無邪気に言う。
そんなルビナスを見てマオは嬉しく思い、
ハリーはどう思っているのかを確認しようとした所であることを思い出す。
それは、今のルビナスは一糸まとわぬ姿であるということ。
グラビアモデルかそれ以上に魅力的な女性のそんな姿を見てハリーはどうか?
慌てて横を見ると、案の定。
ハリーは顔を赤くし鼻の下を少し伸ばし呆然としていた。
「ハリー!早く服を持ってくる!#」
そんなハリーをマオは部屋の外へと投げ飛ばす。
扉の向こうでドンガラガッシャンという派手な音が響いた。
「マオ!?そんなことしたらハリーが怪我するよ!」
「…ルビナス…貴方はもう人の姿なんだから、もう少し羞恥心と持ちなさい…」
暫くしてハリーが服一式を持って来、なるべく目を向けないようにしながらルビナスに渡す。
着方は、人間界で暮らしていたとき毎日稟の着替えを見ていたので問題なかった。
着替え終わったルビナスを見て、ハリーは少しだけ残念に思いながら安心した。
翌日、ルビナスとマオは服を買いに、ハリーは森に出現した例のアレについて報告に出かけた。
ルビナスは狼の姿でも獣人の姿でもなく、人間の姿でいる。
その所為か、ルビナスとマオは村中の視線を集めていた。
童顔である為一児の母とは思えない、むしろ女子大生で普通に通じてしまうような容姿のマオ。
そして、白銀の膝まであるサラッと流れる長髪、180cmに届きそうな長身、
無駄を一切省き、引き締めてなお主張することをやめない女性の魅力に満ち溢れたプロポーション。
絶世の美女とも言える容姿に見惚れ、更に、マオと並ぶことで互いの魅力を引き立て合い視線を集める。
二人の容姿にほとんどの者が見惚れる中、一人の少女が二人に近付き声を掛ける。
「ルビナスお姉ちゃんとマオおばさん、おはよー!」
「リリィちゃん、おはよう」
「おはようリリィちゃん♪」
三人の挨拶を聞き、見惚れ呆けていた者たちの表情が驚愕の表情に変わった。
そして改めて、その容姿を見て納得する。
獣人であったと気は、どちらかと言うとワイルドさが強かったが、
人間の姿だとおしとやかさが際立ち、お嬢様・お姫様と例えられ、
女子高に行けば「お姉様」と呼ばれ百合的視線を向けられること間違いない。
男用(ハリー)の服を着ていても、その美貌は掠れることがなく、
むしろ引き立たせている。
「ルビナスお姉ちゃん、お耳と尻尾なくなっちゃったの?」
「無くなったんじゃないの。今は出して無いだけでいつでも出せるよ」
「フ~ン…今は出せないの?」
「出しちゃったら今着てるハリーの服が破れちゃうから」
「そうなんだ」
そんな感じで会話しながら三人は服やへを向かう。
その光景は、仲の良い二人の姉と年の離れた妹のようであった。
服屋にて、服を選ぶに当たり、
ルビナスの動きやすい服と言う意見と、
マオ・リリィの女の子らしい服がいいという意見が対立していた。
元が狼である為、身体を動かすことを好み、
ラフで動きやすい服を選ぶルビナス。
その様な服でも、彼女が着たらモデルのようになるが…
一方、マオとリリィはせっかく美人なのだからそれに見合った服をと言い、
多くの女性服を推してくる。
スカートは必須で、ミニスカなら活発なイメージ、
ロンスカならお嬢様的なイメージのものを。
実際に来て見た時のマオとリリィの感想は、
どれを着ても似合い、どれも捨てがたいだった。
「ならこっちの動きやすい服でいいじゃない」
とルビナスは反論していたが、
「こういう格好なら男の子…稟君もルビナスに見惚れちゃうんじゃないかな?」
というマオの呟きに反応し(無意識に獣耳が出ていた)、
その光景を想像してみると…
ルビナスは即効で考えを改め、結局どちらの服も買うことになった。
会話の中で、
「お姉ちゃんとおそろいの服が欲しい」
というのもあり、ルビナスとリリィがおそろいの一着を試着した所、
本当に仲の良い姉妹の様であると評され、二人が喜んだと言う一面もあった。
服を買い終え、帰宅した二人は一緒に夕食を料理し食事する。
「それにしても…まさかこうして同じ机についてルビナスと一緒に夕食を食べられるようになるなんてね」
「うん、私も信じられない。でも…夢なんかじゃないんだ」
「ええ。これからもいろんなことをしましょう」
「うん!」
「それに…」
「?」
「今度は今の姿で稟君とも一緒にいろんなことをしなくちゃね♪」
「…うん…うん!!」
これからのことについて色々話しながら、二人は食事を終える。
その後は母娘一緒に風呂に入り、一緒の布団で眠った。
眠りに付いた後も二人の表情から笑顔がかすむことは無かった…
数日後、研究と報告を終えたハリーがフォーベシイと共に帰ってきた。
時間も丁度良かった為、その日はフォーベシイも一緒に夕食にしようと言うことで、
ルビナスとマオは料理して二人を待ち、
台所からマオが料理を運んでいる所でフォーベシイ達が家に入ってくる。
「やぁ、お邪魔するよ」
「いらっしゃいませ、フォーベシイ様」
「ハリー君から聞いたよ。ルビナスが覚醒できたらしいね」
「ええ」
問いかけるフォーベシイも応えるマオも嬉しそうに離す。
「それで、本人は何処に?」
「それは…」
答えようとした所で、そこにもう一人の女性が入ってくる。
「マオ、デザートのほうできたよ。 って、あら。こんにちは」
と、フォーベシイの見知らぬ美女がそこにいた。
「やぁ、こんにちは。美しいお嬢さん、
これから食事のようだけど、もしよろしければこの後一緒にお茶でもどうかな?」
女性は愛でるものを持論にするフォーベシイが声を掛け、
対して目の前の美女はにこやかに返す。
「セージお姉様に言っちゃうよ。おじ様♪」
その言葉にフォーベシイが固まる。
妻意外の女性にナンパしたのがばれるかもというのもそうだが、
目の前の女性が誰かということに。
自分達と親しみがあり、立場的に正しくも心が認めたくないからとセージからお姉さまと呼ぶように言われ、
自分のことをおじ様と呼ぶ。そんな女性はフォーベシイは一人しか浮かばない。
「まさか…ルビナスかい?」
「ハイ!久しぶり、おじ様」
その後、村での生活の話に花を咲かせながら、
四人は食事をし、デザートを食べ終え、食後の紅茶を出し一息ついたところでフォーベシイは真剣な表情になる。
「さて…例の森に出てきたアレについてだが、
調査の結果反魔王派の研究員の実験の産物と言うことが判明した」
反魔王派という単語に三人は、特にルビナスの表情が苦いものになる。
「連中が作ろうとしたのは…ワーウルフだ」
「ワーウルフを?」
「ああ。資料によるとワーウルフが増えるには出産のほかにもう一つ方法があるらしい。
それは…人間のワーウルフ化だ。 文献によると実例があるらしい。
まぁ、今回は失敗に終わったようだね」
「…どうしてそんな研究が行われていたと?」
「アレが通ってきた跡を辿ってみるとね、我々が見落としていた研究所が見つかってね。
仲は結構な荒れ様だった。恐らく制御できなかったアレが暴れたんだろう。中には血痕もあった」
「「「………」」」
三人の表情は暗くなる。
相手が誰であれ、人が死傷するのは良い気分ではない。
傷つけられる痛みを、苦しみを知るが故に。
「徹底的に挙げたつもりだったが、どうやらしぶとく逃げ延びた奴がいるようだ。全く呆れるよ…
と言う訳で、我々は再び調査を行うことにした。君たちも注意してくれたまえ」
「「「ハイ」」」
話を終えたとき、既に全員のカップの中身は空になっていて、
そこに紅茶を注ぎ、少し喉に入れ一息ついてから、
フォーベシイは先程とはうって変わって明るい表情に成りながら語りだす。
「さて、暗い話はここまでにして…」
そんなフォーベシイと見、三人とも暗くなっていた空気を散らしてフォーベシイの言葉に耳を傾ける。
「三人とも人間界に引っ越す気は無いかい?」
と、満面の笑みで告げられた。
余りに突然の質問に三人は呆然としてしまっている。
「近々神ちゃん達と一緒に人間界に住所を設ける予定でね。
この機会に君達も一緒にと思ったんだけど、どうかな?
住む家に関してはこちらで準備しておくよ」
まるでこれから一緒にあそこの店に買い物に行こうか、なノリで話すフォーベシイの言葉に、
三人はまず落ち着いてから、疑問を投げる。
「家を準備って言うけど、おじ様?
まさかアパートを借りてそこに住むとかじゃないよね」
「もちろん、仮にも私達は王家だよ。それに見合う立派な家を建てるつもりさ」
自信満々に告げられる。この様子だと神王家、ユーストマ一家も同じだろう。
「そんな家を建てて…元いた人たちはどうするんですか?」
「フッフッフ…権力とはね、こういうときに使う為にあるんだよ」
不敵に笑いながら告げられた言葉に三人は心の中で突っ込みを入れる。
それは職権乱用だ。と…
が、フォーベシイの性格を知り、何を言っても無駄たと分っているので口には出さなかった。
「因みに立地はこんな風にする予定だよ」
言いながらメモ用紙に四つの四角とそれを囲みように複数の直線や直角を描く。
直線や直角線は周辺の道路などを表しているものである。
それに囲まれている大きな四角二つと小さな四角が二つ、
小さいほうが縦に並び、それを挟むように大きいほうが配置され、
右側の四角には真ん中にでかでかと”魔”と、左側には”神”と書かれている。
描かれた絵を見て三人はため息を漏らさずに入られなかった。
「おじ様、どんだけ職権乱用してるの?
おじ様達の家だけで3ブロックは占領してるじゃない」
「それになんですか、この立地は…挟まれた家が迷惑じゃありませんか?」
「愛する娘の幸せを願った結果だよ!」
三人の呆れ顔に対して、親バカの最高の笑みで返されてしまった。
「それで…この二軒は誰の家なのですか?」
「片方は君達の家だね。そしてもう一軒は…芙蓉家宅だ」
「芙蓉家…芙蓉…って、まさか!?」
話に聞いたことはあるが、記憶より即座に芙蓉の名前が思い出せなかったハリーとマオに対し、
一緒に住み彼の事情について知るルビナスが、表情を驚愕のものに変える。
「そう、稟ちゃん…土見稟、彼が住んでいる家だ」
土見稟、この名前を聞き、ハリーとマオはフォーベシイの笑みの理由、
ルビナスの驚愕の理由を察した。
幼少期、ルビナスの命を救い、共に家族として暮らし、
そして再開を約束して分かれた人間界に住む一人の少年。
ルビナスに聞いた話に寄れば両王の娘も好意を抱いていると言う(片方は少々事情があるが…)
と納得していると、いつの間に移動していたのか、
ルビナスが二人の片手を抱き寄せていた。
「ハリー、マオ!この話受けよう!!」
と、今まで見た事が無いほどにはしゃいでいる。
人間形態のルビナスは、外見はクールなお姉様と言った感じで、
笑うときも落ち着きがあった。
が、今のルビナスは本当に子供のようであり、何より、
「ルビナス…獣人形態じゃないのに耳と尻尾が出てるよ?」
「え…ぁあ!?」
そう、本人が気付かぬうちに獣耳と尻尾が出現し、彼女の感情を表して、
耳はピクピクと動き、尻尾はかなりの速さで振られている。
無意識のうちでやっていた所を見るに、それ程に喜んでいるのだと理解した二人は、
苦笑を浮かべながらフォーベシイに向く。
「フォーベシイ様。この話、受けさせていただきます」
「うむ、了解した。家の準備が出来たら報せよう。
準備をよろしく頼むよ」
「「「ハイ(!)」」」
こうして、三人の人間界への、芙蓉家宅の隣の宅への引越しが決定した。
第12話『変わる日常』いかがでしたでしょうか?
覚醒したことで獣人の姿に、そして本能から人間の姿になれることを知り、
以降人間の姿で、人間のように暮らす日々に”変わる日常”。
そして、フォーベシイの提案から人間界に、
稟の傍で暮らすことに”変わる日常”。
未だに暗躍する影が消えていませんが、
ルビナスは確実に幸せに向けて進んでいます。
ではこの辺で。
次回『門にて…』お楽しみに。
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さてさて、勉強中ネタが浮かんでしまい、
浮かんだからには書かずには入られず…
書いちゃいましたwww
では、どうぞ。