新・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~ 蒼華綾乱の章
*この物語は、黄巾の乱終決後から始まります。それまでの話は原作通りです。
*口調や言い回しなどが若干変です(茶々がヘボなのが原因です)。
第一話 仲達 ―偉才、覇王の元に来たる―
黄巾の乱が終決して間もなく、華琳は“西園八校尉”に任命された。
これ自体にどんな意味があるのかを俺が知る由もなく、むしろ半ば押し付けられた形の警備隊と張三姉妹のプロデュースの仕事でてんやわんやな毎日を送っていた。
そんなある日の事。
「慰問?」
漸く慣れ始めて夕刻までに終わる様になった仕事を片付けた直後、見計らったかの様なタイミングで広間に召集をかけられた。
行ってみると既に主要な面々は揃っていて、最後に来たのは俺と途中で合流した季衣の二人だった。
「ええ。表向きは今回の官位受領を祝してと、これまでの戦いの労いという理由で河内の豪族が慰問の為に出向くそうよ」
「河内の豪族って……?」
「資金や物資の面で、華琳様が刺史の頃から援助してもらっている連中だ」
華琳の傍らに控える秋蘭が、いつもと変わらない抑揚のない声音で答える。
有体に言えば宴会が出来る、という事でお祭り好きの沙和や真桜は大はしゃぎ。
季衣も、美味しいご飯が食べられるという風に解釈したらしく喜んでいた。
ただ、その様子を見てあからさまに呆れた様なため息を洩らした人間が居た。
華琳のすぐ傍に立つネコ耳軍師・桂花である。
「桂花。気持ちは分かるけど、そうあからさまに落胆するものじゃないでしょ?」
「華琳様、けど……」
フードに付いている耳まで垂れそうな勢いでどんよりとした雰囲気を醸す桂花を慰める様に声をかける華琳。
その様子からして――というよりはさっきの華琳の言葉を聞いた時から気になってはいたのだが――何かあるのかと思い、疑問を口にしてみた。
「なぁ、それって何かあるのか?」
「アンタには関係ないんだから黙ってなさいよ全身性欲精液塗れの野蛮人」
「桂花……」
相変わらずの厳しい口調の桂花を宥める華琳。
いよいよもってこれは何かあるなと思い、続くであろう華琳の言葉を待った。
「まぁ確かに…連中みたいなのが何の見返りもなしにこんな事をするとは思えないのけれどね……」
「どんな奴らなんだ?その……」
「司馬氏よ。今の当主は司馬防といって、色んな勢力に資金や物資を提供しては見返りを得てきた……商人の類と考えればいいわ」
つまり投資家みたいな連中か。
それにしても司馬氏って事はやっぱりいるのだろうか。司馬懿仲達。
「その影響力は洛陽やその周辺では中々のものなのよ。何しろ朝廷の中枢を担う人間だって、司馬氏に援助を受けている連中は決して少なくはないの」
いたらやっぱり華琳に仕えるんだろうなぁ……あ、でも司馬氏って確か司馬懿の息子辺りでクーデター起こして後で晋を建国したんだっけ。じゃあいると不味いのかな?
いやいやだけどやっぱり諸葛亮とかに対抗するには彼……いや、多分女性だろうな。だったら彼女か?
どっちにしても魏には欠かせない人なんだろうなぁ……
「……刀、一刀」
でもそうするとどんな人なんだろう?
やっぱり華琳がロリだし女の子?けど春蘭とか秋蘭みたいに大人かもしれないし……出来れば桂花みたいなツンツンは勘弁してほしいよなぁ……
「一刀。聞いているのかしら?」
「……へっ?え、あ…ああ……えっと…………」
「ふふふ……この私が自ら懇切丁寧に態々話してあげていたのに、無視するなんていい度胸ねぇ?か・ず・と・?」
や、ヤバイ。限りなくヤヴァイ。
何か春蘭とか今にも斬りかかってきそうだし、桂花は凄いブラックなオーラが出てるんですけど……あれ?何か桂花のネコ耳が角みたいに尖って……
「―――話がそれたわね」
何事もなかったかの様に話を再開する華琳。
柱の影の方にゴミの様に捨てられた私は無視ですか?存在をシカトなんですか?
春蘭とか桂花とか桂花とか桂花とかに殴られ蹴られの傷がめっちゃ痛いんですけど……あ、何か川の向こうで誰かが手を振ってる。綺麗な花畑だなぁ……
「兄ちゃん…大丈夫?」
「隊長、大丈夫ですか?」
ああ…季衣。凪。
その優しさをあと五分程前に出してほしかったなぁ……
それから三日後。
「―――本日は急な申し出をお受け頂き、真に有難う御座います」
豪奢に彩られた広間と整えられた宴席。
その首座に――まぁ当たり前だが――座る華琳に頭を垂れる女性。
齢せいぜい二十代後半といった所だろうか。淡い紫色の長髪を垂らし、澄んだ鈴の様な声音で祝辞を述べるその女性が例の司馬防らしい。
「いいえ。普段から援助を受けている身、むしろ感謝を述べたいのは此方の方よ」
「勿体なきお言葉です」
一回りも年下である筈の華琳に平伏するその姿は実に優雅で、何だかしてもらっている側である俺達の方が滑稽に見える。
器というか人柄というか……そういったものの違いを感じさせられる。
「本日はささやかではありますが宴を催させて頂きます。どうぞごゆるりと、お楽しみ下さりませ」
その締めくくりの言葉を皮切りに、宴席は優雅な音楽に包まれた。
「おおっ!これは実にうまいな!!」
「春蘭様、こっちのも凄く美味しいですよ!」
「見て見て~、このお料理光ってるの~!」
「おっ、美味そうやなぁ……って凪!幾らなんでもそれに唐辛子はかけたらアカンて!!」
宴も酣(たけなわ)、みんなが思い思いに食事を楽しみ、合間合間で司馬防さんが呼んだらしい芸者や音楽家がそれぞれの技を披露して宴席を盛り上げた。
途中で天和達もノリに乗って歌を披露し、華琳が楽器の演奏で相変わらずの万能ぶりを見せつけた辺りで、司馬防さんが手を二回大きく叩いた。
それと同時に曲調が変わり、途端艶やかな衣装に身を包んだ踊り手達が舞い込んだ。
いずれも劣らぬ美女、美少女ばかりで、チラリと見れば華琳が少々アブナイ目を向けて踊り手達を凝視していた。
華琳にとっては、確かに『お楽しみ』だろうなぁ……俺も眼福だから何も言わないけど。
やがてテンポがゆったりとしたものに変わり、それに合わせて一人の踊り手が中央で舞い始めた。
両の手には一対の扇を携え、幾筋もの布がはらはらと舞い、回る。
ヴェールで顔を覆っているからよくは分からないが、身体のラインはスッとして細い。衣装の袖から覗く腕なんて真っ白な陶磁器みたいに綺麗だ。
天和達の様な派手な華やかさこそないが、こちらは静かで大人びた独特の華がある。
例えるなら前者が薔薇、後者が百合みたいな感じだ。
舞いはとても優雅で、美しくて。
みれば宴席に居並ぶ者達みんなが水を打ったように静まり返って、ジッとその舞いに見惚れていた。
止めどなく、絶え間なく続くその舞いはやがて曲の終わりと共に静かに止まり、一瞬の間をおいて惜しみない喝采が一斉に巻き起こった。
「見事な締めね、司馬防」
「お褒めの言葉賜り、恐悦至極と存じます」
先程の踊り手を伴って司馬防さんが華琳の元に寄る。
驚くくらい緩やかな笑みを湛えて、会話の合間に華琳はチラチラと踊り手の方を見る。
「それで?その子は……?」
「お気に召されましたか?」
「ええ……久方ぶりに、良い『者』を見せてもらったわ」
言って、華琳は席を立ちその踊り手による。
「―――それで?」
刹那、一陣の風がその場を切り裂いた。
「これは何の戯れなのかしら?司馬防」
華琳の手に握られているのは、彼女の――ひいては魏の――武の象徴、愛鎌『絶』。
その切っ先は踊り手の子のヴェールを切り裂いて、返す刃で首筋にピタリと当てられていた。
「…………戯れ、とは?」
「この曹孟徳の宴の席に、『男』の舞いを見せるとは随分といい趣味をしているじゃないの」
―――数瞬の間をおいて。
「……は?」
「えと、華琳様…………男、ですか?」
「マジ……?」
どうにか言葉を捻り出せたあたり、俺の精神も随分と図太くなったなぁ……ってそうじゃなくて!
「男!?こんな綺麗な人が!?」
多分俺のセリフは、その場にいた人達の心を代弁したんじゃないかってぐらいもっともな疑問だと思う。
「―――女でもない我が身に、綺麗などと言われても嬉しさなど感じぬが?」
答えたのは、聞き慣れない静かな声。
凍てついた氷の様に冷たく、深い水底の様に静かな、そんな声音。
凛としたそれは、男というには少し高い。
「―――貴方、名は?」
呆気に取られている春蘭や桂花を余所に、鋭い眼光を光らせて華琳は尋ねる。
いや、『尋ねる』というよりも『答えさせる』といった方が正しいか。それくらいに鋭い剣幕だった。
結構離れた席に座っていた俺でさえ寒気を覚える様なそれを超至近距離の真正面から受け―――しかしまるで臆した様子もなく、『彼』は答えた。
「我が名は司馬懿、字を仲達」
礼をとって頭を垂れ、そして再び――俺から見ると背中しか見えないのだが――顔を上げた。
眼前で武器を構える華琳に対し、物怖じ一つしない落ち着いた様子で、彼は再び口を開く。
「乱世の奸雄たる御身に仕えんと、参上仕りました」
ぴぃ、と何処か遠くで鳥が鳴いた。
「…………」
「どうかしましたか?風」
何処までも続く荒野の中、一人の少女が虚空を眺めた。
「まさかまた昨日の夢に日輪が出てきたとでもいうんじゃないでしょうね?」
「いえいえ~。流石に二日も連続して支えていられる程、風は力持ちじゃありませんよ~」
風と呼ばれた少女はそう言って、その何を考えているのか分からない様な表情をほんの僅かに綻ばせた。
「昨日の夢に出てきたのは、お月さまでしたよ~」
「月……ですか?」
「はい~。真っ暗な夜空にポツンと浮かんでいたのですよ~」
そこで一旦区切り、風は再び視線を空に向けた。
「そうですね~……中原が空だとすれば、先日の日輪は万民を照らして、月は…月は……」
「風……?」
「…………ぐぅ」
「寝るな!」
荒野に少女のツッコミが冴えわたった。
少女はこの時の名を程立。
後にその名を程昱と改め、曹操という名の日輪を支える事となっていく運命を背負っていた。
後記
始まりました……始まってしまいました『蒼華繚乱の章』。
ある程度の展開はまとまったのでと思い、第一話(プロローグ?)を投稿しました。
今後はこの『蒼華繚乱の章』を中心に投稿していこうと思っています。
蛇足になりますが、イメージソング(というか執筆中によく聞く曲)をOP、EDそれぞれ載せました。よろしければ脳内補完のオマケにどうぞ。
OP:彼方のdelight(アスラ○ライン2のEDです。EDをOPイメージって…orz)
ED:雪のツバサ(銀○です。字を間違えると大変なタイトルになるアレのEDです)
さて、前述したアンケートの件ですが。
察しのいい読者様は気づいていると思いますが、魏√なのに主人公格がオリキャラです。一刀と司馬懿、それぞれの視点から物語が進みます。従って主人公が二人になるという事に……(-_-;)。
そして史実・正史・演義・原作の四つを照らし合わせ、茶々が盛り上がりやすそうな感じに修正されています。
その結果、中盤で一刀と司馬懿に(魏√内ですが)分岐点が訪れます。
そこで司馬懿が、そして一刀がとるべき道はどちらか。
それを、みなさんのアンケート結果をもとに決めたいと思います。
1:テーマは『覇道』。メインは秘密です。激動の乱世の中で一刀、そして魏はその信念を貫き通せるのか?そして、同じ志を持ちながらも道を違えた者たちの運命は?
……という感じです。触れるだけですこれ以上はネタガバレマスケイコクケイコク。
2:テーマは『贖罪』。メインは秘密です。最愛の者の願いを、夢を叶える為に少年は、少女はその身を戦火に焼く。悲しみと憎しみの果てに、何があるのか?
……という感じです。悲劇率激高ですが、出来る限り感動巨編になるように頑張ります。
アンケート募集は分岐点を含む話の投稿直前まで受け付けます。コメントでもあしあとでもいいので、是非みなさんのご意見を聞かせてください。
それから、引き続き別設定での作品も思考の真っ最中です。詳しくは真・恋姫無双 ~美麗縦横・新説演義~ 設定集2 の最後のページをご覧ください。
長々と失礼しました。それでは。
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茶々です。
何と投稿してしまいました。予告編にあった作品『蒼華繚乱』。√は魏なんですが、茶々のオリキャラが絡みさらに内容にも影響が……。
おっと、これ以上はネタばれになってしまいますね。
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