0話
霊峰の麓、今も残る樹海の中に古い屋敷がある。
この名も無い小さな屋敷には暇を持て余した妖怪とその式神が棲んでいた。
客も少なく、屋敷の主も外に出ることは少なかったが
最近はそうでもないようだ。
屋敷の主の式神、七椿奏はお茶を入れながら背中で主の話を聞いていた。
桜子 「そういえば、あの神社も最近は特に変わり無いわね。」
奏 「そんなに異変ばかりでは、飽きて疲れるだけだわ。」
桜子 「そうは言ってもねえ。」
境界の神社では今でもちょくちょくと変わったことが起きる。
決して物足りなくなったわけでは無いが、他の場所にも
まだまだ面白い物があるのではないか。
屋敷の主である伊都美桜子は、最近そう思い始めていた。
桜子 「ねえ、たまには他の所にも行ってみたいと思わない?」
奏 「他の所? 街にでも行くのかね。」
桜子 「どこってわけでも無いんだけど・・・
ほら、神社の話はあいつが持ってきたわけでしょ。
やっぱり、自分が真っ先にそういう面白いものを見つけたいじゃない?」
あの神社に行くようになってから、主は変わった。最近そんな気がしてならない。
昔の主なら多少興味のある事でも、自分で動くことは無かったはずだ。
それだけでは無い。神社には他の妖怪達も集まっていた。
主と同じくどこかに隠れ棲んでいる妖怪を目にする機会が増えた。
神社の一件以降、ほんの少しだけこの世界の妖怪が
活発になってきている気がする。
奏 「行くのは構わんが、あまり長く屋敷をあけて家事を
押し付けるんじゃ無いぞ。
桜子 「ん? あんたは行かないの?」
奏 「そりゃ、最近は客も来るようになったし
留守にしてばかりではいかんだろうて。」
奏 「それに、面白いものは一番に見つけたいのだろう。
私がいては、主が二番になるかもしれんぞ。」
桜子 「あら、なかなか気が利くじゃない。
それじゃあ、行ってくるわね。
大丈夫よ、家事の番が回ってくるまでには帰るから。」
そう言って桜子は屋敷を飛び出した。
あの古ぼけた神社ひとつで、あそこまで騒げるほど退屈していたのだ。
今の世の中、妖怪にとって面白味のあるものは少ないのだろう。
何時だったか主は言った。
「用意されたもので楽しむのも良いが、今度は私がそれを探したい。
いや、正確には探すという事を楽しみたい。その方が浪漫に満ちているもの。」
正直、そんなに期待はしていないが
土産話のひとつでも持って帰って来れば良いだろう。
奏はそう思いながら一人分のお茶を入れて主を見送った。
東倣麗夜奏 ~ Phantasmagoria of Nostalgic Flower.
楽園の外に棲む妖怪と式神による些細な話。
浪漫と郷愁の桜の子
○伊都美 桜子(Izumi Sakurako)
結界の外に棲む妖怪。
桜吹雪を起こす程度の能力を持つ。
長年、樹海にある屋敷にひっそりと暮らしていた。
屋敷の周囲から動くことは少なかったが、
幻想郷の境を観察するようになってからというもの
色々な場所へ遠出するようになった。
最近は、境を眺めるついでに各地をぶらぶらとしている。
式神に屋敷の留守をまかせて・・・
白紙の式神
○七椿 奏(Nanatsubaki Kanade)
桜子の式神。
悪霊が見える程度の能力を持つ。
古い自縛霊だった人間の退魔士。
式神憑依で実体を持つが、式の中身はただの白紙である。
実際は式神では無いのかもしれない。
境界の神社へは二人で行っていたが、
屋敷をほったらかしにするのは駄目だと思い留守番をする事に。
主に桜子の暇つぶしの相手と家事を担当している。
ただし家事は交代制。
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・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。