No.120429

マクロスF~イツワリノウタノテイオウ(5.Friendly Fire)

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。

2010-01-24 22:18:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1207   閲覧ユーザー数:1194

5.Friendly Fire

 

 毎日、基礎訓練は勿論、射撃訓練、EX-ギアでの歩行訓練、さらに、シミュレーターでの模擬戦闘飛行の繰り返し。

 当たり前だけど、S.M.Sでの訓練は、どれもこれも学園での演習なんか比にならないくらいハードで毎日疲労困憊だった。

 期待されている証拠だってルカは励ましてくれたけど、ミシェルは「軟弱ね」て言って軽く鼻先で笑い飛ばしてくれた。

 今だって――。

 

『敵機、接近。――ロックオンされました』

 

 モニタには危険を示すAlertの文字が赤く点滅して、コックピット内に警告音が響く。

 

「くっ! ――一体、どこ!」

 

 敵機をスキャンしても上手く引っかかってこない。

 ――さっきまで敵の存在なんてどこにもなかったのに。

 

「きゃっ――!」

 

 着弾の衝撃で体が揺さぶられる。

 Bullet and crashの文字が表示され、暗転する。

 

(……また、墜とされた。)

 

 ぐったりして背もたれに体を預けて、目を閉じる。

 ――撃墜されて、戦闘終了。 

 

「……ふうっ……」

「はい、お帰りなさい。25回目の撃墜記録達成、おめでとう」

 

 肩を落として外に出るとミシェルが立っていた。

 ――なんでこんなところに……まさか……。

 にやにや笑いながら拍手で出迎えたのを見ていやな想像をした。

 

「ミシェル――いつから、いたの?」

「さっきから、ずっと」

「……途中、難易度いじらなかったよね?」

「さあ――?」

 

 シミュレーターの操作は外部から行う。

 普通はシミュレーション前に設定するものだけど、戦闘中であっても操作することは出来る。

 突然出現した敵機。

 あんなレベルの演習を事前に入力した記憶はなかった。

 ――ということは……。

 あいまいな返答のミシェルを睨み付けるとミシェルはくすりと笑って肩を竦めた。

 

「だって、万が一、あなたが墜ちるようなことがあったら、ランタが悲しむでしょ?

そんなことにならないように頑張って貰わないとねえ」

「何よ、それ?!」

 

 訳の分からない言い訳に眦が上がる。

 どういう理屈で勝手にシミュレーターいじったっていうのよ!

 

「ランタが悲しむと、隊長の機嫌が悪くなる。

結果、私らにとばっちりが来るってことになるのは回避したいなあって」

「ちょっと、それってヒドくない?」

「あら、正当だと思うわよ」

「~~~」

 

 しれっとそう言ってのけるミシェル。

 あまりの理不尽さに言い返す言葉が思いつかない。

 ……残念な話、こうやってミシェルが訓練に茶々入れるのは日常茶飯事で、私の疲労度は上積みされてるんだった。

 

 今日もどっぷり日が暮れて、日付も変わろうという頃に訓練が終わった。

 ミシェル、ルカと一緒に隊舎に帰る。

 

「早くメサイアで飛びたいな」

「演習は大切よ。飛行技術はともかく、アルトはここぞと言う時の精神力が今いちだものねえ」

「そんなことないってば!」

「どうかしらね、万年学年二位のアルト姫」

「!」

 

 いちいち癇に障ることばかり!

 睨み付けてもいつも通りにやにや笑うばかり。

 ――まあ、確かにミシェルの言葉に心当たりがないこともない気もしないでもない。

 それでもそこまで言うことないと思うんだけどな。

 

「アルト先輩、大丈夫ですよ。もうすぐ飛べますってば」

「ルカ、何よそれ。もうすぐもうすぐって、娘々の出前じゃないんだから」

「まあまあそういわず」

 

 結局、これもいつも通り、ルカに宥められて話が終わる。

 いつも通りの帰り道だった。  

 

「ねえ、アルト」

 

 たわいない話をしながら歩いていると、突然、ミシェルが肩を叩いた。

 

「何、ミシェル?」

「あっち見てみなさいよ」

 

 ミシェルの指差す方に視線を向けると知った姿があった。 

 

「――ランタ!」

「行って来なさいよ」

「え……」

「誤解解かなくてイイの? アイツとはあれから会ってないんでしょ」

「――うん」

 

 アイツ――シェリオには確かにあれから会ってないけど。

 誤解って言うか、何て言うか……一体、ランタと何を話したら良いのか。

 

「ほぉら」

 

 二の足を踏んでいると後ろからミシェルにとんと背中を押された。

 振り向くとミシェルがにっこり笑って頷いて見せる。  

 

「そんな真剣に考えないの。ランタと会うの久しぶりでしょ。

せっかくだし、ゆっくり話して来なさい」

「うん。そうする」

 

 普段は人の事をからかってばかりだけど、不思議とこういう時は素直に言うことを聞く気にさせられる。

 頷いて、ランタのところに向かった。

 

「……ランタ、久しぶり。元気だった? S.M.Sの訓練で連絡取れなくてゴメンね」

「……」

 

 ランタが隊長を説得して、歌を歌うって決めて忙しくなってから、私も学校とS.M.Sの訓練でいっぱいいっぱいで全然連絡取ってなかった。

 そのことを謝ったけど、ランタは返事をしないで歩き出してしまう。

 このまま、別れてしまうのもイヤだったから、ランタの後について歩き出す。

 

「ルカに聞いたけど、デビューしたんでしょう? 今、どんな歌、歌ってるの?」

「……」

 

 どんどん街中に向かっていくランタからは全く返事がない。

 ……やっぱり、怒ってるのかな。

 

「あ……ランタ?」

 

 突然、ランタが走り出して、道路を渡ってしまう。

 交通量が減ってるとはいえ、自動車が行きかう合間を縫って私も後を追った。

 

(ふう、危なかった――)

 

 深夜で交通量が少ないとはいえ、道路を行きかう自動車の合間を縫って道を渡る。

 そして、そのままコンビニに入ってしまったランタの背中を追って、私も店に入った。

 

「いらっしゃいませー」

 

 店員のあいさつを聞き流して、店の奥にずんずん入っていくランタの後を追う。

 

「ランタ?」

 

 マガジンラックの前で立ち止まって、ランタは携帯を取り出した。

 何かを確認するように液晶に視線を落とす。

 

(――時間を見てる?)

 

 時計がちょうど0時を指した。

 その瞬間、店内に流れる曲が変わる。

 

 明るくて、可愛い歌を歌っているのは……。

 

「! ――この歌って、ランタが歌ってるの?」

 

 驚いているとランタがくるりと回って、笑顔を浮かべた。

 

「うん――初めてのタイアップ曲なんだ」

「すごい」

「自分の歌が街中で聞こえるのって、なんかくすぐったいね。

アルトのおかげでデビューできたんだよ。背中を押してくれてありがとう」

「ううん、私は何もしてないよ。ランタ、本当に頑張ってるんだね。驚いちゃった」

「へへへ、嬉しいな。アルトにそう言ってもらえて」

 

 本当に嬉しそうな笑顔にこっちまで嬉しくなってしまう。

 でも、本当にすごいよ。

 まだデビューして間もないのにこうやって街でランタの歌が聞けるなんて。  

 そうして、しばらく二人でランタの歌に耳を傾けた。

 

「今はまだ限られたお店でしか、流して貰ってないんだけど、評判良かったら、もっとたくさんのお店で流してもらえるんだ」

「楽しみだね」

 

 隊長と大喧嘩したって聞いた時はどうなるかと思ったけど、いい方向に向かって本当によかった。

 皆に歌を聞いてもらいたいっていうランタの夢に一歩ずつ近づいてるんだ。

 

 ランタのレッスンのこととかの話を聞いていた時、ランタの歌が終わって、曲が変わった。

 アップテンポで派手な曲――このタイミングでシェリオの曲だなんて!

 モニタにはPVが映し出された。

 ――何となく気まずい空気が流れる。

 何もこのタイミングでアイツの歌が流れなくたって良いのに――。

 

「――えっと、この前は……」

「アルト、シェリオさんのこと、どう思ってる?」

 

 ランタが意を決したように聞いてきた。

 ショッピングモールで偶然会った後、ミシェルには散々、問い詰められたけど、ランタとはほとんど話せてなかった。

 ランタもあの日スカウトされて、その後も隊長に反対されたり大騒ぎで今日までお互いゆっくり話すチャンスはないままで。

 

「もう遅いし、帰りの電車で話するね」

「うん、そうしよう」

 

 私の提案にランタは頷く。

 

 二人して、路面電車に乗り込んだ。

 時間も遅いし、ほとんど人は乗っていなかった。

 並んで座って、窓に映る自分を見ながら、口を開いた。 

 

「シェリオは……最初は歌は上手いけど、高慢ちきで我が侭で鼻持ちならない奴だと思った。

でも、歌を歌う時のアイツは本物のプロで堂々として観てる人たちを魅了する力があってすごかった。

スポットライトを浴びてステージに立つべき人間っているんだなって思った」

 

 最初に会った時、散々な風に言われ方をして、すごく腹が立った。

 でも、次に会った時はライヴで真剣に歌う姿を見て心からすごいって思った。

 観客が広い会場を埋め尽くしてて、その中心の舞台で歌っているのを見て、トップアイドルなんだって納得した。

 

「それは……アルトもそうだったんでしょ?」

「私? 私は、違う、かな」

「え?」

 

 無意識に自嘲的な笑みが浮かぶ。

 確かに私も舞台に立っていたけれど、シェリオとは違う。

 ――私は舞台が怖い。

 

「舞台に上がるようになって、最初は皆に褒められるのが嬉しくて楽しかった。

でも、いつの間にか、大人たちが引いたレールの上を走っていく自分がいやになっちゃったの。

それに、役になりきれなりきれって言われ続けているうちにどんどん感じる力が強くなっていく気がして」

 

 あの頃の気持ちが蘇ってきて、思わず目を閉じた。

 暗闇に一人取り残されて、消えてしまいそうな錯覚に陥る。

 自然と震え始めた手を自分自身で握り締めた。

 自分はちゃんとここにいるんだと自分で自分に言い聞かせる。

 

「いろんな役を演じているうちに役そのものに取り付かれて、自分自身がいなくなるようで怖くなった。

男でも女でもなくなって、最後には早乙女アルトっていう存在そのものが自分の中から消えてしまいそうで……」

 

 瞳を閉じたまま、両手に額を当てる。

 ――暗闇の中に蝋燭の炎が見える気がした。

 お役に入る時の私の儀式。

 ゆらゆらと揺らめく炎に自分自身を移して、お役を自分の中に迎え入れる。

 それを繰り返しているうちに、いつしかそれが怖くなった。

 お役――他の存在になりきり続けるうちに自分自身がいなくなってしまいそうな気がしたんだ。

 

「――大丈夫だよ」

「ランタ……?」

 

 ランタは冷たくなってしまった手を暖かく包み込んでくれた。

 蝋燭の炎しかなかった暗闇に暖かくて柔らかい明かりが点ったような気がした。

 ランタの手の温もりが私の手にじわじわ染み込んでくる。

 

「大丈夫。アルトはアルトだよ。

――僕の背中を押してくれて、いつも元気付けてくれる人がいなくなんてならない」

「うん、そうだね。……ありがとう、ランタ」

 

 私は今ここにいる。大丈夫。

 ランタの言葉が心を温かくしてくれた。

 

 

 翌日、隊長の自動車で移動中に思いもしない話を聞くことになった。

 

「上層部から通達があった。先日、このフロンティアに乗船したある人物にスパイ容疑がかけられた」

「スパイ容疑? ――誰にですか?」

 

 訊き返しながら、嫌な予感がした。

 このタイミングでフロンティアに乗船した人物といえば――。

 

「シェリオ・ノーム並びにギャラクシー船団から来訪したそのクルーに、よ」

「そんな……シェリオがスパイだなんて。どうして、そんな話に――」

 

 突然の話に驚くしかなかった。

 オズマ隊長はモニターを操作して、詳細情報を表示した。

 

「シェリオの来訪とバジュラの襲来のタイミングの一致からフロンティア政府は判断したようよ。

彼のフロンティア来訪から数日後にバジュラがやって来た。

これを偶然と見なすにはあまりにタイミングが良すぎると」

「そんな……」

「彼が容疑者である以上、今後、あなたには彼との接触を禁止します」

「シェリオが容疑者だなんて」

 

 モニターに映し出された情報で判断すれば、確かにシェリオの来艦とバジュラ襲来の時期が一致し、ギャラクシー船団の何か思惑あるように思える。

 でも、あのシェリオがスパイだなんて、想像もできない。 

 

「彼とは親しくしていたそうね。でも、考えて見なさい。

ギャラクシーの超トップアイドル歌手が一介の民間人であるあなたと親しくなった理由について」

「それはたまたまライヴのパフォーマンスで……」

「たまたま、一般人のあなたと知り合いになったというの?」

「それはシェリオのイヤリングが」

「それがもし、作戦なんだとしたら?」

 

 動揺する私の様子に隊長は軽くため息をついてそう言った。

 作戦って、一体、どんな……?

 

「作戦、ですか?」

「もし、あなたがランタに近しい存在だと知って近づいたのだとしたら?

11年前にバジュラによって壊滅させられた第117次大規模調査船団の唯一の生き残りであり、バジュラの研究者を親に持つランタに近づくために利用されたのだと考えたら、どうかしら」

 

 11年前――そう言われて、引っかかる。

 そういえば、この前、11年前の事故って私が言ったのを聞きとめていたような。

 そのことを聞き出すために私に近づいた――?

 

「……じゃあ、『アイモ』を知ってたっていうのも、ウソだったの」

「なんですって。彼、『アイモ』を知ってたというの」

「はい。――小さい頃に教えてもらったって」

 

 ランタのことを知るためにわざわざ『アイモ』の話を作ったって言うの?

 そんな……。

 

「ますます怪しいわね。もし、シェリオがランタに近づき、危害を加えようとしたなら、それを阻止するように。これは正式な命令よ」

 

 シェリオがスパイ――考えたくないけど、符合することがあまりに多すぎる。

 言葉を失っていると、隊長がきっぱりそう言い切った。

 

「むろん、今はまだスパイ容疑が掛けられているだけであって、確定ではない。もし、彼が潔白で何もないのなら、容疑が晴れてから会うといいわ」

「わかり、ました……」

 


 
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