No.120059

isolation game~4~

瑞音さん

負け試合で終われない! 隔離された空間へ行く前のお話。

2010-01-23 04:09:02 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:682   閲覧ユーザー数:668

 ……そう、綺麗だった。

 眠りから覚めた俺は、自分の頬に涙が張り付いているのが分かった。

「スズラ……っ」

 自分の声は枯れていた。枯れ果てていた。ぽろぽろと落涙。今も自分が泣き続けてる事を彼は初めて知った。

 もう一度ベッドに丸くなり、あの日の記憶を手繰り寄せた。

 

「なぁ、帰ったらもう一試合!」

戦闘実習授業が終わると同時に鍛えた神速で駆け抜けてスズラのもとへ行く。スズラはクラスメートの女子と楽しそうに話し始めているところだったが気にしない。

「うるさい」

ピシャリと言われて一瞬ひるむ。だけど男がこのまま退けるか!

「なぁ、お願い!」

パァん、とすごく響く音で手を打ち鳴らせて、お願いポーズ。くぅ、とスズラがうめく。あっちだって嫌じゃないのだ、と信じたい。

 あぁ、もう、とスズラがつぶやいたのが分かった。

「ごめん、私先行くね」

同級生のやつらに行って同じく鍛え抜かれている神速で駆け抜ける。その木々自身がよけているかのように木にあたらない。

「くそっ!」

同じくダッシュ。もともと男と女というあいつにとって致命的なハンデをもらっているのに追いつけない。いや、普通の場所だったら追いつけるのだが、木が邪魔で限界の速さは出ない。

「まったく……。どんな地形でも自分の最善を出せるようにしなきゃ」

【万能者】。そんな異名を持つスズラはきっとどんな地形でも自分の最善を出せるのだろう。俺も、頑張らなきゃな。

限界までダッシュして木にぶつかりそうになったり、人にぶつかりそうになったりしながら教室につく。

「いた!」

 

 窓際で美しく微笑む。百合のような清楚な笑み。

「なぁ、やろうぜー?」

「だってレイんちだと対戦成績が悪いんだもん」

「そこんとこをどうか!」

ぱぁん、と再度手を打ち鳴らせて頼み込む。

 と、ここで一つ説明しよう。

 学校、というのは武器の持ち込みを禁止している。休み時間のけんかや遊びに武術をやるのは魔術科の生徒たちに多大なる迷惑をかけるからである。さっきの武器も貸し出ししている学校の武器である。

 対して、家で使う俺らの武器は今から2カ月ほど前に軍人である父さんの通う武器屋に俺らの体重、身長、筋力などを総合的に計算してつくられた武器である。

【万能者】。スズラはその名の通りどんな武器でも最大の攻撃ができる。対して俺は、学校の武器の重量や長さなどが微妙に違うだけで全く思いどうりの動きが出来なくなる。

 だからこそ、家での勝率は俺が6割を超える。

「仕方ないなぁ」

はぁ、と息をつきウインクして彼女は言った。

「やってあげるよ。勝ち越してるし」

顔満面に笑みを浮かべているあたり最初からやるつもりだったらしい。

「よし、じゃあ、気合であと2時間授業するぜ!」

「はいはい」

笑いながら言った俺らに教室に誰かが入ってくる足音が聞こえた。

 声を聞く限り男子らしい。

 じゃ、と小さくスズラに笑って俺はそいつらの所へ駆けた。

帰ってすぐ、部屋に置いてあるサファイアカラー(青水晶色)の刀と、同じくサファイアカラーの短剣を持つ。

 家から飛び出して、俺んちの訓練施設へ行く。

 そこにはすでにスズラがいた。もともとこの場所は誰でも自由に立ち入ることができる。二人の最強で最凶な男女が支配している、という噂が立つまでは人が結構いたはずだ。

 その男女が自分たちを指している事は言うまでもない。

 エメラルドカラー(緑水晶色)の短剣が美しく光る。背中にもあるはずだ。エメラルドカラーの弓と槍が。まぁ、そのエメラルドカラーは元の色ももちろんあるのだが毒をぬった色らしい。

そして、その隣にもう一人の幼馴染のオズ姉ちゃん。

「もぅ、今魔術科はテスト前なんだからね?」

オズ、という名の彼女は笑う。

 ショートにメガネの彼女はどこか中性的な雰囲気を漂わせている。魔術科の最高学年。専攻魔術は癒し。

 俺らの持つ武器は真剣である。本気で切れば人を殺せる道具。しかし手加減はしない。そこで、死ぬ前のものだったらほとんどを生かせるオズは必要不可欠なのだ。

まぁ、剣が刺さったと思った瞬間手は抜くのだが。

 

「それじゃあ、始めようか?」

 

オズ姉の声にピン、と空気が張り詰める。

「よし、それじゃあ」

オズ姉は右手に持っていたボールを上に投げる。

それが地面につく音、それが合図。

こん。

走り出す。


 
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