「織田ぁーっ!」
バンっと扉を破壊せんとばかりに押しあけたのは、曹魏が誇る勇将・夏候惇―――春蘭だった。彼女の後ろにつき従っているのは妹の夏候淵―――秋蘭だ。
「うおっ!な、何事だ2人とも」
突然の姉妹の登場、しかも姉の方は勢いがあり舞人を驚かせた。
「うむ!ちょっと来い!」
「お、おい!?秋蘭!どうなってんだ!?」
有無を言わせず腕を掴んで引きずる様に自分を連れて行く春蘭に、舞人は抗議の声をあげて秋蘭に助けを求めるが、彼女の瞳が「何も言わずに付き合ってやってくれ」という感情が籠っているのを見て、抵抗を諦めた。
(おいおい何が起こるんだ!?すっごい恐いぞ!)
舞人が夏候姉妹に連れてこられたのは厨房だった。春蘭は舞人を椅子に座らせて「ここで待っていろ!いいな!私が戻るまで絶対に移動するなよ!?」と言い聞かせてどこかに行ってしまった。
「なぁ秋蘭、これは―――」
「私たち姉妹の恩返し、といったところかな」
厨房に立ってなにやら調理を開始した秋蘭は、笑みを浮かべて舞人の疑問に答えた。
「虎牢関の戦いの折、お前は当時敵将だった姉者を庇って矢を受けてくれた事があったな」
「ああ。そんなこともあったかな・・・」
確かに舞人は董卓軍に属していた頃、当時敵将だった春蘭を矢から助けて傷を負った事があった。
「別に気にしないでいいってのに・・・」
「いいや、姉者を―――我ら曹魏の勇将・夏候元譲を庇い、負傷した。その傷はいわば名誉の負傷・・・我が主孟徳はその恩に報いよと仰せられた。今日は我ら姉妹の饗応、受けてはくれまいか?」
秋蘭が改まった口調で告げたのは、この食事会が『漢に仕える魏の王・曹操』が盟友である『大将軍・織田舞人に』礼をするという公的な食事会である為だ。
(まぁそんなのとは関係なしに、秋蘭の作るメシは美味いけどな)
「ところで春蘭はどこ行ったんだ?」
「ああ、姉者ならもう少しかかるから待っていてくれないか?」
「待たせたな!」
秋蘭お手製の食事を十分に楽しみ、食後のゴマ団子まで食して一息ついていた頃に春蘭は再び現れた。彼女の顔にはなにやら満足し尽くしたモノが見えた。
「織田・・・お前があの時庇ってくれなければ、私は父母にもらったこの命を無駄に落とすところだった。お前の怪我があって今の私がいる・・・その感謝の気持ちをこれに込めてみた。受け取ってくれ!」
そう言って彼女が差し出してきたのは、赤ん坊くらいの大きさがある木の箱。木の蓋には筆で力強く『夏候元譲より』と書かれている。
「・・・お、おう。ありがとな」
夏候姉妹と別れ、自室に戻って春蘭にもらった木の箱を開けると―――
「うっ・・・なんじゃこりゃ・・・」
舞人は思わず息を呑んだ。箱の中身は春蘭が丹精込めて作ったのだろう『華琳様人形(手の平サイズ)』が収まっていた。舞人はあまりに本物に近い精巧さに意味も無く後退する。
(で、でも・・・春蘭の奴が俺の為に作ってくれたんだもんな・・・)
(けどこの華琳、似すぎて気味が悪い・・・)
舞人は思わず腕を組んで、葛藤するのだった・・・
結局春蘭お手製『華琳様人形(手の平サイズ)』は舞人の政務机の隅に置かれる事になった。これにより―――
「・・・なんか、四六時中華琳に見張られてる気がするな・・・」
不治の病とされてきた大将軍のサボり癖に、影響が出たとかでないとか・・・
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番外編第二弾です。今回は夏侯姉妹√です!